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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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無手勝流

2回の表。打席には5番の絢瀬絵里が入る。

(さて、本当にうまくいくのかしら)

打席に立った絵里はまずシフトを確認。それから構えを取ると、間髪入れずに投手が投げてくる。

(ちょっと!!早いわよそれ!!)

そのボールを打ちに行く。打球はファースト横へのゴロ。それを落ち着いて処理し、ベースカバーのピッチャーへとトスしアウトにする。

「おしいよ絵里ちゃん!!」
「狙い良かったよ!!」
「ナイバッチ!!」

ベンチからは相変わらず声が出ており、チームの雰囲気はいい。続く希はその声援を受けながら、相手の投手を凝視する。

「ストライク!!」

ストライク先行で投げてくるためあっさりと2ストライクに追い込まれる。ここからは際どい球を見逃すわけには行かない。

(これで打ち取らせてもらいましょうかね)

キャッチャーからは相変わらずストレートのサイン。投手はそれにうなずくと、アウトローギリギリに投げてくる。

カッ

「ファール!!」

そのボールになんとか食らいつきファールで逃げる。それから粘ること4球、フルカウントまでもつれたものの最後はセカンドゴロに倒れてしまった。

「オッケオッケ、いい粘りだったぞ」
「おおきに~」

あえなく2アウト。続くにこも2ストライクまで3球で追い込まれると、そこから2球カットで逃げた後、ファーストゴロに倒れた。

「よーし!!こっちも3人でいくよ!!」
「海未!!打たせていいからね!!」
「はい!!よろしくお願いします」

三者凡退だったもののまるで落ち込む様子のない音ノ木坂は駆け足で守備につく。海未はこの回ランナーを出したものの後続を絶ち無失点に凌いだ。

その裏、音ノ木坂は花陽から始まる攻撃。先頭の花陽は2ボール2ストライクからの7球目をファーストフライ。続くことりは初球を三塁線に転がすセーフティーバントを行ったものの、投手に処理されあえなく2アウト。1番の穂乃果は1ボール2ストライクからの4球目をファーストゴロになりまたしても三者凡退となった。

その直後の3回裏・・・

「ボールフォア!!」

先頭の8番バッターを四球で出してしまう。

『9番サード水原さん』

続く9番打者に初球から送りバントを決められ1アウト二塁。打順は1番に返り外野をバックホームのために前進守備を敷く。

カキーンッ

しかし1番打者はキレイにセンター返しでヒットを放つと二塁ランナーが三塁を蹴って本塁に突入する。

「バックホーム!!ショートカット!!」

センターからのバックホーム。しかし送球が間に合わずランナーはホームイン。音ノ木坂はこの大会初となる先取点を許してしまった。




















「あらぁ、音ノ木坂先取点取られちゃったわね」
「なんだぁ、初先取点は私が取りたかったのにぃ」

なおも1アウト一塁のグラウンドを見下ろしながらそう話しているあんじゅとツバサ。しかし英玲奈は1人だけ何かを確認するようにスコアラーと話している。

「どうしたの?英玲奈」
「いや・・・音ノ木坂の攻撃が少し気になってな」

音ノ木坂の攻め方を見て何かに気が付いた少女はこれまでの試合のスコアブックまで広げて見つめている。何がそこまで気になるのかわからない他の者は首を傾げて顔を見合せていた。



















