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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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綻び

『2番、セカンド、星空さん』

先頭の穂乃果が空振り三振に倒れ1アウト。次に打席に入るのは気合い十分の凛。

(確か1打席目は三振、2打席目はセーフティで出塁。3打席目は三振だったかしら?となるとここはストレートで押せちゃう?)

ヒットは出ているものの打って出たわけではない。体も小さく長打が出ているイメージもないので、まずはストレートでストライクを取りに行く。

カッ

133kmのストレートをファールにする。それも真後ろへの打球だったこともあり、タイミングはバッチリだ。

(ストレートに絞って来てるかしら?なら変化球で打ち取れるかな?)

リードのイロハも知らないあんじゅは手探りで球種を選んで行くしかない。不安な気持ちを抱きながら選んだスライダーは、ツバサにも伝わったのか大きく外れてしまう。

(真っ直ぐで押した方が早いかな?いやなら首振ってね)

今日のツバサはとにかくストレートが切れている。それは誰が見ても確かなため、ここはストレートで押し切ることにした。

「ボール!!フォア」
「え・・・」

2ストライクと追い込んだものの、際どいコースを辛く判定され四球を与えてしまう。これにあんじゅは不満げだが、西村と剛はその理由をよくわかっていた。

(あんじゅは捕手としての技量がない。そのせいでミットが流れてしまってるんだ)
(俺も長い期間をかけてフレーミングを修得した。それができないと、際どいコースは取ってもらえない)

際どいコースをストライクに見せる技術、フレーミング。ミットずらしと勘違いするものもいるがその本質はボールの勢いに負けないでミットを捕球位置から動かさないこと。ミットを大きく動かしたり流れてしまうとストライクでもボールと言われてしまうことがある。

(アマチュアの審判にまともに判定させようなんて間違いだ。いかに騙して自分有利な判定をさせるか、それが鍵になる)

打ちたい気持ちを抑えて四球を選んだ凛。そんな彼女を見て、真姫は今までにない真剣な目付きで打席に立つ。

(際どいコースだとあんじゅのミットが流れてボールになる。ここは甘くても力業で押した方がいいかもしれないわ)

ランナーは俊足の凛。あんじゅも投手をしているだけに肩はいいが、モーションが大きく走られてしまうのは必須。ここは二塁に進まれても三塁に進まれないようにするのが得策とストレートで押していく。

「走った!!」

案の定盗塁を許すがこれは予定通り。130km中盤のストレートで2ストライクまで追い込むと、最後は内角へ135kmを際どいところに投げていく。

カキーンッ

「なっ・・・」
「ライト!!」

渾身の真っ直ぐ。追い込んでいたから厳しいところに投げていったにも関わらず打球は強烈。あわやとも思われたが、ライトに入っている英玲奈がジャンプしてなんとか止めた。

「凛ちゃんゴー!!あ!!いや、ストップ!!」
「ニャニャ!?」

その体勢を見てタッチアップを敢行しようとした凛だったが、三塁コーチャーのヒデコに止められる。なぜ止めたのかわからず立ち止まると、サードにすでにボールが返ってきており急いで二塁に戻る。

「ナイスミズキ!!ユキもありがとね!!」
「2アウトよ、ツバサ」
「英玲奈、大丈夫?」
「あぁ、ありがと」

英玲奈は体勢が悪いと見るやすぐ近くまで来ていたセンターの鈴木にトス。彼女が球出しを早くしてセカンドの越智に中継を回し、三塁まで最速で返したことで凛の進塁を許さなかった。

「くっ・・・」

進塁させることも何もできなかった真姫は奥歯を噛みながらベンチに戻ってくる。2アウトランナー二塁。打席には4番の絵里。

(凛に走らせるか?いや、絵里がブラインドになるがあんじゅは左。失敗の可能性もある。ここは絵里に託す!!)

