DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~
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スラッガーと守備職人
「は~い!!ファミーユセンター特製ソフトクリームお待たせニコ!!」
バニラソフトクリームを小さな男の子たちに手渡す黒髪の小さな少女。少年たちはそれを受け取ると、お礼を言ってからそこから離れていく。
カキーンッ
そのすぐ近くから聞こえてくる金属音。ここは穂乃果たちが通う音ノ木坂学院からほどなくのところにあるバッティングセンター。先程ソフトクリームを渡していたのはそこでアルバイトとして働いている矢澤にこだった。
「矢澤さん、時間だから上がってもらって大丈夫だよ!!」
「は~い!!」
ニッコリと天使のような笑顔で見せた彼女は、店内にいる数人の客に頭をペコリと下げた後、奥へと下がっていく。
彼女の可愛らしい容姿と愛らしい接客を目当てにこのバッティングセンターに通うものを少なくない。そんなアイドル的な存在の彼女はというと・・・
「はぁ・・・疲れた・・・」
化けの皮が剥がれたかのように、ロッカールームで大きなタメ息をついていた。
「今日もお仕事頑張ったニコ。早く帰って夕飯の準備しなきゃ」
言葉とは反対にゆっくりとした手つきで制服のボタンを外していき、音ノ木坂の制服に着替えていく。そして着替え終えた少女は、店長に一礼してから店を出ようとして、その足を止めた。
(あれ?あの制服って・・・)
足を止めた少女の視線の先にいるのは、彼女と同色のブレザーの制服に身を包んだ赤色の髪をした少女だった。彼女たちの制服で違う場所と言えば、胸元につけられたリボンの色くらいのもの。
(でも野球部ではない子よね?ストレス発散かな?)
そんなことを考えながら彼女を見つめていると、少女はバッティングボックスの中に入ると、バットを手に取り、このバッティングセンターで使われているカードを機械にいれ、打席へと入る。
(え!?あの格好でバッティングしたら見えちゃうんじゃ・・・)
良からぬ心配しているにこに気づくことなく、少女は真剣な眼差しでモニターを見つめる。そして放たれたボールを・・・
カキーンッ
鋭いスイングでそれを打ち抜いた。
(あ、スパッツを履いてたニコね。それなら大丈夫・・・って、問題はそこじゃないわよ!!)
最初に自身がしていた心配が杞憂に終わったことに安堵していたにこだったが、それ以上の衝撃的な光景に思わず見入る。
カキーンッカキーンッ
何度も何度も響き渡る快音に、その場にいた多くの人が目を奪われる。やがて規定の球数が終わると、少女は一度間を置くためにボックスから出ていく。
「何?あなた」
「ハッ!!」
そんな少女が出た先にいたのは、近くで見ようと引き寄せられた矢澤にこだった。
「に・・・にっこにっこに~」
「はぁ?」
不思議なポーズからニッコリ笑顔を見せる少女の姿に、赤髪の少女は何をやっているのかと唖然としていた。
「イミワカンナイ」
ポーズを決めたままの少女にそう言って通り過ぎていく。少女はそのまま自動販売機の前まで行くと、スポーツドリンクを購入し、椅子に座って休憩する。
「あなたすごいニコね。ホームラン性の当たりがいっぱいだったニコ」
「別に・・・」
素っ気ない態度を見せる少女の隣に腰掛けたにこは、その態度に思わずイラッとする。
「私、矢澤にこ。音ノ木坂の三年生にこ」
「ヴェ!?三年生!?」
水分補給をしていた少女は、自分よりも小さな背格好なの少女が、年上だったことに驚きを隠せないといった表情を見せる。それを見てにこは、いまだの鋭い目付きで彼女を見つめる。
「そうよ。あなた一年生でしょ?だったら先輩にそんな態度とならないの!!」
「だってにこちゃん三年生に見えないじゃない」
「ムムッ!!」
気にしているところを突かれ思わず口を尖らせるツインテールの少女。そんな彼女をに対し、赤髪の少女も自己紹介をした。
「私は西木野真姫。お察しの通り一年生よ」
「あれ?西木野って・・・」
彼女の名前を聞いたにこは聞き覚えがあったらしく、ニコッと笑みを浮かべる。その唐突の笑顔に、真姫は思わずビクッとなった。
「へぇ、そっかー。あなたがあの西木野病院の!!」
この年、音ノ木坂の二、三年生の間である話題が上がっていた。“今年の一年生に大病院の一人娘が入学してきた”と。
西木野病院・・・地元で有名な病院で、そこに行けば大体の設備が整っている個人病院としては珍しい大病院である。
ジロジロ
「な・・・何よ」