「キャッチ!!チェンジ!!」

なんとか1失点で食い止めた3回裏。そして4回表、流れが変わった。

「ボールフォア!!」

先頭の凛が四球で出塁するここで迎えるのは先ほどヒットを打っている真姫。

「来たね、流れが」

ストレートの四球を見て監督の剛はほくそ笑む。続く真姫に対しても制球が定まらず2ボールとなると・・・

カキーンッ

3球目、真ん中に入ってきた力のないストレートをフルスイング。打球は右中間を深々と破り、俊足の凛を返すには十分すぎるタイムリースリーベース。

「やったぁ!!真姫ちゃんナイスバッティング!!」
「海未!!続きなさいよ!!」

なおのノーアウト三塁の大チャンス。その初球、バッテリーはスクイズ警戒で外す。続く2球目も外してしまい2ボール。カウント有利になってからの3球目。

「走った!!」

三塁ランナーの真姫がスタート。海未もバントの構え。バッテリーはこれ以上カウントを悪くできないとストライクを投じておりあっさり転がしホームイン。

「やったぁ!!逆転したぁ!!」
「海未ちゃんナイスバント!!」

失点直後に逆転に成功した音ノ木坂学院。これには初回からずっと声を出していたベンチがさらに盛り上がる。

「タイム!!」

ここでたまらずタイムを取る千葉経済学高校ベンチ。ブルペンから背番号10がマウンドに向かいボールを受け取る。

「ピッチャー代わるみたいやね」
「剛さんの狙い通りね」

4回持たずに投手を代えなければならなくなった第三シード。それを見て音ノ木坂ナインは狙い通りとハイタッチして沸いていた。
















「あらぁ、逆転されてすぐ交代させるのね」
「球数もそれなりだったのに、見切り速いね、あの監督」

次にマウンドに上がった投手を見ながらそれぞれの感想を述べているあんじゅとツバサ。しかし、2人とは異なる感想を英玲奈は抱いていた。

「いや、むしろ遅かったな。この回の頭に代えておけばこんな展開にはならなかっただろう」
「へぇ、なんでそう思うの?」

彼女の見解にはきっと何か理由があるのだろうと聞いてみるツバサ。英玲奈はまず2人にこの日のスコアブックを見せる。

「2回以降の打球方向、ほとんどセンターよりもライト側だ。唯一三塁側に転がったのは南さんのセーフティのみ。しかもそれもピッチャーに取らせている」

そこまで言われれば実力者である2人が彼女の言いたいことに気が付かないわけがない。他のUTXのメンバーにわかっていないものもいたが、英玲奈は彼女たちにわかるように説明する。

「一塁側に転がったらピッチャーはベースカバーに走らなきゃならない。しかも3回の得点になったのはあのピッチャーだ。徹底的に走らせスタミナを奪って崩れ始めたところを一気に仕留める。まるで強豪校の戦い方だ」

チーム全員で同じ狙いを持って攻撃を行い相手を崩す。その統一感はまさしく強豪校のそれと遜色なかった。

「私たちはあんな戦い方をしたことないからな」
「何?英玲奈はあの子たちが私たちよりも上だと言いたいの?」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
「違うわツバサ、私たちにはそんな攻め方は不要だって言いたいのよ」

実力的に劣っている音ノ木坂学院だからこそチーム全体で統一感を持って相手を崩す戦い方が有効。しかし、全員が高いポテンシャルを誇るUTX学園にそのスタイルは合わない。通常通り戦った方が力を発揮できるのだから。
















「ボール!!フォア!!」

ところ変わって試合の行われているグラウンド。そこではまたしても音ノ木坂学院にチャンスが訪れている。

「1アウト満塁!!」
「花陽ちゃん!!ファイトだよ!!」

ヒット、四球、四球で塁上は全て埋まっている。この場面で打席に立つのは8番の花陽。

(さて、どうしたものか・・・)

全ての塁が埋まっていることでホームはタッチの必要がない。そのためスクイズを行うとアウトになる確率がいつもより増している。

(それに相手は変わったばかりで荒れている。ここは1球待たせよう)

待てのサインを送り打席で構える。初球、これ以上の失点はしたくないバッテリーはスクイズを警戒して外した。

(まるで未熟だな。この場面は打たれてもいいからストライクを取りに行かないと。厳しいコースさえ攻めていれば、例えスクイズでも失敗されることもできるのだから)

自分と比較するのは酷な話だが、どうしてもそう思わずにはいられない。続く2球目は外角へのストリート。際どかったものの審判にボールと判定され2ボール。

(ここはセーフティスクイズにしておくか。ストライクなら確実に転がせよ)

どんなボールでも当てにいく本来のスクイズではなくストライクボールだけを転がすセーフティスクイズ。三塁走者の絵里は足が速いため、ピッチャー正面でさえなければ生還することは可能だ。

「ボール!!3ボール」

バントの構えを見たことで外してしまった千葉経済学高校バッテリー。これでもうボール球を投げることはできない。

(まぁ、このグタグタな感じなら何もさせない方がいいか)

無理に打ちに行かせずにここは追い込まれるまで見送らせてみることにした剛。結果はストライクを1つ取られたものの、続くボールをやはり入れきれずファアボール、押し出しになった。

「タイム!!ピッチャー交代!!」

これにはたまらずこの回2度目となる投手交代を申し出る千葉経済学高校。結局この背番号10は1つのアウトも取ることができずに降板となった。

(わかってない。今のは投手じゃなくてキャッチャーとあんたが悪いんだ。キャッチャーがストライクを要求する勇気があればピッチャーは投げただろうし、監督からそう指示を出せばこんな事態にはならなかった。全てピッチャー1人に責任を押し付けている限り、俺たちに勝つことはできない)

高校野球では球児たちは十分に戦えるだけの力を3年間で身に付けることができる。しかし、選手たちは負けたら全ての努力が無駄になる緊張感から思ったような力を発揮できないことが多い。
それをなんとかするのが司令塔である捕手と選手を育ててきた監督の仕事。それを分からずに投手を代えれば流れが変わると思っている相手監督に、剛は腹ただしさを感じていた。

『あんたは黙ってろ!!全ての責任は俺が持つ!!お前らは自分を信じて戦え』

ベンチに辞表を叩き付け正論だけを並べる部長を一喝し、絶望的な表情を浮かべている選手たちを鼓舞する東日本学園の監督。彼のその一言でチームは息を吹き返したことは間違いない。

