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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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新入部員

翌日

「じゃあ次、小泉、読んで」
「は!!はい!!」

日が高く昇っている日中。音ノ木坂学院でも、他校と変わらぬ授業が行われていた。

「――――」
「もう少し大きな声で」

明るい茶色の髪をしたメガネをかけたその少女は、自信なさげに指定された場所を読んでいたが、教師からの指摘により声を大にすると・・・

「――――!!」

緊張のあまり、声が裏返ってしまった。

クスクスクスッ

「はい。じゃあ次、今井」
「はい」

失笑が起こる教室で、一人恥ずかしそうに顔を俯かせる少女。その姿を離れた席から、オレンジ色のショートヘアの少女が見つめていた。


















「かーよちん」

授業が終わり、お昼休みに入ると、肩を落としていた少女の元に、ショートヘアの少女がやって来る。

「凛ちゃん」

凛と呼ばれた少女は机一杯におにぎりを広げている茶髪の少女の前の席に腰掛ける。

「今日もかよちんおにぎり一杯だね!!すごいニャ!!」
「凛ちゃん・・・あんまり大きな声で言わないでよ・・・」

彼女の名前は小泉花陽。本来は“はなよ”と読むのだが、小学生の頃からの幼馴染みである星空凛は、ニックネームという位置付けでかよちんと呼んでいる。
花陽は大きな声で自身のお昼御飯を発表されてしまい、恥ずかしさで顔を赤らめ、俯きながらおにぎりを頬張っていた。

「ねぇねぇ、かよちんは何部に入るか決めた?」
「えっと・・・実はまだ・・・」
「えぇ!?今日までに決めるって言ってたじゃん!!」

ここ、音ノ木坂ではすべての生徒が何かしらの部活に所属することが義務付けられているらしく、彼女たちもまた、どの部活に入ろうか悩んでいるようだった。

「凛ちゃんは何部に入るの?」
「凛はやっぱり陸上部かなぁ?」
「陸上か・・・」

次々におにぎりを食べていきながら、幼馴染みである少女の言葉に頭を悩ませている様子の花陽。それを見ていた凛は、あることに気が付いた。

「あ!!もしかして・・・最近できたっていう野球に入ろうと思ってたり?」
「え!?」

実は花陽は、小さい頃から野球が好きで、野球をやってみたいと思っていた。しかし、彼女はあまり運動神経もよくなかった上に、引っ込み思案だったため、なかなか踏み切ることができずにここまできてしまっていた。

「そんなこと・・・ない・・・」

両手の人差し指をツンツンと合わせながら顔をうつむけるメガネっ娘の唇に人差し指を当てる凛。

「やっぱりそうだったんだね。かよちんウソ付く時指合わせるから、すぐわかっちゃうよぉん」

小さい頃からの付き合いということもあり、相手の癖を把握している友人を前に花陽は何も言えなくなる。

「じゃあ、放課後凛が付いていってあげるから、一緒にいこ?」

俯いている花陽の顔を覗き込むように凛がそう言うと、彼女はしばらくモジモジした後、上目遣いで友人にあるお願いをする。

「あのね・・・もし花陽が野球部に入るって言ったら、凛ちゃんも付いてきてくれる?」
「えぇ!?」

一人ではどうしても心細く、自信がなかった彼女の心からの頼み。しかし、それに凛は二つ返事でうなずくことはできない。

「ムリムリムリ!!凛野球なんかやったことないし、ルールだって全然わかんないもん!!」

よく野球というスポーツはわかりづらいと言われ、敬遠されることがある。サッカーやバスケのようにゴールを決めれば1点という訳ではなく、説明が難しいところが多々あるからだ。

「大丈夫!!凛ちゃんならできるよ!!花陽が教えるから!!」
「でも・・・」

やっぱり無理、と言いたかったが、今まで見たことがないくらい真剣な目をしている彼女を見て、凛は思わず固まってしまった。

(かよちんがこんなに熱心なの、凛初めて見たニャ)

