キコ族の少女
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第10話「リベンジ-2」
決行の前日。
俺は、シャルやマチと一緒に襲撃予定の建物―――宮殿が見える廃墟にいた。
というか、某怪盗紳士が生まれた国にあるような煌びやかな宮殿と、それを囲むようにバラックが所狭しと建っている光景は、何と言うか前時代的テンプレな印象を俺に与えてくる。
前世の日本では、病的なまでの平和主義・平等が横行していたから、余計にそう見えてしまうのかもしれないが……
「いやはや、典型的な独裁者のようで呆れちゃうね」
「行動が読みやすいから、そのほうが助かる」
手を望遠鏡のようにして宮殿を見ているシャルの感想に、マチが適当なガラクタの上に座りながら素っ気無い相槌を打つ。
俺も別段マゾではないし、簡単な仕事になるに越したことはないので、マチの言葉に多少の苦味を含めた笑みを浮かべて答えとする。
「さて。ユイ、宜しく」
「んっ、分かった」
軽い雑談を済ませた後、シャルの言葉を受けて、ここにいる目的を果たす為に俺は右手を前に出した……。
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決行当日。
前日からいる廃墟に、先行偵察で既に到着してる俺達を含めた全ての旅団とヒソカが集合しており、前日に俺が偵察して集めた敵の情報をシャルが纏めて皆へ報告しているのを、俺はテトを頭に乗せたまま瓦礫の上に座って聞いている。
普段のテトは肩に乗っていることが多いのだが、今の俺の格好がノブナガから貰ったフード付きコートを着ているために、肩には乗りづらいようで頭の上に鎮座している。
ちょっと遠目からだと、頭に動物を乗せた薄汚れた“てるてる坊主”に見えることだろう。
っと俺の服装は別に良くて、肝心のほうの情報だが、相手の念能力者が警戒している影響で詳しく調べることは出来なかった。
とはいえ、警備体制から分かる事もあって、別口で偵察していた情報と合わせて相手の戦力は大隊規模であり、戦車やヘリはもちろん熟練の契約ハンターがいる贅沢な金庫守備隊であるということが改めて判明した。
敵の数が、予想していた以上という事実が明らかになったものの、訓練された軍人ぐらいでは旅団の皆からすれば一般人とほぼ同然らしいので、油断でもしない限りは負傷することはないだろう。
だから、注意するべきは少数の念能力者達のはずなんだけど……。
俺が探れた情報から「常に二人一組で行動していて、それなりのオーラを纏っている者ばかり」との報告に対して、「特に問題ない」という一言で片付けられてしまった。
思考すらも次元が違うのですね。分かります。
結局、計画の変更無しで勧めることになった。
そして…
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正面玄関と警備兵が哀れ、ウボォーの”超破壊拳”で吹き飛ぶのを合図に、皆が一斉に行動を開始した。
俺も例外なく、騒ぎから離れた地点から、シャルを先頭に城壁を飛び越える事で宮殿に潜入し管制室を目指す。
目的はハクタクで調べ切れなかった宮殿内部の把握と、敵通信設備の掌握もしくは破壊。
「ユイ、何度も言うけど無理はしないこと。いいね?」
「うん」
俺の後ろを走るマチと、本日5度目の確認事項を済ませる。
どうやら、皆の目には俺がやる気を空回りさせているように見えるらしい。
自分自身では空回りしている感じはしていないが気をつけなくては、自己分析軽視による空回りから前回の二の舞は心から勘弁願いたい。
しかし、幸いというか制約のお陰で、頭に血が上って感情的な行動を取ることはないだろうから安心……っと、制約で思い出した。
俺の「姿なき下僕」なのだが、三体目の念獣が希望するレベルまでに現段階では到達できないことが分かった。
現段階と言うことから分かるだろうけど、修行を続けていればいずれは解消できるのだが、現在1997年でキメラアント事件が2001年。