(それだけの力がある監督かは選手との信頼次第だけどな)

自分たちはその監督を信じて戦ってきた。そして今選手たちは自分を信じて戦ってくれている。相手がそれだけの信頼を勝ち得ていないから、もしかしたらこうやった戦い方をするしかないのかもしれない。

「相手はエースを登板させてきたぞ。お前たちの実力を測るには持ってこいの相手だ。持てる力を全部ぶつけてこい!!」
「「「「「はい!!」」」」」



















「はぁ、退屈ね」

スタンドで試合を観戦していたツバサは前腕のストレッチをしながら大きなアクビをしていた。

「コラ、まだ終わってないぞ」
「もう終わったようなもんでしょ、こんな試合」

試合は終盤の7回へと突入していた。現在の得点は5対3で音ノ木坂リード。わずか2点差と思われそうなものだが、内容を見ればそれがどれだけ大きな差かは一目瞭然。

「音ノ木坂は須川さんのストレートだけに狙いを定めてる感じね。対して千葉経済学は2番手の矢澤さんに完全に踊らされているわ」

4回表の攻撃はその後に1点を加え計4得点。その裏海未がヒットと死球でピンチを作りタイムリーを浴びたところでピッチャーを交代。2番手で上がったにこが自在な緩急で6回に浴びた2本の長打だけに留めており、千葉経済学は攻めあぐねていた。

「音ノ木坂はまだ点を取れそうだけど、千葉経済学は取れてもあと1点。とてもじゃないけど同点に持ち込めそうな気がしないもの」
「それはそうだが・・・」

ツバサの見立てには賛同するところが多々あり何とも言えなくなっている英玲奈。だが、その小さな少女の頭を後ろから鷲掴みにする男性がいた。

「イタタタタタタッ!!」
「そんな考え方だと夏の頂点には立てないぞ」
「西村監督!!」

上背は180cmを優に越しており、まるでレスラーのような図体の大男に持ち上げられ足をバタバタさせているエース。その少女の
隣に座っていた英玲奈は持ち上げている男性を見上げながらそう言った。

「確かにお前の見立ては正しいかもしれん。だが、これはアマチュア野球だ。何が起こるかわからないぞ」
「わかった!!わかったから!!」

分かればいいとそのまま席に下ろされ頭を押さえているツバサ。他のUTX野球部員は顔を青くさせ、西村と呼ばれた青年を見ている。

「チーム全員で足りない力をカバーして戦う。まるで史上最強と呼ばれた東日本学園の再来だな、天王寺」

腕を組みをして通路に仁王立ちしながらベンチで選手たちに声をかける青年を睨み付ける西村。彼は険しい表情からしばらくすると、ニヤリと笑みを浮かべる。

「悪いがお前たちではうちの選手たちには勝てない。3年間必死に戦ってきた、こいつらにはな」

その呟きを聞いて青ざめていた選手たちの顔に笑顔が見える。見た目こそ怖い監督だが、彼から信頼を勝ち得ていることに選手たちは喜びを感じているようで、彼に認められることがどういうことか誰から見てもすぐにわかるものだった。


















「6対4、音ノ木坂学院!!ゲーム!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

その後両チーム1点ずつ加えたものの、音ノ木坂は8、9回を絵里に託し逃げ切り無事に勝利を納めた。

「これで決勝進出!!」
「すごい!!これ本当に優勝できちゃうんじゃないの!?」
「ぬぁに言ってるの!?次はUTXよ!!今までみたいな戦い方じゃドァメよ!!」

ベンチに戻ってくるなり大盛り上がりの一同の中で1人スタンドに目を移しながらそう言うにこ。

「にこちゃんの言う通り!!明日は今まで以上に頑張らないとすぐにやられちゃうよ!!」
「うん!!わかってる!!」
「ここまで来て負けるのは嫌ですからね」
「ことりも!!」

あと1勝でまず関東の頂点を取れる。そうすればますます音ノ木坂への注目が集まるため、意地でも勝ちを取りたい。

「まぁ、気持ちもわかるがまずは体をケアしよう。それが出来ないと試合で勝つどころじゃないからな」
「「「「「はい!!」」」」」

速やかにベンチを片付けた後、次の試合がないため外野のフィールド内でダウンをさせてもらう。本来ケガを予防するための行動のためゆったりした雰囲気で行うのだが、選手たちは強豪との対戦と言うことで高まる気持ちが抑えきれずにいるようだった。







 
 

 
後書き
ようやく準決勝まで終わりました。
次はいよいよ決勝です。関東大会のね。
さらにここでなんか悪そうなUTXの監督まで出てくる妙な展開。
試合の方はもしかしたら4、5話くらいかかるかもしれませんが、気長にいくことにしましょうかね。 
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