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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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偵察

「それでは!!音ノ木坂の初戦突破を祝して!!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」

ここは音ノ木坂学院の野球部が泊まっている宿舎の一室。そこでは初戦を無事に終えた面々が、夕飯と一緒にジュースで勝利を祝っていた。

「8対1の7回コールド勝ち。終わってみたら圧勝だったわね」
「この私がいるんだもの、当然よね」

2点を追加したその後も打線が繋がり7回表に一挙5点を追加した。その裏花陽がキッチリ3人で相手の攻撃を止めて終了。強豪相手に大勝利を納めた。

「ぬぁに言ってるの!!まだまだこんなもんじゃないわよ!!」
「そうです。次の試合も強豪ですからね」

二回戦の相手は練習試合を戦った華崎徳春高校。第2シードであるこの高校と二回戦で当たることは、普通に考えれば運がないと思える。

「でも相手は次が初戦だから、まだ固さがあると思うの。先取点を取れたらきっと勝てるよ!!」

7回1失点の完投勝利の花陽はたくさんのご飯が盛られたお茶碗を片手にそう言う。その食事量には全員驚かされたが、何度も見ていると慣れてきたようで反応が薄くなってきた。

「今日みたいな試合にできれば行けると思うけど・・・」
「向こうはうちらの試合を見てるからね。対策を取られるかもしれないね」

盛り上がりつつも意識は次の試合へと向いていた。初戦を突破しただけでは到底廃校を阻止することなどできないのは、みんなわかっていたから。

「食事中に悪いけど、ちょっといいか?」

ここで沈黙を貫いていた剛が割って入る。そんな彼の手に握られているのは、一枚のDVD。

「次の対戦相手の華崎徳春の春の大会での試合のビデオを、横濱の監督からお借りしてきた。1回戦ったことはあるけど、それとはまた違うメンバーで戦ってるから見てほしい」

旅館からあらかじめ借りていたテレビにDVDを入れて再生する。そこに映し出されたのは、整列を終え解散していく選手たち。

「これは全国での初戦だな。相手は全国初出場のチームだが、登板しているのはエースだし全員レギュラー。今日戦った横濱みたいにエースを温存したりはせずに初戦から本気で挑んでくるんだ」

今日の横濱は次戦が優勝候補の一角だったためエースを投入しなかったが、華崎徳春は決してそのようなことはしない。常に全力で相手と戦い、力を出し切る。

「うわっ!?何この投げ方!?」
「これはアンダースローよ、穂乃果」
「地面ギリギリのところからリリースすることで通常の投手とは異なる軌道を描くことができ、打者は打ちづらく凡打を連発しちゃうの」

球速は速くはないが多彩な変化球を投げることができ、さらにはストレートがホップするように感じる。制球力にも優れており、男子の高校野球でも使用する投手がいる。

「聞いた話だとこれの他に右の本格派、左のサイドスローがいるらしい。基本的に一人が投げ抜くのではなく2人、または3人で継投してくる」
「うわっ、継投か」
「それもタイプの違う3人ですか・・・」

人が多く集まる学校だからこそできる多投手を使っての継投。バラバラのタイプでそれを行うことでより威力を増すことができる。

「何か対策はあるの?」
「不安になって来たニャ~」

三振を取るのではなく打たせて取るスタイルのアンダースロー。そのあとには左のサイドスローが投げ、キレのあるスライダーとシンカーを投じ、右のオーバースローは120km近いストレートと緩急をつけるカーブで三振を多く取る。

「その辺は大丈夫。狙える隙は十分にあったよ」
「「「「「!?」」」」」

投手戦になるだろうと思われていたものの、すでにビデオを何度か確認したらしい剛は対応できる策を見つけていたらしい。

「ただ確率論の話だしその時に当てはまらない時も多くある。それでもいいか?」

正確性には乏しいらしく使うべきかどうか本人の中でも迷いがあるらしい。なので実際にプレーを行う選手たちに決断を委ねることにした。

「大丈夫です。私たちは先生を信じてます」

わずかな時間顔を見合わせた後、代表して穂乃果がそう告げると、剛は満足げな表情を浮かべる。

「そう言ってくれると思ってたよ、ありがとう」

選手たちから信頼を勝ち得ていたことを確認しテレビの前に立つ剛。彼は明後日に控えたシード校との対戦に一番燃えている人物なのかもしれない。しかし、それと同じように少女たちも真剣に聞き入っており、本気なことを伺うことができた。



















