DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~
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合宿終了
時刻は午後の1時を回っている。1試合目を初回の連打と花陽の好投で8対0で下した音ノ木坂は第2試合で苦戦を強いられていた。
「あぁ!!全然当たんないよ!!」
悔しそうにバッティング手袋を外しながら防具を着けている穂乃果。現在の試合の展開は以下のようになっている。
中学生 020
音ノ木坂 000
3回を終えて得点は0対2。それも音ノ木坂は出たランナーは四球での1人と完全に抑え込まれている。
(あのピッチャー速いな。こりゃ将来が楽しみかも)
打てる気配がないにも関わらずそんなことを考えているのはもちろん監督である青年。中学生たちは1試合目で完敗したことを受け、この試合は全員がレギュラー、さらには最速130km超えのエースを投入してきている。
「ボールバック!!」
マウンドにいるのは海未。相手が中学生なので試合のイニングは7イニングス制。試合はすでに中盤も終わりかかっている状態にある。
(真姫の足を考えて打順を組み換えたけど、それが空回りしてる感じか)
2試合目のスタメンは
1番 キャッチャー 穂乃果
2番 セカンド 凛
3番 ショート 絵里
4番 センター 希
5番 サード にこ
6番 レフト 真姫
7番 ピッチャー 海未
8番 ファースト ことり
9番 ライト 花陽
俊足好打の絵里を3番に置き長打も打てる希を4番、短打が多いにこの後ろに長距離ヒッターの真姫を置いているが、うまく機能しない。
(大会前の試合はこれで最後。前の試合のオーダーが無難か)
もっと何か違うことができるんじゃないかと思ってはいるがそれも思い付かない。頭を悩ませていると、その思考を遮るような快音がグラウンドに響き渡る。
「うわっ、抜けたわ」
2アウト二塁まで漕ぎ着けたものの左中間を抜けていく打球によりランナーがホームイン。0対3にされてしまった。
(海未のチェンジアップ、ストライクは取れるけど厳しいところには行かないからな・・・となると大会は花陽に頼るしかないか)
既に腹は括ってある。1人に投げさせ続けることがどれだけ無謀かはわかっているが、それでも頼らざるを得ないのが現状。
「よーし!!凛が最初に打っちゃうニャ!!」
攻守が交代すると先頭になっている凛が大はしゃぎで打席に向かうが、それを引き止め指示を出す。
「凛、フルスイングはいらないからコンパクトに当てに行け。お前の足ならセーフになる」
「えぇ!?それじゃつまんない!!」
「凛!!」
文句を言いながら打席に向かう少女。仕方なく彼女は当てにいったものの、打球はセカンド正面に転がり楽々アウトにされてしまった。
「ほら!!」
「わかってるわ!!」
年上に対する態度ではなくなりつつある少女に声を上げつつ次打者の絵里にサインを送る。といっても何もないのでダミーなのだが。
(コンパクトに振り抜けば打てるはず!!)
そう意気込んではいたものの、ストレートにチェンジアップを混ぜてくる相手の投球に成す統べなく三振。希も凡打に倒れ三者凡退になってしまった。
(やべぇ・・・これだとツバサを打てない)
球種はツバサの方が多い。球速は彼の方が上だが、キレも彼女の方がある。となると打つのがどれだけ困難かは言うまでもない。
「剛」
「何ですか?ルール違反ですよ」
ネット越しに声をかけてくる八崎。本来はスタンドにいる人間と言葉を交わすのはルール違反だが、練習試合なのでそこは大目に見てもらうことにする。
「ちょっとしたアドバイスだけど、どうする?」
「何か対策が?」
速いボールに対応する方法はあるが、この試合でそれをやっても多彩な球種を擁するツバサには対応できない。そこで徳川からアドバイスを受けてみると、剛は眉間にシワを寄せるが、先輩からのアドバイスなのでとりあえずやってみることにした。
中学生 020 10
音ノ木坂 000 0
ランナーを出しながらもなんとか凌いだ海未。その裏の攻撃は5番のにこから。剛は円陣を組み指示をした後、にこ、ことりと花陽に何やら声をかける。
まず打席に入ったにこはバントの構えを見せる。
(ランナーもいないのに?撹乱してるつもりか?)
