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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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勝負は無情

鋭い打球が内野に転がる。それを凛は正面で捕ると、ショートの絵里へとトス。絵里が一塁へと送ってゲッツー。チェンジとなった。

『UTX学園12回表に最大のチャンスを得ましたがまたしても無得点!!これは音ノ木坂に流れが渡ってしまったか!?』

下位で作ったチャンスをみすみす逃してしまったUTX。それに対し音ノ木坂は1番の穂乃果から。

(だけど穂乃果に今日当たりがない。前の回を見た感じツバサも疲れて来てるし、ここはじっくり見ていけよ)

うまくいけば四球も望めると送り出す。その初球、外角低めのいいところに134kmのストレートが決まった。

(スピードが戻ってきた?なんでこのタイミングで?)

上位から始まるこの回で試合を決めたかったのに、それに合わせるようにギアを上げてきたツバサ。2球目は高めに抜けるストレートだったが、穂乃果はこれに手を出してしまい2ストライク。

「穂乃果!!よく見なさい!!」
「大丈夫!!落ち着いて!!」
「いつも通り行きましょう!!」

ベンチから仲間たちが声援を送ってくれるが、肝心の穂乃果は焦っており全く余裕がない。

(ツバサ、気持ち良さそうに投げてるわね)

穂乃果が打席に入ったと同時にツバサのエンジンがフル稼働した。これにあんじゅは水を差すことなくストレートを投じさせ、勢いをさらに加速させる。

バシッ

外角低めにピシャリと決まったストレート。これには穂乃果はバットを出すことすらできず、三振に倒れてしまった。

「穂乃果ちゃん・・・」
「穂乃果・・・」

守備では何事もなかったかのように振る舞っていた彼女も打撃になった途端に表情が暗くなる。結果は同じ三振なのに、どんどん内容が悪くなっていく。

「穂乃果ちゃん!!」

肩を落としてベンチに入ろうとした穂乃果に、打席に向かう少女が声を張り上げる。

「凛が打つから!!穂乃果ちゃんの分まで!!」
「凛ちゃん・・・」

ここまで塁に多く出ている凛は自信に満ち溢れていた。試合を決めさせまいと気合いを入れ直したツバサに鋭い視線を向ける。

(これだけ速ければまだいけるでしょ。ストレートをちょうだい)
(力業ね、まぁそういうのも好きだけど)

足を上げたツバサ。すると、それに同調するように凛が右足を引く。

「え?あれって・・・」

ツバサがリリースする直前に左足を前に出す。放たれた133kmのストレートに合わせてバットを出し、三遊間へとボテボテのゴロを転がす。

「ここでスラップ!?」
「でもいいところに転がってますよ!!」
「凛ちゃん走って!!」

1打席目で希が失敗したスラップ。凛はそれを見よう見まねでやってみた。これまで5打席立っていたことで目も慣れていた上に彼女の足は速い。三塁手が捕ってすぐさま投げるが、それよりも速く凛の足が到達した。

「よくやったわ!!凛!!」

自らの武器を駆使して出塁した凛に真姫のテンションが上がる。彼女は打席に入り剛からサインを受けるが、彼は何も指示をしない。

(凛の足なら外野の間を抜けばサヨナラだ。真姫、狙っていいぞ)

長打力に自信のある真姫と脚力に定評のある凛のコンボ。この状況なら無理をしなくても、サヨナラにすることは十分にできる。

(一発は避けたいわね。ここは徹底して外を攻めましょう。それもツーシームで)
(いいと思うわ)

左打者から逃げていくツーシームは長距離ヒッターからすれば捉えにくく飛ばないためヒットにしづらい。それも際どいところを徹底しているため、真姫はなかなかスイングに入れない。

(徹底して外を攻めてきてるわ。でも、これなら・・・)

2ボール1ストライクからの4球目、外角へのツーシームに対し真姫は大きく踏み込むと、逆らわずにレフト前へと流した。

「おぉっ!!うめぇ!!」

打球の大半がライト方向だった彼女のこの打撃には剛も唸らずにはいられなかった。レフト前だったことで凛は三塁に進めなかったがこれで1アウト一、二塁となり打席に入るのは4番の絵里。

(本来なら大ピンチだけど、絢瀬さんは今日当たりがない)

三振、四球、セカンドゴロ、三振、サードゴロと外野に打球が行っていない絵里。最悪ゲッツーもありえるため何か仕掛けるかと思われたが、剛は指示を出さない。

(任せてくれるってこと?ありがたいわ)

汚名返上といきたい彼女からすればこれはうれしい限り。ランナーを2人背負っての注目の初球、132kmのストレートが外角に大きく外れる。

(ん?今のは・・・)

これに何かを感じた剛はフィールド上にいる3人にサインを送る。

(ダブルスチール?)
(それもギャンブルスタート?)

