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キコ族の少女

作者:SANO
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第9話「リベンジ-1」

 紹介が終わったのを見計らって、俺はクロロから許可を貰ってから、元の位置―――ノブナガの元へと駆け足で戻った。
 何故かって?クロロが近くに居たので油断していたが、某ピエロが俺のつま先から頭頂部までを舐めるように眺めた後に舌なめずりをしたのを偶然(嬉しくない)目撃してしまったからである。
 一番の獲物であろうクロロが傍にいたから、眼中にないかと思って油断していただけに、言葉では言い表せないほどの悪寒が体を駆けずり回り、先ほどまでの実力云々の意気込みが吹き飛んでしまった。
 こっのっ!毎度毎度、人の感情を掻き乱しやがって!!この変態が!!

 クロロは、脱兎の如くノブナガの背に隠れる俺の行動を一瞥しただけで終わらせると、ヒソカを隣に置いたままで次の仕事についての話を進めるために口を開く……が、そこでマチがスッと手を上げて発言の許可を求めた。


「団長、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「ユイと……この男は参加させるの?」


 ヒソカの名前をあえて言わない事で嫌悪を表現するマチを見て、ああ~この時から警戒してたのか……とロクでもない事を思考の片隅で考える。
 ヒソカは、そんな対応に気にした風もな……いや、下半身の一部が盛り上がっているように……うん、俺は何も見ていない。見てないから判らない。俺の精神衛生面を考慮して、うん。


「ああ、そうだ。お前等に紹介させたのは、そのためだ」
「けどよ団長。ユイはともかく、そこの男について俺達は何にも知らないぜ」
「そんな奴と組むの、嫌ね」


 フィンクスとフェイタンが当人の前だというのも関わらず、マチ以上に嫌悪を示す。
 俺の意見なんて反映されることはないだろうが、しないよりはマシであるから、同意見だと言う意味を込めてコクコクとノブナガの影に隠れつつ何度も頷いておく。
 こうした反応は想定済みだったのだろう。推薦者であるガブは、眉間によった皺を指先でゆっくりと解しつつ、二人へヒソカの対応について一つの案を提示する。


「皆、そんな邪険にしないでくれ。今回は、俺とヒソカが組めばいいことだろう?」
「では、私もその班に加わろう」


 ガブの言葉に、黒い表紙の本を読んでいることで静観していたテイロが、本を閉じつつ名乗りを上げる。
 そして、突然加わる理由を問われる前に……


「今回の仕事は内容上、多数や個人で動いていては目的達成は困難だろう。故に少数―――そうだな三人一組での班行動が望ましい……そうではないかな?団長」


 ……と付け足した。
 クロロ自身も、ヒソカの扱いについて揉める事は分かっていたのだろう。
 「そうだ」と言葉短めに肯定して、アッサリと問題は解決した。

 新顔のヒソカが揉めるとなると、俺の時も揉めるのでは?と思うだろうが、奴とは違って俺の能力は旅団全員が知っている為に、後衛組になることは皆が理解している。
 そうなると、前衛組の大半は俺に対して殆ど関心がないので問題にはならず、後衛組も女性陣との交流が多いのでこちらも大きな問題にはならない。
 女性陣との仲については、ノブナガでは扱いきれないだろう女性的な部分を、マチやパクから面倒を見てもらっているからだ。
 特に、まだ赤飯を炊く必要がないが“そういう日”の対処法は、同性―――経験者から学ぶ必要性がある。
 流星街に義務教育なんてものはないし、あったとしても俺は旅団の保護下であり、修行に多くの時間を割いているので受けることなんて不可能。まあ精神が成人男性なので、小学生レベルの勉強をやり直す必要がなくなったことについては助かってはいるんだが……。
 こういった事情から俺に関連した班分けに問題は出ることは稀だろうし、特殊な状況ではないので、以下のような班分けが決定した。


第1班
フランクリン・ノブナガ・ウボォーギン

第2班
フィンクス・フェイタン・ボノレノフ

第3班
ガブ・ヒソカ・テイロ

第4班
シャルナーク・マチ・俺+テト

第5班
クロロ・コルトピ・パクノダ


 ガブとテイロの念能力かは不明だが、団長の話しぶりから運搬係のようだから“掃除機”や“風呂敷”のような感じなのだろう。
 というか、俺的には前回の一緒に行動したマチやシャルと同じ班ということが重要だ。これは、あの時の足手纏いがちゃんと成長したということを二人に見せることが出来るということだ。


