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夢幻水滸伝

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第二十話 現実の世界でその二

「こいつもおったんやな」
「こいつとは何だがや」
 その中里にだ、坂口は自分から問うた。
「太宰と同じクラスだって思ってなかったがや」
「ああ、全然な」
 中里はその坂口にまた返した。
「考えもせんかった」
「それ位知っておけぎゃ、わしは知っとったわ」
「それは悪かったな」
「覚えておいたらええぎゃ」
 坂口はそれでよしとした。
「以後気をつけるぎゃ」
「ほなな」
「それで何で二人で話してたん?」 
 綾乃は勢力の違う二人が話していることいついてだ、二人に尋ねた。
「何かあったん?」
「燭台のことで聞いていたぎゃ」
 それでとだ、坂口は綾乃に答えた。
「だからぎゃ」
「それでなん」
「そうだがや、あっちの世界はあっちの世界でぎゃ」
「こっちの世界はこっちの世界」
「そうだがや」
 その論理だというのだ。
「こっちの世界ではあんた等と争うつもりもないだがや」
「そこはメリハリ付けてるんやな」
「仲良くするだがや、しかしだがや」
「あっちの世界ではやな」
「次は負けないだがや」
 不敵な笑みを綾乃に向けてだ、坂口は言った。
「美濃の西取り返して都まで行くだがや」
「その時は容赦せんで」
 今現在坂口が率いる東海の勢力と隣接している東を護る芥川が不敵な笑みで応えた。
「こっちも」
「望むところだがや」
「次の戦の時はこっちの本陣で会おうな」
「わしが降るっていうぎゃ」
「その通りや」
「それはこっちの台詞だがや」
「そのお話は置いておきまして」
 ここでようやく太宰が口を開いた、芥川と坂口の言い合いがどうにも泥仕合になりそうになってきたのでだ。
 それでだ、彼等の話の間に入って中断させてからだった。あらためて三人に尋ねた。
「三人共どうしてここに」
「こっちのクラスに来たかやな」
「どうしてでしょうか」
「僕がこっちの世界での星の面々のことについて思ったらな」
 中里が太宰に答えた。
「芥川達がそれぞれ顔合わせしてみよかってなってな」
「それで、ですか」
「そや、今こうして回ってるねん」
「そうした事情でしたか」
「別に深い意味はないで」
「いえ、こちらの世界での我々を知ることもです」
 太宰は銀縁眼鏡に手を当てつつ答えた、その仕草が実に知的だ。
「大事ですから」
「ええことか」
「よく思い立たれました」
「いやいや、よくって訳でもないで」
「当然というのですね」
「あっちの世界での付き合いは長いしな」
「そうですね、ですがこちらの世界では」
 どうかというと。
「二日位しか経っていないですね」
「あっちの世界ではもうどれ位や」
「数ヶ月は経っていますね」
 普通にというのだ。
「それぞれの世界で時間の経ち方が違います」
「そうみたいやな」
「まさにあちらの世界は一睡夢」 
 太宰はこうも言った、上杉謙信の漢詩の言葉を思わせる言葉だった。
「一酔かも知れませんが」
「そこでそう言うか?」
「実際に時間の経ち方が違いますので」
 あえてこう言ったというのだ。 
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