八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百四十話 夏の雨を見てその十
「そこは気をつけろ、いいな」
「それは身体に何かある証拠だっていうんだ」
「そうだ、身体の何処かが悪いとな」
「お酒がまずくなるんだ」
「他の食いものもな、だからいいな」
「食べて違和感があったら」
「気をつけることだ、俺も気をつけてるしな」
遊び人の親父もというのだ。
「健康は酒の味でわかるんだよ」
「成程ね」
「そういうことでな、じゃあまた気が向いたら電話するし暇だったら日本にも帰るぜ」
「一月位前に帰って来たよね」
「まあな、けれどやっぱり日本はいいぜ」
僕達の祖国のこの国はというのだ。
「だから帰られるならだよ」
「絶対にだね」
「帰るからまた飲もうな」
「また焼き鳥と焼酎だね」
「いいな、昨日パスタやピザで赤ワインだったけれどな」
実にイタリアらしかった、そんな話をしていると妙にスパゲティを食べたくもなってきた。
「焼き鳥もいいからな」
「焼酎もだよね」
「日本で飲みたいぜ、だからな」
帰国したその時はというのだ。
「また一緒に焼き鳥屋行くか」
「お刺身や天婦羅はいいのかな」
「そっちはこっちで作って食ってるぜ」
「あっ、そうなんだ」
「焼き鳥もだけれどな、塩で」
「それでも焼酎がだね」
「あることはあってもな、輸入で高いにしても」
親父は電話の向こうで少し苦笑いになっていた、親子のせいかその辺りの感情の動きもわかった。
「ヴェネツィアで焼酎って絵になると思うか?」
「違うね」
もっと言えば日本酒もだ。
「何か」
「だからな」
「焼酎は日本で飲むべきなんだ」
「それが一番美味いんだよ」
そうだというのだ。
「焼酎はな」
「それイタリアにいてわかったことだね」
「ああ、やっぱりイタリアに合う酒はワインだ」
「元々ワインの国だしね」
「だからな」
「焼酎は日本で飲みたいんだね」
「基本な、じゃあまた帰るな」
僕にあらためて言ってきた。
「その時はまたな」
「うん、親父も元気でね」
「そう言う御前もな」
「それじゃあ」
「またな」
二人で笑顔でだった、親父の方から電話を切ってきた。そしてその話の後でだった。僕はこの日を終えようとしていた。だがこの日は思った以上に長い一日になった。
第百四十話 完
2017・5・15
ページ上へ戻る