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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
2節―反逆決戦―
  真実と違和感

「反“世界神(ウィレスクラ)”、その筆頭よ」
「――――」

 ようやく、ソウヤの頭の中でピースが嵌るのを感じた。
 本当に目の前の運命神がソウヤたちの敵ならば、とっくの前に強大な敵が現れて死んでいることだろう。

「……お前は俺の味方、そういうことか?」

 確認の為にそうソウヤがヴェルザンディに聞くと、運命神は「さぁ」と首を傾げて見せる。
 言葉の意図が掴めないソウヤは「は?」と素で返した。

「だって私にとって貴方は利用価値の高い駒……その程度だもの」

 利用価値の高い駒。
 一見聞くと、目の前の運命神が非常に下種に思えてくるがそうではない。
 妖精の世界の管理神、アルティマース然り目の前のヴェルザンディ然り、基本神様というのは自分の事しか考えない者なのだ。

 神という位の高さ故に、生まれた直後から天使や人はあくまで利用する物……という固定概念が刻み込まれていると言っていい。
 地球にあった神話でさえ、そんな描写が多いのである。

「じゃあ、俺にとってもお前は利用価値の高い駒……そんなものか?」
「あら、人間如きが神を下に見るというの?」

 ソウヤの煽りを真に受け、神気を漏れさせるヴェルザンディ。
 しかし、運命に対する対処法が確立しているソウヤにとって、ヴェルザンディは対して強敵ではないと踏んでいた。
 だからこそこんな罰当たりな行為が出来たと言える。

「“ソウヤは口を閉ざす”」
「――――ッ!」

 それもすぐに撤回することになった。
 ソウヤがあくまで対処できていたのは口を開けられたから。
 「“拒否する”」という言葉自体が詠唱と成り、発動のトリガーと成るので運命にも対抗出来ただけの話。

 口を閉ざされれば、対処は出来ないのだ。

「反省したかしら?人間」
「…………」

 非常に嫌そうな顔で頷くソウヤ。
 苦渋に満ちたソウヤを見て、満足げに笑うヴェルザンディは「“運命取り消し”」と一言。
 それだけでソウヤは口が動くのを確認できた。

「悪かったよ、ヴェルザンディ。確かに俺は未だお前に届かないらしい」
「十分に反省なさい。でも……まぁ、私にとっても貴方は必要不可欠よ、だから許してあげる」

 「私にとっても貴方は必要不可欠」ということはどういうことなのだろうか?
 イマイチ要領が掴めないソウヤは「どういうことだ?」とヴェルザンディに問う。

「良い?神様っていうのは普通の生命より遥か上空の存在。それはわかるわね?」
「……あぁ」

 何となくイラつく言い方だったが、そんなことを言えばまた口を防がれかねないのでソウヤは渋々頷く。

「神は遥か彼方の存在、故に神は生まれた瞬間から特定の仕事をしなければならない、という“義務”を持つの」
「“義務”……“権利”じゃなくてか」

 素直にソウヤは驚く。
 もっと神様というのは、フリーな存在だと思っていたのだが違っていたらしい。

 ソウヤの言葉にヴェルザンディは頷くと、「そうね……」とディスプレイを出現させ画面にピラミッドと逆ピラミッドを作って見せた。

「ピラミッドは神を頂点とした生物の階級を表して、逆ピラミッドは生命の“義務”の重さを表すわ」
「……なるほど、会社と同じ感じか」

 下の階級の生命、会社で言う所の平社員ほど権力は少ない代わりに自由な時間を多く保てるし、ミスしたところで責任はちょっとしたもの。
 けれど上の階級の生命である神様、会社で言う社長に近くなれば近くなるほど、自由は奪われ少しのミスで会社が潰れかねない。
 そんな関係が神様の中で出来上がっている。

 ただ、そんな説明をされたところでソウヤが必要と何が関係するのかが、ソウヤには分からなかった。

「つまり、“義務”が重いということは“自由”が効かない。そして何より定められた階級に収まるしかない」
「――――」

 神様という、かなり高い階級に位置するが故に反逆することが敵わない。
 そういうことなのだろうか。
 あぁ、ならば自分が必要と言われた理由がわかる、とソウヤはここまで説明されようやく理解した。

