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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百十六話 長崎の街その五

 そして電車から降りて駅から道路に出てだ、グラバー園の近くに行くと裕子さんが僕に微笑んで言ってきた。
「ではここからはです」
「ご実家まではですね」
「案内させて頂きます」
「そうしてくれますか」
「ここからグラバー園までの道はご存知ですね」
「はい、それは」
 前にも行ったことがある、それでグラバー園の場所もわかっている。だからだ。
「頭の中に入っています」
「そうですね、ですが喫茶店はですね」
「実はこの近くにあったなんて」
 喫茶店、裕子さんの実家のそのお店がだ。
「そのことすらも」
「目に入っていなかったですか」
「見えていたかな」
 そうは思ってもだ。
「けれど記憶にはです」
「残っていませんでしたか」
「はい、どうにも」
「グラバー園に考えがいっていってですね」
「そうでした」 
 実を言うとだ、そのことはだ。
「すいません」
「いえ、観光地のお店はです」
 裕子さんはその実家の話もした。
「どうしても添えものといいますか」
「観光地の」
「そちらの横にあってお客さんを待つ」
「そうしたお店だからですか」
「はい、どうしても」
「記憶にはですか」
「入らないとです」
 そうしなければというのだ。
「記憶に残らないです」
「見えていても」
「長崎の一部ですね」 
 裕子さんのお家も含めた長崎のお店はというんだ。
「そうしたものになっていますね」
「そうですか」
「はい、ですから義和さんもです」
「見えていたかも知れなくても」
「記憶には残っていないです」
 そうだったというのだ。
「私もそこはわかっているつもりです」
「そうしたお店の人だから」
「はい、それでお店は」
 ここでだ、裕子さんは前を指し示した。駅から少し歩いた場所をだ。もう降りたその場所からすぐに観える場所だった。
「あちらです」
「あれっ、あそこですか」
「はい、あのお店です」
 ごく普通の喫茶店だった、外観は。
「あちらです」
「そうですか」
「驚かれましたか」
「いえ、何ていいますか」
 僕はそのお店、本当に普通の喫茶店を観て裕子さんに応えた。
「すぐそこだったんで」
「それに個性もない」
「それは」
「いえいえ、本当に普通のお店です」
「普通の喫茶店ですか」
「曽祖父が終戦後にはじめたお店ですが」
 大体七十年位前か、原爆の傷も癒えてきた頃だ。 
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