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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  92層―後半―


「敵…?」
「いや、多分違う」

 ソウヤは近づくと、倒れている男性の肩を揺する。
 しかし、起きる気配はなく体全体が左右に揺れるだけだった。

「死んでる…?」
「ただの気絶だ。とにかくこの男を持っていく」

 軽々と男性の身体を持ち上げたソウヤは、軽く洞窟の中を見渡すとなにもないことを確認して外にでる。
 ルビは心配そうにソウヤを見た。

 担がれた男性は、綺麗な紫色の髪をしておりずいぶんと華奢な身体をしているように見える。
 しかし、ソウヤは担ぐ中でこの男性がどれだけ強いのかを軽くだが察することが出来た。

 ―見た目華奢に見えた身体も、こうして触れるとかなり鍛えていることが分かるな。持ち上げるときに掴んだ手のあの硬さ、かなり戦闘を知っている…。

 この迷宮の性質から考えると、ここから出るためのいわゆるクエストNPCだろうことは簡単に考えられた。

「ルビ、周りの警戒を頼む」
「んっ…」

 ある程度歩くとソウヤは地面に担いでいた男性を地面にゆっくりと寝かせた。
 そして男性の肩に手を当てて揺らす。

「おい、起きろ」

 何回か揺すりながら呼びかけると、男性は小さく唸り声を上げて重たそうな瞼を開けた。

「ここ、は……?」
「森の中だ」

 意識を覚醒させようと頭を振っている男性。
 その様子を見ながらソウヤはある確信を持っていた。

 ―こいつ、”人”だ。

 当然、形姿から人ということはわかるが、ソウヤが言っているのは”感情”という物を持っていることである。
 先ほどの一言は正に目覚めたばかりの人間の声であり、無機質な人形の声ではなかった。

 ソウヤはここから出るために必要なクエストに関わりを持つ者だという仮説を、多少確信へと移動させつつ、男性へ手を伸ばす。

「立てるか」
「あ、はい。ありがとうございます」

 男性はソウヤの手を掴むと、礼を言いつつ立ち上がる。
 忙しくここはどこか確かめるため周りを見渡す男性に向け、ソウヤは直球に質問をすることにした。

「お前、こんな場所に何をしていたんだ」
「あ、はい。この森は病気によく効く薬草があるので僕のおばあちゃんのため………」

 そこまで言うと、男性は”何か”に驚いたように急に固まった。
 だがすぐに表情を戻すと経歴を話す。
 それが、一瞬のことであってもソウヤは不気味さを思わずに得なかった。

「薬草を取る途中にあのカブトムシモドキに捕まった…と」
「はい。後、あれはスライダーという魔物です。本来なら余裕で倒せるんですが…」
「不意を突かれたと」

 男性は恥ずかしそうに「はい…」と答えた。
 ソウヤが見る限り、男性は武器という武器を持っていない。
 己の拳や脚が武器というわけでもあの身体ではあり得ないだろうから、あのカブトムシモドキ…もといスライダーに壊されたか失くしたのだろう。

「お前、武器は?」
「えっと……」

 男性はピクリと手を震わせるとその右手を頭へ持っていく。

「あ、あはは。失くしてしまったようです」

 一瞬、手がおかしくなっていたことにソウヤは気付きながらもあえて指摘することはなかった。
 アイテムストレージから薙沙を取り出すと、男性に向けて放り投げる。

「わっ!」
「戦えるのなら手伝え、少しでも戦力が欲しい」

 男性はソウヤと薙沙を交互に見つめると、「ありがとうございます!」と言って帯刀した。

「この剣の名前を教えてもらっていいですか…?」

 男性が目をキラキラとしてそう聞くので、ソウヤは何も感じること無く名前を教えた。
 薙沙を慣れた動作で男性は抜刀すると数回素振りを行う。
 ソウヤの目は間違っていなかったようで素振りの1振り1振りがキレがあり、ソウヤと同じくらいはありそうだった。

 ―スライダーを余裕と言っていたのは伊達じゃない、か…。

「そういえば、皆さんの名前を聞いていたなかったですね。教えてもらっていいですか?」

 薙沙を帯刀した男性が、唐突にそんなことを聞く。
 ソウヤとルビはそれぞれに自分の名前を言った。

「ルビさんとソウヤさんですねっ。僕は――」

 男性は礼儀正しく一礼すると、優しげに笑みを浮かべる。

「――エルトです」

 その時、何かが起こる予感をソウヤは心のなかで抱いた。




「結局、95層にあるお前の家まで送っていけばいいんだな」
「すみません…」
「いや、良い。俺もこの先の層に行きたかったんだ。行き方を知れるのなら別に大したことはない」

 エルトの道案内により、結局分からないままだった次層への道のりをソウヤ達は歩いている。
 この一件貧弱そうに見える青年を助けることが、次層へと行く鍵だったのだろう…とソウヤはゲーマー脳で仮定した。
 事実、エルトが示した道のりは獣道一本も通っていない森のなかを突っ切ることだったのだ。

 色々とソウヤが思案していると、不意に背筋が凍るような感覚に襲われる。
 危険察知能力の危険信号だ。

「待て」

 ソウヤは前にいるエルトと横に居るルビにそう短く言うと、腰から雪無を抜き放ち周りに注意を撒く。
 そこで敵が居ることに気付いた2人はそれぞれの得物を取り出す。

 周りの風景は今までと全く変わらない。
 小鳥が冴えずき、穏やかな風が吹くこの空間は一見何の問題のないようにみえる。
 しかし、それは相手が殺気を野生の動物の警戒心さえも誤魔化すことが出来るほど隠しているからだ。

 まるで細い糸を小さな穴に入れるような繊細な殺気をソウヤたちは感じ取っていた。
 背中をソウヤとエルトは合わせると、左手でソウヤに手のひらを見せる。

 ―5匹…か。

 ソウヤはルビに視線をあわせると、左手で3本指を立てる。
 2本…1本…遂に全ての指を折った瞬間、周りの木々の間を縫うようにルビの周りから氷結の弾丸が飛び散った。

 地面をえぐり取るすさまじい音がして、初めて周りの野生動物は危険を察知して逃げ始める。
 それと同時にソウヤは木々の間へその身体を踊らせた。

 刹那、黒いナニカがソウヤの首へ狙いその得物を振るう。
 その鎌にも似た鋭い刃はソウヤの首をまっすぐ向かい――

「遅い」

 ――その黒い生物の身体は切り刻まれた。

 元の姿すら思い浮かべれないほどに細かく刻まれたその生物は、崩れ落ちた。
 そこに立つのは全く無傷のソウヤ。
 静かな威圧が出ているソウヤの手に持つのは、この世に10本とも無い近衛剣。

 ソウヤはすぐさま雪無を持ち直すと周りに2体は居る黒い生物に向かって突っ込んだ。

 ―スピードと殺気を殺すことのみに特化してるのか…。

 本来なら、この1体でもフルレイドを組まないと倒せぬはずの敵を2体同時に相手にしながら、ソウヤはまるで雑魚を扱うかのように捌いてく。
 いや、まるで…ではなく本当に雑魚としてしか見ていないのだろう。

 その1分後。
 そこには原型をとどめていない切り刻まれた死体が3体、大砲を打ち込まれたような跡が残る死体が1体、1刀両断されている死体が1体だけが存在していた。





 迷宮に入ってから
 ―1年10ヶ月27日13時間57分36秒― 
 

 
後書き
彼は出会う、完璧な存在に。 
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