4年。ゴンやキルアのように主人公補正と十分な下地からくる急成長が見込めない以上、“たった”4年とみるべきでだ。
それに、実のところ他の念獣も想定している力を十全に発揮できていない。
だからこの際、制約をつけてしまおうという考えに至ったわけである。
肝心の制約の内容なのだが、某復讐者のような一発で死んでしまうような重いモノは遠慮したい。
だけど、発動までに手順を踏ませる方法の制約だと、ヒスイを使った速攻が取れなくなる。
なので、重過ぎない程度で手順を踏まない制約として
『念獣が破壊された際に込められたオーラに比例した血液を失う』
という制約を己に科した。
幸いというか三体目の念獣によって“血液”関係の問題は解決できるし、ある意味では即死レベルで命を懸けてはいるものの運用を誤らなければ一発で死ぬようなモノではないし、消滅したときの制約のため戦闘開始の邪魔にならない。
この制約のお陰で総オーラが目に見えて増加し、念獣とのリンクや操作等が格段に楽になった。
今現在も20体以上のハクタクを顕現させて、同時に半自動操作とはいえ動かしているが、「少しツライかな?」という感覚があるだけで今までの俺と比べれば格段に楽だ。
適宜念獣へ指示を出して探索を行いつつ、シャルの後を追っていると、ゾッとするような悪寒を全身で感じた。
直後、数体のハクタクが何かに押しつぶされるという速攻情報を送ってきたのを最後に、一斉に消滅した事により制約からスッと血液が消えていく気持ち悪さと軽い眩暈が俺を襲った。
「……っ」
「ユイ?」
「大丈夫、平気」
マチの言葉に頭を軽く抑えながらも問題ないと返事をしつつ、懐に忍ばせている白い錠剤タイプの造血剤を数個取り出し、口に放り込み飲み込む。
非合法の薬ながら即効性があるので、ノブナガに借金(別に返さなくていいとは言われたが無視)して小瓶一つ分を購入し常備している。
ほんのりと身体が熱を持ち始めながら、薬の副作用で若干腹痛を覚えるが、我慢できる程度なので無視して頭を回転させる。
消滅したハクタクの全部が地面の中にいたということは、俺より上の能力者が”円”を使いそれに押しつぶされたか、相手の能力にやられたかの二択。
どちらにせよ、相手の念能力者が動き出したという証拠。
すぐさま、各班を追跡し続けるように自動操縦にしていたハクタクに、班に接触するように操作を組み込んでいく。
併せて、能力の一つを開放し自分の腕に巻きついているハクタクに向かって声を出す。
「相手の能力者が動き出した。場所は東の―――」
感のいい人は気づいたかもしれないが、ハクタクには2つの能力を付加してある。
一つはもちろん
【土に潜れる事】
それも念獣なので掘る等といった動作は必要ない。まあ、陸上の潜水艦のようなものだ汎用性は段違いで此方のほうが高いと自負できるけどね。
そして、今回使用したのが二つ目の能力
【通信機能】
受信と発信機能を持たせ、俺を中継して他のハクタクへと発信受信する。
故に、俺の近くというか“ハクタクが存在できる距離まで”という条件があるが、俺の認めた相手にしか聞こえないから傍受させれることもなく、電話のように1対1ではなく無線のような1対多数の会話が出来る。
俺の報告にすぐ答えを返したのはクロロで、全員の居場所から一番近い班へ現地に向かうように指示を出した。
「――それと、ユイ」
「何?」
「念獣での探索は中止だ。この通信だけに限定しろ」
「分かった」
クロロの指示に従って班の数だけ残し、あとは全て回収する。
そして、回収前に見た最後の情報を先頭にいるシャルへ伝えた。
「数個小隊が、こっちにきてる」
「了解」
シャルの呑気な返事をした数秒後、数百メートル先のT字路から迷彩服を着た屈強な男たちが現れる。
それなりの部隊なのか、俺たちを確認するとタイムラグなしで一人の男が指示を出すと、全員が即応して一斉射を開始した。
幸い隠れられる壁の出っ張りがあるので、散り散りに近くの物陰へと飛び込む。
「うわっ!?」
しかし貧血の影響か、俺だけ一瞬ほど回避が遅れて一発の弾が至近距離を通過していき、思わず声を上げてしまった。
念で強化されているとはいえ、ウボォーのように鋼の身体ではないので当たれば普通に怪我をしてしまう。
