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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  剣士

 ソウヤとルビの壁とは、つまりの言うところ敵が一気に強くなったことである。
 今までのボスは様々な強みが合ったが、それも全てソウヤの日頃の特訓の成果とステータスのおかげで勝てていた。

 しかし、90層のボスはそれとは一味違っていた。
 90層のボスは今までの毒を吐いたり火を使ったりしていたボスとは違い、今回はただ単に剣の使い方が上手い。

 今までのボスが普通のRPGで見るようなボスだとすると、今回の層の相手はいわゆるプレイヤー…しかもかなりの廃人クラス相手だということである。
 ステータスは確実にソウヤのほうが上だが、相手は剣術が比べ物にならないくらいソウヤと差があった。

 そして、なによりの壁としてこの層だけ”一人だけで挑まなければならない”のと、”魔法が使えない”ということだ。

 いままではソウヤとルビがともに戦えていたが、この層だけはソウヤかルビのどちらかだけで戦わないといけない。
 さらに、魔法も使えないので単純な近接同士の戦いとなる。
 なのでルビは基本的に魔法基本で近接はからっきだからソウヤが行くことになるのだが。

 そういう理由があって、ソウヤは武器を強化するべくルビとの特訓を行っていた。

「といっても、あいつの技量だけはこの短期間では追いつけない…か」

 短期間の期間は2,3年を指す。
 あの相手の技量を超えるには少なくともソウヤでも独自で学べば5年は掛かる。
 それだけ、相手の技量は高かった。

「私が、もう少し……」
「気にすることはない、俺が今まで剣術を特訓してこなかったのが悪いだけだ」

 この迷宮の構造上、ソウヤの得意分野である巨剣というのが使えない。
 90層のボス部屋も通路より広いが、縦に狭く全然使いこなせないのである。

「…ルビ、行くぞ」
「大丈夫…なの?」

 ソウヤは「あぁ」というと、最後にステータスを確認する。
 今まで減っていたHPとMP両方ともが満タンになっていた。

 ソウヤは雪無を背中に鞘に入れると、絶対盾(ザース)を普通の盾の大きさで取り出すと左手に付ける。

「俺がボス部屋に行くから、通路途中の敵は出来るだけお前が排除しろ」
「わかった…」

 ルビは力強く頷くと、両腰につけてある宝石が埋め込まれたガントレットを両腕につける。
 その装備が通常の杖の代わりとなるのだ。

 そして、ソウヤたちはボス部屋へと歩き始めた。




 古びた鉄の扉が立ち尽くしていた。
 まるで、この先へ進むのを止めるように、ここから出て行けと言っているように。
 だが、それでもソウヤたちは前に進まなければならない理由があった。

「ルビ、ここで待っていろ」
「うん…」

 ルビは小さく頷くと、この扉周辺に結界を作る。

 ルビは基本的なステータスは―ソウヤからしてみたら―低めだが、その分魔法は破格的な能力を持っていると言って良い。
 基本的な全属性の魔法を最低でも中位クラス使え、その中でも水と風は上位クラスという通常ならば使えないほどのレベルの高い魔法を使える。
 さらに、希少能力(ユニークスキル)で『結界術(エルデル)』と、『(エウクス)魔法』を持っているという、ソウヤの次に強力な仲間だ。

 さらにルビは魔族で、その中でも魔貴族と呼ばれる数少ない上位の魔族の1人という話である。
 その魔貴族というクラスをソウヤ自身、知らなかったので驚いていた。
 どうやら、下級、中級、上級、将軍、貴族、近衛、王の順で魔族はランク付けされているらしい。

