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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
2節―反逆決戦―
  その力を持ってイチをなす

「ッらぁ!」
「ぐ……!?」

 1人でも自身よりも強い敵を2人同時に相手する。
 それがここまで難しいものなのだと、初めて勇向は痛感した。

 ラファエルによって振るわれる杖をギリギリのところで盾で防御するものの、勇向の体はすでにピークに達している。
 持って後、大体数分の戦いだろう。

 ―確かに、僕の力では熾天使には勝てない。

 そんなのはとっくの前に分かり切っていたこと。
 例え『勇者』となって戦いに挑んでも、熾天使2人相手には敵うはずもないのだ。
 けれど、それでも勇向は立ち向かう。

 ――それが“勝ち”に繋がると信じているから。

「ボロボロですね、もう休んでも宜しいのですよ?」
「ボロボロにさせた張本人が、言っていい言葉じゃないね」

 必死に限界ギリギリの体を維持して、勇向は熾天使たちに聖剣を突きつける。
 誰の目から見ても完全な強がりに、熾天使たちは小さくため息をつく。

 どうして負けることが分かり切っているのに、戦うのか。
 何度考えてもその結論は至らない。

 首を傾げる熾天使たちを見て、勇向は彼らを“慈しむ”。
 圧倒的強者であるが故に、“本当の強さ”を理解できない彼らを。

「――『勇者』様!」
「あぁ、その言葉を待っていた……!!」

 すでに限界寸前の身体を酷使して、勇向はラファエルの元へ突貫する。
 防御することを主とするガブリエルがラファエルの前に立ち、盾を構えた。

 それを見て、勇向は初めて“嗤う”。

「ぁあああああッ!!」
「――――ッ!?」

 全力で放つ気合い一閃。
 火事場の馬鹿力というやつが発生したのか、今までとは一線を凌駕する力にガブリエルは驚き吹き飛ばされる。
 こうして初めてガブリエルとラファエルは“離れた”。

「『平等規則(レイ)』、解除!」

 勇向はそこまでして、何故かガブリエルとラファエルの能力の封印を解除する。
 否、違う。
 この区域で魔法や能力を使うことを、“許可した”のだ。

「『我は必殺、我は武士」

 そこに現れる黒い影、圧倒的な速度と共に姿を現すのは異界の戦士。

「我が放つは全てを斬り抜く必殺の一撃』」
「……!『護り給へ百合の花(リリィ・プリテクスト)』ッ」

 曲刀を持ち、ただ一刀のみで仕留める武士だ。

「――『偽・全て斬り(偽りの)()く鋼神の一撃(目一刀)』」

 振るわれる刃が、ガブリエルの障壁をぶち壊す。
 それを見てガブリエルは“苦渋に満ちた顔”になり、どうしてと頭を巡らせる。

 ―2人は他の天使を殲滅していたはず……。――!?

 気付く。
 いつの間にか、周りの天使が誰一人として生きていないことを。
 今までの勇向の行動すべてが、“時間稼ぎ”であったということを。

 ガブリエルが危機に陥っているのを確認したラファエルは、すぐさま首元に手を当て言の葉を発した。

「“癒されろ”、深――」
「――こっちを見やがれ!『偽・全て(アグニ)()化する火神の魔装(フェイクション)』ッ!」

 だが、それをナミルは許さない。
 浄化の炎を纏い、自身の体を再び焼いていく。
 それを見たラファエルは、彼女を“癒さなければならない”のだ。

「てめぇ、また自分を……!」
「おら、癒せるのなら俺の体に染みついた血も癒してみろ!『神の癒し(ラファエル)』!」

 ラファエルが自身の援護に回れないことをガブリエルは察すると、憎々しげに深春を見る。
 天使が発しているとは思えないほどに濃密な殺気を真正面から受けながらも、深春は涼しげに笑い「良いんでござるか?」と挑発した。
 意味が解らず眉を潜ませるガブリエルに、深春は自身の首を親指でちょん切る真似をする。

