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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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勝敗を分けるもの

ガッ

「ライト!!」

大きなフライが上がったが、ライトがそれをキャッチし3アウト。音ノ木坂の攻撃が終わってしまう。

「なんだか攻撃の時間が短くなってきたわね」
「まだ1時間も経ってないのに6回よ!?早くない!?」

スコアボードに目をやる剛。そこにはここまでの得点の動きが映し出されているが・・・

音ノ木坂 200 010
横濱 001 00

初回こそうまくハマり複数点を上げたが、それ以降は沈黙。5回の1点も四球、送りバント、ワイルドピッチ、内野ゴロで奪ったものであり、ヒットを絡めていない。

(まぁあの1点もそうなんだけど・・・)

向こうの唯一の得点は、死球、送りバント、セカンドゴロでの進塁、パスボールと似たような点の取られ方だったため、頭を抱えずにはいられない。

(これじゃあいつ足を掬われてもおかしくねぇぞ)

勝ってはいるものの淡白な攻撃になってきており、流れが向こうに行きかけている。このまま最後までいってしまっては、逆転サヨナラ勝ちされるのが目に見えていた。

(しかもこの回はあの二人に回る)

1番からの好打順の横濱。つまり3番、一人出れば4番に回ってくる。先程の打席は3番を抑えたものの4番にセンター前に弾き返されており、両者ともに2打数1安打。

(この回1点やると完全に向こうの流れになる。意地でも耐えろよ)

カキーンッ

「ウソッ!?」

祈っていた瞬間に先頭の1番打者がレフト前へとクリーンヒット。ノーアウトのランナーを出した。

「穂乃果!!1つずつ行くぞ!!」
「オッケーです!!」

ここで1点でも取れれば敵は精神的にかなり優位になれる。なので送りバントがセオリーだと考えた剛は、先の塁に進まれてもアウトを優先するように指示する。

(バントならここは低め中心で・・・)

転がさせてアウトを奪うリード。しかし、その初球走者が動いた。

「走った!!」

野手からの声でショートの絵里が動き、キャッチャーの穂乃果は送球のために腰を上げる。だが、彼女が取る直前バッターがそれを捉えた。

「「あ!!」」

何てことないショートゴロ。しかし、盗塁に備えて動いていた絵里はその場所に居らず、外野へと抜けていく。さらにはスタートを切っていた一塁ランナーはそれを見て一気に三塁へと向かった。

「いかせへん!!」

そのボールをすぐに拾い上げて三塁へと送球した希。ロスなく送球したのだったが、それよりも一塁走者の方が速くノーアウト一、三塁になった。

「タイム!!」

この試合初めてのピンチで迎えるは初回に長打を放っている3番。このままでは同点、さらには逆転に繋がりかねないと伝令を送る。

「オッケーオッケー、打たれるのは仕方ないよ。切り替えて」

伝令を伝えに来たヒデコがそう言う。ただそんな簡単に切り替えられるほど彼女たちの心に余裕はない。

「で?剛さんはなんて言ってたの?」
「えっとですね・・・」

剛からどのような指示をもらってきたのかにこが聞くと、彼女は全員にわかるように伝える。それを受けて集まった6人はなるほどといった感じでうなずき、解散する。

「外野!!内野前進させるから前のフライお願い!!」
「了解!!」
「任せてや」
「打たせてください!!」

内野手を前進させバックホーム体勢。ただし、二遊間は盗塁に備えベース間におり、中間守備になっている。

(よし、初球は・・・)

前進守備での初球、バッテリーはアウトローへのストレートを選択。スクイズもあり得た場面だが、クリンナップであるためそれはないと開き直った配球に相手は驚き、1ストライクとなる。

(次はこれ)

迷いなくサインを出した穂乃果とそれにうなずき投球に入る花陽。二人が選択したボールは・・・

(!?なんだこれ!?)

