魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝
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人として生きていく ~今のあたし~
すっかり眠気の覚めたあたしは、リビングに居る。
隣にはテンションが高くなっているウェンディが居るが、これだけなら別段おかしい光景じゃない。問題なのは、キッチンで手際良く作業をしているショウさんだ。
「……はぁ」
何でこんなことになってんだか。
ショウさんとしてはお菓子を持ってきただけですぐに帰るつもりだったわけだが、隣に居るバカが呼び止めたのが原因だけど。
いやまぁ……百歩譲って家に上げるのは良いよ。お茶の1杯くらい出すのは礼儀としても間違ってねぇし。
けどよ、どう考えても昼飯作ってもらうのは違うよな。相手から言い出したならともかく、言ったのは隣に座ってるバカだし。
確かにショウさんの飯は美味いし、腹も減ってるわけだが……何でこう常識に欠けた行動が出来んだろうな。このバカを甘やかすショウさんもショウさんだけど……
「どうしたんすかノーヴェ、料理してるショウさんの姿に見惚れてるんすか?」
「なっ……バ、バカなこと言ってんじゃねぇ!」
確かに良いなとは思うけど……それはあたしもあんな風に料理出来たらなって思うからであって。
本当に他意はないんだからな。あたしだって将来的には結婚とかするかもしんねぇし、あの人くらい家事が出来たらそのとき困んねぇだろうなって思うのは普通だろ。断じてショウさんだから見てたわけじゃねぇ。
「小声で怒鳴るなんてノーヴェも器用になったっすね」
「いきなり大声出してショウさんが指でも切ったら危ねぇだろうが」
「さすがノーヴェ。気配りが出来る女っすね」
その憎たらしい笑顔を今すぐ引っ込めやがれ。それ以上煽ってくるなら、容赦なくその顔面に1発ぶちかますぞ。
個人的に人様に暴力を振るいたくはねぇが、理由があるなら別だ。まあ……あたしとお前は姉妹だし、姉妹がケンカしたらところで問題はねぇだろ。ちっとばかし一般的な姉妹よりも良い打撃が飛び交うだけだ。
「ノーヴェ、何だか顔が怖くなってるっすよ? そんなんじゃ意中の相手は落とせないっす」
「べべべ別にあの人を落とそうとか思ってねぇよ!?」
あの人の周りには不屈のエースオブエースだとか、雷光の執務官だとか歩くロストロギア等々……そうそうたる顔ぶれが居るんだぞ。あたしみたいな前科持ちで可愛げもねぇ奴が敵う相手じゃねぇだろうが。
「今少しだけっすけど、キッチンの方に視線が向いたっすよね。あたしは別に誰とか指定した覚えはないんすけど?」
「――っ……このクソ野郎!」
「急に大声は出さないって言ったじゃないっすか! それにあたしは女っす。クソはともかく野郎って発言は撤回してほしいっすね!」
そこを指摘してくる余裕が余計に腹立つんだよ!
家の中で暴れたら後で面倒なことになるかもしれない。それは分かってる。だが……今あたしの胸の内に湧いてる感情は目の前のバカをどうにかしないと落ち着く気がしねぇ。
そこを動くんじゃねぇぞ。1発だ……1発で仕留めてやるからよ。
「おっと、この目つきはやばいっすよ。ショウさん、ヘル~プ!」
「昼飯作ってくれてる人に助け求めてんじゃねぇ!」
「だって今のノーヴェ、目がマジじゃないっすか!」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「そんなのあたしに決まってるじゃないっすか♪」
本気でぶっ殺されてぇのかてめぇぇぇぇッ!
さすがにあたしもそろそろ我慢の限界だぞ。ショウさんの見ている前でケンカするのもどうかと思うが、これ以上こいつを好き勝手させてたら絶対面倒なことになる。その前にあたしがその元凶を打ち砕く!
