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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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温めた作戦

「にこちゃん!!頑張るニャ!!」
「先頭大事よ!!にこ!!」

ピンチを凌いだ音ノ木坂はこの勢いのまま攻撃に繋げたい。しかも先頭のにこ、続く希は今日ヒットが出ている。うまくいけば2人で1点取ることだってできる。

(矢澤さんは何気に打ってるからね。ここは入り慎重に行きましょう)
(そうね)

セットポジションから投じた初球。捕手を務めるあんじゅと打者のにこが思わず目を見開いた。

((え?何このボール!?))

カキーンッ

ピッチャーの脇を抜けてセンターへと抜けていく打球。先程の相手の攻撃に反撃するように先頭を出した。チャンスを作ったにこは思わず塁上で名前に負けないくらいの笑顔を見せる。

(124km?投げ損ないかしら?)

今までにないくらい力がなかったボール。打者がにこだから大ケガにならなかったが、もし真姫や絵里だったら最悪の事態もあり得た。

(一度マウンドに行きましょう。何かあったのかもしれないわ)

タイムをかけてマウンドに向かうあんじゅ。彼女は帽子を取って汗を拭うツバサに声をかける。

「どうしたの?すごい変なボールが来たけど・・・」
「いやごめんごめん。ちょっと指にかからなかったわ」

そう言ってから、あんじゅは気が付いた。ツバサのかいている汗の量、そして試合前よりも確実に細くなっている顔に。

(今までこんなハイペースで投げたことはなかったはず。しかも今までの最高球速を10km近く上回ってる。延長戦ということも相まって疲労はピークに達してるのね)

肉体的ピークを越えているツバサはここに来て疲労が出始めている。それを察したあんじゅは普段はあまり使わない頭をフルに使いある作戦を考えた。

「次の東條さんは内角を徹底して攻めるわ。ただし、力は抜いていいわよ」
「え?でも・・・」
「歩かしても打たれてもいいわ。そのあとからギア上げてくれればいいから」

そう簡単に声をかけポジションに戻ると、あんじゅはホームの前で振り返る。

「外野前に来て!!もっともっと!!」

外野の3人を通常の前進守備よりも前へと寄せる。この前進守備には選手も観客も困惑している。

「ツバサ!!来なさい!!」

内角へと構えるあんじゅ。一歩間違えれば長打になりかねないのに外野を前に寄せた意味がわからないツバサ。

(力を抜いてって・・・それじゃあボールになるくらい際どいところに投げるしかないじゃない)

初球は内角低めへの際どいボール球。それでもあんじゅは内角攻めをやめようとしない。

(打たれたら責任取りなさいよ!!)

そう思いながら再度内角に厳しく投げる。今度は入ったものの、甘く入れば大ケガは免れない。

(はい、もう一丁)
(ちょっと!?あんた楽しんでない!?)

あんじゅの腹黒い一面が見える配球。ツバサはこれにドキドキしながらセットポジションに入ったが、西村と剛はある考えに至っていた。

(あんじゅの奴、いい性格してるぜ)
(あのキャッチャー・・・まさか・・・)

なおも徹底して内角を攻めるバッテリー。希はこれを窮屈そうに捌き前進しているレフトの前にポトリと落とす。

『11回裏音ノ木坂学院チャンス到来!!ノーアウト一、二塁で7番の園田が打席に入ります』

下位打線ではあるがチャンスはチャンス。剛は海未に送りバントのサインを出す。

(さっきの返球で肩がもう危ういはず。ここは無理せずバントしてくれ)

スイングするのは怖いがバントならと送り出した。その初球、ツバサが投じてきたのは内角高めへのストレート。

「うわっ」

顔に近いボールに思わず仰け反る。引き遅れたバットに当たったボールはピッチャーの正面に転がってしまった。

「ツバサ!!3つ!!」
「OK!!」

ボールを捕り体を反転させサードに投げるツバサ。サードはフォースアウト、さらには尻餅をついてスタートが遅れた海未も一塁でアウトにされてしまった。

(あのキャッチャー・・・狙いやがったな)

右投げ左打ちの選手は内角を苦手にする選手が多い。特に経験値が浅い音ノ木坂ではこうなってしまうのも容易に想像できた。

(あんじゅめ、この内角攻めのためにわざと東條から内角攻めを始めたんだな?あれだけ厳しく投げれば確かに長打は打てないし、その後もピンチだからと攻める口実ができる)

