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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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終われない

「孔明・・・」

ネットにしがみつき今にも飛び降りて来るんじゃないかというほどの勢いのかつての球友。彼が球場に来ていたことを知った剛はただ唖然としていることしかできない。

「ここで代えるな!!ピッチャーの気持ち考えろ!!」

かつて甲子園決勝で、同じ場面で降板を余儀なくされた孔明だからこそ言える言葉。今ここで降りてしまえば二度とマウンドには戻ってこれないかもしれない。大好きな仲間たちに支えられてきて、それを返すには勝つことしかないと考えていた彼らならではの感情。

「ここで壊れることがこいつのためになるのか!?」
「違う!!俺はそういうことを言いたいんじゃない!!」

本来は禁じられているスタンドとのやり取りを行っている剛に審判が注意する。孔明も警備員に引き剥がされると、それ以上は何も言えずに元の位置に戻っていく。

「剛さん。やっぱり投げさせてください」

すると後ろからそんな声が聞こえてくる。剛はそれに怒り心頭な顔で振り返った。

「何言ってる。これ以上やったら二度と野球ができなくなるぞ」
「それでもいいです!!私は・・・















みんなと一緒に最後まで戦いたいんです!!」

『俺はお前たちと最後まで戦いたいんだ』

彼女のその顔に見覚えがあった。とうに限界を越えているはずなのに投げ続ける姿も、誰よりも仲間のために戦いたいというその気持ち。

「やっぱり似てる・・・」

初めて見た時から薄々気が付いていた。このチームの仲間を思う気持ちは、自分たちと・・・いや、史上最高と呼ばれたチームよりも強いかもしれない。

「私たちからもお願いします!!」
「最後まで戦わせてください!!」
「「「「「お願いします!!」」」」」

チーム全員が揃って頭を下げる。それに心打たれた指揮官は審判を見る。

「やるんだね?なら早く守備に戻りなさい。ハリーアップ!!」
「いいんですか?」
「戦う意志がある子たちを止めることはできないよ。ただ、これ以上は危ないと思ったら止めるからね」

試合も最終回に入っている。ここまで来て止めるのは運営側としても避けたい。何より戦う意志を示している選手たちのやる気を削ぐ権利は自分たちにはないと判断したのだ。

「俺が無理だと思ったら止める。いいな?」
「「「「「はい!!」」」」」

試合再開のために守備へと散るμ's。多くの観客たちはこれに困惑していたが、バックネット裏から1人が拍手が送ると、それに釣られるように拍手をする。

「花陽ちゃん!!」
「行きます!!」

再開直後の初球。110kmにも満たないストレートが放たれる。これに鈴木は強振する。鋭い打球がレフト線へと飛ぶ。

「届く!!」

長打かと思われた打球に飛び付く真姫。彼女は滑り込んだままグラブを掲げると三塁審判の右手が上がる。

『アウト!!西木野同級生エースを救う大ファインプレー!!』
「真姫ちゃん!!ありがとう!!」
「あと1人よ!!花陽」

これで勢いに乗ったのか、次の打者を明らかに遅くなっているストレートを中心に三振に仕留める。

「勝負は11回だぞ、ツバサ」
「私たちに回る・・・ね」

勢いが戻ってきた音ノ木坂を見れば、下位打線が歯が立つとは思えない。となれば上位打線。特にA-RISEの肩に期待が掛かる。

「海未、ことり。頼むぞ。んで花陽は絶対バット振るな。次の回からの投球に備えろ」

この回で決められればそれに越したことはないが、手負いの海未、花陽が相手になるとは思えない。となれば期待はことりだが、前の打席の奇跡が何度も起こせるような気がしない。しかもツバサのギアも上がってきている。ここからは長期戦になることは目に見えている。

「ストライク!!バッターアウト!!」

130km前半のストレート。スピードは抑えられつつあるが制球は上がり、安定してきている相手エースに三者連続三振を喫する。

「穂乃果、次の回が勝負だぞ」

相手は下位打線。こちらは上位打線。先に決めることができる確率はこちらの方が高い。しかも後攻めとあればこれほどの条件はない。そのためにもこの回は3人で確実に抑えなければならなかった。

