儚き想い、されど永遠の想い
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285部分:第二十一話 忌まわしい咳その八
第二十一話 忌まわしい咳その八
今店にどうした果物があるのか。尋ねたのだった。
するとだ。その若い店員はこう答えたのだった。
「無花果にオレンジがありますが」
「オレンジもですか」
「はい、それもあります」
「他には何がありますか?」
「パイナップルもあります」
それもあるというのだ。
「どれにされますか?」
「ではその三つをですね」
一つに絞らずにだ。義正は店員に話した。
「盛り合わせにしてくれますか」
「三つをですか」
「はい、そうして下さい」
また店員に話す。
「御願いできますか」
「わかりました」
店員もだ。すぐに答えた。そうしてだった。
頼んだその盛り合わせが来た。それを見てだ。
真理はだ。義正に話した。
「ただ。果物があるだけではないのですね」
「はい、私もそうは思いませんでした」
「この白いものは」
牛乳に似ているが遥かに濃い感じだ。悪く言うとどろりとしている。
それを見てだ。真理は義正に問うたのだ。
「何でしょうか」
「ヨーグルトですね」
「ヨーグルトですか」
「そうです。これはヨーグルトです」
こう真理に説明した。そのヨーグルトが盛り合わされた果物にかけられている。切られたその三つの果物全てにだ。かけられている。
それがそれぞれの色の果物達を白く染めている。そしてだ。
さらにだった。果物の色も対比させていた。
無花果の赤紫にオレンジの橙、パイナップルの黄をだ。白が対比させていた。
その色合いを見てだ。真理はまた言った。
「これも伊太利亜ですか」
「伊太利亜ではありませんが」
それでもだと。義正は真理に話す。
「あの国でも食べられているものです」
「そうなのですか」
「伊太利亜は果物も豊富で」
「それでこうした食べものもあるのですね」
「はい」
その通りだとだ。義正は微笑んで真理にまた話す。
「そうなのです」
「左様ですか」
「それではですね」
「はい。喜んで」
こう言ってもだった。真理の顔は。
やはり笑顔でない。その笑顔でない顔を見てだ。
義正は不安を感じ続ける。しかしだった。
今はそのことを言わずにだ。デザートも食べたのだった。
そうしてからだった。彼等は。
店を出て再び海辺に出た。その海辺は。
夕暮れに近くなろうとしていた。しかしまだ日差しは強い。
その日差しも浴びながらだ。義正はまた真理に話した。
「今日はどうだったでしょうか」
「あのスパゲティと果物ですね」
「伊太利亜はどうでしょうか」
「これまでは仏蘭西や独逸のものでしたが」
当時の日本人が食べる洋食はだ。多くはこの国のものが主流だったのだ。
「ですが伊太利亜もまた」
「いいものですね」
「はい、美味しいです」
微笑まずにだ。真理は答えた。
「欧州には他にも食べものが美味しい国があったのですね」
「そうですね。伊太利亜もですし」
「そして伊太利亜の料理は」
どうなのか。真理はこんなことも話した。
「海に合いますね」
「そう感じられますか」
「はい、感じます」
実際にそうだというのだ。真理は。
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