ずっと受け身だった彼女がこんなに熱心に自分を誘ってくることに驚きを隠せずにいた凛は、そんな彼女の力になりたいと思った。

「わかったニャ!!凛も野球部に入るよ!!」
「ホント!?」

幼馴染みのその言葉に嬉しさを抑えきれず、手を取って笑顔を浮かばせる花陽。

(野球部、ね)

そんな和気藹々としている少女たちのことを、教室から出ていこうとしていた赤毛の少女は、冷たげな瞳で見つめていた。

















~放課後~

「あなたたち、昨日のあれはどういうこと?」

放課後の生徒会室。ここでは生徒会長の絢瀬絵里が赤いリボンをした三人の生徒と一人の教師を睨み付けていた。

「あれと言いますと?」
「昨日の放課後のキャッチボールに決まってるでしょ!!」

思いきり机を叩き立ち上がった金髪の女性の圧力に押され小さくなる穂乃果たち。それに対し天王寺はなるべく相手を刺激しないようにと頭を下げる。

「すまん、今回の件は俺の責任だ。以後気をつける」

年上の人物が年下の人物に頭を下げるというのは勇気がいる。それをやれるのは責任感の強いものだけ。絵里はてっきり宥めてくると思っていたために予想外の出来事が起きたため、呆気に取られていた。

「・・・とにかく、まだ野球部は正式には認められていません。ですので校内での練習は許可できません」
「えぇ!?そんなぁ!!」

無慈悲な言葉に悲しげな表情を浮かべる穂乃果。だが、他の三人は会長のある言葉が引っ掛かっていた。

(((まだってことは、認める気はあるってこと?)))

眉を吊り上げてリーダーの少女と口論になりつつある生徒会長とその様子を微笑ましそうに見つめている副会長。それからしばらくして、海未とことりがまだ納得できずにいる穂乃果を引っ張り生徒会室を後にする。

「あぁ~、これからどうしよう~!!」

誰もいなくなった教室で机に突っ伏している穂乃果と、彼女を囲むように椅子に座っている海未とことり。

「困りましたね。ただでさえ経験が少ないのに、部員が揃うまで活動ができないとは・・・」
「この辺に野球ができる場所なんてないしねぇ」

場所がなく困り果ててしまう三人。少し離れたところにできる場所があるが、無論有料な上に事前に予約をしておかなければならない。

「天王寺先生は?」
「まだ仕事が残っているそうで、職員室に戻りましたよ」
「一応グラウンドについても探してくれてるみたいだけど、ちょっと難しそうかなぁ」
「そっかぁ・・・」

何もやることができずグッタリと机に突っ伏していると、穂乃果の目が突然カッと開く。

「そうだぁ!!」

名案を思い付いた彼女は椅子を蹴倒し立ち上がる。突然のことに海未とことりは、驚きながら彼女の顔を見上げていた。
















ガチャッ

「じゃ~ん!!ここならどう!?」

練習場所に困っていた三人がやって来たのは、音ノ木坂でもっとも太陽に近い場所だった。

「え・・・ここって・・・」
「屋上・・・でやるんですか?」

穂乃果が閃いたのは、ほとんどの時間人の出入りのない屋上で活動することだった。

「そう!!ここなら他の部活の邪魔にならないよ!!」
「確かにそうだけど・・・」
「穂乃果、生徒会長の話を聞いていましたか?正式な部活と認められるまで、学校での練習は禁止だと」
「それなら大丈夫!!ほら!!」

先程の絵里の言葉を聞いていなかったのかと思っていた海未が諭すように言ったが、穂乃果は全く気にした様子もなく、地上を指差す。そこには、グラウンドではない空きスペースで、サッカーをしている少女たちが見えた。

「あの子たち、クラスマッチの練習してるんだって!!他にも部活じゃないことで運動してる子たちもいっぱいいるから、私たちも部活動としてじゃなく、野球をうまくなりたいって理由にすれば使ってもいいんじゃないかな?」
「えぇ・・・でもそれって・・・」

