八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百十八話 大浦天主堂その四
「弾きたくなって」
「一度弾かれるとですか」
「何十曲も弾いてしまいます」
「そこまでですか」
「そうなってしまいます、時間も何時間も」
「指が疲れませんか」
「弾き終わると感じます」
指の疲れ、それをというのだ。
「どうしても」
「弾き終わってからですか」
「疲れを感じます」
「つまり弾かれている間は」
「それに集中しているので」
だからだというのだ。
「疲れを感じません」
「そこまで集中されていますか」
「そうです、あとワーグナーもです」
この音楽家もというのだ、そういえばこの人の作品も八条学園の歌劇場で上演されることが多い。ニーベルングの指輪まで通しでやる程だ。
「ついついです」
「何十曲もですか」
「弾いてしまいます」
「そうですか」
「そして弾いた後で」
「疲れを感じる」
「そうです」
その手袋に包まれた手でお土産を触りつつ話した。
「終わった時に」
「弾いている時はですか」
「感じません」
「凄い集中力ですね」
あらためてだ、僕は早百合さんの凄さを知った。やっぱりこの人は本当にピアノが好きだ。だからこその集中力ということだ。
「それは」
「弾きはじめると」
「集中してですか」
「時間が経つことも疲れがあることも」
「感じないなんて」
本当にだ。
「凄いですね」
「私もですが」
裕子さんも僕に話してくれた。
「歌っていますと」
「どうしてもですか」
「はい、集中していまして」
「何十曲もですか」
「歌ってしまいます」
「それで歌が終わった後で」
「疲れを感じます」
そうだというのだ。
「歌っている間は集中していますので」
「だからですか」
「その間は疲れを感じません」
「そして終わって」
「喉のケアもします」
疲れているからだ。
「そうしています」
「ううん、集中しているからこそ」
「私も手をです」
早百合さんもまた話してくれた。
「ケアをしています」
「弾かれた後は」
「そうしています」
「やっぱり後が大事ですか」
「はい、練習をしたその後はケアも忘れないと」
真剣な顔でだ、僕に話してくれた。
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