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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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恋女房

『女子高校野球選手権大会決勝戦、UTX学園対音ノ木坂学院の戦いはいよいよ9回の表に突入しました!!両エースの激しい投げ合いによりここまでは2対1と初出場の音ノ木坂学院がリード!!9回のマウンドに上がった小泉はリードを守り抜くことができるのか!?』

最後の攻撃に願いを込めて声援を送る一塁側スタンド。それに負けないように三塁側スタンドにいる少女たちも両手を合わせ祈りを捧げる。

『9回の表、UTX学園の攻撃は、3番、ピッチャー、綺羅さん』

打席に入るのはここまで3三振のツバサ。その彼女の目に宿るのは復讐への炎。

(ここは普通のスプリットで行ってみてもいいかな?)
(うん。いいと思うよ)

ここまで使っていなかった通常のスプリット。バッテリーは1発で意見を示し合わせると、早速投球へと入る。

(高めにだけ行かないように・・・)

ピキッ

低めを意識して投じた初球。リリースの瞬間に花陽は痛み表情を歪める。

(よし!!いい低め!!ここから落ちる)

要求した通りの低め。ここから落ちることに備えて体勢を下げる穂乃果。しかし、ボールは予想の軌道に変化しない。

(え?落ちな―――)

カキーンッ

ホームベース上で目の前から白球がかき消された。これまでの大振りとは真逆のコンパクトなスイング。無理に引っ張りに行かず流しに行った打球は左中間へと伸びていく。

「そうはさせない!!」

長打コースと思われた打球。それに飛び付く金髪の少女。チームで一番の身長、さらには高い運動能力を駆使した絵里は、その打球をむしり取った。

「キャッチ!!キャッチ!!キャッチ!!」

大ファインプレーに沸き立つ球場。ようやくヒットを放ったかと思っていたツバサは一塁ベースの手前で立ち尽くしていた。

「もう!!なんでなの!?」

思わず声を荒らげた。高校生活最後になるかもしれない打席で会心の当たりを放ったのに、それを相手のファインプレーに阻まれた。自分の目標とする人物に近付くためのはずの戦いで、まざまざとその力の差を痛感させられた彼女は、涙を拭いながらベンチに帰ってくる。

「ツバサ・・・」

ガックリと肩を落としている仲間の姿に打席に向かうあんじゅは色々な感情が混ざり合っていた。

(ツバサさんを打ち取れたのは大きい!!あんじゅさんは最悪歩かせてもいいから際どいところを攻め続けるよ!!)

ツバサを絵里のファインプレーで乗り越えたことで怖い打者は残るはあんじゅだけ。彼女とは徹底的に勝負を避けても構わない。それぐらいの気持ちで攻めることができる。

(花陽ちゃんはたぶん挟むほど握力が残ってないのかも。でもストレートはまだ伸びがあるし、スライダーの構えたところに来る。ここはこの2つをとにかく低めに集めよう)

初球は様子見のスライダー。花陽はそれにうなずくと、セットポジションに入る。

「孔明さんならここは何から入りますか?」
「ぶつける」
「「え??」」
「ぶつけるまで行かずとも歩かせる」

150kmを裕に越えるストレートを投じる彼からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。しかし、彼はグラウンドから目を離さずに真剣な表情をしていることから、それが本音であることがよくわかる。

「なんで勝負しないのかな?」コソッ
「後の人たちが当たってないから?」コソッ

亜里沙と雪穂が小声で話し合っている最中も試合は進行していく。まずは初球、外角低めにスライダーが外れる。これにあんじゅはピクリともせず見送った。

(見極められてるのかな?それとも狙い球が外れたとか?)

ここでナックルを挟んでみることにする。カウントが悪くなれば歩かせればいい。とにかく打者の目先を変えたい。
ストレートと同じような腕の振りで投じたナックル。放物線を描きながら揺れるような軌道で迫ってくる変化球。あんじゅはこれにも反応しない。コースは際どかったが審判の右腕が上がる。カウントを1つ戻して1ボール1ストライク。

(全然反応しない・・・これはもしかしてストレート待ち?)

そうとわかればストレートを見せてやる必要はない。ここは徹底的に変化球で交わす。

(スライダー。低いけどコースは甘い!!)

そう思いスライダーをストライクに入れた途端フルスイングでボールを打ち上げる。打球は高々と上がりスタンドへと吸い込まれるが、ライトのポールよりわずかに右に流れていた。

(引っ張りすぎたわね。でも、次は決めるわ)
(ウソ・・・ストレート狙いじゃないの?まさか狙われてた?)