試合当日

「たっだいまぁ!!」

球場の外でアップをしている少女たちの元にメンバー交換を終えた穂乃果が帰ってきた。

「どっち!?穂乃果!!」
「先攻!!」

それを聞いてガッツポーズしているツインテールの少女。攻めの野球を徹底していこうとしている彼女たちに取って、先攻と後攻では意味合いが大きく変わってくるからだ。

「それで、相手の投手は誰でしたか?」
「うーんとね・・・」

もらってきたメンバー表を取り出し全員に見せる。その中でポジションが1になっている選手を探すと・・・

「やっぱりエースできたわね」
「話してた通りニャ!!」
「まぁ向こうは初戦やし、これが普通なんやろね」

9番投手となっている背番号1。それはビデオで最初に見たアンダースローの人物と同じ名前だった。

「エースということは、穂乃果が重要ですからね」
「大丈夫!!任せてよ!!」

やる気満々な彼女を見て全員がうなずく。先に行われている試合も終盤に入ってきたこともあり、彼女たちは空いているスペースでキャッチボールを行おうと動いたのだった。


















「間に合ったみたいだな」

真夏の太陽が登りきろうとしているその時、スタンドにスターのようなオーラを放っている3人がやって来た。

「はぁ、英玲奈急ぎすぎよ。途中からだってよかったじゃない」
「いいわけないだろ、あんじゅ。春の試合で華崎徳春の円山にホームランを打たれたのを忘れたのか?」

3人のうち背の高い2人がそんな話をしながら辺りを見回す。すると彼女たちをビデオを構えスコアを取っている少女たちの一人が呼んでいる。

「すまないな、わざわざ席を取ってもらって」
「いえいえ。英玲奈さんの頼みなら」

UTX学園の主将統堂英玲奈、彼女たちよりも早く訪れていたのはUTX学園野球部のビデオ班である。

「オーダーは春と変わりなしか?」
「そうみたいですね。そしてこの試合でも継投を使ってくると思いますよ」
「えぇ・・・またあの変なサイドスローとやるのやだぁ」

春の関東大会で対戦したこともありお互いの手の内はわかっているが、この数ヶ月で何か新しいことを覚えているかもしれないと偵察に余念のないUTX学園。さらには彼女たちを倒す最有力として挙げられていることもあり、主戦力3人が視察に訪れるほどだ。