先ほどの失血が未だに尾を引いている現状では、これ以上の失血は作戦行動へ影響がでる。
危ない危ないと、心の中で安堵の声をあげつつ俺と同じように物陰に隠れた二人へと視線を送ると、後ろへと視線を向けたので背後へ意識を向ける。
すると前からの銃撃音に掻き消されそうになりながらも、微かに複数の足音が向ってきているのが聞こえた。
シャルは、俺を指差した後に正面にいる弾幕を張っている奴等を指した。
何が言いたいのか理解できた俺は、頷きを返す事で了解の意思を示し、同時にヒスイを数体顕現させる。
そして、未だに射撃を続ける前方の奴等に向けて放つと共に、地面を蹴って物陰から飛び出す。
「こ、子供!?」
「油断するな!!」
シャルの後ろにいたために視認されていなかったのか、俺が姿を現したことで数人の若い兵士が動揺の声を上げて、即座に熟練の兵士から叱咤を受けたのが見える。
だが、その一瞬の隙に開いた弾幕の隙間に自分とヒスイを捻じ込むと、陸上選手も真っ青の加速をもって彼等に肉薄する。
「なっ!?」
「がっ!?」
「ぎゃぁ!?」
「くそっ!!」
俺とほぼ同時に到着したヒスイが、熟練の兵士の腕に突き刺さり射撃能力を殺ぎ、若い兵士二人には俺の飛び蹴りをモロに喰らい吹き飛ぶ。
少女ではあり得ない身体能力に無事だった最後の兵士が汚い言葉を吐き捨てつつも、俺から距離をとりつつ腰にある拳銃の銃口を俺に向けてトリガーを……引こうとした。
自意識過剰といわれるかもしれないが、一応“美”をつけていい容姿の俺を撃つのに抵抗があったのか、それを抜きにしても女子供を撃つことに抵抗があったのか、一瞬のタイムロスを作り出してしまった。
故に、俺は悠々と射線上から離脱すると共に熟練兵を攻撃した後で待機状態になったヒスイと、新たに顕現させたヒスイを残りの兵士へと向けて放った。
二体は、寸分の狂いもなく残った兵士の両腕を貫通し、トドメに俺の蹴りを腹部に受けて吹き飛び、壁に激突して沈黙した。
「まあ、こんなもんか」
特に手が汚れているわけではないが、手の平を擦るように叩きながら周囲を見渡す。
誰も死んでいないのは殺すという行為に抵抗があるためではなく、情報収集するために生かしたまま戦闘能力を奪っただけに過ぎない……と誰に対してか判らない言い訳を脳内で展開する。
さて情報収集でもしようかと、負傷したことによる痛みで呻き声あげている彼等へ近づこうとした時、チリッと首筋に感じた違和感から反射的にその場を飛び退く。
すると、先ほどまでいた場所にサバイバルナイフのようなものがコンクリート製の地面にも関わらず、軽い音と反して深々と突き刺さった。
攻撃が飛んできたT字路に目線を向けると一つの人影。
性別は男、黒縁の眼鏡を付けて、地面に寝ている兵士達と同じ迷彩服を着ているが、彼らと違って殺意が篭った大きなオーラをこちらへ向けている。
ここにいる念能力者の顔を全部覚えているわけではないが、十中八九というか絶対に雇われた念能力者達の一人だ。
単独行動しているのか? と疑問に思う前に、後ろから新たに二つの殺意の篭ったオーラを感じ3人だと判断を改めた。
目の前の相手を警戒しつつ後ろへと軽く視線を向けると、俺が相手にした数以上の迷彩服姿の男達が地面に突っ伏している中で、シャルとマチがオーラを纏った同じ軍服姿の男二人と相対している。
「私は子供にしよう」
「俺、女な」
「ちょっ、俺が男かよ」
目の前にいた眼鏡の男が俺を狙う宣言すると、残りの二人もそれぞれ狙う相手を宣言しあう。
視線を戻すと、何時の間にか先ほど投げつけてきたナイフと同じものを逆手に持って、場慣れしているのか不敵な笑みを浮かべてはいるものの隙のない構えをとった。
「一人でやってみな」
「……う、うん」
視線を向けないままでの気遣いが篭ったマチの言葉に、緊張した声で返す。
俺の言葉を聞いて、気のせいだろうけど二人が笑みを浮かべた気がした。
まあ、確認する前に二人とも相手とともにどこかに消えちゃったから、本当に気のせいかも知れないけど……
「さあ、始めようか」
律儀に待っていたのだろうか?