カウント的には追い込んでいる。それなのに、彼女を打ち取るビジョンが思い浮かばない。

(ダブルスプリットを使いたいけど・・・使うなって言われてるし・・・)

高速スプリットもスプリットも落ちていかない。ナックルとスライダーでは打たれることは必須。ストレートもツバサの球を間近で見ているだけに怖い。

(ストレートを高めに。振ってくれればもうけもの)

ここまで来たらストライクはいらないと釣り球でまずは攻めてみる。それに対しここまで首を振ってこなかった花陽がうなずいてくれない。

(力負けした時が怖いもんね。なら低めにスライダーで空振りを・・・)

これにも彼女は頷いてくれない。続けてナックルのサインを出すがこれも頷いてくれない。

(どうしたの?2人とも)
(こんなに合わない2人見たことないよ)
(何揉めてるの?かよちん)
(ダブルスプリットで行けるじゃない、何を迷ってるの?)

剛と穂乃果のやり取りを知らない内野手たちはなぜここまでサインが決まらないのかわからずイライラしていた。

「・・・」
「穂乃果!!タイム取れ!!」

花陽が何を投げたがっているかはキャッチャーも指揮官もわかっていた。そしてサインを出す穂乃果の顔があらぬことを考えているのではないかと勘づいた剛は声を張り上げるが、彼女の耳には届かない。

コクッ

長いサイン交換を終えて頷いた花陽がセットポジションに入る。彼女は足を高く上げ、大きく踏み出し腕を振るう。

(来た!!ダブルスプリット!!)

自分の胸元当たりの高さに来た無回転のボールを見て球種を見抜く。彼女は記憶にあるイメージに従うようにバットを振り出す。

カキーンッ

響き渡る快音。ライトの海未がバックして追いかけるが、すぐに立ち止まり打球を見送る。

『入ったぁ!!優木!!起死回生の同点ホームラン!!UTX学園この土壇場で試合を振り出しに戻した!!2人の恋女房がエースの奮闘に応えてみせたぁ!!』

ガッツポーズを見せながらダイヤモンドを一周するあんじゅ。彼女はガックリと項垂れる少女を見ながら笑みを浮かべる。

(相当疲れてたのね。球速が出てなかったから簡単に見極められたわ)

ダブルスプリットはストレートと変わらない球速からフォークと同じくらい落ちてくる。だが、今のボールは他の変化球と変わらない球速しか出ていなかった。

「かよちん!!」
「!!」

二塁ベースを回ったところでセカンドを守っていた凛が投手の元へと駆けていく。心配して他の者も集まっていくと、剛も審判から許可を得てフィールド内に飛んでくる。

「何?どうしたの?」
「何かアクシデントか?」

マウンド上にμ'sの9人、指揮官、審判が集まっているその異様な光景にスタンドの観客たちも騒然とする。

スウッ

「孔明さん?」
「どうしたんですか?」

ざわつくアキバドーム。その中の1人、バックネット裏を陣取っていた孔明は立ち上がると、最前列の方へと歩いていく。

「花陽!!どうした?」

集まった選手たちの中心でうずくまっている背番号1。彼女は肘を抑え、目を赤くしていた。

「ダブルスプリットの投げすぎね」
「投げすぎって・・・まだ5球しか投げてないじゃないか」

UTXベンチからツバサがその様子を見て冷静に述べる。英玲奈からのその言葉にも彼女は淡々と答えた。

「あんな無茶苦茶な投げ方で投げるボール、あの小さな体じゃ多投できるわけないじゃない。だから孔明さんは負担の少ない高速スプリットも教えてくれたのに・・・」

彼女の目から一粒の雫が落ちる。それに気付いた仲間たちは、彼女がまた目の前で仲間のために散っていった勇者を見て悲しんでいるのだと悟り、口を閉ざした。

「全国大会決勝戦の9回の表・・・しかも1アウト。まるであの時と同じ。勝利を目前に控えていたのにその希望は途絶え、投げられなくなったエースは絶望と共にマウンドから去るのね」

スタンドから全く同じ光景を目にした。これまでの好投を無に帰しただけでなく、二度と戻ることのできないマウンドに背を向けてベンチへと帰る憧れの存在の涙ぐむ姿。それと同じことが起きている今、彼女は涙を堪えることができない。

「花陽ちゃん・・・ごめん・・・」
「謝るのは花陽の方だよ、穂乃果ちゃん・・・」

ダブルスプリットを求めた穂乃果も涙が止まらない。彼女だけではない。リスクがあることはわかっていたのに止められなかった、その考えに至らなかった仲間たちもショックで立ち直れない。

「花陽。すまん。よく投げてくれた」
「剛さん・・・」

花陽を抱き締め声をかけると、剛は審判に選手の交代・・・いや、試合の棄権を申し出ようとする。これには観客たちも仕方ないと、立ち上がり最後の瞬間を見届けようとした。

「代えんじゃねぇよ!!剛!!」

呆気ない幕切れを迎えようとしたその時、バックネットを掴み球場全体に響き渡るような声を張り上げる1人の青年。

「孔明・・・」

その青年の姿を見た天才捕手は、目を見開き呆然としていた。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
同点になった最終回。果たしてここからどうなってしまうのか!? 
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