穂乃果の無理矢理な理論にどうも納得できない様子のことりだったが、隣にいるもう一人の突っ込み役は違った。

「なるほど!!名案ですね!!穂乃果」
「でじょでしょ!?」
「海未ちゃんまで・・・」

幼い頃から穂乃果に付き合ってきていたせいか、海未は彼女に毒されやすくなっていたらしく、彼女の提案に賛成する。それを見たことりも、渋々ではあるがその意見に賛同することにした。

「では早速やってみましょう。柵も割りと高いですし、スペースも広いですからね」
「暴投だけはしちゃダメだよ!!」
「わぁ!!待って待って!!」

肩をグルグルと回して気合い十分な穂乃果とグローブを装着しパシパシと音を鳴らす海未。それに遅れて、ことりもグローブをハメ、キャッチボールの準備を整えた。

「それじゃ、行くよ!!海未ちゃん!!」
「いつでもどうぞ」

昔の投手のようなダイナミックなフォームから、白球を投げ込む。そのボールは狙った胸からは外れたが、昨日の悲惨なキャッチボールよりも確実にうまくなっていた。

「ナイスボールです!!穂乃果」
「すごい!!いいボールだったよ!!穂乃果ちゃん!!」
「えへへへへ/////」

昨日彼女たちは、天王寺にお願いして基礎的な投げ方、捕り方を学んだ。その成果か、昨日は全然できていなかったキャッチボールが、多少のエラーは見受けられるものの、少しずつ続けられるようになっていた。

「でも、なんで天王寺先生ってあんなに野球のこと知ってるのかな?」
「以前やっていたとか?」
「天王寺ってどこかで聞いたことある気がするんだよねぇ」

投げるだけ、捕るだけで精一杯だったはずの少女たちは、会話もできるほど余裕を持ってプレーできるようになっていた。そんな雰囲気の中しばしキャッチボールをしていると、屋上の扉がゆっくりと開いた。

「あの~・・・」

声が聞こえ、三人はそちらの方を向く。そこにいたのは、オレンジ色のショートヘアの少女と、眼鏡をかけた茶髪の少女がいた。

「あ!!一年生だ!!」
「もしかして入部希望?」

その訪問者たちのリボンの色を見た彼女たちは、下級生であることに気が付くと、すぐさまキャッチボールを中断し彼女たちの元に駆けていく。

「は!!はい!!マネージャー希望の小泉花陽です!!」
「えぇ!?かよちん選手やらないの!?」

花陽の予想外の発言に隣にいた凛が驚愕する。

「かよちんも一緒に選手やろ!!ね?」
「でも・・・私運動できないし・・・」

彼女の野球好きを知っている凛が説得を試みるが、自信なさげな少女はなかなか首を縦に振らない。

「大丈夫だよ、花陽ちゃん」
「はい、私たちも素人みたいなものですし」
「それに人数も全然足りてないの。だから一緒に、選手としてやってくれるとうれしいなぁ」

まだまだ野球を始めて日が浅いという三人の先輩の言葉を聞いた花陽は、しばらく黙り込んだあと、彼女たちの顔を見回す。

「私・・・背も低いし、運動神経も悪いし、みんなに迷惑をかけちゃうかもしれません・・・」
「それでもいい!!一緒に練習して、うまくなろう!!」

さっと手を差し出すサイドテールの少女。彼女は隣にいる幼馴染みに目配せすると、うなずく彼女を見てパッと笑顔になると、その手を握り返した。

「よ・・・よろしくお願いします!!」
「うん!!よろしくね!!」

ガッチリと握手を交わす二人の少女。それを見ていた三人は笑顔を溢した後、もう一人の新入部員が自己紹介する。

「凛は、かよちんと同じクラスの星空凛です!!野球はやったことないけど、走るのは大好きだから、一生懸命がんばります!!」
「はい!!よろしくお願いしますね」

元気一杯な挨拶をする少女を暖かく迎え入れた穂乃果たち。正式な部活に昇格するまで、後四人。


 
 

 
後書き
かよちんの方にばっかり力入っちゃって凛ちゃんの方が雑になってしまった・・・次は新たな人員たちの物語になる予定です。 
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