「死ぬでござるよ?」
「『偽・全て突き(トリアイナ)()す海神の一撃(フェイクション)』」

 唐突に聞こえる声に、ガブリエルは驚きその声の方へ顔を向けた。
 そこに佇むのは霧で自身を覆うレーヌの姿。

 周りに“5つのガブリエルの心臓”を創り上げ、上空には同じく“5つの三又槍”。
 気付く、気付いてしまう。

 彼女たちが自身の弱点に気付いたのを。

「“全て護り防(アイアスリリィ)()七輪の百合(ガブリエル)”!!」
「――死になさい」

 すぐさまガブリエルは“残った4枚の百合の花”を同時展開し、合成し1つの概念へと進化させる。
 それと同時にレーヌはガブリエルの擬似的な心臓を5つ破壊した。
 直後、4枚組み合わせた障壁に、これまでにない圧倒的な重圧が掛かる

 当然だろう。
 今4枚の百合の花が受けているのは、5つの死の呪い。
 普通ならばキャパシティを軽く超えているものに対して、ガブリエルは無理やり4つを組み合わせることで耐えきっているのだ。

 徐々に零れていく障壁。
 けれど、この攻撃に耐え切れば勝機がガブリエルには見えていた。

 ―何度も『神技』を使用した障害で、“申し子”の魔力量はもう無いはず。これさえ凌げれば素の力で“申し子”は熾天使には勝てない……!

 先ほどまでの敬語はどこに行ったのか。
 敬語を使うほどの余裕を完全になくしている、ということなのだろう。
 ――周りを冷静に考えられるほど余裕がない、ということなのだろう。

 そして、遂にガブリエルは勝利する。
 5つの死の呪いを4つの百合の花で耐えきって見せた。

「や、った……!」

 息を切らし己が力を賞賛するガブリエル。
 確かに最後の最後で、自分自身を更なる段階へ昇華させたことは素直に褒めるべきことだろう。

 だが、足りない。

「――ぇ?」

 景色が勝手に動くのを、ガブリエルは目にする。
 同時に、何かが“ずれる”のを感じその後視界に映るものを見て全てを悟った。

「『偽・全て(アダマス)()り裂く地神の一撃(フェイクション)』」

 『神技』でも消費する魔力量には差がある。
 効果が単純で分かりやすいものほど、消費する魔力量も少ない。

 ――故に、ルリが放つ『神技』は“申し子”の中で最も少なかった。

 自身の中に芽生える悔しさにガブリエル自身驚きながら、それでも目いっぱいルリを睨み付ける。

 ―……次は、絶対勝ちますからね。

 そうして、『楽園の護り手(ガブリエル)』は消滅した。




「“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”“癒されろ”」
「っるせぇ!」

 体が焼かれ、体が癒され、体が焼かれ、体が癒される。

 もうそれを何度繰り返したか。
 痛みも痛みではなくなり、癒しも癒しではなくなった。
 痛みは呪いとなり、癒しは呪いとなる。

 ―あぁ、それでもやってやる。

 呪いにかけられるのは当然、痛みも癒しも要らない。
 だってもう今までとは違い“勝ち”がナミルには見えていたから。

「――行くぞ、ラファエル!『炎唸る鬼の銃刃(エングラファイ・キジュウハ)』!!」

 かつてナミルが使用した中で、最も高火力だった『気銃刃』。
 2つに裂かれた大剣の中心部分から、ギリギリまで溜めた気をぶっ放す奥義だ。
 そして今放つはその進化系……鬼炎さえ味方に付けた、爆炎の大放射である。

 突如放たれた異常な熱を宿す気の波。
 避ける術を知らず、否……“避けようともせず”ラファエルはその熱をわが身で受けきる。

「は、はは。いてぇじゃねェか」

 それでもかまわない、彼は死なない。
 いや、違う。
 “死んでも構わない”のだ。

 首に手を当ててラファエルは嗤う。

「“癒せ”、ラファ――」

 そう、自身の命は回復するものだから。
 回復するのだから、少しぐらい無駄遣いしても構わないのである。

 ならば、“回復させなければ良い”。

「――よろしく。『偽・全て吹き(ロールスゴッド)()ぶ魔神の一撃(フェイクション)』」

 再度言うが、ルビの『神技』はあくまで“次に放つ魔法の威力を底上げするもの”だ。
 ルビはそれに重ねて魔法を使用しているからこそ、一撃になっているだけで本来は補助の『神技』。