「簡単に言えば、神様は階級絶対主義で上の者には逆らえない。だからその枠に当て嵌まらない、かつ神様を殺せる力を持つ俺が必要……と?」
「えぇ、纏めるとそういうことよ」

 確かに神の階級なんて知らないソウヤは、上の階級の存在に対抗できない神様にとって必要不可欠だろう。
 丁重に扱い、上手に操れれば自分が邪魔とする神様をも殺せる可能性があるのだから。

 とはいってもそれはソウヤであるからこそ出来る芸当だろう。
 まず普通の人は“鎖”が邪魔でここまで強くなることは在り得ないし、唯一“鎖”に繋がれていない人間は逆にここまで強くなる術がない。
 全く良く出来たシステムだ、とソウヤは笑う。

「ヴェルザンディにとって俺の存在は貴重ってことか」
「えぇ、癪だけどそうよ。3つ在った希少能力(ユニークスキル)を全て開始時につけるようにした甲斐があったわ」

 ヴェルザンディの言葉に、ソウヤは「やっぱりか」と溜め息をついた。

 どうにもおかしいと思ったのである。
 ユニークスキルが1つ付いただけでも十分凄いのに、ソウヤに限っては同時に3つ。
 しかも、ヴェルザンディの言葉から察するに用意されていたユニークスキルは、ソウヤが全て持って行ったらしい。

 となれば都合良く、あるいは都合悪く起きた出来事は全てヴェルザンディの仕業だということで決定だろう。

「……お前、一生呪うからな」
「構わないわ。それだけのことを、私は貴方にしたもの」

 ヴェルザンディが運命を定めたから、たくさんの人は傷付いた。
 ヴェルザンディが運命を定めたから、ソウヤは辛い思いをした。
 それは決して、許されてはならないもの。

「でもね――」
「?」

 それでも。

 ヴェルザンディが運命を定めたから、たくさんの人は救われた。
 ヴェルザンディが運命を定めたから、ソウヤは結果強く成れた。
 それは決して、間違いではなかったのだ。

「――私は貴方を選んで良かったと心から思うわ」
「――――」

 運命神とはいえ、彼女が操れるのは確定事項を決めつけたり大まかな世界の運命を定めたりする程度。
 ソウヤに対しては今、神界に居るからこそ名指しで細かく指定できるだけなのだ。
 心が折れたとしても、深く傷ついたとしても、立ち上がれるかどうかは運命を与えられた人のみが知る。

 ヴェルザンディにとってもそれはただの賭けだった。
 もし、ユニークスキルを付けたのが只の外道で戦いから逃げたりしたら。
 もし、定めた運命の先にちょっとした油断の結果で、死んでしまったら。

 それはサイコロで同じ数字を何度も同じにならないように祈るようなもの。
 極小の確立でも重ねて重ね続ければ、その確率だって馬鹿に出来たものじゃない。
 最後近くでソウヤの精神が崩壊したときは、心の底からどうしようかと悩みこんでしまったほどだ。

「辛かったでしょう、苦しかったでしょう」
「…………」
「恨むのなら運命()を恨みなさい。呪うのなら運命()を呪いなさい」

 何となく、ソウヤはヴェルザンディの性格を把握してきていた。
 神様らしく自己中で上から目線の癖に、運命によってあったであろう“もし”を壊してきた申し訳なさも持っている。

 きっと恨んだって誰も責めはしない。
 きっと呪ったって誰も責めはしない。
 けどそんなことより、何より言いたいことがあった。

「ヴェルザンディ」
「えぇ」

 この上なく真剣な表情でソウヤの言葉を受け止めるヴェルザンディ。
 一体どんな恨み言を言われるのだろう、とか考えているに違いない。
 何となく、普通に恨むのも負けた気になってしまう気がソウヤにはあった。

