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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝

作者:月神
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教え子たちの休日

「まだかな……まだかなぁ」

 私の目の前に座っている人物がそわそわしながら独り言を漏らす。
 その人物の名前はスバル・ナカジマ。機動六課以前からの相棒である。まあ今はそれぞれ別の現場で仕事をしているけど。
 まあそこはいいのよ。問題はこいつの態度なんだから。
 スバルは私にとってよく知った仲だ。いや、よく知っている仲であるからこそ、今私は呆れにも似た感情を覚えてしまっているのだろう。

「スバル、あんたね……少しは落ち着きなさいよ」

 今私とスバルは、ディアーチェさんが経営しているお店《翠屋ミッドチルダ店》に居る。
 どうしてかというと、少し前に久しぶりにフォワード陣で集まろうという話が上がり、晴れて今日集まれることになったからだ。
 集合場所はここになった理由は、見知った人間のお店の方が気楽なのもあるが、単純にここのお菓子などが絶品だということも否定できない。
 まあ店主であるディアーチェさんが良い人というのもあるけど。最近は客足も伸びてきてるらしいのに私達のために予約席を設けてくれたわけだから。フェイトさん達みたいに危ない現場に出る人じゃないけど、それでも私からするとカッコいい大人のひとりだと思う。

「待ち合わせの時間まではまだあるんだし、あの子達から遅れるって連絡が来たわけでもないんだからそのうち来るわよ」
「それはそうだけど……でも」
「でもじゃない。いいから大人しく待ってなさい」

 ここのケーキとかも早く食べたいのは分かるけど、さすがにそういうのはあの子達が来てからよ。年齢で言えば、あの子達よりも私達の方が先輩なんだし先に食べるのは何か違うでしょ。
 まったく……六課の頃よりは多少女らしくなったように思えるけど、未だに色気より食い気って感じね。唐突にこの子から好きな人が出来た。だからティア相談に乗って! みたいに言われても驚くけど。
 スバルよりもそういうことを理解してるって自負してるけど、正直私も未だに彼氏いない歴=年齢の恋愛初心者。相談されたら自分なりの答えは言うけど、それが正解だっていう自信はない。
 大体私には親しく異性がそもそも少ないし……。
 六課解散後も定期的に顔を合わせてるのなんてエリオとかくらいのような……ま、まああの人とも顔は合わせてるけど。
 ただあの人に対して色恋の考えを抱くのには抵抗がある。悪い人じゃないのは分かってるし、その……素直に言えばカッコいいとは思う。
 だけどあの人の周りには、私の上司を始めとした恋する乙女達が居るの。私としては最も身近な存在である上司を応援したいわけで……でも迂闊に突っ込める案件でもないのよね。変に突くと関係がややこしくなって全員が全員自分のこと責めそうだし。何ていうか下手な事件よりも難題だわ。

「スバルさん、ティアナさん」
「お久しぶりです」

 そう明るい声で話しかけてきたのは、待ち合わせをしていたエリオ達だ。
 六課に居た頃はそれほど体格に差はなかったふたりだが、今ではずいぶんとエリオの方が大きくなっている。具体的に言えば、キャロとは頭ひとつ分ほど違う。まあエリオの年齢的に伸びる時期なのでおかしいことではないだろう。
 でも……何ていうか会う度に大きくなってる気がするわ。
 別に悪いことじゃないんだけど、あの小さかった子がこうなるのって思うところがあるわね。子が育つ親の心境ってこういうことを言うのかしら。

「エリオにキャロ、久しぶり。エリオ、また背が伸びたんじゃない?」
「最近測ってないので詳しくは分からないですけど、多分伸びてるとは思います」
「キャロの方は相変わらずみたいね」
「ティアナさん、わたしだってちゃんと大きくなってるんです。エリオくんが伸び過ぎなだけで!」

 そう言われても出会った頃からさほど変わったように思えない。
 女にとって1センチとかが大きいってのは分かるんだけど、それだけで背が伸びたと分かるかと言われたら厳しいものがある。
 キャロが嘘を言ってるとか見栄を張ってるようには見えないし、多分本当に伸びてるんでしょう。ただエリオほど見ただけで分かるほど伸びてないのは確かよね。
 割と気にしてるみたいだし、あまりこの話題に触れるのはやめておきましょう。
 エリオ達が空いていた席に腰を下ろすと、スバルは店内でテキパキと働いている店員のひとりに声を掛ける。

