魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝
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人として生きていく ~過去のあたし~
黒衣の魔導剣士。
黒衣のバリアジャケットに身を包み、射撃や補助を始めとしたあらゆる分野の魔法を高水準で扱える魔導師にして、ベルカ式の魔法にも適性があり剣の腕前は歴戦の騎士に匹敵する。
本名は夜月翔。性別は男で11月11日生まれ。魔法世界出身の父親と管理外世界のひとつである地球出身の母親との間に生まれた。
父親の方は優秀な技術者として一部では知られていた存在であり、人型フレームを用いたインテリジェントデバイスを生み出した第一人者でもある。
そのため夜月翔は魔法文化のない地球で育ちながらも魔法やデバイスといった魔法に関する知識は幼い頃から有している。
ただ平穏な生活は続かず、夜月翔が幼い頃に彼の父親と母親は不慮の事故により死亡。そのあとは父親の妹であるレイネル・ナイトルナに引き取られる。
レイネル・ナイトルナが優秀な技術者であり、また本人にも技術者としての道を歩む意思があったこともあり、夜月翔は時折研究の手伝いをしながら学生生活を送る。父親が残した人型フレームを用いたデバイスの研究に関しても少しずつ任されるようになる。この研究の目的はより人らしいデバイスを作り上げること。
小学3年生の時に海鳴市にジュエルシードが散らばり、そのあと高町なのはと共に事件に介入。管理局と協力し事件解決に貢献。
そのあとしばらくして闇の書と呼ばれるロストロギアを巡る事件が発生し、友人であった八神はやてのために事件解決を目指す。事件発生前から八神はやてと共に生活していた守護騎士と交流があったこともあり、事件中は会合後に密かに協力体制を結ぶ。だが最終的に剣を交えることになった。
その後は技術者としての道を本格的に目指し始め、ユニゾンデバイスや新しいカートリッジシステムといった研究を行う。それに平行して昔から行っていたより人間らしいデバイスを作るという研究も継続。その間、ロストロギアを巡るような大きな事件には遭遇していない。
だが魔導師としての訓練を怠ることはなく、中学を卒業してからは魔導師としての仕事も行い、徐々に力量を高めていき特殊魔導技官になる。
そして、部隊長になった八神はやてにスカウトされる形で機動六課に出頭……
『ただいまっす……って、ノーヴェだけなんすか?』
『悪いかよ?』
『いやいや、別に悪くはないっすよ。ところで何見てるんすか? ……また黒衣の魔導剣士の資料見てたんすか。ノーヴェは本当に黒衣の魔導剣士が好きっすね』
『は? てめぇ……ぶち殺されてぇのか?』
『冗談、冗談っす!』
必死に謝ってるようにも見えるが、普段の言動を考えるととりあえず謝ってるだけのように思えなくもない。
とはいえ、ウェンディもあたしと同じ戦闘機人。ここで本気でやり合ったら無傷では済まないだろう。それ以上にドクターや姉妹達から説教されるだろうから面倒だ。
『ちっ……次言ったら容赦しねぇからな』
『了解っす。出来るだけ言わないようにするっすよ』
『出来るだけじゃなくて絶対に言うんじゃねぇ!』
『この世に絶対なんてことないっすからそんな約束はちょっとできないっすね。そもそも……ノーヴェは黒衣の魔導剣士のこと気にし過ぎな気がするんすけどね。ちょっと執着し過ぎじゃないっすか?』
別に執着なんかしてねぇ!
