八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百三十七話 八条荘に帰ってその十一
「太宰は人間失格を脱稿するまで、いや入水自殺の日まで自分を保っていたが」
「芥川さんは違っていて」
「作品を読めばはっきりわかる」
末期のその作品をというのだ。
「明らかに精神状態が以上だ」
「それもかなり、ですね」
「歯車や或る阿呆の一生、馬の脚等はだ」
こうした末期の作品達はというのだ。
「読んだだけで相当な狂気がわかる」
「そうした作品ということで」
「読んでいかないとな」
「読み誤りますか」
「そこを知らないドラマを作るとはだ」
留美さんは眉を顰めさせて円香さんに話した。
「どうかと思った」
「そうですか」
「どうもな」
「そうしたドラマもあったのですね」
「観ていてどうかと思った、文学を読んでいても文章だけを読んではだ」
ただそれだけではというのだ。
「何にもならない」
「そうしたものですか」
「そう思う、文学にも読み方がある」
「色々と深いのですね」
「作家の生き方や人生まで読むのだからな」
そうしたものまでというのだ。
「深いのだ」
「そうしたものですか」
「うむ、そう思う」
留美さんはここまで話してお茶を飲んだ、円香さんもそうした。何か二人でかなり深い話をした。
この話の後はお茶を飲んで自然と解散した、そのうえで。
僕は自分の部屋に帰って着替えてからお風呂場に入った。そこでサウナに入ってだ。
湯舟にも入ってすっきりとしてくつろいでから晩御飯を食べてふと思い立って外に出るとだった。
畑中さんがいた、畑中さんは僕を見てこう言ってきた。
「夜空をでしょうか」
「いえ、そうでもないです」
こう畑中さんに答えた。
「ただ何となく」
「気が向かれて」
「はい」
その通りだと答えた。
「そうなんです」
「左様ですか」
「はい、それで畑中さんは」
「私は夜空をです」
「御覧になっていたんですか」
「そうでした」
「そういえば今日は」
ここで夜空を見上げると晴れ渡っていた、それで星達が数えきれない位それぞれの色で瞬いていた。
「奇麗ですね」
「そうですね」
「だからですか」
「はい、今夜はです」
「夜空をですか」
「観ています」
実際にというのだ。
「そうしています」
「そうですか」
「こうして観ていますと」
畑中さんはこうも言った。
「心がすみやかになります」
「澄む、ですか」
「そうなりますので」
「そうですか」
「夏の終わりの夜空もいいものです」
畑中さんは僕に微笑む声で話してくれた。
「独特の趣があり」
「夏は夜といいますしね」
僕は枕草子の言葉を無意識のうちに出した。
「それは本当のことですね」
「はい、しかし」
「しかし?」
「その夏の夜もです」
清少納言がいいと書いていたその夜もというのだ。
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