直後――包丁がまな板にぶつかる音が一際大きく響いた。
反射的に身を震わせたあたしとウェンディは、恐る恐る音がした方へ視線が動かす。視界に映ったショウさんの背中は動きを止めていたが、数秒もするとまた何事もなかったかのように動き始める。
その姿を確認してから数秒後、ビクついた顔をしたウェンディが小声で話しかけてきた。
「ノーヴェ、今のはどういう意味なんすか!?」
「いや、あたしに聞かれても……」
「ショウさんはおこなんすか? 激おこなんすか? 激おこぷんぷんまるなんすか?」
なんすかなんすかってうるせぇな!
そんなに気になるなら自分で確認すればよいだろうが。言っとくけど、あたしは確認しねぇからな。
あたしはお前みたいに気軽に話しかけられねぇし、正直あたしも今話しかけるのは怖い。タイミング的に絶対怒ってた気がするし。
つうか……今の状況で考えることでもねぇけど、こいつってどこから激おこぷんぷんまるなんて言葉を仕入れてきたんだろうな。
「いいから黙ってろ。そうすればこれ以上何も起きはしねぇんだから」
「それもそうっすね。分かったっす、あたし大人しくしてるっすよ!」
うわぁ……ノリと勢いだけで言ってる感じがしてならねぇ。信用性に欠ける返事にしか思えねぇな。
また騒ぎ出すんじゃないかという不安があったが、意外にもそのあとウェンディは料理が出来上がるまで大人しくイスに座って待っていた。
ずっと姿勢を正していたことから察するに、よほど怖いと思ったのだろう。
まあ基本的にショウさんはこれまであたし達に怒ったりしたことなかったから当然と言えば当然だけど。だって正直に言えば、あたしも似たような状態で待ってたから。
そうこうしている内にテーブルに次々と料理が運ばれてくる。思わずよだれが出てくる料理の数々に腹の虫が鳴ったのは仕方がないだろう。
「おぉ~さすがショウさん、実に美味そうっす!」
「あるもので作っただけだから大したものは作ってないぞ」
「大したものじゃないものを大したものに見せるのが腕なんすよ」
身を乗り出して褒めるウェンディに対してショウさんは若干苦笑い気味だが、今回ばかりは我が姉妹の肩を持とう。
何故ならあたしでさえ空腹なのも相まって衝動的に食べたいという欲求が湧き続けている。ならあたしよりもテンションが高いウェンディが普段通りに振る舞えるだろうか。いや、そんなわけない。
多分……冷静に「いやはや、美味しそうっすね」くらいな発言をしていたら体調が悪いのかと疑う。
「じゃあ、さっそくいただくっす。むっ!?……これは……超絶に美味いっす!」
「こらウェンディ、じたばたすんな。危ねぇだろうが」
「ギガうまなんすから仕方がないじゃないっすか。条件反射っす!」
確かに美味いのは認めるが……子供じゃねぇんだからもう少し大人しく食えよ。ヴィヴィオとかヴィータさんなら可愛げもあるけど、お前がやってもバカっぽくが見えないからな。
あと……ヴィータさんの前で意味もなくギガうまとか言わないでくれよ。
あの人、見た目はあれだけど中身は普通に大人だから。そういう部分を突かれると普通に怒るだろうし。一緒に美味いものを食べてる状況とかなら問題ないだろうけど。
「いや~こんなご飯が食べれるなら一家に一人はショウさんが欲しいっすね」
「俺はひとりしかいないんだが?」
「ふむ……それもそうっすね。ならこの家に居てくれたら良いっす。うちに居る美人姉妹はまだ誰も結婚してないどころか、お付き合いしてる殿方もいないっすからね!」
何でそうなんだよ!
