グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
近衛剣
人々が噂する最強の迷宮。
一度入れば二度と出てくるものはおらず、魔王が作ったのだとか、邪神が封印されているなどの噂が多くたつ。
その噂故に、親の間では良い子供に言うことを聞かせるネタとして使われているらしい。
そんな迷宮の中、普通の通路とは違い少し広めの空間の中で凄まじいほどの火花と音が鳴り響いていた。
「…『氷晶連銃』」
「っく…!」
身長は中学生ほどの小さき少女が、体の周りからすさまじい程の氷の砲弾を放つ。
その幼い身体、容姿とは程遠いレベルの高すぎる魔法。
それを迎え撃ったのは丁度今頃なら18…いや、19ほどであろう身長をした男性だ。
目を疑うほどに迫り来る氷の弾丸の質量は、思わず連発砲を思わせる。
しかしその男性は迫り来る氷の弾丸を、その手に持つ白く純白に染まった天使のような剣で目に見えぬほどの速さで切り落とす。
そして一瞬氷の弾丸の攻撃がやんだその瞬間にその男性は少女へ一気に近づく。
それをわかっていたように少女は少し、ほんの少しだけ口元をゆるめた。
―ヤバイっ!
―終わり…!
両者の咄嗟の思いが交差する。
少女がその小さな両手を男性に突き出し、叫ぶ。
男性がその手に持つ剣をしっかり握ると、叫ぶ。
「『雷を纏う氷晶の柱』…!!」
「『属性向無』…!」
巨大なビームを思わせる雷を纏った氷の結晶は、紛うこと無くこの少女の本気の本気である。
そして、それに対応するためにソウヤが放ったのは魔法を吸収する技。
男性の持つ魔法を吸収する力が全てを吸いきるのが先か、それとも少女の魔法を吸収しきれず負けるか。
凄まじいほどの風が吹き荒れ、普通の地上なら一瞬で数十mの穴が空きそうなほどの圧力。
その全てが地上に暮らす妖精たちを軽く超えていた。
そして――
「…!!」
――男性の持つ剣がそのレーザーを全て吸い込み、目を無意識に閉じてしまうほどに発光する。
予測していなかったのか、男性はうめき声を上げ、だがしっかりと剣は握ったままにしておく。
そして、体感時間で数秒経った後に男性…ソウヤは目を開ける。
「…すごい魔力秘めてないか、これ」
「うん、私の魔力…さっきので消滅したみたい」
少女…ルビはそう言うとそっと白く純白に光る剣の刀身をそっと撫でる。
―すごい。すごい、魔力がある。
その刀身に触ることでどれだけの魔力が貯められているのかを理解したルビは、そっと手を離した。
そしてソウヤをじっと見る。
「たぶん、ランクアップした…と思う……」
「――やっと…か」
ソウヤはそう言うと、ふっと力を無意識に抜いて地面に尻をつく。
そして明らかに雰囲気が変わった剣を見て思う。
―敵が強くなってきて苦しくなってきたからルビの戦力の把握のついでに剣を強くしようとして、そして結局ランクアップしたのは8ヶ月かかったわけだな。
正直なところ、この迷宮自体は最近以外で言えばソウヤがドンドン進んでいく気になれば1週間に1層のペースで登れるはずなのである。
だが、時間の半分以上を十分な休息と自身の特訓でかけていたせいか、この層まで来るに1年もかかったわけなのだ。
「…でも、これでやっと、ノルマクリア」
「あぁ。まさか5回もお前の最強の攻撃力を持つ攻撃をもらわなければいけないとは思わなかった」
「一応、ランクアップに必要な、魔物の血は…1週間前に終わっていたから…」
70層以来、あれからいろいろと考察したソウヤは、この雪無の恐るべき能力であるラックアップは条件が3つあることを発見した。
1つ目は魔物の血を十分吸わせること。
こちらは毎日のように数えるのがイヤになるほど狩っているソウヤは、この条件を苦にしなかった。
2つ目は使い手が十分な能力、技量を持っているか。
これも能力は元々妖精最強と謳われてきたソウヤには関係なかったし、1年間王神級の剣術を使って剣を学んでいたためそれも必要なかった。
3つ目、これがいままでのソウヤではほとんど無理に近かった。
”必要量の魔力を吸うこと”である。
当然、その魔力は使い手ではなく他人、または魔物から奪った魔力のみだ。
普通なら魔物の血を吸わせると同時に少量の魔力も吸うが、ほんの僅かなので非常に長い時間が必要である。
他に魔法を受けることで魔力を吸う事ができ、こちらは効率は普通というところだが、それでもランクアップには何十年かかるかわかったものではない。
そして、ソウヤ独自の方法が『属性向無』を使った方法で、こちらは100%の魔法の魔力を吸い取ることが出来、これにより|将軍剣(ロード・ソーガ)になった。
そして、今回将軍剣からランクアップするのに必要だった魔力は、妖精の中で最強レベルの魔法の使い手であるルビの最強魔法の約5発分だ。
あの70層の謎の女の光の槍10本分くらいの魔力があの雷を纏う氷のレーザーはもっているはずなのだ。
―…これでやっと、将軍剣から近衛剣になったわけだ。
元々、将軍の剣というのは飾りが多量に付いたものが多く、王などを守る近衛騎士が使う剣よりかは劣っている。
その事実の通りにランクアップしていくと、結果的に将軍から近衛の剣に変わるわけなのだ。
その証拠に、ソウヤの知っている雪無はもう存在していなかった。
白銀に光る剣全体の色は変わらないが、風圧を余計に強めてしまう翼の形をした鍔はなくなっている。
風圧を出来るだけ無くすように先が刃のように鋭く尖っており、無駄な装飾がなくなっていた。
ただ、その剣が普通と違うことを示すものはなく、将軍剣まで感じていた威圧感はすっかり鳴りを潜めている。
将軍が掲げるようなその場にあるだけで士気が上がるような剣でない。
ただただ、王や姫が襲われた時に矛となる無骨な剣。
それがこの世界でもたった10本存在を確認されたという将軍剣とは違い、たった4本しか存在を確認されなかったその剣は今、ソウヤの手の中に収まっていた。
「…さぁ、休憩して全快したら行くぞ」
「わかった…」
ソウヤはその剣を大事にその鞘に収納すると、アイテムインベントリに入れて横になり身体を休める。
ルビもそれに合わせて横になった。
現在、ソウヤが居るのは90層。
目標である100層まで、あと10層だった。
しかし、そこでソウヤとルビは壁に直面していた。
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