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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百三十七話 八条荘に帰ってその十二

「夏の中で色々です」
「といいますと」
「初夏や夏の真っ只中、そしてです」
「今みたいな晩夏ですね」
「その夏の終わりとです」
「夏の時期によってそれぞれですね」
「趣が変わります」
 そうしたものだというのだ。
「これは他の季節も同じです」
「春の明け方は冬の早朝も」 
 僕はまた枕草子を思い出した、作品の全てを読んだ訳じゃないけれどどうも頭から離れない。
「それで秋の夕暮れもですか」
「その一つの季節の間で、です」
「変わっていくのですね」
「そうしたものでこの晩夏の夜もです」
「畑中さんはお好きですか」
「はい」
 そうだというのだ。
「以前から」
「そうでしたか」
「一度とても奇麗な夏の終わりの夜を経験しました」
「夏のですか」
「昭和二十年でした」
 この日本が決して忘れられない年のことだったというのだ。
「十五日の正午に先帝陛下の玉音放送があり」
「負けてですね」
「それから十日程私は鍛錬はしていましたが」
 これは欠かさなかったというのだ、このことを聞いて僕はまた畑中さんらしいことだと思った。
「ですか無気力になっていました」
「日本が戦争に敗れて」
「日本は、そして私はどうなるのか」
「そう考えてですか」
「どうにもです」
「無気力になっておられましたか」
「敗戦で脱力を感じ」
 そしてというのだ。
「これからのことを考えられず」
「無気力にですか」
「なっていました、しかし夜に素振りをしていまして」
 その欠かさなかった鍛錬をしていたというのだ。
「その時に観たのです、星達を」
「夏の終わりの夜空の」
「その星達がとても奇麗で」
 それでというのだ。
「何かそこに希望を見たと思いまして」
「それで、ですか」
「私は敗戦から希望を見失っていました」
 敗戦の虚脱の中でというのだ。
「それでどうなるかもわかっていませんでしたが」
「そこで夜空を見られて」
「日本も八条家も私もです」 
 畑中さんに関係のあるもの全てがというのだ、ご主人を含めて。
「何とかなるかもと思いまして」
「星の瞬きを見られて」
「黒い絶望の中にも希望はある」
 黒、それは夜空で希望は星だとわかった。畑中さんの話から。
「そう感じましたので」
「もう一度ですか」
「頑張ろうと思い執事としての仕事に戻りました」
「八条家のですね」
「軍務が終われば」
 その時はというのだ。
「そう思い実際にです」
「軍の仕事が終わってですか」
「執事の職務に戻りました」
「つまりそれは」
 僕は畑中さんのお話を聞いてわかった、当時の畑中さんがどう思ったのかを。
「畑中さんの出来ることをですね」
「果たそうとです」
「思われてですか」
「軍を退きすぐに神戸に戻り」
「執事としてですか」
「働きはじめました」
 そうされたというのだ。 
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