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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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決勝開始

現在の時間は夜の8時。その時間、夕食を取り終えた音ノ木坂学院の選手たちは大広間に集まりあるプリントを見ていた。

「今大会のUTXの個人の成績を纏めてみた。レギュラー陣は打順、控えメンバーは背番号順で並べてみたよ」
「す・・・すごい・・・」
「なんですか、このチーム打率・・・」

そのプリントにはUTXの準決勝までの試合結果と個人成績が纏められているのだが、数字が明らかにおかしい。まるで小学生の大会に1チームだけ高校生が混ざっているような、そんな感じだ。

「チーム打率0.462。うちのチーム打率が0.289だから、2割近く向こうの方がヒットで出る確率が高いわけだ」

音ノ木坂のチーム打率も十分に高いのだが、それ以上の数字を残しているUTXはまさしく桁違いの存在といえる。だが、中には違う感想を抱くものもいた。

「あれ?こんなに点数取ってるのに半分は凡退してるっておかしくない?」

初戦から全ての試合を大勝しているはずなのに、チーム打率は半分以下。それを言われると確かに違和感があると感じた面々は、よくプリントの数値を見直してみる。

「初戦が29得点、三回戦が21得点、準決勝が18得点・・・全て5回で終わっているのに半分は凡退してるなんて・・・言われてみるとおかしいですね」
「毎回得点してるから、6、7割は行っててもいいのに」

穂乃果の疑問により全員が頭を捻っている。あまり時間をかけたくない剛は1つ咳払いをしてからその理由を始める。

「UTXがここまでの得点を上げられる理由は簡単だ。出塁率を見てみろ」
「ニャッ!?何この数字!!」

出塁率にかかれている数字を見て全員が目を見開く。そこに書かれた数字は普通に考えればありえないような数字だったからだ。

「打率は2回に1回は凡退する確率なのにここまでの得点を奪える理由は圧倒的な出塁率にある。そしてその出塁率を高めてしまっているのが・・・」
「フォアボール・・・ってことね」
「そういうこと」

近年野球では守りやすいということから四球で塁を埋めたり無理に勝負に行かないという考え方がある。しかし、剛はこれを推奨することはない。

「ミカたちに頼んでカウント別の打率も出してもらったが、どの打者も2ストライクからの打率は2割もない。逆に打者有利のカウントでは軽く5割を越えている」

どの打者も例外なくカウントによって打率も出塁率も変わってくる。見逃し三振を避けたい結果追い込まれれば際どいところも打ちたいし、ボール先行なら甘いボールだけを待つことができる。

「相手の脅威的な得点力を下げるのにはこれを無効化してやればいい。こちらが四球を出さなければ当然出塁率は下がるし、カウントを先に詰めてやれば打率も自ずと下がってくる」

対してこちらは初球から積極的に振っていけばいい。と続ける剛。特に特別なことをする必要はない。いつも通り戦えば十分に勝てると剛は見込んでいた。

「じゃあ・・・明日に向けて寝ろ!!」
「切り方雑!?」

とりあえず話したいことは話したのでミーティングを強制終了し全員を休ませることにした。選手たちはまだまだ聞きたいことがあったようだが、剛にそう言われると相当疲れていたらしく、すぐに眠りについてしまった。

















「音ノ木坂の戦力は以上だが、何か聞きたいことがあるやつはいるか?」

一方のUTXも監督の西村を中心にミーティングを行っていた。一通り話を終えたところで西村がそう言うと、キャプテンの英玲奈がスッと手をあげる。

「監督は誰が先発してくると思いますか?」

音ノ木坂は今大会4人の投手が投げている。ただ、エースである花陽がほとんど投げているため誰が先発してくるのか、英玲奈は考えがまとまらず監督に助言を求めた。

「予想は付かないが・・・まず小泉の先発はない」
「それはなぜですか?」
「この決勝は消化試合だからだ。ここで勝っても負けても全国で俺たちは決勝以外で音ノ木坂とは当たらない。なら無理して勝たずにエースを隠した方がお利口なんだ」