「決行は明日の18時だ」


 クロロのこの言葉を最後に団員は思い思いに散っていき、クロロとノブナガ、シャルとマチ、そして俺が残った。
 テトはというと班分けを始めたくらいから飽きたらしく、現在は俺の腕の中でスヤスヤと寝息をたてている。
 この旅団の皆が居る中で寝られるとか、この子はある意味で豪胆なのかもしれない。

 居残ったのは理由だが、単純に保護者であるノブナガが帰らないから居るだけなので、俺に関しては特にないのだが……


「ユイ。ちょっと団長と話があるから、マチが使ってる宿で待ってろ」
「え?」
「……ユイ、行くよ」
「え?あっ、ちょっと待って!!」


 唐突に動き出した事態に反応が遅れ、その隙にスタスタと歩いていってしまうマチを慌てて追いながら、「?」が頭の上にいくつも浮かんでいく。

 団長と話……俺のこと、だよね?
 だけど、俺に聞かれちゃマズイ話とかって何だろう?……というかそんな気遣い、あの二人は絶対にしないと思うんだけれどなぁ……。
 あれ?それじゃあ、何だ?



**********



 歩き去っていくマチと、小走りでそれを追って行ったユイをしばらく眺めた後、ノブナガは団長とシャルへ顔を向けた。
 数秒だけ沈黙が場を支配したが、クロロはそれをすぐに壊す。


「出来はどうだ?」
「初仕事がいいバネになったんだろうな。そこらにいる奴相手なら、サシで勝てるほどになったぜ」
「だが、また前回のような状態にならないとも限らないだろう?」


 ノブナガのユイに対する高い評価を冷静に判断し、クロロは言葉を返す。
 シャルから聞いただけであり大まかな流れでしか知らないが、ユイが初仕事で自虐的思考に陥ったことは知っている。
 未だに引き摺っているようなら“破棄”が必要かとも思ったが、今までのやり取りや評価から問題はないだろうと判断できた。
 それ故に、クロロは将来ユイが旅団の一員としてやっていけるのか、今回の仕事で判断しようと考えてた。
 とは言っても、まだ仕事―――実戦は二度目であり、自身が言っていたように年齢上まだまだ成長の余地がある。
 要は一次試験のようなものであり、以前より成長しているか、状況対応のセンス等を確かめるつもりだ。
 ノブナガもそのことは十分承知しているため、ユイの評価を冷静に伝える。


「ねぇとは言い切れないが、それを考えて今回の班にしたんだろ?」
「確かに、俺とマチが一緒の班だと分かったときの張り切りようは、見てて微笑ましかったね」


 クロロはユイの性格を完全に把握してはいない。
 しかし、彼女のこれまでの言動からすれば、前回と同じ班にすれば似た様な反応をするのは予測できたし、彼女と深く交流している者達からすれば簡単に予想できた。
 事実、彼女は皆の期待(?)を裏切る事のない反応を示している。
 ふと、そのときのユイが思い出されて、三者三様ながらも同じ意味の笑みを全員が浮かべた。


「リベンジとでも考えてるんだろうよ。前回、お前とマチに迷惑をかけたのを悪いと思ってるみてぇだしな」
「気にしてないんだけどね。まあ、あの子の能力は使いようがあるし、思いが空回りしないように見張っておくよ」
「わりぃな」


 その後もユイの話が少し続き、結果としてノブナガが望んだ「入団を前提とした様子見」が継続されることとなった。
 彼らが話し合いをするほどまで話題となっているユイだが、別に主人公補正や希少種族だからという訳ではないし、本人が居ないので正直な意見を言ってしまえば、ここにいる三人は彼女に対して高度な戦闘力を求めては居ない。
 シャルが言ったように、求められているのは、彼女の念能力である「体を持たぬ下僕達(インビジブルユニット)」を使った行動の拡大である。