 だから――

「ありがとう、俺を選んでくれて」
「……ぇ」

 ――ソウヤは感謝する。

 自分を選んでくれたことに、自分をこの運命に引きずりこんでくれたことに。
 その呆けた表情を見せてくれる、というなら幾らでも感謝もしよう。
 確かにソウヤが感謝しているのは間違いではないのだから。

「確かにこの運命()は辛かったし苦しかった。多くの痛みを負ったし多くの悲しみを背負った」

 苦しくて辛かった結果が、精神の崩壊。
 結局仲間に打ち明ける事をせず、溜めこみすぎた結果の代償だ。
 でも、今となってはそれも“よし”と思えてしまう。

 だからソウヤは「でも」と言葉を続ける。

「この運命()は俺に大切なものを知らしめてくれた」

 “俺は努力をしていなくて、それを周りのせいにしてただけだった”。

 今まで辿ってきた運命という道は、それを何よりソウヤに教えてくれたのである。
 才能があっても伸ばそうと努力をしてこなかった自身に、そんな大事な事を気付かせてくれた。
 ただそれだけは、ソウヤにとって嬉しいこと。

「この運命()は俺に大切な人達と出会わせてくれた」

 きっとただこの世界に来ただけでは、出会うはずも無かった仲間たち。
 こんなダメダメな自分に信頼を寄せて、そして「好きだ」と言ってくれる仲間たちに出会えた。
 それだけでソウヤは救われる。

「俺はこの気持ちに嘘はつきたくない。だから、俺はお前を感謝すれこそ恨みも呪いもしない」
「私のせいで亡くなった人も多いわ」

 本当に自己中の神様なのかと疑いたくなるソウヤ。
 神話の神様なら「あれは仕方ない犠牲だった」で終わらしても、別段可笑しくないというのに。

「それは安心しろ」

 だからソウヤはヴェルザンディに親指を立てて見せた。
 怖いもの知らずのように口角を釣り上げ、ソウヤはめいっぱい嗤う。

「俺が、全部救ってやる」
「――――」

 ソウヤの言葉に呆けたようにヴェルザンディは瞬きをすると、いきなり吹き出した。
 笑いをこらえきれないという風なヴェルザンディは、涙を拭きながらソウヤに「そうね、貴方なら……」と期待の眼差しを向ける。

 きっとソウヤの言った言葉はただの強がりだ。
 全部救うなんて、それこそ神様でも不可能な大偉業なのだから。
 それでも、それでもとヴェルザンディは思ってしまう。

「最期に、貴方にピースを上げるわ」
「ピース……?」

 眉を潜めながらそう呟くソウヤに、ヴェルザンディは「そうよ」と言いながらソウヤに近づいていく。
 伸ばされた指先がソウヤの額に当たり――

「――――ッ」

 ――直後、多くの知識がソウヤに流れ込む。

 それは多くの世界の名。
 目が回るほどに多くの世界の名前がソウヤの脳裏に刻みこまれ、違和感に気付く。

「ヴェルザンディ、どうして“地球のある世界”の名前はない?」

 たくさんの世界には名前が在った。
 当然妖精の世界にも。
 けれど、“地球のある世界”には名前が無かったのだ。

 だがソウヤの問いにヴェルザンディは首を横に振るのみ。

「私までの階級じゃ、“考える事すら禁止”されているのよ」
「――――」

 さぁ、とヴェルザンディが手を伸ばした先に扉が出来る。

 “考える事すら禁止”ということは、今の神の階級では情報の開示できない……ということなのだろうか、とソウヤは考えた。
 ただ、考える事すら出来ないとなると異常な事でもある。

「その先にウィレスクラが待っているわ。多分彼は私の離反に気付いているはず。……せいぜい頑張ってきなさい」
「……あぁ」

 ルシファーが見せた、昔の地球で有った光は何だったのか。
 ヴェルザンディが見せた、“地球ある世界”の名前が無いのはどうしてなのか。
 様々な違和感がソウヤに押し寄せる中、最後の扉が今――




 ――開かれた。 
 

 
後書き
最終章第2節 ―反逆決戦― 閉幕 
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