「ノーヴェ~」
「うん?」
「注文したいんだけどいいかな?」

 呼び鈴押せば誰かしら行くだろ。何でわざわざあたしなんだよ……。
 ノーヴェはそう言いたげに一瞬顔をしかめたが、モタモタしているとディアーチェさんが動いてしまうとでも思ったのか、小さく息を吐くとこちらに歩いてきた。

「ご注文は?」
「ノーヴェ、一応私達もお客さんなんだよ? そういう不機嫌そうな態度はやめた方がいいとお姉ちゃんは思います」
「そういうのがあたしの癪に触ってんだよ。大体……わざわざあたしを指名する必要もねぇだろ」
「それはほら、ノーヴェが話しかけやすいから」

 笑って誤魔化すスバルにノーヴェは何か言いたそうだ。
 だが私達に対して知り合いとはいえ客であるという理解はあるのか、ぶっきらぼうにではあるが何を注文するのか聞いてきた。そのため私達はそれぞれケーキや飲み物を注文する。
 知っている人は知っているだろうけど、スバルとエリオは人一倍……いや人の数倍は食べる。
 故にこういうときも注文する量はひとりだけで数人前に達するわけで……注文を聞き終わったノーヴェが注文を受けたのが自分で良かったとボソッと呟いた気持ちは理解できるだろう。

「エリオにキャロ、見た感じ元気そうだけど元気にしてた?」
「はい、わたしもエリオくんも元気にしてましたよ」
「スバルさん達は元気にしてましたか?」
「もちろん、毎日のように現場に出て頑張ってるよ。ねぇティア?」
「私はあんたほど現場に出てはないんだけどね。書類整理とかも多いし……まあ忙しくはあるけど、充実した日々を送ってるわ」

 頭を悩ませることなんて身近な人達の色恋くらいだし。
 なのはさんもフェイトさんも昔よりは休みを取ってるって話は聞くけど、その大半が愛娘のために消えてるのよね。一般的には良いことではあるんだけど、もう少し自分の時間を持ってもいいんじゃないかしら。ヴィヴィオだってもうずっと面倒見ないといけない子供でもないんだし。
 特に……フェイトさんはエリオ達も大きくなって一人前の局員になりつつあるんだし、仕事の都合で数ヶ月ここから離れるなんてこともある。同行した場合は何度もあの人に会いたそうな顔を見たりするわけで、もう少し積極的になって欲しいものね。
 でもフェイトさんって……普段内気な分、一度覚悟を決めてたら人よりも突っ走る可能性がある気がする。
 それが俗に言うラッキースケベ的なものになればまだ望みもあるけど、単純に空回りしそうで怖いわ。そういう意味では今のままの方が安全のような……私とかがデートのお膳立てするのが良い気もするわね。

「ティア、さっきから何か難しい顔してるけど……もしかして今日の集まり無理して来たとか?」
「別にそんなんじゃないわよ。私はちゃんと休みは取るようにしてるし、今日までに大体のことは片付けてるから。ちょっと考え事してただけよ」
「考え事? 今の言い方からして仕事以外だよね。何か悩みでもあるの?」

 何でこうもずけずけと聞けるのかしらね。
 別に言えないことじゃないけど……ジャンル的にスバルに理解できるか微妙よね。人よりも鈍いところあるし。まあキャロよりはマシでしょうけど。この中でこういうことを普通に話せるのってエリオくらいかしら。同性よりも異性の方が話が出来るってある意味不思議だわ。

「別に何でもないわよ」
「そういう言い方する時は大体何かあるときだよ。ティア教えてよ~」
「あぁもう、鬱陶しいわね」

 少しは大人になったかと思ってたけど、この子は相変わらずね。何で年下のエリオ達よりも手間が掛かるのかしら。
 一般的に言えば、エリオ達が手間が掛からなさ過ぎるんでしょうけど。だからフェイトさんはもう少し甘えて欲しそうな顔をしたりするわけで……今はどうでもいいことね。

「大したことじゃないって言ってるでしょ。なのはさん達は最近集まったり出来てるのかなって思っただけよ」
「確かに大したことじゃないけど、別に隠す必要もない気が……でもどうなんだろう? 私も最近はなのはさん達と会ってないし。仕事でバタバタしてるのかな……」
「それなら大丈夫だと思いますよ」
「この前フェイトさんがなのはさんの家に集まってお酒を飲んだ言ってましたから。色々とお話したみたいですよ」