「別に~、ただぁ、家もお金持ちでこんなに可愛くて、勉強も運動もできるなんて羨ましいなぁって思っただけ~」
「ヴぇぇぇ・・・」
体を密着させながら、上目遣いをしてくる少女にタジタジになっている真姫。だが、次の一言が彼女の怒りを買うことになる。
「そんなに打てるなら、野球部に入ってあげればいいのにぃ。今、人がいなくて大変らしいよぉ」
ガタッ
「キャッ!!」
真姫に全体重をかけていたにこは、彼女が突然立ち上がったせいで思わず倒れる。ビックリして相手を見上げると、真姫は鋭い目付きでにこのことを見下ろしていた。
「あなたに関係ないでしょ!!」
そう怒鳴りそそくさとバッティングセンターを後にする真姫。にこは何が彼女の逆鱗に触れたのかわからず、呆然としていた。
「もう!!何なのあれ!?」
彼女の姿が見えなくなると、次第に怒りがこみ上げてきて地団駄を踏む。だが、ここがバイト先の店内であることを思い出し、すぐさま営業スマイルへと切り替えていた。
「海未ちゃん!!ことりちゃん!!早く早く!!」
「かよちんも急ぐニャ!!」
「わっ!!凛ちゃん!!」
「待ってよ穂乃果ちゃん!!」
「穂乃果、走ったら危ないですよ」
それから少ししてにこも帰ろうかとしたその時、またしても音ノ木坂の制服を着た、赤いリボンと水色のリボンを揺らしている五人組が入ってくる。その人物たちに見覚えのある少女は、先程同様に身を隠した。
(って!!なんでにこはまた隠れてるの!?)
自分でなぜその行動をしたのかわからず思わず心の中で突っ込みを入れる。隠れた彼女はそっと顔を覗かせると、カードを購入し打席に入った彼女たちを観察していた。
「よーし!!ホームランかっ飛ばしちゃうニャ!!」
「頑張ってね!!凛ちゃん!!」
気合い十分なオレンジ髪の少女と、彼女を優しげな眼差しで見つめている茶髪の少女。その隣でも、サイドテールの少女が打席に入り、それを幼馴染みの少女たちが見守っている。にこは彼女たちが一体どんなバッティングをするのか見ていると、その実力にタメ息をついた。
スカッ
「ニャニャ!?全然当たらないニャ!?」
「なんで!?」
全くバットに当たる様子のない少女たちと、後ろで同じように首をかしげている三人。そこに、天の声が舞い降りる。
「何よそのヘッペコスイング!!基礎が全然なってないじゃない!!」
「「「「「え?」」」」」
不意に・・・見知らぬ少女から注意を受けて困惑する穂乃果たち。注意した少女も、自分がでしゃばってしまったことに気まずさを感じ、硬直する。
「に・・・にっこにっこにー・・・」
「え?」
「あの・・・え?」
気まずさをごまかそうと先程真姫にも見せたポーズを繰り出すが、それによりますます少女たちは困惑する。そのまま後ずさるようにその場から去ろうとしたところ、打席から出てきた少女に手を捕まれるり
「君!!野球知ってるの!?」
「え?そりゃあ・・・まぁ・・・」
その返事を聞いた穂乃果の目がさらに輝きを増す。
「名前は!?」
「にこよ」
「にこちゃん!!私たちに野球を教えて!!」
「はい!?」
穂乃果の頼んでいることの意味がわからずにいると、後ろの少女たちも自分に期待の眼差しを向けていることに気が付く。そして、にこはある結論にたどり着いた。
「もしかして・・・あんたたち野球知らないの!?」
「あはは・・・うん」
恥ずかしそうに頭を掻きながらうなずく穂乃果と、それに続くように申し訳なさそうにしている四人。それを見たにこは呆れたと同時に、彼女たちにとある質問をぶつける。
「天王寺先生に教えてもらってないの?」
「ちょっとずつしか教えてもらえなくて・・・」
それを聞いたにこは眉間にシワを寄せる。その理由がわからずにいる面々は、不機嫌になりつつある少女の様子を観察する。
「天王寺先生って、あの天王寺剛でしょ!?なんでもっと教えてもらおうとしないのよ!!」
「へ?」
彼女の言ってる意味がわからずどんどん困惑に顔が染まっていく穂乃果たち。そんな少女たちの中で、一人だけ目を輝かせながら、にこの手を取る人物が出てくる。
「やっぱりそうですよね!?天王寺先生ってあの天王寺剛ですよね!?」
「そうでしょ!?もしかしてって思ってたけど、絶対そうよね!?」
なぜか嬉しそうに会話をしているにこと花陽の姿を見て顔を見合わせる四人。そしてしばし二人が談笑していると、何やら話が纏まったようで顔を四人に向けた。
「いいわ。にこも野球部に入ってあげる」
「ホント!?」
「えぇ。それとね、にこ、三年生だから!!その辺忘れないでよね!!」
「え・・・」
「「「「「えぇー!!??」」」」」
「全く・・・何なのよあの子。人の気も知らないで」
