儚き想い、されど永遠の想い
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286部分:第二十一話 忌まわしい咳その九
第二十一話 忌まわしい咳その九
「何故かわかりませんが」
「伊太利亜は三方を海に囲まれた長靴の国です」
「長靴?」
「伊太利亜の形がそうなのです」
もっと言えばシチリア島はその長靴が蹴ろうとしている小石である。それを考えると伊太利亜の形は非常に面白いものである。
その伊太利亜がだ。どうかというとだ。
「あの国はそれで長靴とも言われます」
「そうなのですか。伊太利亜は」
「はい、海に囲まれた」
このことが重要だった。ここでは。
「そうした国なのです」
「だから海辺が合うのでしょうか」
「そう思います。魚介類を使ったスパゲティもありますし」
「そういうものもありますか」
「伊太利亜の食事は我が国にも負けないだけ海の幸を使います」
やはりだ。海に囲まれているからだ。
「ですから。今度は」
「またこのお店に来れば」
「その時はそのスパゲティを食べましょう」
こう言ってだ。真理に再びここに来ることを誘うのだった。
「そうしましょう」
「そうですね。それでは」
「はい、その時にまた」
こうした話をしてだ。真理を少しでも明るくさせようと務める彼だった。
だがここでだ。不意にだ。
真理は咳込んだ。それもわりかし強くだ。
何度か咳込みだ。そしてだった。
彼女にとって不運なことにだ。ここで。
また出てしまった。それが。
あまり多くはなかった。だがそれで手の裏を汚してしまった。それをだ。
義正は見てしまった。そのうえでだ。
顔を驚かせてだ。真理に問うた。
「今のは」
「あの、これは」
「吐血ですね」
すぐにだ。そのことがわかってしまった。
「それですね」
「・・・・・・・・・」
「まさかそのことで」
それを見てだ。すぐにだった。
義正も察した。彼女が何故吐いたのかを。
それでだ。顔を曇らせて言ったのだった。
「これまでずっと」
「前に一度こうしたことがありました」
もう隠せない。こう考えてだ。真理は義正に顔を背けてだ。真実を話しはじめた。
「咳込みそうして」
「そのうえで、ですね」
「はい、血を」
吐いてしまったというのだ。咳と共に。
そしてだった。咳と共の血が何かを。二人はわかっていた。
義正は戸惑いながらだ。それが何かを言った。
「労咳でしょうか」
「かも知れませんね」
顔を背けさせたまま真理は言葉を返した。
「咳、そして血ですから」
「だから病院に行かれたのですね」
「労咳のことを聞きました」
実際にそうしたと。真理は答える。
「実は」
「やはりそうだったのですか」
「隠していたかったのですが。ここで」
そしてだった。真理は。
涙をその目に溜めてだ。義正にこう言った。
「すいません、隠しごとをして」
「いえ、それは」
「構わないのですか」
「こうしたことは。人は隠してしまうものです」
病、それも命に関わる様なものは。そうだというのだ。
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