「あれ?華崎の相手横濱じゃないの?」

そんな中彼女たちよりも小さな背丈のオデコが見えるほど前髪を短くしている少女がスコアボードを見ながら席につく。

「ツバサ・・・聞いてなかったのか?」
「え?何を?」
「横濱は初戦でコールド負けしたのよ。あの音ノ木坂って高校に」
「そうだっけ?」
「そういいましたよ(汗」

横濱高校が破れたことは事前に知らされていたが、UTX学園エース綺羅ツバサは全く聞いていなかったようで、初めて聞いたかのような態度を見せていた。

「音ノ木坂って野球部なかったよね?」
「今年できたらしいぞ」
「それで横濱を倒すなんて、相当いいピッチャーでもいるのかしら?」

初出場でいきなり強豪相手に大金星。それだけで話題性としては十分で、球場は普段よりも多くの人で賑わっていた。

「あら、音ノ木坂1番キャッチャーじゃない!!しかもこの子キャプテンよ!!ずいぶん信頼されてるわね」

選手名鑑を取り出し大はしゃぎ。その様はまるで子供のようで、その場にいる皆微笑ましそうに見つめていた。しかし、その直後雰囲気が一転する。

「え?音ノ木坂の監督って・・・」

選手名鑑を握っていた手に力が入り、グシャリと潰れる。その後彼女の表情を見ると、それに全員が背筋を凍らせた。

「なんであいつがこんなところで・・・」

天王寺剛の名前を見た瞬間、一気に怒りの表情に変わった綺羅ツバサ。その理由が何なのかわからない英玲奈たちは、ただ静かにしていることしかできなかった。















「音ノ木坂!!」
「「「「「ゲーム!!スタート!!」」」」」

いつの間にか定番にしようとしている円陣の後、整列を行い試合が始まった音ノ木坂学院対華崎徳春戦。

「穂乃果、狙っていけよ」
「もちろんです!!」

ヘルメットを被り金属バットを片手に現れる少女。そのスイングには力が籠っていた。

「1番キャッチャーで主将。この子が間違いなく音ノ木坂のキーマンだな」
「円陣での声もよく出てたし、元気な子ね」

球審に一礼して打席に入る背番号2。それに対峙する華崎徳春エースはアンダースローならではの低い位置からのノーワインドアップから投球に入る。

「ストレートのストライク。コースがよかったか?」
「あら?この子2年生じゃない。3年生もいるのに2年生がキャプテンだなんて変わってるわね」

アンダースロー独特の軌道から放たれたストレート。穂乃果はそれを見送り、1ストライク。

「なんだ、天王寺さんが指名した1番キャッチャーなら初球からガンガン振ってくると思ってたけど、慎重なのね」

2人の横で足を組んで試合を観戦しているツバサ。彼女は相当この少女が気になっているらしく、いつにも増して目付きが鋭い。

「どうしたんだ?ツバサの奴」
「さぁ?何かあったのかしら」

コソコソと彼女に聞こえないように話している英玲奈とあんじゅ。2人が目を離したその時、グラウンドから快音が響き渡る。

「おっ、ツーベースコース」
「ツバサ、今何を打ったの?」
「外角のボールから入ってくるスライダーよ。それを強引に引っ張っていったわ」

弾道が低くフェンスに到達することはなかったが、二塁を陥れるには十分。スタンディングツーベースとし、続く凛が打席に入る。

「また左か」
「初戦とオーダー変わってる?」
「いえ!!音ノ木坂は一回戦とポジションも打順も変わってないです」

音ノ木坂学院は元々左打者がズラリと並んでいる。アンダースローは左打者に不利とされているが、これは偶然なった形で意図したものではない。

「今度はボールから入ったか」
「外角へのストレート。セオリー通りね」

ランナー二塁の場合一二塁間に打たれると進塁されてしまうのでどうしても三遊間間に打たせたい。なので左打者へは外角への投球が多くなる。

「英玲奈ならどう攻める?」
「まだ初回だからな。アウトを優先して打ちにくい内角も使っていくかな?」

その声が通じることなくバッテリーは外角中心の攻め。結果、3球目の外角のスライダーをセーフティバントされ、凛の俊足が勝り内野安打。ノーアウト一、三塁とする。

「あの2番の足、速いな」
「何秒?」
「4秒1です。かなり速いですね」

男子の高校野球でも4秒2で走れれば俊足と呼ばれるレベル。もちろんセーフティバントでは多少はタイムが速くなるが、これを差し引いても十分だ。

「次も左か」
「初戦ではこの3番が先制のホームランを打っています」
「ホームラン!?本当に初出場なの!?」

スラッとしたモデルのような体型の3番だが、長距離を打てるスイングを持っている。その情報を聞いた英玲奈とあんじゅは、そのスイングに注目していた。

ガキッ

だが、真姫の打席は4球目のスライダーを打ち上げファーストにファールフライが上がる。ただ、意外と伸びがありフェンスギリギリまで行く。

「おっ、捕ったな」
「ファインプレーね・・・あ!!」

ヘッドスライディングでフェンスギリギリのフライを捕ったファーストが満足げにグラブを掲げていると、サードから声が聞こえたことでようやく気付いた。

「バックホーム!!」

三塁ランナーの穂乃果がタッチアップしていたのだ。これに驚き慌てて送球するが捕球体勢が悪かったためずれてしまい楽々ホームイン。それどころか一塁ランナーの凛までもタッチアップを切っており、1アウト二塁を作られてしまった。