投げられた瞬間暴投かと思ったが、わずかに揺れながらストライクゾーンへと向かってくるその球にド胆を抜かれたものの、緩いボールだからと打ちに出たバッター。しかしそれを捉え切ることは出来ず、ファーストゴロ。
ことりは三塁ランナーを目で牽制したことにより一塁をアウトにすることしかできなかったが、それで十分。

「1アウト!!絵里ちゃん!!凛ちゃん!!前に来て!!」
「わかってるわ」
「任せるニャ!!」

一塁から二塁にランナーが映ったことにより二遊間も前進してくる。これにより内野ゴロでランナーが還る確率はより下がったが、ヒットになる可能性は大きくなった。

(さて、ここからが本番だよ)
(大丈夫だよ、穂乃果ちゃん)

先程までと同じようにセットポジションに入り、目で二人のランナーを牽制した後、クイックではなく通常のフォームから投球を行う。

「ボール」

その初球は外角高めに大きくウェストしたボール。それを見て敵は花陽が大きく足を上げた理由がわかった。

(サードランナーを誘き出そうとしてるわけね)

それがわかってしまえばスクイズをここでやる必要はない。続くボールもウェストだろうと待球することにした。だが、足を大きく上げた花陽が投じたのは外角へのストレート。ただ、穂乃果は立ち上がったところから急いで屈んでいたので、投手のサインミスだったことが見受けられる。

「楽に!!」

表情こそ変わっていないが、うなずくその投手の姿はどこか焦っているようにも見える。

(1ボール1ストライク。次は外してこないかな?でも一塁空いてるから最悪歩かせるのも考えてるかな?)

監督からはスクイズのサインは出されていない。期待のある4番打者ということもあり、ここはタイムリーを期待しているようだ。

(さっきみたいな球が来たら・・・狙う!!)

ギュッとバットを握る手に力が入る。緊迫した雰囲気が流れる球場に、選手たちの心拍数が上がる。

「海未ちゃん!!タッチアップの判断よろしくニャ!!」
「?わかりました!!」

ランナー二、三塁のためライトへのタッチアップはどちらに投げるか判断が大事になる。凛は事前に海未に心の準備をしておくようにと声をかける。

スゥッ

サードランナーを見ながら投球モーションへと入った花陽。しかし、彼女は対峙している打者に背中を向けた。

「「!?」」

予想外の動きに動きが止まる横濱ナイン。そのまま花陽は無人のはずのセカンドにボールを投げるが、そこには前進していたはずの凛が入っていた。

「凛!!ランナー追い出せ!!」

ボールを受けたと同時にランナー目掛けて突進していく凛。それを見てセカンドランナーは三塁を目指すが、そこにはすでにランナーがいる。

「ベースから離れるな!!」

一塁ベンチから横濱の監督がホームに向かおうとしていたサードランナーへ怒声が飛ぶ。その声を聞いてサードランナーはそのままそこに留まるが、二塁ランナーも戻ることが許されないためサードベースへとやって来た。

「タッチニャ!!」

同一ベースについた二人のランナーにそれぞれタッチをする凛。そのプレーを見て、審判は占有権の認められない後続ランナー、二塁にいた少女にアウトの判定。1アウト二、三塁から2アウト三塁へとなってしまった。

(初めてなのにうまく決めれたな。凛も焦って投げたりしなくてよかった)

先程の伝令で剛が指示したのはこのプレー。ここまで隠していたナックルで3番を内野ゴロに仕留めた後、二、三塁になったら内野に前進守備を敷かせる。それにより二塁は普段よりも大きなリードを取ることができるがこれは罠。その前の2球は花陽にわざと通常のモーションで投げさせスクイズを警戒しているように見せかける。実際はセカンドへの逆牽制のための伏線で、全員が2球目で緊張して手元が狂った投手の動きに集中している隙に凛が外野に声をかけつつベースへと接近。足を上げたところでベースへと入り後はランダンプレーでアウトを取る。

(審判が適当な奴ならにこが騙して2つアウト取りたかったけど、2アウト三塁なら上等だ)

この場合ホームに近いランナーに占有権が与えられるため、二塁ランナーがアウトになるのだが、このルールをはっきりと把握している野球人は意外と少ない。もちろんそれは審判も同様であり、どちらをアウトにするか一瞬でも迷ったら野球に詳しいにこが三塁に「アウトだよ」と声をかけ離れさせそのままタッチ。ダブルプレーにしてしまうことが現代の高校野球でも時おり起こる。

(横濱はよく鍛えられているが、それだけで勝てるほど野球は甘くない。より野球を知り日々極めてきた者が勝つ。それが勝敗を分けるんだよ)

「穂乃果!!花陽!!ここ大事だからな!!丁寧に行け!!」
「「はい!!」」

ランナーを一人アウトにして2アウト。しかしここで失点しては意味がない。より細心の注意を払い打者へと対峙したバッテリーは、見事外野フライに打ち取り無死一、三塁の大ピンチを0で凌いだ。