「内野!!強いゴロあるよ!!外野!!後ろからお願いね!!」
「「「「「オッケー!!」」」」」

7番から始まるUTX。先頭をショートゴロ、次打者をセンターフライ、そして9番打者をセカンドフライに打ち取った。

「ツバサ。何がなんでも高坂を打ち取れ」
「もちろん。てかランナーなんか出させる気ないし」

ここまで穂乃果をヒット0に抑えているツバサ。5度目の打席となる彼女は次こそは出塁しなければ気合いを入れる。

(ツバサ。ここはギアを上げていきましょ)
(あら?ちゃんと捕れるの?あんじゅ)

脱力した状態からリリースの瞬間に全神経を集中させる。初球は134km。力が入ったためか高めに抜けたそのボールを見送り1ボール。

(力入りすぎ。ストライクにちょうだい)
(わかってるわよ、うるさいわね)

続くストレートは内角ギリギリに決まるストレート。スピードは135kmと徐々に速くなってきている。

(穂乃果にはここまでストレートがほとんど。追い込むまではストレートが中心になってくるのは間違いない!!)

追い込まれれば何が来るかわからない。そう思いストレートに狙いを定めていたのに、来たのは想定外のスライダー。

「ストライク!!」

これで1ボール2ストライク。追い込まれたことで次は何が来るかもうわからない。

(ツバサ、何投げたい?)
(私に決めさせてくれるの?それなら・・・)

迷っている穂乃果を嘲笑うように速いテンポで投球に入るツバサ。その手から放たれたのは、彼女の1番の得意球。

(ストレート!!今度こそ!!)

コースも高さも甘め。穂乃果はこれを捉えようとスイングするが、バットが振りきられるよりも先にボールがミットに吸い込まれた。

「ストライク!!バッターアウト!!」

5打数4三振。関東から数えれば5回目の三振。全く打てない穂乃果もこれにはさすがに顔を上げることができずベンチに無表情で戻ってくると、一言も発することなく防具を付け始める。

「穂乃果ちゃん・・・」
「穂乃果」

いつも元気でチームを活気付けてくれる彼女のこの姿には幼馴染みたちも見覚えがなく、声をかけることができない。

(穂乃果ちゃんがあんなになるなんて・・・これは凛が行くしかないですよね?)
(お願いします)

思わず手を合わせる指揮官に笑いそうになりながら打席で構える。

(星空さんと西木野さんは以外と打ってるからね。最低限連打だけは避けたいから、ここからは慎重にね)

脚の速い凛も長打のある真姫もこの試合展開では非常に厄介な存在。穂乃果、凛、真姫を打ち取ることが試合を有利に進めることで重要なポイントになる。

「いっくニャー!!」

131kmのストレートを外角ギリギリに投じる。早打ちしがちな上位打線の1人である凛はこの難しい球に手を出しセカンドゴロに倒れた。

(真姫、何とかしてくれ)
(何不安そうな顔してるのよ。このマッキーに任せなさい)

気合い十分な真姫だったが大きく外れるボールが続きフォアボール。何もせずに出塁した真姫は不満げで塁上からサインを確認する。

(真姫は脚遅いからエンドランはなし。絵里、にこ、希で繋がってくれればサヨナラにできる。動くなよ)

絵里に全てを託し試合を見守る。しかし、ツバサが再度ギアを上げたことによりストライクが先行。1ボール2ストライクと追い込まれ最後はスライダーを引っ掻けてしまいサードゴロ。無失点に終わってしまった。

(ヤバい。1番からだったのに抑えられちまった。次の回向こうは1番から。ちょっと嫌な予感がするぞ?)

想定しうる最悪の事態に顔が歪む。好打順を逃した音ノ木坂に、A-RISEが襲い掛かる。

 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
試合は延長戦に突入しました。果たしてどのような結末になるのか、お楽しみに。 
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