グランドソード~巨剣使いの青年~
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最終章
2節―反逆決戦―
全ての運命
勇向が熾天使と相見えた頃、ソウヤは宇宙のような世界に頓挫する扉を見つけていた。
全てが一本道で続いていたため、ここまで迷うことは無かったがどうにも誘われている感が拭えない。
「まぁ、行くしかない……か」
結果的にソウヤはそう判断し、目の前に存在する扉を開ける。
柔らかな豪華さが目立つ扉が何故か扉らしい、軋む音と共に奥へ動いていくとそこには――
「ようこそ、ソウヤ。私の世界へ」
――神が待っていた。
艶やかな白銀に染まる髪を揺らし、一目でわかる神気を漏らしながらソウヤを出迎える。
数多くのディスプレイが女性を囲むように配置されており、そこには見知らぬ人々や景色が映っているのが見えた。
まるで見たことのない人種が居るのを見て、ソウヤは妖精の世界でもなく、地球のある世界でもなく、全く別の異世界なのだと結論付ける。
ソウヤの視線に気が付いた女性は、見やすいようにディスプレイを裏返す。
何故そんなことをするのだろうか。
眉を潜めるソウヤに、女性は含み笑いで答えた。
「気になるのでしょう?この画面に映るモノが」
「……俺が知っている世界ではない。そうだよな?」
女性はソウヤの問いに「えぇ、そうよ」と答え、顎に手を当てて唸る。
「あぁ、確かこの世界は“ビェクリア”と言ったかしら」
「……“ビェクリア”?」
唐突に出る固有名詞に、ソウヤは首を傾げた。
当然だろう、今まで世界の名前なんて一度も聞いたことが無かったのだから。
だが、女性はその反応を見てある種納得したような表情になる。
更に意味が分からなくなったソウヤは、女性に「どういうことだ?」と問う。
「そういえば、普通の生命には知らされないのよね。“世界の名”は」
「世界の名……」
妖精の世界のソウヤ達は“妖精の世界”、またはゲームの名を使い“FTW”と呼んでいた。
地球のある世界はソウヤ達からは“元の世界”、妖精の世界の住民からは“異界”と呼ばれていたはずである。
確かに世界の名など、一度も聞いたことも言ったこともなかった。
「貴方は先ほどの部屋を見てきたのでしょう?世界の宇宙を」
「あぁ、見てきた」
ソウヤにさえ、星の数だけ世界があるのだと気が付いたあの部屋。
きっと数えきれない程の世界が、あそこで管理されているのだろうと一目でわかる。
見てきたと頷くソウヤに、女性は三本指を立てた。
どういう意味だろうと首を傾げるソウヤに、女性は「三千」と口にする。
「三千万。それが今現状在る世界の数よ」
「さ、三千万……!」
文字通り桁が違う。
想像を遥かに超えた数字に、ソウヤは慄くほかない。
「三千万も世界が在るなら、どうしても管理する際に名前が居るのは道理でしょう?」
「あぁ、確かにそうだな」
神様と言えど、そこまで多くの世界の管理を行うのはかなり骨が折れるのだろう。
しかも“世界”というのは宇宙のことではない、“宇宙より広い概念”だ。
地球のことを惑星というように、宇宙より遥か広がっている壁のない場所全てを含めて、世界と名付けている。
女性の説明に納得して頷くソウヤに、「さて」と女性は周りを囲むディスプレイを消失させた。
その瞳に明らかな敵意を宿しているのを感じ、即座にソウヤは雪無を抜く。
「まずは自己紹介させてもらおうかしら」
「――――」
その身に溢れるのは神の力……神気。
普通の人は当然、熾天使でさえもそれに中てられれば膝を屈してしまうほどの神聖な力だ。
今、その神気をソウヤは全力で受けている。
優雅に身に纏うワンピースの裾を掴み一礼をする女性は、こちらを見て目を細めて微笑む。
その笑みは微かにも友好的な意志を感じられない。
「上級神が1柱、『運命を定めし神』」
「運命神……!」
ヴェルザンディ。
それは北欧神話に出てくる、ノルンが1柱にして運命を操る女神の名だ。
―まさか運命神が出てくるとは……!