続くことりは一塁が空いているので歩かせる。勝負してもよかったが、彼女は内角をホームランにしていることもありここは慎重だ。

(希が返れればサヨナラだ。ここは打っていっていいぞ、花陽)
(わかりました)

先程の打席は打たせなかったが今回は違う。みすみすサヨナラのチャンスを逃すてはない。

ガッ

当たったことは当たった。しかし打球に勢いはなく平凡なキャッチャーフライ。ランナーを2人出したものの無得点に終わってしまった。

(12回か・・・マジで再試合が見えてきた)

延長15回で決着が着かなければ引き分け再試合。そうなれば敗戦は目に見えていた。

(裏は1番からだ。穂乃果さえ塁に出てくれればなんとかできるんだが・・・)

当たりがない穂乃果に1本生まれてくれれば試合に終止符を打つことができる。そう思っていた矢先、グラウンドに快音が響く。

「よし!!レフト前!!」
「瞳!!初球から行っていいわよ!!」

甘く入ったストレートをレフト前へと運んだ鈴木。前の打席で手が痺れていたのか、花陽にしては不用意な球だった。

(送ってくるかはたまた強打か・・・下位に向かっていくし・・・)

ここは打ってくると想定して準備をさせる。案の定打者はヒッティングの構えだったが、そのバットから放たれた打球は綺麗に一、二塁間を抜けていく。

「ユキ!!3つ行けるわ!!」
「凛ちゃんすぐもらって!!」

海未はもう投げれない。近くまで来ていた凛にトスで渡して一塁走者の進塁は止めたが、これでノーアウト一、三塁になってしまった。

「タイム!!ミカ伝令!!」

予期せぬピンチ到来にヒフミトリオのミカが伝令に飛んでくる。打者は本日ヒット1本を放っている木村。西村は彼女を呼び寄せると指示を出す。

「裏もあるからできるだけ点を取りたい。甘い球が来たら打ってけよ」
「わかりました」

スクイズでは取れる点数に限りがある。できることならタイムリーで裏の前に多く点数を取っておきたい。

「えぇ!?そうなの!?」
「穂乃果!!声が大きいわよ!!」
「絵里ちゃんも大きいニャ!!」
「みんな少し黙ろうね!!」

何やらマウンド上で騒がしい音ノ木坂内野陣。西村は何か企んでいるのかと思ったが、こちらは特に仕掛けるつもりはない。悩めば悩むだけこちらに有利になる。

しばしの話し合いの後マウンドから散っていく選手たち。試合再開と同時に投じられた初球はスクイズを警戒してなのか大きく外す。

(変な球だけは振るなよ。甘い球だけ狙っていけ)

スピーディーなサイン交換を終えてセットポジションに入った花陽。とここで動きがあった。
花陽はプレートを外すと体を反転させ一塁を向く。そのまま振り抜き様に投げるような素振りを見せるがボールは離さない偽投。
間合いを嫌ったのかと思ったその時、彼女は再度体を反転させて三塁へ送球した。

「え!?」

一塁に体を向けたことで何かあったらホームを狙おうと一歩出ていた三塁ランナーは慌てて戻る。しかし逆を付かれたその手はベースに届くことなく牽制によって刺されてしまった。

(な・・・なんで?この試合で一、三塁の場面なんてあったか?いや、あってもそもそも牽制をしていない。それなのになんでうちの三塁ランナーが一歩出ることを知っていたんだ?)

一か八かのギャンブルとは思えないほどの動きに西村は口を開けて動けなくなっている。一方の剛は待ちに待った形の成功に思わずガッツポーズが出た。

(確かにこの試合ではそんな素振りは見せていない。だがな、関東大会の初回で見てるんだよ、一、三塁時のリードの取り方を)

関東大会の初回、ツバサとの対戦で穂乃果が考えが纏まらずに間合いを取るために投げさせた牽制球。その場面が丁度一、三塁だった。その際一塁に牽制すると三塁ランナーがホームに向けて足を動かしたのを見たため、剛はこれをやる機会をずっと伺っていた。

(こんないい場面で使わせてもらえるとは・・・ちょっとは運が向いてきたか?)

なぜ刺されたのかわからず頭を悩ませている西村を見て笑い出しそうになる。ノーアウト一、三塁から一転、1アウト一塁となったことでμ'sの9人にもどこか心のゆとりが生まれたようだった。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
なかなか決着が着きませんが、まもなく終わると思います。今しばらくお待ちください。 
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