あたしは……あたしはただこいつのことが気に入らないだけだ。デバイスを人間として扱うこの偽善者が。
より人間らしいデバイスの作成。それはインテリジェントデバイスの研究の一環だと言える。別にこれだけならどうとも思わない。
だけどこの男は……デバイスを人間として扱い、時として独自の行動を許している。魔法を補助するためのデバイスではなく、ひとりの人間と同じように。
人型フレームを使っていようとデバイスはデバイスだ。デバイスは魔導師の補助をするために道具であり力。あたしを始めとした戦闘機人と同じように戦うために生み出された存在なんだ。人間として扱うのは間違ってる。
『そんな苛立った顔してると可愛い顔が台無しっすよ』
『茶化してんじゃねぇぞ。本気でぶっ飛ばされてぇのか』
『別に茶化してはないっす。だからそんなに怒らないでほしいっすよ。もしくはあたしじゃなくて黒衣の魔導剣士に向けてほしいっすね。まあこっちの動き方次第じゃ顔を合わせるかどうかは分からないっすけど』
『ふん……てめぇに言われなくても会ったらボコボコにしてやるよ。こいつだけは……見てるだけでイラつくからな』
★
「………………夢か」
重たさの残るまぶたをどうにか下りないようにしつつ、眠気を振り払うかのように目元を擦る。時間を見る限り眠っていた時間は30分ほどだが、机に突っ伏す形で眠っていたせいか身体が強張っている。
「ふぁぁ~……地味に疲れが残ってんな」
肩甲骨を回したりして身体をほぐすが、身体全体に感じる微妙な倦怠感は消えてくれない。
まあ……ここ数日結構ハードだったからなぁ。ディア姉のところのバイトにヴィヴィオ達の指導というか面倒見たり、資格を取るための勉強とか色々やってたし。
あたしよりもスバルとかの方がハードな仕事してるんだろうけど、スバルはいつも元気だよな。性格の違いなのか、それとも鍛え方が違うのか……まあどちらかといえば後者だよな。
あの人……不屈のエースオブエースとして認知されてる有名教導官に鍛えてもらった時期があるんだし、年に何度か合同でトレーニングもしてるんだから。
あたしもたまに救助を手伝ったりすることあるけど、さすがに差は出ちまうよな。ま、別に出たところで気にすることでもねぇんだけど。よほどのことがない限りあたしが戦場に赴くなんてことはないんだし。
「……にしても」
懐かしいというか……何で今更あのときの夢を見たんだろうな。
前日にウェンディとあの頃のことを話したのなら分からなくもねぇけど、そんなことを話した記憶はないし、そもそも話す理由がない。
今のあたしはノーヴェ・ナカジマだ。
ドクターの元で動いてた頃の……荒れていた頃のあたしじゃない。
戦闘機人だって事実は変わらねぇけど、誰かの命令じゃなくて自分の意思で行動してる。戦ったり目的を果たすための道具としてじゃなく、ひとりの人間として生きてるんだ。
まあ……こんな風にちゃんと決められたのは割と最近のことだけど。あの戦いが終わった後、しばらくは上手く馴染めないつうか……恥ずかしくて義父さんのこと義父さんって呼べなかったし。あの人に関しても上手く話せなかったんだよな。今も話せるかっていうと微妙かもしんねぇけど。あっちは気にしてなさそうだけど、前は一方的に敵意ぶつけまくりだったわけだから……
「……ん?」
微かに来客を知らせるインターホンが聞こえる。
今日は全員仕事などで家を空けているはずなのであたしが対応するしかない。時間帯が昼間なのを考えると宅配便でも来たのか、ヴィヴィオ達が近くに来たから寄った可能性もある。
ヴィヴィオ達ならいいけど……義父さんやスバル達の関係者だと少し面倒というか緊張する。あたしに分かる話なら対応も出来るけど……。
まあ宅配便とかの可能性の方が高いとは思う。義父さん達の関係者ならこの時間帯なら直接本人のところに行くだろう。仕事上ではなくプライベートでの付き合いがある人物だと別だろうけど……とりあえずまずは誰かが来たのか確認しよう。
「はいはい、どちらさん……え?」
「よう」
気軽な挨拶をしてきたのは配達員でもなければヴィヴィオでもない。
黒を基調とした私服を纏っている長身の男性。手にはお菓子が入っていそうな箱を持っており、きっと手作りのものを持ってきてくれたのだろう。手作りだと推測できるのは目の前に居る男性が知っている人物だからだ。
「な……ななな何しに来たんですか!? って……うわぁぁあ!?」