反射的にそう叫ばなかった自分を褒めてやりたい。もしもそうしていたら口の中に含んでいたものが飛び散っていただろうから。
バカというか適当な奴だとは思ってたが、何で今みたいなことをさらっと言えんだよ。
一家に一人居てくれたら助かるって発言は理解できるし、うちだけに居てくれたらって部分もまあ良しとしよう。
だけどさ、そのあとに恋愛面の話に進んだら意味が違ってくるだろ。まるでこの家の誰かと結婚しろって言ってるみたいにも聞こえるわけだし。
「ちなみに……あたしなんてどうっすか? こう見えて相手には尽くすかもしれないっすよ」
「かもしれないって、自分を売り込むつもりがあるのかないのか分からん発言だな」
「そりゃ~まともに売り込むなんて恥ずかしさマックスじゃないっすか。あたしにだって羞恥心はあるんすよ」
「羞恥心ある奴はそもそも堂々と自分と結婚しないか? なんて発言はしないと思うんだが?」
「ちっ、ちっ、ちっ……甘い、甘いっすよショウさん。ショウさんの作るお菓子よりも甘いっす。具体的に言えば……いや、さすがにフェイトさんのお母様が飲むアレよりは甘くないっすね」
甘いのか甘くないのかどっちだよ。確かにあの人のアレは普通の奴は飲めたもんじゃないし。
聞いた話では緑茶に砂糖を入れて飲む地域もあるらしいし、紅茶に砂糖を入れる奴だっている。別に砂糖を入れることはいいんだ。
問題なのはその量だけで。
液体に溶ける量って決まってるもんだろ。あの人の場合は、もう解けない状態になってようとさらに砂糖をぶち込んでるわけだし……まともな味覚してたら甘すぎて飲めたもんじゃない。
「とりあえず話を戻すっす。いいっすかショウさん……今の世の中、草食系という名の受け身が多いんす。多くなってしまったんす。故に女であろうと時として肉食系にならないといけない時代なんすよ!」
何を格言のようなことを言っているんだろう。あたしの知る限り、お前はまだ誰とも交際経験のない恋愛素人だと思うのだが。
まあノリと勢いだけで言ってるだけだろうし、聞き流しながら飯でも食うか。せっかく作ってもらったのに冷めたら勿体ねぇし。
「その証拠に……ショウさんの幼馴染さん達は、美人で仕事も出来てお金もあるのに未だに独身じゃないっすか! 交際している相手もいないじゃないっすか!」
ウェンディの力強い発言を思わずむせてしまう。
こ、こいつ……何てことを口にしてやがんだ。確かにあの人達は、はたから見れば全てを兼ね備えているように見えるが普通の人間だぞ。いや、むしろ恋愛面においては一般人よりも劣っていそうな……
だってあの人達って……あたしの目の前に居る人のことが好きなんだろ。はやてさんとかは直接聞いたことはないけど、少なくともなのはさんやフェイトさんは確実だし。
こう言える理由は単純にして明快だ。たまにヴィヴィオがママ達がパパのことになるヘタレ過ぎて困る
そう愚痴をこぼしているから。
それに対してあたしは特に何も言ってねぇけどな。他人にどうこう言えるほど恋愛経験なんてあるわけじゃねぇし、下手なことを言ってあのママ達の耳に届いたら怖いしな。
「あの完成されたヒロイン達でそれだと、あたしらみたいな脇役は受け身ではいられないんすよ!」
「言いたいことは分からなくもないが……何であいつらが中心みたいな言い方なんだ? 別にウェンディはあいつらと一緒に居ること多くはないだろ?」
「それはほら、やっぱりあの人達は世間的にも認知されてるじゃないっすか。故にあそこが自分の知る最高点というか、色んなステータス的に女としての基準かと思ったわけっすよ。ちなみにショウさんはいつ結婚するんすか?」
唐突に話を変える奴だな。というか、何で結婚が先に来るんだ?
