グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
91層―前半―
91層へとたどり着いたソウヤたちが待っていたのは、暗い洞窟だった。
しかし、光源が何一つ無いというのにある程度は洞窟の中は見えるようになっている。
ソウヤたちはそれに慣れたのか何の反応を見せず歩き始めた。
基本的にソウヤが前で、ルビが後ろに控えてこの世界独特のザラザラとした厚紙に簡単な地図を描いている。
それから数分後、小さな足音が聞こえソウヤたちは足を止めた。
それぞれが言葉をかわすこともなく戦闘態勢になると、目の前に迫る何かに警戒を払う。
「キ…キキ」
そこに現れたのは、古くなった剣を手にした骸骨だった。
普通の骸骨の魔物ならば盾や鎧を着こむものだが、現れた骸骨はただただ剣を手にしているだけだ。
通常なら雑魚だと思えるその容姿を見て、ソウヤとルビは更に警戒度を高める。
この迷宮の中で敵が弱いなどということはありえない。
少なくとも上級魔族、強ければ将軍魔族ほどの強さをこの階層では雑魚レベルが持って当然なのだ。
その剣は見た目は古いが、しっかりと手入れされておりそれ相応の名剣の輝きを持っている。
鎧や盾を着こまないのは防御力よりも避けることを意識した達人の証。
そしてこのただの穴であるはずの目から発せられる、強者の圧力。
その全てが、この眼の前の骸骨が只者ではないことを示していた。
「…。ッ!!」
無言のまま構えていたソウヤが、一瞬のうちに掻き消え骸骨の背後を取る。
無防備の背中に狙いをすまし剣撃を放とうとした瞬間、骸骨の姿が目に見えぬ速度で移動を開始した。
―狙いはルビか…!
89層よりも確実に頭が良くなっているその敵に対してソウヤは内心冷や汗を掻くと、アイテムストレージから一瞬にしてナイフを取り出すとルビに投げる。
凄まじい速度でルビに迫るナイフを、何かが弾き返す。
「キ…!」
瞬時に背後から迫ったナイフを骸骨は弾き返すと、再びルビに向かってその名剣を振るう。
しかし、その時にはもうルビは魔法の詠唱を終えていた。
「『氷飛刃』」
ルビの周りから複数の氷の刃が現れ、近距離に居る骸骨に向かって放たれる。
しかし、近距離に居たはずの骸骨は瞬時にその場から跳びルビの背後をとった。
「ハッ…!!」
しかし、骸骨の目の前にはとっくにソウヤがおり骸骨の振るわれた剣と、ソウヤの剣がぶつかり合う。
2秒ほど、鍔迫り合いが起こる。
その鍔迫り合いの間まで、鍔迫り合いを入れてたった5秒の出来事だった。
常人どころか達人クラスの者でも目に追えぬその凄まじい速度の戦闘は、人の道を外れていると言っても過言ではない。
しかし、ソウヤたちにとってはこのスピードでの戦闘はもう慣れてしまっていた。
逆にこのスピードでないとかなり遅いと感じてしまうほどである。
ぶつかり合う剣をソウヤは滑らせることで攻撃から避けると、振り向いていたルビの邪魔にならないように横に回転する。
「『氷飛刃』!」
複数の――ではなく少し大きめの1つの氷の刃がするどく骸骨を狙い、そして貫いた。
「――ッ!!」
骸骨が無声の叫び声を上げるが、背後に迫る殺気に気が付いてか振るわれる剣を避ける。
が、しかしソウヤはそこには居らず落下した雪無のみ。
「ここだッ!」
ソウヤは骸骨の頭上からそう叫び手に持つ薙沙で骸骨を一刀両断せんとする。
しかし、叫んだのが悪かったのか骸骨はそれに瞬時に反応すると紙一重で避け名剣でソウヤに向かって横薙ぎ。
迫り来る刃にソウヤが驚愕の表情を見せ――ニヤリと静かに嗤った。
「『氷刃』」
骸骨の背後から凄まじい魔力の密度を持つ氷の剣が振るわれ、一瞬にして骸骨を真っ二つにした。
「――…―。」
骸骨は口を数度カチカチと鳴らすと地面に倒れる。
7秒ほどの戦闘は、これにて終了したのだ。
「はぁ…。相変わらず心臓に悪い」
ソウヤは緊張の糸がとれたように尻餅をつくと、大きくため息を付いた。
「敵、かなり強くなってる…?」
ルビのその言葉にソウヤは「あぁ」と短く答える。
たとえ雑魚のうちに入るとはいえそれでも上級魔族、または将軍魔族の強さを誇っているのだ。
ソウヤたちがチートクラスと言っても、相手側もチートクラスならば緊張もする。
強者同士の戦いだからこそ、その分戦ったあとの安心感はとても大きい物だった。
「にしても、かなり敵側が頭が良くなってきているな」
「うん。私をしつこく、狙ってきた」
この迷宮は普通の迷宮とは違い、敵がスポーン…つまり生まれる感覚が長い。
それゆえ、1分ほど休憩しても全然問題ない。
なのでソウヤたちは1戦ごとに小休憩を入れることにしている。
「…さぁ、いくぞ」
「うん」
ある程度体力が戻ってきた頃に、ソウヤたちは再び進むことを始める。
暗い洞窟が故に、その道程は長く感じられた。
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