「凛ちゃんありがとう」
「ナイピッチかよちん!!」

幼馴染みである二人の少女がピンチを切り抜けたことで大盛り上がり。ベンチの前で熱い抱擁を交わしている。

「にこ、わかってるな?」
「もちろんにこ!!任せてください」

この回の先頭は7番のにこ。ここまでノーヒットの彼女だが、野球をよく知る彼女ならこの場面で何をするべきなのか理解していると剛は信頼を寄せている。

打席に入った彼女はまず投手に向き合いつつチラッと内野の位置を確認。その後構えると相手投手が投球フォームに入ったと同時にバントの構えを見せる。

ダッ

それを見てすかさずプレスする三塁手。しかし、投手が慌てたのか投球は大きく外れるボール球。にこは冷静にバットを引き1ボールとする。

(ここはあのバントをやっちゃおうかなぁ)

続く2球目。ここでもにこはバントの構え。先程と同じようにプレスする三塁手。今度はストライクが来てにこはバンドをしたが、転がったのは三塁線ではない。

「ピッ・・・ファースト!!」

ピッチャーとファーストの間を抜けるかと言うプッシュバント。これに二人が突っ込むが次々に抜け、一塁ベースカバーに入ろうとしていたセカンドが処理せざるを得ず、内野安打となる。

(揺さぶってファアボールにしてくれれば十分だったのに、まさかあそこにバントできるとは・・・)

これには剛は感心するしかなかった。ピッチャー、ファーストの間へのプッシュバントは野手が処理を行いづらい危険地帯。かつてこのバントを代名詞に甲子園で優勝する高校もあるほどだ。
だが、これにはかなりの技量を求められるため守備練習をすることはあっても本番でやる者はほとんどいない。

(さて、頼むぜ花陽)

ここで迎えるは花陽だが、彼女は引っ込み思案な性格なせいか打撃があまりよろしくない。通常投手はそれなりに打てるものだが、近年では野手との分業化が激しく上位を打つ選手も若干ではあるが少なくなっている。

コッ

ただ、花陽は野球を好きなこともありバントをキチッとこなせる。期待通り1球でにこを二塁に送ると、続くのは5回に追加点の得点となったことり。

(ムカつくからやり返してもらっていい?)
(大丈夫ですよ)

何やらアイコンタクトで意思疏通を図った二人。ことりは特にサインを出されたわけでもないのに打席の一番前でバントの構えをする。

(足はそのままだけど、この立ち位置は送りかな?)

ことりの次は2打数1安打1犠打のトップバッター穂乃果。ただかなり彼女に期待を寄せているのは誰の目から見てもわかるため、2アウトにしてでもランナーを三塁に進め彼女に託したいと考えるのも無理はない。

(ランナー三塁で1番は辛い。ここはインハイで上げさせよう)

1打席目のクリーンヒットは緩急をつけたはずのボールを待たれていた。何を考えているのかわからない相手と勝負するのにはできるだけいい条件でやりたい。なので捕手が要求するのは内角への速い球。だが、それをこの男が読みきれないはずがない。

二塁を見つつ投球に入ったサウスポー。彼女の足が動いたと同時に、ことりはバットを引き、内角ギリギリに来た球を引っ張る。

「ぴゃっ!!ボテボテ!!」
「いえ、これは!!」

力のない当たりだが、バント警戒のため前に来ていたファーストは腰が引けてしまいそれを弾く。慌てて拾うがどこにも投げられず、さらにはにこが三塁を陥れており1アウト一、三塁。

「ことり!!サンキュー!!」

前の守備で相手にエンドランで揺さぶられたことを根に持っていた剛はバスターで相手を揺さぶり返してやろうと企てていた。それを見事にやってくれたことりに拍手喝采。塁上の彼女は照れたように顔を赤らめている。

(さ、決めてこい、穂乃果)

そして迎えるのは剛の後継者穂乃果。何もサインを出さずに自由に彼女に任せ、試合を見守る。

カキーンッ

3ボール1ストライクからの5球目。真ん中に入ってきたストレートを痛打すると、打球は右中間を破りフェンスに到達。にこはもちろん一塁ランナーのことりもホームに還ってきて2点追加。

「勝負あり、だな」

チャンスを生かせなかった者と生かした者。その差はあまりにも大きく、強豪校の夏を終わらせるには十分すぎるものだった。



 
 

 
後書き
これにて初戦は終了です。
それはいいけど初戦からこんなにバンバン策を使ってよいのだろうか?研究されたらすぐ終わってしまいそうな気がしてちょっと不安になってきてしまった・・・ 
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