監督の読みに納得しうなずく一同。それからしばし考えた後、西村はさらに言葉を紡ぐ。

「俺なら今日と同じオーダーを組むな。戦うには十分な組み方だし」

つまり海未を先発してくると考えている西村。選手たちはそれに納得すると、もう少し質問をしてから解散し自室に戻る。

「ツバサ」
「??何?」

そんな中呼び止められた少女はその人物の元に歩み寄る。西村は窓から外の景色を見つつ口を開く。

「明日調整登板させる。準備だけはしておけ」
「了解」

エースでありながらここまで登板のないツバサを明日投げさせると宣言した西村。ツバサはそれを受け適当に返事すると、部屋から足早に出ていった。

「天王寺、楽しみだよ、お前とまた戦えることに」

拳を握っている右手に不思議と力が入る。その目はまるで復讐に燃えるような、王者とは思えない目をしていた。

















翌日・・・

「今日もいつも通り先攻で頼むぞ」
「もちろんです!!任せてください!!」

試合前のメンバー交換へと向かう剛と穂乃果。二人は本部席に到着すると、そこにはすでに対戦相手のUTXの監督とキャプテンが待ち構えていた。

「音ノ木坂だね?メンバー票をもらえるかな?」
「はい!!こちらです」

審判が選手に不備がないか確認しているそんな中、剛はUTXの監督を見て驚愕していた。対する西村はニコッと笑みを浮かべて剛に小さくお辞儀する。

「それじゃあ先攻後攻を決めるよ?1、2、3で行くからね」

穂乃果と英玲奈、二人が3と共にジャンケンを出す。その結果英玲奈が勝利した。

「先攻でお願いします」
「「!!」」

先攻を求めたUTX。しかし、ここまでコールドで勝ち進んでいたUTXがあえて先攻を選ぶ理由がわからなかった。

(まさか俺たちを先攻にさせないために?いや、そんなバカな・・・)

考えすぎだろうと考えるのをやめた剛。それから審判からの注意事項を受けてからそれぞれベンチに戻っていく。

「剛さん。相手の監督知ってるんですか?」
「あぁ、まぁな」

お互いに見知ったような反応をしていたことに気が付いていた穂乃果がそう問う。それに対し剛は受け流そうとしたが、ワクワクとした目で見てくる少女を見て逃げられないと悟った。

「あいつは俺らの代のUTXのキャプテンだ。大学一年からレギュラーだったけど、それ以降は野球部をやめたって聞いてたけど、ここで監督してたのか」

有力な選手が大学で野球をやめてしまうことは多い。彼もその一例だったようで、剛は同じリーグに属していたが2年生からは一度も姿を見たことがないらしい。

「にこちゃんと花陽ちゃんが言ってましたけど、あの人が監督になってからUTXはいまだに負けなしらしいです」
「あいつっていつ監督になったの?」
「4年前・・・だったかな?」

4年前となると剛が大学2年生だった頃のため、彼は西村が大学もやめて母校の監督になったのだと悟った。勿体無いと思いつつもとやかく言える立場ではないのでその話題には触れずにベンチへと戻る。

「ごめ~ん!!後攻になっちゃった!!」
「後攻?UTXか先攻を取ったんですか?」

ベンチに戻り先攻後攻を告げる穂乃果の周りに人が集まってくる。その際相手側のベンチでも監督とキャプテンが中心になって円陣を組んでいるのが見えた。



















「プレイボール!!」

けたたましくなり響くサイレンの音。この日の先発マウンドに立つのは長髪の少女。セットポジションからスッと一本足で立った彼女は、大きく左足を踏み出し腕を振るう。

「ストライク!!」

幸先よくアウトローでストライクを取る。続く2球目は内角へのストレート。その結果打者はサード前にボテボテのゴロを打ちあえなく凡退する。

(ふぅ、まずは1人)

昨日見せられたデータのせいでいつもよりも緊張感が増している。続く2番打者は左打席に立つと、早速バントの構えを見せてくる。

(それでもやることは変わらない。ストライクでどんどん行くよ、海未ちゃん)
(えぇ、わかってますよ)

体を倒しての投球。そのボールは打者からもっとも遠いコースに決まり1ストライク。しかし、次のボールがわずかに甘く入りレフト前に弾き返されてしまった。

(あれを打ち返すのね)
(今のはシュートで行きべきだったわね。そうすればにこが捌いたのに)

間を抜かれた絵里とにこがそう思いながらマウンドの海未に声をかける。海未はそれに小さくうなずくと、左打席に入った柔らかな雰囲気の少女に向き合った。

(クリンナップの前にランナーが出ちゃったぁ)

UTXの誇るクリンナップ、『A-RISE』の先陣を切るのは背番号3を付けた優木あんじゅ。その後にはキャプテンの統堂英玲奈と背番号1の綺羅ツバサが控えている。

(ただでさえチーム打率の高いUTXの中でもトップ3に入る。この人たちを抑えるのに出し惜しみなんかしてられない!!)

穂乃果が出したのは内角へのカットボール。海未はそれにうなずくと、ランナーを牽制しつつクイックで投球する。

キンッ

注文通りに来たボール。それをあんじゅは振っていったが、打球はファールゾーンを鋭く飛んでいく。

(打球速い~!!)
(これはちょっと下がってないと抜かれちゃうかニャ?)

ゲッツーシフトを敷いていた凛がわずかに後ろに下がる。穂乃果はそれが視界に入ってはいたものの、その位置でいいのか迷っている。

(あの位置だとゲッツーが取れるか微妙だけど、抜けそうな打球も凛ちゃんの足なら捕れるかな?)