 色々……まさか本音のぶつけ合いみたいなことをしたんじゃ。
 もしそうなら今後の展開が非常に気になる。でもあの人達ってそのへんの話を避けてる気もするし、平和的に終わった可能性が高いわよね。
 だけどお酒が入ったら理性も緩むわけで……何で私がこんなに頭を悩ませてるんだろう。あの人達の恋路はあの人達がどうにかすべき問題なのに。
 大体……あの人が誰かしら選ばないからこういう状況になってる気がするわ。10年以上付き合いがあれば、誰かしら良いなって思うんじゃないの。女の私から見てもあの人達ってそれぞれ魅力があるわけだし……。

「ティアナさん、僕達何か気に障ることでも言いましたか?」
「え?」
「その……険しい顔をされてたので」
「ううん、別にふたりに対してどうこうってわけじゃないわ。ふたりが兄さんって慕ってる人に思うところがあるだけで」
「ティア、ショウさんとケンカでもしたの?」

 いや別にしてないから。たださっさと誰か選んでって思ってるだけで。
 まあ私が口を挟む問題でもないんでしょうけど。でも自分の上司が何年も前から片想いしてるの知ってたらどうにかしたくなるじゃない。もどかしいって思うじゃない。
 だって……このままの関係が続いて全員還暦なんて未来は見たくないし。あの人達は今の関係が崩れるなら今のままで……って考えてるかもしれないけどね。

「別にしてないわよ。ただ私としては思うところがあるってだけで」
「ティア、そういうのはちゃんと言わないと伝わらないよ。だから今度会ったら伝えよう!」
「は? 嫌に決まってるでしょ」
「何で!?」
「あのね……誰だって人に言えないことのひとつやふたつはあるでしょうが」

 親しい相手に対する愚痴だって抱くのが人間なんだし。
 その証拠に私はスバルに言ってないこともたくさんあるしね。多分それを全て吐き出したらスバル泣くかもしれないし。振り返ればいくらでも愚痴れることあるから。

「そもそも下手にちょっかい出していい話題でもないのよ」
「なら……仕方ないけど。前々から思ってたけど、ティアってショウさんに対しては冷たいというか厳しいところあるよね。本気でケンカとかしないでね?」
「心配ご無用。あんたが思ってるよりずっと親しくしてるわ」

 口が悪くなるのはそれだけ気を許してるってだけだし……別にあの人に対して特別な想いがあるわけじゃないからね。上司というか先輩というかそんな感じってだけで。大体あの人達と張り合うのはさすがに無謀だし。誰に言い訳してるか分からないけども。

「そうですね。兄さんにこの前会った時にティアナさんとは割と会ってるって言ってましたし」

 エリオの顔を見る限り悪いことを話してたようには思えない。
 だけど……職業病なのかしら。どうしても今の言葉に何かあるんじゃないかって考えてしまうわ。あの人ってさらっと毒のある言葉を言ったりするし。心を許してる相手くらいにしか言わないと分かってるけど、それでも気になるわ。

「もしかして……私に対して変なこと言ってた?」
「いえ、そんなことは。キャロ、頑張ってるって感じのことしか言ってなかったよね?」
「うん。抱え込んで無茶しなければいいって心配はしてたけど」

 それはそれで恥ずかしい気持ちになるんだけど。無茶してた時に止められたことがあるだけに。ま、まあ……嬉しくもあるけど。

「うんうん、ティアってあれこれ考えちゃうからね。ショウさんの気持ちはよく分かるよ」
「あんたの方が心配されてそうだけどね。日頃から無茶しそうなタイプだし」
「そんなことないよ。ね、エリオ?」
「それはその……あはは」

 その乾いた声が全てを物語り、スバルは盛大に肩を落とした。次の瞬間には心配されないように頑張ると張り切りだしたけど。
 そのやる気が空回りしそうだから私や周りは心配になるのよね。本人は自覚していないだろうけど。とはいえ、そこがスバルの良いところでもあるわけだし。見方を変えれば何とやらって感じよね。

「あんたって本当に前向きよね」
「悪い方に考えても良くないからね! ……ショウさん、他には何も言ってないよね?」
「あ、あんたね……堂々と言っておきながら何で急に後ろ向きになんのよ」
「だ、だって……ショウさんってうちの家族と親しくしてるし。もしかすると私が知られたくないことまで知ってそうだから」