一方、帰路を歩く真姫は先程のにことのやり取りを思い出していた。
『野球部に入ってあげればいいのにぃ』
「私だってやれるならやりたいわよ!!」
思わず怒声を上げた後、我に返り周囲を見回す。運良く近くに人がいなかったため、彼女はホッと一息ついていた。
(私だって・・・)
小さい頃、親に連れて行ったパーティで初めてその少年に出会った。
『天王寺剛です。よろしくお願いします』
一緒に連れられていた兄と同じように頭を下げたその少年に、その時は何かを感じたわけではなかった。
年も離れていたし、ただ父の友人の息子といった感情しか持ち合わせていなかったが、ある日テレビで偶然その姿を目にした真姫は、気持ちを高鳴らせた。
『入ったぁ!!天王寺!!満塁ホームランを叩き込んだぁ!!』
塁を駆け回るその人物は、以前会った時よりも大人びていたが、彼女は見間違えることはなかった。ベンチに戻りヘルメットを脱ぐと、まさしくその少年であることを確認する。数々の伝説を残したその人物に近付きたくて、彼女は親に内緒でその姿を真似するようになった。
しかし、親は彼女が自分の跡を継ぎ、医者になることを大いに望んでいた。その気持ちを知っていた彼女は、自分の気持ちを隠し、親の期待に応えることに徹してきた。
(そう、だから私は野球をやることは絶対にないわ)
自らを納得させるため、そう呟いた真姫は顔を上げる。すると、先を歩く天王寺剛の背中が目に入った。
「剛くん・・・」
それを見た瞬間、彼女は走り出した。少女は曲がり角を曲がったところで青年に追い付くと、彼の名前を呼ぶ。
「ご・・・天王寺先生!!」
「ん?」
名前を呼ばれた天王寺は立ち止まり後ろを振り返る。そこにいた息を弾ませている少女を見て、そちらを向かって手をあげる。
「西木野さんだっけ?どうしたの?」
まだ生徒の名前を覚えて切れてるか自信がなかった天王寺は相手を確認しながら用件を聞こうとする。それに対し真姫は自分のことを覚えていないことにショックを受けて俯いていた。
「・・・私のこと、覚えてないんですか?」
「え?ごめん、違った?」
悲しそうな声でそう言われた青年は自身の記憶が間違っていたのかと慌てていたが、真姫はそうじゃないと首を振る。
「西木野って聞いて、思い出しませんか?11年前のパーティを」
「ん?・・・あ!!」
そこまで来てようやく彼は思い出した。以前一度だけ会った、その少女のことを。
「よく覚えたね、一回しか会ったことないのに」
「私は何度も見に行きましたよ、先生の試合」
天王寺の高校時代、甲子園で活躍した彼に憧れ、親に内緒でよく試合を見に行っていた。そのことを話すと、彼は恥ずかしそうな表情を浮かべる。そして彼女は、ずっと気になっていた質問をぶつけてみた。
「なんでプロにならなかったんですか?」
本来なら高卒ルーキーとして話題をかっさらうだろうと思われていた天王寺が、大学進学を選択し、さらには大学卒業後には教師になっていたこと。それがあまりにも予想できなかっただけに、彼女は聞かずにはいられなかった。
「あれ?両親から聞いてない?」
「何をですか?」
「俺が走れなくなったこと」
訳がわからないといった表情の真姫を見て、彼女の両親が気を遣ってくれたのだと彼は理解した。天王寺はケガをしたあの時、親同士が仲の良かった西木野病院に入院していた。だから真姫がそこの跡取りだと聞いた時、てっきりケガのことも聞いているのだと思っていた。
「それなのに野球部の顧問になったんですか?」
「あいつらは俺のこと知らないみたいだしな。それに・・・高校野球は俺の一番の思い出だから」
輝かしい記録、悔しい記憶、うれしい記憶、そして・・・後悔してもし切れない記憶・・・そのすべてが彼の思い手であり、野球が出来なくなった今の生きる活力となっている。
それを理解した真姫はある決意をした。
「だったら、私が先生の分まで野球をしてみせます」
真っ直ぐな瞳で青年を見上げるその目に、迷いは感じられなかった。天王寺はそんなことを言ってくれる人物がいたことに、思わず笑みを溢す。
「ありがとう、期待してるよ」
こうして、にこと真姫、二人の少女が新たに野球部へと入部した。正式に部活に昇格するまで、あと二人。
後書き
真姫ちゃんめっちゃ運動神経いいように書かれてるけど、これにはちょっとしたトリックがあります。
にこちゃんとかよちんはやっぱ野球好きでないと個人的に嫌なのでこんな感じになってます。
予定としてはあと2、3話で全員揃うかな?たぶん次では揃わないと思いますorz
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