八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百二十五話 秋田の思い出その十三
「あの人は」
「左様ですか」
「百歳を超えているのは間違いないし」
このことは記録のうえでも確実だ、何しろ一九二〇年に大学で教えていたという記憶がある。その時に二十五歳としてもだ。
「妖怪的な人だよ」
「恐ろしい人ですね」
「何でもご本人は気さくでユーモアのある人らしいけれど」
「謎の人ですか」
「うん、とてもね」
「一五〇歳以上かも知れない」
「その目で沢村栄治見たとも言ってるらしいし」
戦争前の伝説のピッチャーだ、この人から日本では背番号十四はピッチャーの背番号の一つになったし沢村賞という賞も出来た。
「他には景浦将も」
「景浦といいますと」
「知ってる?」
「確か戦前の阪神の選手でしたね」
「うん、名選手だったらしいよ」
残念ながら戦死してしまったけれど。このことは沢村投手と同じだ。
「あと吉原って選手も見たとか」
「その人は知らないですが」
「巨人の名キャッチャーだったらしいよ」
「巨人ですか」
「川上哲治と一緒に入ったね」
巨人にだ、どうもこの人の方が注目されていたらしい。
「この人も戦死したらしいけれど」
「そうなのですか」
「生きていたら凄い選手になっていたらしいよ」
日本では二十七番はキャッチャーの背番号であることが多い、あの古田選手にしてもそうだったし伊東選手もそうだった。それはこの人からだという。あとは二十二番だけれどこれは田渕選手からだろうか。
「この人もね」
「多くの名選手が戦死していますね」
「そうだね、特攻隊で散華した人もいるしね」
石丸投手だ、この人は中日に所属していた。
「そうした人達も見たっていうし」
「それは凄いですね」
「実際に沢村投手は剛速球だったって言ってるらしいよ」
「それは本当ですか?」
「あの人のことは色々言われてるけれどね」
実際は速くなかったとも言われている、もうこの人をその目で見たと言っている人もいなくなってきている。もうすぐしたら一人もいなくなるだろうか。博士は別にして。
「博士が言うにはね」
「速かったのですか」
「そうらしいよ」
「外木場さんよりもですか?」
小夜子さんはここで僕にこう聞いてきた。
「あの人よりも」
「確か広島の」
「はい、名投手でした」
「ええと、ノーヒットノーラン三回した」
僕は外木場投手について聞いていることを思い出した、野球の本も読んでいてこの人のことも読んだ中に出ていた。
「うち一回が完全試合だっていう」
「その人です」
「その人もボールが速かったんだ」
「殺人光線とも言われていました」
「殺人光線って」
「もうそこまで速かったとか」
「何か物騒な通称だね」
光線はともかく殺人となるとだ、もう相当だ。
「当たったら死にそうだね」
「それで田渕さんが頭に受けて」
「ああ、そういえばあの人そうした怪我したらしいね」
この話は僕も聞いている、命に関わったらしい。
「その相手の人だったんだ」
「はい、そうでした」
「田渕さんは死にそうになったとか」
毎年みたいに怪我をした人だったけれどこの時は特に、だったらしい。
「だから殺人光線なんだ」
「そうかも知れません」
「そうだったんだね」
「この人も速かったです」
投げるボールのスピードがだ。
「そう聞いています」
「沢村投手も速くて」
「この人もです」
「今の大谷投手も速いね」
速さの桁が違う、一六五キロの時はスピードガンが壊れたんじゃないかと本気で思った。バッターとしてもいいし怪物にしか思えない。
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