チラッと剛を確認すると、彼はコクッとうなずくだけ。まだ初回。ここは確実に1つずつ取る方が得策だということだった。

(それならここは・・・)

外角へのストレートを外して。相手の狙いが何なのか読み取ろうとした。だが・・・

「「走った!!」」

二遊間からの声。それを聞いて慌てて送球体勢に入った穂乃果はボールを捕るとすぐさまスローイング。

「セーフ!!」

うまく反応してロスなく投げれたがわずかに球が浮き盗塁を許す結果。これで1アウト二塁となった。

(おいおい、クリンナップだぞ?なのにランナーを動かすなんてずいぶん攻めてくるな)

期待の持てる打者の時は走者を動かすことはあまりない。下手に動いてアウトにされては元も子もないからだ。

「内野!!2アウト三塁ならいいから一塁優先で!!」
「「「「OK!!」」」」

フィルダースチョイスをやって大量点を取られることがもっとも怖い。できるだけランナーを先に進めたくはないが、アウトを優先することの方が重要だ。

(アウトコースから逃げるシュート。これでショートゴロを打たせたい)

ストライクからボールになる球。見逃されれば不利になるが、ここはそのリスクを払ってでも勝負に出たい。

ビシュッ

3球目。海未の投じた球は穂乃果の要求通りのところに来た。

バシィッ

「ボール!!」

ピクッと体が動いたあんじゅだったが、ギリギリでそのバットを止めた。ハーフスイングの判定を到底奪うことなどできないほどしか出なかったため、2ボール1ストライクのまま続行される。

(次もボールだと勝負に行かなきゃいけなくなる。でも安易にストライクを取りにはいけない・・・)

助けを求めるべき剛を見た穂乃果。しかし、肝心の剛がスコアラーのミカと何かを話しているようでこちらを見ていない。

(ちょっと!?剛さん!?)

今まで助けを求めればそれに応えてくれたのに、今回に限ってそれを叶えてくれないのに思わず固まる。

(さて、どうするのかな?)

下を向いて頭を悩ませている穂乃果の方へと向き直る剛。実は彼は彼女が助けを求めに来ることを見越していた。しかし、今回の相手はいずれ必ず倒さなければならない敵。いつまでも彼に頼ってばかりでは大事な場面で戦い抜くことはできない。だからここはあえて突き放すことにしたのだ。

「・・・」

悩みに悩んでサインを出す穂乃果。海未はそれに首を振ろうとしたものの、思い止まったようでゆっくりとうなずき投球に入った。

ビシュッ

投じられたのはベンチから見た限りストレート。それをあんじゅは打ちに行くと快音を響かせた。

(なんでここで内角にストレート!?そこは外角で十分だろ!?)

打ち方からコースを特定した剛は打球の行方を見つつ心の中でそう思う。ランナー二塁では進塁を優先したいため左打者の外角へのボールは比較的手を出しづらい傾向がある。ましてや海未のストレートは女子野球界ではかなり速い分類。無難な配球の方が打たれるリスクは低かった。

「ライト!!」

高々と上がったボールはライトの頭上を越えるかどうかという当たり。ランナーは三塁ベース付近までハーフウェイで出てきており、抜ければ間違いなく得点が入る。

(届いて!!)

懸命にジャンプして食らい付く花陽。しかし、無情にもボールはグラブの先を掠めることすらなく越えていく。

「ご・・・ストップ!!」

それを見てコーチャーがホーム突入を指示しようとしたが、ランナーが外野に背を向けた瞬間待ったをかけ戻ることを指示する。

「任しとき!!」

振り向いたランナーが見たのは倒れ込みそうになる少女の後ろで滑り込みボールを掴もうとしているロングヘアの少女。そう、センターの希がここまで飛び込んできていたのだ。

パシッ

大ファインプレーで窮地を救った希。彼女はそのボールを素早く凛に戻すと、受け取った少女はセカンドを確認。すでに走者が滑り込んで戻ってきていたため投げずにそのまま内野へと持ってくる。

「希!!ありがとうございます!!」
「どんどん打たせてええよ!!みんなで守るからね!!」

このプレーに大盛り上がりの音ノ木坂。反対に先制の一打を掴み取られたUTXは悔しさを滲ませている。

「意外と伸びなかったわね」
「シュートだったみたい。芯から少し外れてた感じ」

手が痺れているようなリアクションをするあんじゅを見てなるほどとうなずくツバサ。その2人の声を小耳に挟みつつ切れ長の少女が打席へと向かう。

(ここまで使っているのはストリートにカットボールにシュート。全てストレート系の球か。緩急を使えるボールはないのか?)

相手の戦力を分析しつつ打席入るチームの最強チームの4番打者。それを迎え撃つ幼馴染みバッテリーに緊張が走る。





 
 

 
後書き
希ちゃんはスピリチュアルパワーで守備範囲が広いとの思考からセンターを守っています。今回はそれが生きた形です。
次は4番の英玲奈との勝負からです。果たしてどうなるか、お楽しみに。 
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