八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百三十八話 忘れられないものその四
「降ってきたわね」
「うん、そうだね」
僕はテレサさんに困った顔で答えた。
「嫌だね」
「そうね、ただね」
「ただ?」
「雨も降らないと駄目だし」
こう僕に言ってきた。
「それにまだ少ないわよ」
「フィリピンと比べたら」
テレサさんのお国だ。
「まだなんだ」
「そう、フィリピンは熱帯だから」
もっと言えば熱帯雨林気候だ、とにかく暑くて雨が多いので有名な気候だ。
「もっとね」
「雨が多いんだ」
「スコールなんてね」
夕暮れ時のこれがというのだ。
「凄いから」
「もうどかっと降るんだよね」
「こんな感じじゃないわよ」
今はしとしととした感じで降っているけれどだ。
「それこそね」
「もう一気に降って」
「こんなものじゃないから」
だからだというのだ。
「まだましよ」
「そうだよな」
「こうした雨は風情があるわ」
テレサさんは笑ってこうも言った。
「だからいいわ」
「風情あるかな」
「日本の雨よね」
「ああ、日本の」
「紫陽花のお花がある様な」
「紫陽花だね」
「紫陽花いいわよね」
テレサさんは微笑んでだ、僕に言った。そうしながら僕にも傘を差しだしてくれた。青い大きな傘だった。
僕はその傘を受け取って開いてからだ、今度は僕から言った。
「行こうか」
「ええ、学校にね」
「テレサさんも部活だよね」
「メイド部のね」
テレサさんは微笑んで僕に話してくれた。
「今日もね」
「そうなんだね」
「メイド部も部活の練習してるから、それでね」
「うん、何かな」
「紫陽花ね」
二人で屋敷の玄関を出た、傘に雨がかかってぽつぽつとした音が聞こえてきた。然程強い雨ではなかった。
「あのお花また見たいわ」
「それならね」
「それなら?」
「植物園に行けばいいよ」
学園の中にあるあの植物園のことを話した。
「あそこにね」
「ああ、あそこなら」
「あるよね、紫陽花も」
「あそこはどんな植物もあるわね」
テレサさんは僕の横にいた、赤い傘をさしてその下で僕に答えた。
「だから紫陽花もなのね」
「この季節でもあるよ」
温室の中でだ。
「ちゃんとね」
「そうなのね」
「その紫陽花見る?」
「考えてみるわ、ただね」
「ただ?」
「やっぱり紫陽花はね」
このお花はというと。
「雨の中がね」
「一番風情があるから」
「そこで見たいのよ」
テレサさんは僕にこう言った。
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