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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百十六話 長崎の街その十七

「ですから弾いています」
「そうなんですね」
「また帰ったら弾きます」
 八条荘のあのピアノでだ、早百合さんが毎日弾いている。
「その時を楽しみにしています」
「帰ってからも楽しみはありますか」
「その時はその時で」
「そうですか」
「ですから」
それでというのだ。
「神戸、八条荘に帰ってもです」
「楽しみですか」
「その時もまた」
 そうだというのだ。
「今は充分過ぎる程楽しんでいますが」
「そうですか」
「ではこれより中に」
「はい、グラバー邸のですね」
「中に入りましょう」
「それでは」
 こう話してだった、僕達は今度は邸の中に入った。邸宅の中はもう当然ながら誰も住んでいない。当時の様子がそのまま残されていて歴史的な資料や説明がある。
 そうした資料や説明を見てだ、僕は言った。前にも見て知っていたにしても。
「幕末の事情もわかりますね」
「そうですね」
 裕子さんが応えてくれた。
「そちらのことも」
「そうですよね」
「当時の我が国のことも」
「わかりますね」
 幕末は京都や江戸、萩とかだけじゃない。長崎もまた主な舞台の一つだった。そのことがここでもわかる。
「本当に」
「グラバーさんは商人としてです」
 外国のだ。
「幕末に関わった方です」
「そのお一人ですね」
「グラバーさんなりのお考えがあって」
 決して志士達の想いに打たれたのではなくやはり商人としての考えが働いたことは事実だろう、だがそれでもだ。
「力を貸してくれたんですね」
「新しい時代に」
「そうでしたね」
「そして維新が実現しまして」
「この長崎も変わったんですね」
「そうなりました」
 出島と平戸だけだった時代は幕末の開国で終わったけれど維新で長崎もまた大きく変わった。そのことは間違いない。
「まさに」
「そうでしたね」
「佐世保にも港が出来ましたし」
「軍港が」
「こちらは商港となりました」
 軍港の佐世保に対してだ。
「そうもなりました」
「そして栄えていって」
「今に至ります」
「中華街も出来て」
「後で行きますが」 
 その中華街にもだ、ちゃんぽんを食べる為に。
「あちらも明治からですね」
「清とは国交があっても」
「中華街まではありませんでした」
「そうでしたね」
「当時は」
 江戸時代はだ。
「それも維新からです」
「出来たんですね」
「そして明治の長崎が舞台になっているのが」
「蝶々夫人ですね」
「そうでした」
 こう僕に話してくれた、そうして。
 僕達はグラバー邸の中を見て回ってグラバーさんや志士の人達の考えや行動、そして当時の洋館のことも学んだ。そのうえで。
 僕達は次の場所に向かった、そこもまた歌劇の場所だった。


第百十六話   完


                          2016・11・16 
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