下手に動かすことはしない。ここは4番の彼女にタイムリーを期待する。

(ツバサのストレートが捉えられた?まさか見極められたのかしら?でも、西木野さんにはもう回ってこない。絢瀬さんを抑えて9回に繋げるわ)

ストレートを中心に攻めていく。絵里もなんとか食らい付くが3球で1ボール2ストライクと追い込まれてしまった。

(まだストレートで行けるかしら?でもタイミングは合ってきてるし・・・)

あんじゅの勘がストレートでは危険と伝えている。彼女はそれを信じてここでスプリットのサインを送る。

(スプリットね。それなら三振に取れると思うわ)

前の回の失点で冷静になれたのかあんじゅの狙いをすぐに把握できた。彼女は凛を見てから足を上げる。

ビシュッ

低めへのスプリット。パッと見はストレートとわからないこの球に絵里は食い付くが、近付くに連れて落ちていくボールにバットは空を切った。

(スプリット!!そんな・・・)

ここまで好投を続けてきた花陽のためになんとしても点数を取りたかった。それなのにチャンスで三振してしまったことにショックを受けていると、ベンチからある声が聞こえた。

「絵里ち後ろ!!」

生徒会で共に仕事をして来た友からの声でキャッチャーの方を見ると、あんじゅがあろうことかボールを後逸していた。絵里はそれを見て振り逃げ、凛も三塁を狙う。

「あんじゅ投げないで!!」

ホームのカバーに来たツバサがファーストに送球しようとしているあんじゅに待ったをかける。三塁を陥れた凛がホームを狙うためにオーバーランに入っていた。あんじゅが投げていれば彼女が生還していたかも知れず、慌ててボールを持って戻ってくる。

「ごめんツバサ、せっかく打ち取ったのに」
「仕方ないわ。でも次は頼むわよ」
「ええ、もちろんよ」

慣れない捕手を懸命に頑張っているのはみんなわかってる。ここで代えれば楽になるかもしれないが、英玲奈も万全とは言い難い。ここは彼女の能力に賭けようと西村も動かない。

(次の矢澤さんは小技も使える。ここはストレートをとにかく厳しくいかなきゃ)

内角にストレートで詰まらせに行く。一塁ランナーは関係ない。三塁ランナーを返されれば負けが目の前に迫ってしまう。足を大きく上げて腕を目一杯振って投じたその球は・・・

「に“ご!!」

打者であるにこの背中に直撃した。

「「あ・・・」」

予想外の出来事に口を開けてあんぐりしているバッテリー。2人はすぐに正気を取り戻し謝罪すると、にこは泣きそうな目で2人を制止してから一塁へ向かう。

(お前ら何やってんだよww)

満塁のピンチにも関わらず西村は笑いを堪えずにはいられない。ぶつけたらおもしろい場面とは思ったが、本当にぶつけるとは思ってなかったため必死に声を殺して笑い声が漏れないようにしていた。

(ちょっとツバサ、ここでそれはなくない?)
(ごめんごめん。力入りすぎちゃったわ)

指揮官同様に笑いを堪えているせいで顔がニヤニヤしているツバサとあんじゅ。2人は深呼吸して心を落ち着けると、次の希を見据える。

(前の打席はヒットだったけど、あれはスライダーの投げ損ないだったもんね。別に警戒する必要はないわ)

まずは真っ直ぐでカウントを取りに行く。希も死球の後の初球とあって狙っていくがタイミングが合わず空振り。

(次は・・・変化球かな?)

変化球の中でも色々あるが、ここである球種が脳裏を過った。あんじゅはそれを出すと、ツバサは驚いたような顔をするが、楽しそうな表情へと変化しうなずく。

ビシュッ

(来た!!真ん中!!)

失投に食らい付く希。だが、手元でボールがキュンッと胸元に食い込んできた。

(あかん!!これは・・・)

ガッ

バットの根本で捉えたボール。それはピッチャーの正面に弱々しく転がる。ツバサはそれを冷静にキャッチすると、一塁方向へと走っていきファーストの長沼にトスする。

「つ・・・ツーシーム・・・」

ストレートばかりで忘れていたが、彼女には打者の手元で変化させるこの球種があった。冷静さを取り戻した少女の前に無失点に抑えられた音ノ木坂は、1点差のまま9回の守備へと到達した。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
次はいよいよ9回の表に突入します。μ'sはこの点差を守り抜けるのか!? 
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