自身が思っていたよりかなりの上級に属する神の登場に、ソウヤは冷や汗を抑えきれない。
ソウヤは現状、1度も神と戦ったことは無いし神気を纏った敵だって一回しか戦闘をしていなかった。
故に、初めて戦う“神”が運命神であることをソウヤは己の運命を呪う。
「ふふっ。貴方の“運命”、さぞや苛烈だったみたいね?」
「――お前、まさか」
今までソウヤは多くの苦難と出会ってきた。
転移された場所が『瞬死の森』だったり、その後“偶然にも”『軍勢の期』がソウヤの居る大陸に起きたことを始めとする数々。
強大な敵と常に戦ってきたソウヤにとってそれは“不都合”な者が多く、数多くの戦いのせいでソウヤは最終的に精神が壊れた。
―その原因が、もし……もしこの目の前に居る神だというのなら。
考えるだけで思うだけで、ソウヤの頭の中は沸騰しそうになる。
「ご名答、私が貴方の運命を決めたわ。……“辛かったでしょう?”」
「お前ぇえええッ!」
ソウヤは我をも忘れかけながら、今までにないスピードでヴェルザンディの元へ突き進む。
圧倒的な威圧を目にして、それでもヴェルザンディは笑みを消さない。
ただ、掌をソウヤに向けて――
「“ソウヤは止まる”」
「ぇ……?」
――ただ、その言葉だけでソウヤは自らの体が止まるのを感じた。
体が言うことを聞かない。
重いのではなく、痛いのではなく、ただ動かない。
まるでゲームのキャラクターになったかのように、ソウヤは自らの意志で動くこと放棄した。
ただ“ヴェルザンディにそう言われた”だけで。
「これが、お前の力だとでも言うのか……!」
「えぇそうよ?世界の運命を定める神ですもの、これぐらいできなきゃね」
ヴェルザンディまで後一歩、踏み出した状態から動けないでいるソウヤを見て、ヴェルザンディは笑いを隠さない。
どこに体に力を入れても動く気配はなく、これまで以上の“どうしようもなさ”がソウヤを襲う。
―……どうすればいいんだ。
対処できる手段など無く、諦めの境地に達しようとしたソウヤは“あること”に気が付いた。
それは普通に考えればすぐに分かること。
何故ヴェルザンディはすぐに俺を殺さないのか。
ヴェルザンディの力を使えば、ソウヤの抵抗虚しくすぐさま死に至るだろう。
だが、そうしない。
―そこに、きっと解決の糸口がある。
ソウヤはただ唯一動ける首から上を動かし、こちらに細く笑むヴェルザンディを見る。
さきほどと変わらぬ、人の心を荒らす煽りの笑みだ。
けれど、その瞳に宿しているのは“期待”。
「……ヴェルザンディ、お前は――」
「――さぁ、終わりにしましょう?」
紡がれるソウヤの言葉の間に入り込み、ヴェルザンディは終わりの鐘を鳴らそうと動き出した。
「“人間、貴方は自分の体に剣を突き刺して死ぬ”」
「――――」
あぁ、ようやく分かった。
ようやく理解した。
ようやく至った。
確かにソウヤにはもう魔法は無いし、使えるスキルもかなり少なくなっている。
だがそれらを代償として手に入れたものが在ったではないか。
“唯一対抗できる手段”が、今のソウヤには在るではないか。
「“拒否する”」
自らの首を突こうと突き進む腕が、たったその一言で止まった。
ソウヤの行動を見て、ヴェルザンディの笑みがより一層深くなる。
“すべてを拒否してしまえばいい”。
それが、“すべてを拒否する力”となったソウヤに出来る、唯一の対抗手段だった。
「そうよ、貴方に魔法なんて必要ない。貴方には能力なんて必要ない。ただ“拒否”してしまえばいい」
「……ヴェルザンディ、お前は――」
一体何が目的だ。
そう言おうとしたソウヤの口に、ヴェルザンディの美しい人差し指が当てられる。
思わず口を噤んでしまったソウヤを見てヴェルザンディは笑うと、一旦離れて再度ワンピースの裾を掴んだ。
再び、ヴェルザンディはソウヤに姿を現す。
「改めまして、ソウヤ。私は上級神が1柱、『運命を定めし神』。そして――」
美しい動作で一礼をしたヴェルザンディは、一度も見せたことのない真剣な表情でソウヤを真正面から捉える。
「――反“現世界神”、その筆頭よ」
「――――」
その時、ソウヤは運命でさえ仲間につけた。
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