予期せぬショウさんの登場に驚いたあたしは、無意識に後ろに下がったために足をもつれさせ盛大に尻餅を着く。
もしも家族が全員家に居る状態だったなら置いてあった靴などで更なる痛みがあったことだろう。ヒールなどの上にやってしまったら壊してしまったかもしれない。そう考えると不幸中の幸いと思えなくも……
「おいおい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。ひ、ひとりで立てますから!」
普通なら差し出されていた手を掴むんだろうが、あたしはそれが出来なかった。
だって……超絶恥ずかしいし。あたしは姉であるスバルほど鈍感でもないし、ショウさんは異性なんだから。それに思いっきり尻餅を着くところ見られたわけで……それがなくても荒れてた時に1番絡んでた相手なんだから色んな感情が沸き上がるし。
「何か騒がしいっすけど何かあったんすか~?」
背後から聞こえた声に振り返ってみると、髪の毛を拭いているウェンディの姿があった。半袖に短パンをラフな姿だが、下着姿ではないのでまあ良しとしよう。
「ウェ、ウェンディ……お前居たのかよ?」
「そりゃ居るっすよ、ここは自分の家なんすから。まあ帰ってきたのはさっきすけど。ノーヴェは寝てたみたいっすから気づいてなくても無理ないっす」
「そうか……ってまだ髪の毛乾いてねぇじゃねか。ちゃんと拭けよ、風邪でも引いたらどうすんだ」
「これくらいで風邪なんて引かないっすよ。まったく日に日に面倒見が良くなるというか、世話を焼くのが板に付いて行ってるすね。ノーヴェはあたしもママなんすか?」
「んなわけねぇだろ。大体てめぇみたいな娘ほしくねぇよ」
「それは少し言い過ぎじゃないっすか? 付き合いの長いあたしでも傷つくことはあるんすよ。まあ何とも思ってないっすけど……そんなことより」
ウェンディはするりとあたしの脇を抜けるように移動すると、ショウさんの目の前で止まる。そして満面の笑みを浮かべるといつもより高めなテンションで口を開いた。
「ショウさん、いらっしゃいっす!」
「ようウェンディ、相変わらず元気だな」
「場を賑やかにするのがあたしの役割っすからね。今日はどんな用件っすか? 今あたしとノーヴェしかいないっすよ」
年上にはもっと敬語とか使って話せねぇのか。
ナカジマ家に引き取られてから3年ほど経つこともあり、社会常識なども勉強した。故に誰とでも変わらない態度で話すウェンディを見ているとそう思ってしまう自分が居る。
「あぁ、今日はこれを渡しに来たんだ」
「何すかこれ? まあショウさんのことっすから手作りのお菓子とかだとは思うっすけど」
「ご名答。ここの家族にはヴィヴィオが世話になってるからな。そのお礼だ。みんなで食べてくれ」
確かにあたし達はヴィヴィオと関わることが多いけど……この人って今もヴィヴィオに父親扱いされると否定してたよな。
にも関わらずこういうことするって……そんなんだからずっと父親扱いされるんだろって地味に言いてぇ。まあ正直なところヴィヴィオに父親扱いされるのは満更でもねぇんだろうけど。
「それはどうもありがとうございますっす!」
「別に礼はいいさ。……じゃあな」
「えーもう帰っちゃうんすか?」
「残る理由もないだろ?」
「いやいや、それならあるっすよ。あたしらと少しお話しましょうっす!」
は? ……こいつ何言ってんの?
「頻繁に顔を合わせてるわけでもないんすし、今日は暑いっすからね。お茶くらい飲んでいってほしいっす。帰り道で倒れられても困るっすから」
いやいや、ショウさんどう考えても車で来てるだろ。まあバイクも持ってるらしいし、今日はひとりだからそっちかもしんねぇけど。
でもどっちにしろ歩いて帰るわけじゃないだろうし、わざわざ上げる必要はない気がする。お菓子もらったわけだから茶くらい出してもいいとは思うけど。
「ノーヴェもショウさんとゆっくり話したいっすよね?」
「いや、別にあたしは……ディア姉のところにショウさん割と来るし。……まあショウさんがいいんなら別に構わねぇけど」
「それはつまり話したいってことっすね。というわけでショウさん、どうぞ上がってくださいっす!」
いやだから……もういいや。これ以上何か言っても無駄な気がするし。ショウさんもウェンディの勢いに押されてか為すがままにされてるし。
……今思ったけど、あたし大丈夫か?