不思議なことをする少女に訝しげな表情を浮かべつつも、配球は変えないバッテリー。バントであるはずがないと割り切り定位置で守らせる。
投球はストレート。にこはそれにバスターのようにバットを引くがスイングしない。
「ボール」
「え?」
際どい高さに決まったボールだったが判定はボール。キャッチャーは不服そうだったが剛はしてやったり顔だ。
(最初の四球はにこへのもの。たぶんにこが小さすぎて縮こまってるんだな。それでさらにはバントの構えを最初に見せられたらより小さく見えてしまう。しかしこれはまだ未熟な中学生だから通じる戦法。レベルが上がるにつれて使えなくなっていく。
(まずは塁に出てもらわないと。それから考えていく)
狙い通りの四球で出塁。続く真姫は先程の打席はセンターフライだった。
(真姫なら打てる可能性は十分ある。頼むぞ)
ストレートにバッチリタイミングを合わせた。だが打球は伸びずライトフライ。
(海未、バントで)
(わかりました)
1アウト一塁だがここはアウトカウントを使ってでも進塁させる。これで2アウト二塁となり打者はことり。前の打席はかすりもせず三振だった。
(さて、本当にうまくいくのかね)
半信半疑ながらもとりあえず先輩の言葉を信じてことりを打たせてみる。初球は内角にストレートが決まり1ストライク。
(内角じゃキツイけど、あと1つしかないんだぞ)
続く2球目にことりはセーフティの構えを見せる。ライン際に転がる打球。しかしそれはファールになってしまった。
「あちゃあ、ことりは器用だからいけると思ったんだけど」
残念そうな八崎はそう言う。彼の提案はことりにセーフティバントを徹底的にやらせること。パワーがないことりは長打は全然打てないのだが、器用なところがありバットに当てるのはうまい。なのでセーフティを際どいところに転がせればセーフになるのでは考えたが、今回はうまく決まらなかった。
「バントは練習させるしかないだろ。それよりここからはどうすんだよ。スリーバントさせんのか?」
「いや、それよりも効率的な方法があるよ」
徳川の問いに含みを残した言い方をする八崎。彼らが見守る少女は次の釣り球を見送り1ボール2ストライク。すると、4球目のチェンジアップを三塁側へファールにした。
「あぁ、なるほど、カットマンね」
その打ち方を見た徳川は狙いがすぐにわかった。カットマンとはファールを狙い打ち相手の投手に球数を多く投げさせることが狙いのバッターのこと。野球人からすればあまり好まれないが、ボールを長く見れる分甘いボールをヒットすることもでき、試してみる選手も多い。
「ボール!!フォア」
その後数球粘った結果四球を獲得したことり。続くバッターの花陽は何やら緊張した表情で打席に入る。
(頼むぞ花陽)
(はい・・・)
明らかにソワソワしている花陽の姿にバッテリーは何をしようとしているのかわかってしまった。彼らはそれを阻止するためのサインを出すと、投球に入る。
「走った!!」
二走と一走が同時に走り出す。しかし、バッテリーはこれを読んでおり外すが、花陽はそれを当てようとバットを出す。
「ストライク!!」
結局届かず空振り。捕手は三塁へ送球しようとするが、空振りした花陽と送球コースが重なっており投げることができない。
(キャッチャーのスローイングさえ邪魔してくれればよかったけど、ギリギリだったな。あれじゃあ送球妨害を取られかねないぞ)
今回はバッターボックス内にいたから大丈夫だったが、バッターボックスから出て送球を邪魔した場合は守備妨害になってしまう。大事な場面でそれをやると大きな痛手になるのでその辺の指導が重要になってくる。
(でもこれで二、三塁。頼むぞ花陽)
この場面は打つしかないがダミーサインを出しておく。地方予選で習得したノーステップ打法。ストレートに狙いを定めた花陽は無駄のない打ち方でボールを捉える。
「あ、やべ」
上がってしまった打球。しかし、内野と外野の声かけが足らずお見合い。ヒットになりにこ、ことり共に生還した。
(芯で捉えられれば飛ぶけど、ノーステップじゃああの辺が普通か。それにピッチングもあるし、花陽は9番で固定だな)
ことりがセーフティ、カットをやってくれれば出塁率は上がる。その後には負担をかけたくない花陽を置いておけばいい。
(さて、頼むぞ上位打線)
3回目の打席に入る穂乃果。ここからは指示を出す必要はない。好きに打たせればいい。
(真姫はやっぱり3番に戻して・・・う~ん)
頭を悩ませていると穂乃果がそれを消し去るように快音を響かせる。打球は右中間を抜けていき、花陽がホームまで返ってきた。
「色々教えていただき、ありがとうございました!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
試合は5対3で逆転勝利を納めた。それからダウンを行うと、今日まで指導をしてくれた徳川と八崎にお礼を言う。
「頑張れよ、全国大会」
「負ける時は潔く負けろよ」
「ちょっ!!和成さん!!」
激励の言葉をかける八崎とおふざけな様子の徳川。彼女たちは挨拶を終えると、真姫の家の別荘へと帰っていく。
「で、オーダーはどうすんの?」
「1試合目のオーダーで行きます。にこが機転になりそうなので」
アドバイスや実践で試した結果、打順が決定したことを告げる。それを聞いた2人も納得したようにうなずいた。
「今回はありがとうございました。お2人も大会、頑張ってください」
「おおっ」
一礼して穂乃果たちの後に続こうとした時、徳川から声をかけられ再度振り返る。
「諦めんのはいつでもできるけど、頑張れるのは今だけだぞ」
大きくうなずき踵を返し穂乃果たちに追い付く。
「よし!!明日の昼に帰るから、今からは自由時間にするか」
「ホントですか!?」
「「「「「やったぁ!!!」」」」」
わずかながらのバカンスを楽しもうと走って別荘へと帰っていく少女たち。剛はそれを微笑ましそうに見ながらゆっくりと帰路についた。
「あいつ、意味理解してないんじゃないか?」
少女たちが帰った後、自主練をしようと体を動かしている八崎が徳川に声をかける。
「いずれわかるんじゃね?あいつなら」
「適当だな」
それ以上の会話はせず、練習に入っていく2人。彼らの言葉の真意を剛が知る日は近いのか遠いのか、それは神のみぞしる。
後書き
いかがだったでしょうか。
次からは全国大会に入っていきます。
進め方は予選と同じく緩く行こうかな、決勝は本気頑張りますけど。
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