まあ色恋の話になってるし、流れ次第では結婚という話題になってもおかしくはない。だが順番的に誰かと付き合うって話じゃないのか。ショウさんがすでに誰かと付き合ってるのなら問題ないが、あたしの知る限り交際している相手はいないわけだし。
「結婚って……それ以前に俺は誰とも付き合ってないんだが?」
「逆に聞くっすけど、何で付き合ってないんすか?」
「何で付き合ってないのがおかしいみたいな言い方なんだ」
「え、いやだって……」
こっち見るんじゃねぇよ。
お前の言いたいことは何となく分かる。でもあたしを巻き込もうとするんじゃねぇ。あたしはお前みたいにこの手の話をさらっと出来るタイプじゃねぇんだから。気にならないかと言われると……気になるけど。
「なのはさんとはヴィヴィオのことで夫婦みたいなもんですし、フェイトさんとは家族ぐるみの付き合いしてるじゃないっすか。フェイトさんのお兄さんとはマブダチなわけですし、その奥さんからは頼りにされてるわけっすから」
「ニュアンス的には否定しないが最後のだけは違うぞ。あれは頼りにされてるんじゃなくて、愚痴を聞かされてるだけだ。良く言っても相談相手……」
「そのへんのことは聞いてないっす。あたしには関係のない話ですし、ある意味ショウさんの身から出たサビじゃないっすか」
ド直球に言う奴だな。
普通もう少しオブラートに包んだりするだろうに。まあショウさんみたいな相手には逆に有効なのかもしれねぇけど。
「他にも八神家の皆さんとも仲良しっすよね。ちょくちょく一緒にお出かけしたり、夕食をご馳走になってるって聞いてるっすよ。あとシュテルさんとかとは一緒に働いたりしてるわけですし、ディアーチェさんの店にはよく顔を出してるみたいじゃないっすか。そうっすよねノーヴェ?」
「え、あ……まあな」
突然こっちに振るんじゃねぇよ。
話は聞いてるけど、あたしとしてはこういう話にはあまり首を突っ込みたくないんだから。個人的にはディア姉の味方をしたい気持ちはあるけど、直接的に何かやるとヴィヴィオあたりがうるさそうだし。
あいつ……ショウさんのこと正式なパパじゃないって認めながらもパパなのは変えねぇからな。パパじゃないのにファザコンってのもおかしな話だぜ。まあショウさんが本気で否定しないのも理由だろうけど。
「ショウさん、ざっと挙げただけでもこれだけの異性がショウさんの周りには居るんすよ。なのに誰とも何もないというのはどういうことっすか!」
「どうもこうも……逆に何かないといけないのか?」
「いけないとは言わないっすけど……ショウさん達はまだ20前半っすよ。それなのに誰も恋愛してないってどういうことなんすか?」
「それは……仕事が楽しいからじゃないのか?」
それもあるでしょうけど、好きな相手が相手だからってのが最大の理由なんですけどね。
大体そこまで鈍感じゃないんだし、あの人達とも付き合い長いんだから少しはもしかして自分がって考えても良いだろうに。
正直この人を含めたあのメンツって、外野が何もしなかったらいつまでも仕事が恋人の人生を歩みそうだよな。
「まあそれもあるとは思うっす……というか、この場であの人達の話をしても仕方ないのでショウさんに絞るっすね。ショウさんは良いなって思う人いないんすか?」
「ずいぶん直球だな」
「回りくどく聞いてもしょうがないじゃないっすか。こういうのはストレートが1番っす。それでいないんすか?」
「……良いと思う定義にもよる」
適当に誤魔化すかとも思ったが、話す内容によっては話してくれるようだ。
これはディア姉のことをどう思っているか聞くチャンスなのでは。けど余計なことして逆鱗に触れるのも怖い。だけどあの人って普段の振る舞いに反比例してこの手のことにはヘタレだから何かしてあげたい。
そういう考えがあたしの中で渦を巻く。そんなあたしを気にすることなく、ノーヴェは笑顔を浮かべて話を続けた。
「そうっすね~、じゃあ可愛いなとか思う人くらいにするっす。それでショウさんは、あの人達の中で誰が良いんすか?」
「そうざっくりとされると……全員可愛いとは思ってるんだが」
「その中で誰が最も可愛いかってことっすよ~」
こいつ……我が姉妹ながら怖いもの知らずだな。
ま、まあ聞きたくないかと言われると普通に聞きてぇけど。あたしはディア姉派ではあるけど、この人に特別に想ってる相手が居るのなら尊重したい気持ちもあるし。
昔のあたしはこの人を認めたくなかった。
だってあたしは戦闘機人。戦うための道具として生み出された存在だ。これは接して未来永劫変わることのない事実に他ならない。