 いくら各団員が高レベルの戦闘力を保持していたとしても、それ以上の敵が現れるというのは稀にある。
 原作で例えれば、暗殺一家であるゾルディック家のシルバとゼノ相手に、クロロは依頼主を殺すという手段を持って自身の死をギリギリのところで回避している。
 これは、事前に察知できたが為に回避出来た事案では有るが、それ以外に関しては単純に純粋に運が良かったり、複数人で行動をしていた為に撃退や撤退等で事無きを得ている。
 とはいえ、毎回そういう幸運に恵まれるとは限らない。
 事前に、敵の規模が分かっていれば対処が容易になるし、危険を事前に回避することも可能だ。
 シャルが参謀役として、こうした状況に対応しているが、それとてタイムラグがあったりと限界があり、万全とは言い切れない。
 それに、一部の団員が強い相手と戦うことに喜びを感じていたりするので、限界点を更に下げる要因だったりしてるいる。


「この話はこれでいいだろう……ノブナガ、お前の用件は?」
「ああ、キコ族についてな」
「何かあったのか?」
「ユイのこと?」


 ノブナガの言葉に、クロロとシャルが疑問の声を上げる。


「ユイの事とは一概に言えねぇが……前回の仕事のときによ、左右の目の色が違う能力者を一人殺った」
「オッドアイということなら、そんなのは別段珍しいことじゃないよ」


 オッドアイとは「虹彩異色症」という症状を表す言葉の一つであり、犬や猫などに見られるが、人間でも症例は確認されている。
 また、可能性の一つではあるが念能力で変化する例(クルタ族など)もあるし、制約等でカラコンを入れているというのも否定できない。
 しかし、ノブナガはそれらの可能性はないと言い、その理由を話した。


「あいつの右目と同じだったからよ」
「同じ?」
「光に当たると、アイツの目は淡く光るだろ?」
「そだね。それが”ダイヤの瞳”って言われてる要因の一つだし」
「それとまったく同じだったんだよ。髪の方は茶髪だったが、染めてる可能性があるしよ」


 この言葉に、クロロとシャルは互いに考え込む仕草をしたまま動かなくなる。
 ノブナガはそんな二人の邪魔にならないように、口を開くことなく二人の答えを待ちつつも、自身が伝えた意見について再度考える。
 そして、最初に口を開いたのはシャルで、二人に指を三本立てた手を見せる。


「考えられる可能性は三つ。一つはたぶんノブナガが考えている通り、キコ族であること」
「ああ」
「もう一つはキコ族と同じ容姿のただの別人……そして、念能力の関係で瞳の色が変化“している”か“させている”かということ」
「いや、もう一つ可能性もあるな」


 クロロは、考えた姿勢のままシャルの言葉を訂正する。


「ここらじゃ“よく”ある、人体移植だ」
「ああ、それもあるね」
「人体移植?なんだそりゃ?」
「他人の臓器を自分へ移すことだよ」


 シャルは、首を傾げるノブナガに簡易的な説明で納得させた。
 事実、彼の説明は間違ってはいないが、そこにドナー当人の意思の有無で大きく意味合いが違ってくる。

 提供者の意思で、相手に自身の臓器を渡すことは表の世界でも普通に行われている。
 しかし、裏の世界では当人の意思に関係なく行われているのが常である。
 普通は機能不全となった臓器を健康な物へと変える“この手法”を、自分の容姿の向上のために利用する人間は裏には数多くいる。
 
 そして、その被害を一番に受けるのは少数部族である。
 彼等のほとんどが、その地域で生きるうえで身体的に何かしらのアドバンテージを持っていることが多い。
 こうして、力の無い部族は侵略され……売買の道具にされる。


「でも、一介の能力者がそれをする理由が無いよ?」
「だが、可能性があることは確かだ」
「どちらにせよ、ユイと同族の奴がいるかも知れねぇことか」
「ノブナガがユイを見つけた状況も、ちょっとおかしいし何かあるのかもね」


 こうした意見が出たりしたものの、結局分かったところで現在の自分たちには関係の無いことだということで、この話はこれで終了となった。
 ノブナガも気になってはいたが、特に何か考えがあって報告したわけでなかったので食い下がる事はなく、本人達的には何の収穫もない話をユイに話すことは無かった。 
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