真姫に対してツーシームを連投したツバサはその感覚が残っていたせいで絵里への初球が引っ掛かっていた。そう見切った剛は牽制はないだろうとピッチャーが動いたと同時にスタートを切るギャンブルスタートでの盗塁を指示する。

(これなら凛はもちろん真姫でも生き残る可能性がある。もし二塁に投げようものなら、ちょっとミスればサヨナラ。仮に投げなくても凛の足なら絵里にボテランでもやらせて生還させる!!)

軟式野球でランナー三塁の場面で使われる戦法、ボテラン。弾むボールならではの叩きつけで三塁ランナーを生還させるわけだが、硬式野球では絶対に行われない。しかし、凛の足なら内野に転がりさえすれば十分返れる。

(頼むぞ、凛、真姫)

表情で悟られないように必死に顔を作る。サイン交換を終えたツバサはランナーを一瞥すると、予想通り牽制することなくモーションに入った。

((来た!!))

完璧なスタートを切った真姫と読み勝った剛は心の中でガッツポーズした。真姫はそのまま脇目も振らずに二塁を狙う。

「ヴぇ!?」

しかし、二塁キャンパス付近にいる凛の姿に驚き立ち止まってしまった。

「え!?何々!?」

走ったことで送球に入ろうとしたあんじゅは二塁ランナーが走っていなかったことに驚き目を白黒させている。その後正気を取り戻した彼女は2人のランナーがいる二塁に向かって走っていく。

「凛!!真姫!!戻れ!!」

三塁に行くのは到底無理。凛は二塁ベースに戻ったことで大丈夫だったが、完璧なスチールを狙っていた真姫は戻ることなどできるはずもなく、一、二塁間で刺されてしまった。

『音ノ木坂学院まさかのチョンボ!!サインの見落としでしょうか?西木野も星空も唖然としている!!』

真姫はなぜ凛がスタートしなかったのかわからず彼女を見る。一方の凛もなぜ彼女が走ったのかわかっていないようで首を傾げていた。

「凛、あんたサイン見てた?」
「え?・・・あ!!」

そこで判明した。凛は絵里が打ったら絶対返ろうとそちらにばかり意識が向いていたのだ。そのせいで剛からのサインを見落としてしまい、このような結果になってしまった。

(ヤバイ、これはヤバイ・・・)

考えていたプランが崩れ去った。それでも凛を責めることなどできない。彼女がいなければ、とっくに負けていることなどわかっているのだから。

(絵里、頼んだ)

ここからは何も仕掛けられない。1ボール1ストライクとなったが、絵里には一切焦りはなかった。

(こうなったのも私のせいだわ。私が打ってればあんなギャンブルをしなくて済んだ。凛だって悪者にならなかった)

ミスの大きさに顔が落ち込んでいるのが打席からでもわかる。そんな彼女を救う方法は、1つしかない。

「私が打つことしか!!」

カキーンッ

136kmのストレート。今までまるで捉えられなかったこのボールを絵里は完璧に捉えた。

「ライト!!バックホーム!!」

一、二塁間を抜けていく打球。これを見て凛は快足を飛ばして三塁を蹴る。

(絵里ちゃんが打ってくれた!!今度こそ絶対に帰るんだ!!)

好投を続ける幼馴染みのため、自分のミスを取り返そうと打ってくれた仲間のため、そして落ち込むキャプテンを笑顔にするために。

「絶対帰る!!」

ヘッドスライディングで飛び込んだ凛。しかし、その目の前で捕手のミットにボールが到達する。

(え!?速くないかニャ!?)

外野からの返球が明らかに速い。それでもここまで来たら手を押し込むしかない。捕手の間を縫うように伸ばした手。だが、その手が触れていたのはベースではなかった。

「アウト!!」

捕手のミットによりあと5cmが届かなかった。泥だらけのユニフォームをはたくことも忘れ、彼女は返球した外野手を見る。

「ナイス英玲奈!!」
「間に合ってよかったよ」

ライトには本来正捕手である統堂英玲奈が入っていた。彼女のスローイングは女子野球トップクラス。その強肩を生かした送球を前に、凛の足は負けてしまった。

(これがあるんだ。だから何としてでも三塁に進めたかった)

ダブルスチールが決まっていれば間違いなく勝利を手中にできた。勝負の無情さにショックを受けながら、少女たちは守りについた。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
次は延長13回です。そろそろ試合に動きが出るか!? 
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