迂闊にもマチとの会話で警戒に穴が開いたのに攻めてこなかった眼鏡男は、二人だけになったかと思うと徐に懐からウイスキーボトルを取り出し、自身の後ろへと投げ捨てた。
ボトルは物理法則に従い軽い放物線を描きながら落下し、地面にぶつかった衝撃で割れて中身を床一面に広げると、アルコールの臭いが鼻腔を刺激する。
そして、衝撃の一言を発した。
「私はね。ロリコンというやつらしいんだよ」
「……は?」
衝撃的な男の言葉に、思わず間抜けな声を出してしまう。
が、俺に答えを求めたわけではないようで懐から更にボトルを取り出し、さっきと同じように投げ捨てる。
「別にそれを恥じている訳ではない。むしろ誇らしいと私は思っているがね」
「……」
「未熟故の成長を秘めた瑞々しい身体、澄んだ水のような綺麗なソプラノ、そして幼さゆえの鼻腔を刺激する甘い香り」
「……」
器用に、持っているナイフで体を傷つけないようにしながら自身を抱きしめると、男は体を少し震わせる。
そうして数秒の溜めを作った後、熱の篭った声を上げた。
「ああっ、想像しただけで堪らない!」
そして俺に視線を向けて、何を想像したのか恍惚とした表情をする。
ふいに、悶える眼鏡男の姿が“ある奴”にダブって見えた……そう、属性は違えど俺へ似たような視線を向けてくるヒソカって…………ぎゃーっ!この人、ロリコンの変態かよ!!
ヒソカとの類似点を見つけてしまったが為に、条件反射的に後ずさってしまう。
しかし、直ぐに相手は敵対する念能力者であるということを自身に言い聞かせて、その場に踏みとどまりつつ相手を睨みつける。
そんな俺の反応をどう捕らえていたのか、悶えていた男が急に動きを止めると、ニタリと笑みを浮かべ、右手のナイフを順手に持ち直してから振り上げ―――
「さあ少女よ、私のコレクションの一つになってくれ!!」
自身の欲望を叫びながら、地面向けてナイフを思い切り投げることで突き刺さらせると、ナイフ自体に仕掛けでもあったのか水溜まりとなっていたアルコールが発火しする。
さらに純度の高いアルコールだったようで、4・5メートルはあるはずの天井にまで届く大きな炎が生み出され、それを背にした男の存在感がグッと増した気がして一瞬だけ気圧されてしまった。
そんな俺のその隙を狙っていたのか……。
「ぅぁっ!?」
ガクンと急に足元を固定されたような感覚に陥り、思わずバランスを崩しそうになる。
慌てて足元を見るが、普通にコンクリートの廊下の上に足はあり、それ以外は何もない。
どうして? と思うまもなく、自分が今“凝”を行っていないことに今更ながらに気付き、自分の迂闊さに腹が立った。
相手が念能力者の場合は、”凝”を行うのは当たり前なのに相手の変態発言に気をとられ、”凝”をいつのまにか解除していたようだった。
改めて”凝”を通して足元を見ると、男の影が背中からの炎により俺の足元まで延びていて、その影から黒い触手のようなものが俺の足に絡み付いていた。
足を動かそうとしてもピクリともしない。
制約でもつけて強化してあるのか、ただ単に俺よりレベルが高いか…
後者のほうが可能性が高いが、両方という可能性もある。
どちらにせよ、先手を打たれてしまったのは事実。
腕だけで構えをとりつつ、これ以上相手に先手を打たれないように警戒を更に強めた。
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