夢幻水滸伝
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第十八話 瀬戸内の海戦その九
風を顔で感じてだ、正岡は笑って言った。
「ええ追い風じゃ」
「あんたから見てだね」
「この風がわし等を全速で逃がしてくれるわ」
「そしてあたし達もだね」
「このままこの船に乗ってたらな」
その時はというのだ。
「わし等と一緒に四国ぜよ」
「捕虜として」
「なるか?歓迎するぜよ」
「生憎あたしは四国の酒は勝って飲むつもりなんだよ」
これが彼の考えだった。
「だからな」
「そのつもりはないか」
「また会おうね」
にやりと笑ってだ、玲子は正岡に告げた。
「四国でね」
「ほな一時のお別れじゃな」
「ああ、皆いいね」
玲子は自分の後ろにいる兵達に言った。
「ここはもうね」
「はい、下がりますか」
「これ以上の戦は無理ですね」
「次だよ」
その時にというのだ。
「正岡の旦那達に勝つんだよ」
「仕方ないですね、じゃあ」
「ここは下がりましょう」
「それじゃあです」
「わし等の船に下がりましょう」
「そうしようね、じゃあ旦那またね」
玲子は攻防を続ける正岡にも言った。
「会おうね」
「ああ、またぜよ」
正岡も笑って返してだ、そしてだった。
玲子は正岡の最後の一撃を弾き兵達がここまで来た小舟に乗り込んだのを見てだった。自分のその小舟に乗り込んでだった。今は正岡と別れた。
四国の軍勢は一目散といった勢いで戦場から消えていく、吉川はその彼等を見てこうしたことを言った。
「勝ったがな」
「はい、それでもですね」
「見事な退きだな」
正岡が指揮する四国の水軍の動きを見ての言葉だ。
「実に」
「そうですね、一人も見捨てず退き」
「しかも軍勢は乱れていません」
「あそこまで見事な退きをするとは」
「素晴らしいです」
「全くだ、戦よりも商いや政の者だが」
このことは織田も同じだ、彼もどちらかというと政や教えの人間だ。
「しかしだ」
「戦も出来てですね」
「退きもしてみせる」
「あれだけ見事なまでに」
「戦は退きが最も難しい」
俗に言われていることだが実際にその通りだ、こうした時こそ敵に攻められるからである。敵に背を向けることもあり。
「それをあそこまで果たすとはな」
「実に見事」
「星の方だけはある」
「そう言われるのですね」
「そうだ、若し我々の下に加われば」
関西の軍勢にというのだ。
「大きい、そしてその為にだ」
「はい、次はですね」
「四国自体にですね」
「入りますね」
「そうする、今からな」
こう三笠にいる部将達に言った。
「陣形を整えてだ」
「そして円地様にですね」
「四国に上がって頂きますか」
「そうする、そして御所にもお伝えする」
このこともだ、吉川は言った。
「海での戦、まずは勝ったことをな」
「わかりました、では」
「すぐに」
「私から伝える」
吉川は早速貝殻を取り出した、そうしてだった。
実際に瀬戸内での戦に勝ったことを伝えた、太宰はその話を聞いて即座に綾乃に対して言ったのだった。
第十八話 完
2017・5・15
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