さっきまで寝てたわけだし、寝癖とか出来てるんじゃ……別に知らない仲じゃねぇけど、むしろ知らない仲じゃないからこそ気になるというか。
「あれ? ノーヴェどこに行くんすか?」
「顔洗ってくんだよ」
「あ~……了解っす。じゃああたしはショウさんを案内しとくっすね。ささ、ショウさんこっちっすよ」
「初めて来たわけじゃねぇんだから案内とか要らな……って、何でてめぇはショウさんに抱き着いてんだよ!」
そそそそういうのははやてさんとかがやることだろ。何でお前がやってんだ。案内するにしたってそういうことをやる必要はねぇだろ!
「別にいいじゃないっすか。知らない仲でもないんすし」
「親しき中にも礼儀ありって言うだろうが!」
「今以上に親しくなるためにやってるんす!」
グッ! じゃねぇんだよ。
そりゃ親しくもない相手に密着したりはしねぇだろうが、親しくなるために密着する必要はねぇんだよ。
「もっと別のやり方でやりやがれ! お前には慎みってもんがねぇのか!」
「慎みを持たないといけない場でもないっすし、別に減るもんじゃないんすからいいじゃないっすか。それとも~ノーヴェがやりたいんすか?」
「なっ――ぶ……ぶっ飛ばされてぇのかてめぇ!」
誰がショウさんに抱き着いたりするかよ!
そんなことしたら恥ずかしくて顔合わせられなくなるだろうが。大体あたしとショウさんの過去を知ってるくせに茶化してくるんじゃねぇ。
「ショウさん、助けてくださいっす!」
「おい、ショウさんを盾にしてんじゃねぇ!」
「盾にしないとあたしの身が危ないじゃないっすか。あっショウさん、あたしお腹空いてきたんで出来れば何か冷蔵庫にあるもので作ってほしいっす」
「自業自得だろうが! って、何さらっと昼飯頼んでんだよ。ショウさんは客人だろうが!」
「俺は別に構わないぞ。どうせ今日は予定もないしな」
予定がないなら作ってくださいよ!
ヴィヴィオと一緒に遊ぶとか、ディア姉のところに顔を出すとかやれることはあるでしょ。ショウさんはもっと自分の時間というか、今後の幸せに繋がるような時間を作るべきです。特にディア姉との……あの人は素直に甘えるというか、デートに誘ったりできる人じゃないんですから。
大体……ショウさんは厳しいけど甘いんですよ。自分より年下の人間には特に。ヴィヴィオとかにする分には分かりますけど、ウェンディとかにはしないでくれませんかね。すぐに調子に乗るんですから!
「なあウェンディ」
「何すか?」
「凄まじくノーヴェに睨まれ始めたんだが」
「まああたしのこと庇った感じっすからね。それに……ノーヴェも素直じゃないところがあるっすから。特にショウさんにはそういうのが顕著……これ以上は本気で危なそうなんでやめとくっす」
懸命な判断だな……あれ以上好き勝手に言ってたら本気で1発ぶん殴ってたぞ。ショウさんが帰ったらやるかもしんないけどな。
「そんなことよりさっさとリビングの方に行こうっす。ショウさんからもらったお菓子も冷やさないといけないっすし、ご飯も作ってもらわないといけないっすから」
「はいはい、すぐに作ってやるよ。本当お前って色々と軽いよな」
「それがあたしの長所っすから」
いや、どう考えても短所であることのほうが多いだろ。全ての場合に置いて短所とは言わねぇが……。
「ほらほら、ノーヴェもさっさと顔を洗ってくるっす。ぼやぼやしてるとショウさんのご飯全部食べちゃうっすよ」
「うっせぇ、お前に言われなくても行くっつうの」
「じゃあ、またあとでっす」
「何で家の中でそんなこと言われないといけな……だから引っ付くのやめろって言ってんだろうが!」
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