 ――だから、こんな使い方も出来る。

「任された。『偽・全て飲み(ミョルニル)()む雷神の一撃(フェイクション)』!!」
「あ、やべぇ」

 ルビの『神技』によって超強化された魔力で、エレンは本来の威力さえ超えて“神の力”にまで達している『神技』を放つ。
 『神技』に『神技』を重ねて放たせ“神の偽力”を“神の力”にまで至らせることが、本来の使い方なのだ。

 ―あっぶねぇ、最初に聞かされてなかったら俺も死んでたぜ。

 ナミルはラファエルを飲み込まんと驚異的な速度で突き進む雷を見ながら、自身があの技の標的にならないことに安堵する。
 ラファエルがルビとエレンに注目した瞬間、すぐその場から離脱したからこそあの技を食らわない。
 それほどまでに、強化されたエレンの『神技』の範囲は圧倒的なものだった。

 だが、それでは終わらないことをナミルは知っている。

「は、ははは……ふざけてんじゃねぇぞ。さっきのでどれだけ“死んだ”?」

 攻撃の後、直撃したはずのラファエルは“無傷”でそこに立っていた。
 けれどラファエルの表情は怒りと苦渋に満ち満ちている。

 その表情を見て、ナミルたちは確信した。
 ラファエルは不死身ではなく“命のストックがあるだけ”なのだと。

「エミア――!」

 確信を得たナミルはエミアを大声で呼ぶ。
 これは合図だ。
 今、最高火力を持ってラファエルをぶちのめせと言う合図。

 自身を呼ぶ声が聞こえたエミアは、弓を構える。
 矢を番えるはずの手には何も握られてはいなかった。

「『我は木々、我は王者」

 詠唱することで魔力により木で出来た矢が創造され、打てる状態へと変化する。
 けれど、今から行うのは絨毯攻撃ではない――

「我が放つは全てを射り別つ木々の一撃』」

 ――ただ、1人を倒す一撃だ。

「『偽・全て(アルテミス)()り別つ一撃(フェイクション)』」

 放たれる矢。
 それは黙々と「“癒せ”、ラファエル」と呟きつづけるラファエルに突き刺さった。

「あ……?こんなもんで俺が殺せるとでも――」

 確かに熾天使相手ではただの矢では、しかもただの木の矢では倒されることは無いだろう。
 だが、彼は侮りすぎた。

「――“別れなさい”」
「がッ……!」

 穿たれた木の矢は、エミアの言葉で“増殖する”。
 絨毯攻撃も、放った直後からエミアが別れろと呟きつづけた結果出来た矢の嵐だったのだ。
 だから、矢が刺さった後に言っても効果がある。

「“別れなさい”“別れなさい”“別れなさい”“別れなさい”“別れなさい”――」

 1つ呟くことに、矢の量は倍になる。
 2倍になり4倍になり8倍になり、16倍になり32倍になり……果てに1人を殺しつくす。

 彼の回復は一定以下まで生命力が堕ちた時に、自動的に行われるものだ。
 そうしないと本当に“死んでしまう”。
 死んだ後に回復をしても、体は治るが意識は戻らない。

 だから今ラファエルはただ死にかけ生き返る、を延々と繰り返している状態だ。
 それほど苦しいものはない。
 あぁ、それでも“生”にしがみつくからこそ『神の癒し』と呼ばれるのだろうな、とナミルは思う。

 しばらくして、ラファエルはその身体を消失させた。




 こうして、“申し子”たちと『勇者』の決戦が終わる。
 あくまで熾天使の力と真っ向に戦い、その結果は妖精たちの勝利で終わった。

 ――彼女たちは祈る。
 無事、彼が世界を救ってくれることを。 
 

 
後書き
作中では出さない設定ですが、天使は”死ぬ”ということはありません。
彼らの”死”は”消失”であり、長い年月をかけてまた生き返ります。 
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