 あぁ……まあ確かにあんたのお父さんとは昔からはやて経由で交流があったわけだし、ノーヴェ達とも仲良くやってるみたいだしね。あんたの知らないところであれこれ知られてる可能性はあるか。
 まあでも日頃から気を付けてればいいだけの話なんだけど。

「大丈夫ですよ。スバルさんを責めるようなことは言ってませんでしたから。それにリョウも来てましたし」
「リョウ? ティア、誰か分かる?」
「どこかで聞いた覚えはあるわ……」

 流れからしてショウさんの知り合いなんでしょうけど……そういえば、ショウさんって何人かに剣を教えてるとか前に言ってたわね。

「もしかしてショウさんの弟子?」
「はい。リョウは僕やキャロとは年が近いんで兄さんがたまに連れてきてくれるんです」
「そうなんだ。どんな子なの?」
「そうですね……年齢以上に落ち着いてるというか穏やかな感じです」
「でも兄さんや兄さんの師匠の織原先生から剣を習ってるからか、剣を持った時は雰囲気が変わるんです。軽く模擬戦とかもしたことありますけど、本気でやったら勝てるかは分かりませんね」

 へぇ、エリオの実力は騎士としてもかなりのレベルのはずよね。
 そのエリオがここまで言うってことは相当な実力者なのね。まあショウさんやショウさんの師匠って人から剣を習ってるのならおかしい話じゃないけど。ショウさんの師匠である織原って人に私は会ったことないけど。

「へぇ~、私もその子に会って手合わせしてみたいかも」
「スバル、何であんたは会うだけでなく戦おうとしてんのよ? あんた別に剣とか習ってないでしょ」
「それはほら、私もショウさんの教え子だし。剣は習ってないけど格闘技ならやってるし!」

 確かにショウさんは格闘技も出来るし、あんたはショウさんとたまに手合わせしてるでしょうけど……そのリョウって子まで格闘技やってるわけじゃないと思うんだけど。
 それに剣と格闘技じゃ通じる部分はあっても同じとは言い難いんじゃ。まあやるかやらないか決めるのは当人の自由だけど。

「なら今度ショウさんにでも頼んで会わせてもらえば」
「うん、そうする。そのときはティアも一緒ね」
「は? 何で私も一緒なのよ?」
「え、だってティアも会いたいでしょ?」

 何でそんなきょとんとした顔してんの。
 確かに今後のことを考えると早めに会っておいた方が良い気はする。でも私はスバルみたいに武術とか嗜んでるわけでもないし、そこまで興味は惹かれていない。

「まあ……会いたくないわけじゃないけど。でもあんたとはもう職場が違うんだから休みを合わせるのも大変なんだからね。こっちは長期間ここを離れることだって割とあるんだし」
「それは分かってる。分かってるけど、せっかくならティアも一緒がいいの」

 な、何でこの子はそういうことをさらりと言えるのかしら。本当に大人になってる? ちゃんと年を重ねてるのか不安になるわ。

「まあ……休みが合えばね」
「ありがとうティア!」
「ちょっ、何で抱き着いてくんのよ!? 休みが合えばって言ったでしょ!」
「それでも嬉しいの!」

 六課の頃なら相部屋だったから人に見られる心配はない。でもここは一般人も居る喫茶店だ。大声を出せば視線を集めてしまうわけで。
 それがなくても年下であるエリオ達に微笑ましい目を向けられると、色々と沸き上がるものがある。

「分かった、分かったから離れなさい鬱陶しい!」
「ふたりは変わらず仲良しみたいで安心するねキャロ」
「うん。でもわたしとエリオくんも仲良しだよ」
「――っ……そ、そういうのはあまり言わないで欲しいかな」
「何で?」
「それは……その」

 エリオ、何でそこで私の方を見るのよ。
 お互いパートナーに困ってるわけだけど、あんたの方はあんたがどうにかしなさい。私はフェイトさんの恋路だけで精一杯なの。あんたのことまで面倒見きれないわ。

「ティア、私達もそのうち弟子とか取っちゃう?」
「何で急にそんな話になんのよ」
「だって私達もなのはさん達の弟子みたいなものだし、ヴィータさん達も教室みたいなの開いてるらしいし」
「だからって私達までやる必要ないでしょ。大体私達にはまだまだ経験が足りない……」
「うるせぇぞお前ら! 他にも客は居るんだから少しは大人しくしやがれ!」
「「「「す……すみません」」」」


 
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