「うまいわ!!まるで隙がない!!」
「体勢が悪いのを見てすぐさまタッチアップ。しかもホームに送球してから一塁ランナーも二塁を狙う。初出場でここまでの戦いが普通できるか?」

タイムリーとはならなかったが先取点は確実にもぎ取るそつのない野球。さらにその後海未がレフト前ヒットで凛を還すと、絵里、希も続いてこの回3点を先取した。

「一回戦も初回に2点を先制しましたからね。しかもどちらも1番が得点になって3番に打点が付いてます」

横濱戦も記録していたデータ班の一人がそう言う。それを聞いた英玲奈はしばし思考した後、口を開いた。

「つまり1番が出て2番が先に進め3番で還す。この理想的な形を完成させているわけか」
「それだけじゃないです。ここまでノーアウトでランナーが出た回は必ず得点を奪っています」
「つまり先頭を出すと得点される可能性が格段に上がるわけね」
「そんな感じです」

まるで強豪校のような戦い方に驚愕してばかりの面々だが、その中で一人だけあることに気付いているものがいた。

「何、あんなのあのバッテリーがへなちょこなだけじゃない」

そう言ったのはほとんど口も利かずに試合に見入っていたツバサ。彼女は自らの見解を述べる。

「打ったのは全員外角のスライダー。それも必ずストライク先行でボールに余裕がある時。元々あのキャッチャーは外角中心のリードだし、あらかじめ配球さえ研究していればできない攻めじゃないわよ」

ツバサの言った通り、剛が彼女に伝えた攻略法というのはこのこと。このバッテリーは初球は厳しいところにストレートを放るが、必ずスライダーでカウントを奪いに来る傾向がある。それも外角に8割方投じてくるため、そこを狙った攻撃をしてきただけなのだ。

「問題は守備よ。横濱に1失点だっけ?どんな球投げるのかしら」

完全に試合に入り浸っているその姿に言葉を失う面々。実はツバサがここまで真剣に他者の試合を見ることはほとんどないらしく、何が彼女をそうさせているのかわからないのだ。

「球速は110kmちょい。変化球はスライダーにフォークに・・・ドロップですかね?」

スタンドからではよくわからないためどうしても間違えやすくなるがそれは仕方ない。問題は彼女のストレートをこの回先頭の1番がポップフライを上げたことである。

「球速の割りに伸びてきてるのか?」
「回転軸ね。スピンはそれほどでもないけど、たぶん限りなくバックスピンに近いストレートを投じてるのよ」

花陽のストレートを捉えきれず打ち取られていく打者たち。しかもその中には春にUTX学園左のエース、優木あんじゅからホームランを放った打者もおり、彼女たちの口数が次第に減っていく。
そして試合が終わってみると、6対2。音ノ木坂学院の完勝だった。

「これはとんでもないダークホースが現れたものだな」
「安定感のあるエースにチャンスメイクのできる1番とそれを還せる3番」
「4番も5番も得点に得点に多く絡んでたわ。しかもセンターは守備範囲も広いしサードは強い当たりも確実に捌ける」
「ファーストもショートバウンドをうまく捕ってたな。しかもセカンドの守備範囲も異常に広かったぞ」

話しているだけでわかる。このチームがどれだけ手強い存在か。

「一回戦のビデオもあるのか?」
「はい!!撮ってあります!!」
「よし。帰って見返してみよう。決勝で出てこられたら厄介だからな」

死のブロックから現れた今大会の台風の目。彼女たちを見たUTX学園に火がついた。




 
 

 
後書き
二回戦も簡単に終わらせる適当さ。
まぁぶっちゃけメインはUTXとの試合なんでその辺は大目に見てください。
次は三回戦と準決勝かな?もう省略する気満々なのがなんか笑えますね(笑) 
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