「…ソウヤ」
「ん。なんだ?」

 ソウヤはルビのことについてまとめていると、ルビから声が掛かる。
 その声に反応してソウヤはルビに顔を向けた。

 そして、ルビはソウヤのことを見上げて静かに呟く。

「……いってらっしゃい」

 いってらっしゃい。
 そんなことを言われたのはいつぶりだろうか、そうソウヤは思う。

 ―多分、元の世界以来だな…。

 ソウヤは頭の意識を切り替えると、静かにルビの頭に手を置く。
 そして、安心させるために微笑んだ。

「あぁ、行ってくる」

 ソウヤはそのまま鉄の扉を軽々と押してみせ、扉をくぐっていった。

 中に入ると、天井が明るく光って部屋を照らす。
 そして…そこには1人の青年が静かにたっていた。

 その青年は静かに目を開けると、ソウヤを視界に写す。

「また来たな、少年」
「…次は本気で行く」

 ソウヤの宣言に青年はふっと不敵に笑うと、身体を光で纏う。
 そして、純白に光った鎧を身に纏ったその青年は”腰”に刺した剣に手を掛ける。

「なら、こちらも本気で行かせてもらおう」
「…」

 ソウヤは背中に収納してあった雪無に手を掛けると、目を大きく開けて動きを止めた。
 一瞬で目の前に青年が数cmのところまでに迫っていたからだ。

「いけないな」
「…何がだ」

 青年は青い髪を撫でると、どこからか出したベルトをソウヤに渡した。
 そして元の場所に背中を見せながら戻っていく。

「まず、君は剣を置く場所を間違っている」

 ソウヤは答えない。
 しかし、それを気にしない様子で青年は自分の腰に刺してある剣をトントン、と叩くと話を続ける。

「もし、剣術で対等に戦いたいのならまず鞘の場所を間違えないことだ。背中だと抜きにくことだろう?」

 ソウヤは、その不敵な笑みを見ると胸元にある金具を外すと、受け取ったベルトを鞘に付けて腰につける。
 左に重心がかかる感覚がソウヤは感じた。

「いいかい。腰に刺すとその分抜きやすくなるが、左に重心が行きやすくなる」
「それを踏まえて戦えと…?」

 青年は頷いた。
 ソウヤは今までとは違う違和感を感じながらも、それに従うことにする。
 なんとなくだが、青年が嘘を付いているようには思えなかったのだ。

「さぁ、始めようか。剣士同士の戦いを」
「…礼は言っておく」
「気にしないでいいよ、これも”我が主のお願い”だからね」

 その言葉にソウヤは疑問を持つが、完全に戦闘態勢に移行している青年を見て聴くのは無理だと判断する。
 そして、腰にある剣を両者手に掛ける。

 そして――

「「…!!」」

 ――刹那のうちに5回も剣が交わった。

 ソウヤはあまりの鞘の抜きやすさに驚愕を隠せない。
 青年も思った以上の実力に驚きを隠せないでいた。

 ―こいつ、強い…!

 ソウヤと青年、どちらもそう至るとさらに剣を交える。

 青年が右に持つ青く光る剣をソウヤに向かって突く。
 しかし、ソウヤはそれを確実に音もなく滑らすとそのまま青年に向かって突きを放った。
 そのカウンターに青年は左に持つバックラーで受け流すと互いに離れる。

 この間、0,1秒にも満たしていない。
 普通の人には何もしていないように見えるのだろう。
 音も火花も1つも出していていないのだから。

 ―聞いていたよりずっと、強くなっている。この少年は…!
 ―思っていたよりかなり強い。近衛剣じゃなきゃ死んでいた…!

 互いが互いを心のなかで褒め合うが、絶対に声に出さない。
 声を出す余裕など無いのだから。

 次に動いたのは、ソウヤはだった。

 コンマより短い間でソウヤは青年に近づくと、突く。
 それを紙一重で躱した青年はそのままソウヤの背後に回りこみ、バックラーで打撃を放った。

「ぐっ…!」

 ソウヤは無理やり身体を動かすと、浮かび上がっている右脚を強制的に地面に叩きつけるとバックジャンプを行った。
 なんとかバックラーの一撃を避けたソウヤは、そのまま距離を開ける。

 ―剣1本だと圧倒的に手数が足りない…!

 ソウヤはそう思うと、将軍剣である薙沙を取り出すと左手で持つ。
 現在、雪無よりかは弱くなってしまっている薙沙だが村で、材料を売っては買って融合を何回か行っているので、かなり強力化されている。
 もうほとんど近衛剣と言って良いほどだ。

 ―2刀流にしてきたか…。厄介だな。

 青年はそう思うと、一気にソウヤに近づいて横薙ぎを行う。
 ソウヤはそれを屈むことでしっかりと避けると、薙沙で上段に切り上げる。
 それを青年はバックラーで受け流し、手に持つ剣で下に向かって突いた。

 ―くっそ!2刀流はまだ慣れない…!

 ソウヤは心のなかで悪態をつくと雪無を地面に刺して、それを使うことで空中に踊りだす。
 そして、空中からの重力と体重とその力を一気に足しあわせて2本ともを一気に振り下ろした。

 ―避けられない…!

 即座に青年はそう感じられると、身体を強制的に動かすとバックラーで薙沙を流す。
 そして間に合わない雪無の刃を剣を間に挟むことで何とか止める。

 この戦いで、初めてのすさまじい程の音と花火が飛び散った。

 常人ならば一瞬で両者とも立っていたのに、鍔迫り合いしているようにみえるだろう。
 それまでに早かった。

 相手を殺すことに特化したその動きは、隙の少ない突きを中心としている。
 しかし、その超人クラスにまで洗礼された剣術は、舞のような美しさではないもっと違う美しさを持っていた。

 そしてその鍔迫り合いは両者が同時に後ろに下がった時に終わる。

「…流石、妖精の中で最強と謳われるだけがあるね」
「お前もな。もう何度も身体を裂いたはずなんだがな」

 青年はクスリと笑うと、”初めて”構えを見せた。
 ソウヤも不敵に笑うと、”初めて”構えを見せる。

 その瞬間、この空間に静寂が流れた。 
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