だからこそ、かつてのあたしは戦って結果を残す。それを誇りとして生きていた。そうすれば姉妹や博士が喜んでくれるから。姉妹と博士が認めてくれるなら他のことなんてどうでも良かったんだ。
そう思う一方で……今にして思えば、あたしは姉妹の中で最も人間らしかった。人間として扱って欲しいと願ってたんだと思う。
それ故にデバイスという人間ではない存在を人間と同じように扱うこの人を……ショウさんのことを敵視していた。認めたくなかった。
認めてしまったら戦闘機人としての自分を……自身の存在を保つための誇りを失ってしまうと思ったから。
だからあたしは姉妹の中で人一倍ショウさんに攻撃的だった。
それは事件が終わった後も変わらず、あたしを含めた姉妹を気にかけてくれていたこの人の好意を素直に受け取れず、反抗的な態度を誰よりも長く取ってしまった。
本当は分かってた。この人は誰にでも態度を変えない人なんだって。偽善で人間のように扱ってくるのではなく、自然にそうしていて間違っているのは自分の方なんだと。
今にして思えば、あの頃のあたしはあたしの中の黒歴史に等しい。
でもその過去はあるからこそ、今のあたしがあるんだと思う。
戦闘機人ではなく、ひとりの人間として生きて行こう。
思い込みで判断するんじゃなく、自分で見て聞いて感じて判断しよう。
感情的になってしまったとしても、あとで反省して自分が悪いのなら素直に謝ろう。
そんな風に思えるんだ。こんな風に思えるようになったのは、もちろんスバルを含めた多くの人のおかげだって分かってるけど……あたしが大きく変われるきっかけになったのはこの人だ。
この人があたしが変われるまでの間、変わることなく何度も接してくれた。話しかけてくれたからなんだ。だから……この人が幸せになれるのならそれを応援したい。
「さあさあ、どうなんすか?」
「……この場では言いたくない」
「え~そりゃないっすよ。何で言ってくれないんすか?」
「俺の経験上、お前みたいな奴に言うと誰かれ構わず言いふらしそうだからだよ」
これに関しては至極真っ当な意見だ。
ウェンディも仕事とかに関わるものなら秘密にと言われたら守るだろうが、私生活面の秘密に関してはふとしたことでポロっと言ってしまうかもしれない。
本当はそうではないかもしれないが、こればかりは普段の言動で決まってしまう部分なのだから仕方がないだろう。
「心外っすね。これでも口は堅い方っすよ。だから気兼ねなく言っちゃってくださいっすよ」
笑顔に言うウェンディに対して、ショウさんはその笑顔が信じられないんだよなと言いたげな顔を浮かべる。はやてさんやシュテルさんのような相手が身近に居ただけに胡散臭いものに関しては人一倍敏感なのだろう。
「娘公認で疑似的夫婦であるなのはさんすか? 家族ぐるみで親しくしてるフェイトさんすか? それとも誰よりも一緒に居た時間が長かったであろうザ・幼馴染のはやてさんすか?」
「凄まじく腹立たしい顔だな。お前がはやてとかなら容赦なく殴ってるぞ」
「むむっ!? そこではやてさんの名前が出るということはやっぱり……! ッ……!? ノ、ノーヴェ……いきなり何するんすか?」
「何ってショウさんが困ってんだろうが。本人が言いたくないって言ってんだから引き下がれよ」
「ノーヴェだって気になってたくせに……ここで良い子ぶるとか卑怯っすよ!」
卑怯で結構だよ。
あたしはこの人に嫌な思いはさせたくねぇんだ。昔やっちまったことへの詫びってのも理由だけど、単純にそう思うのが今のあたしなんだよ。文句あっか。
そういう目でウェンディを睨むと、しぶしぶといった感じではあるがウェンディはイスに座り直す。くちびるを尖らせながら食事を再開したのを見届けたあたしは、少ししてから止めていた手を動かし料理を口へと運び始める。
その直後――。
『悪いなノーヴェ、助かった』
と、ショウさんから念話が届いた。
嬉しさやら恥ずかしさが一気にこみ上げてきたあたしは、ついテンパってしてまってこう返してしまう。
『べ、別に……昼飯作ってもらったわけですし、大したことしたわけじゃないんで』
素直じゃないな。
そう言いたげな笑みをショウさんは浮かべたが、あたしはそれを見続けるのも恥ずかしかったので食事に集中することにした。
だってそうしないとあたしの心が持ちそうにない。だってこの人は……あたしの恩人なんだから。
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