グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
ダンジョン
まるで当たり前のように、心地良い風が吹きソウヤの髪を揺らす。
暖かい光が今見るもの全てを照らし、眩しく光る建物。
そんな普通なら心が安らぐようなそんな目の前にある村を目の前に――
「……」
――ソウヤはどこか嫌な予感を感じていた。
今現在、ソウヤがいるところは85層である。
75層の村、80層のボスは70層や55層の時のようにあの女性も、精霊が入り込んでいる老人も見かけなかった。
しかし、ソウヤの目の前にあるその村は今までのような普通の村のような雰囲気が全くなく、寒気を催している。
「…さっさとクエスト終わらして出ていくか」
ソウヤはそう決めると不気味な雰囲気を醸し出している村へ1歩踏み出した。
瞬間、ソウヤの頭のなかに急に声が響く。
―た、すけて…。
「ッ…!?」
ソウヤはすぐさま周りを見回す…が、危険察知にもソウヤ自身にもそれらしき反応が無い。
警戒レベルを1段階上げると、ソウヤは特に気にするような素振りをせず村へ入っていく。
―やっぱり、不気味だ。
ソウヤは歩いて行くほどに感じるうす気味悪さを感じながら、周りの人を見る。
基本的には55層や65層、75層とは変わらぬ人だが、そのうちにどこか悪質のものを秘めているように思えて仕方がない。
そして、もう1つソウヤが気になること…それは――
「――さっきの声…か」
いきなりソウヤの脳内に響いた声。
声の高さ的に女性だとはわかるが、それ以外になぜ先ほどの声が響いたのか、それすらわからない。
ソウヤの持つ空間魔法なら声をここまで届かせることは可能だが、あいにくこれは希少能力である。
他人が持つことは絶対にないし、持っているとしても位の高い精霊しか無理だろう。
すると、これを起こしたのはあの老人の顔をかぶった精霊しか居ないわけである。
村に入った瞬間あの言葉が頭に響いたのだから、確実にクエストの提示なのだろう。
そう考えたソウヤは村長の家に向かうことを決める。
…途中で武具屋によることも含めて、であるが。
目の前の村長であろう老人が、皺々の顔をにこりと微笑ませながらソウヤに頼み事をした。
その内容は極々簡単で、
「この村の地下に居る封印された魔族を殺して欲しい」
という内容だった。
どうも昔にこの村に強力な魔族が攻め込み、壊滅状態に陥ったという。
しかし、そこに現れた魔法使いによって封印だけは成功したらしいがその封印が少しずつ綻び始め、後10年後には復活するらしいのだ。
それを復活する前に殺して欲しいというのがこの村のクエスト内容だった。
「わかった」
ソウヤはそれにすぐさま頷く。
その依頼を辞退する理由は無いが、その逆は大いにあるのだ。
そしてソウヤは村長に連れられて村の地下の入り口に立つ。
その入り口はよくRPGでも見かける通りの、ダンジョンの入口のようだった。
「このダンジョンの最奥に封印されている魔族が居ます。どうかお願いします」
それだけ告げると村長は自らの家に戻っていった。
―ダンジョンの地図とかは無いのか。めんどくさいな…。
ソウヤはそう思うと頭を軽く掻いて、ダンジョンの入り口を見つめる。
ダンジョンはここから見ると真っ暗でほとんど何も視覚情報が伝わってこない。
ソウヤはそのダンジョンの中身を見て、ある予想を持ってあえて光源を出さずダンジョンに入り込む。
すると今までの真っ暗さが嘘のように消えて急に薄暗くなるまでに明るくなった。
もう一度ダンジョンから出るとやはり真っ暗に見える。
ふむ…とソウヤは呟いてダンジョンを見つめた。
「言うなれば結界か。その話に出てきた魔法使いは希少魔法を使えるのか、はたまたその封印された魔族の魔力がここまで来ているのか…」
考えたところで意味は無い…そう結論付けたソウヤは、改めてダンジョンに入り込む。
とくにその薄暗い通路には何も見えず、何も存在していないように見えた。
しかしソウヤは注意して危険察知能力を使って警戒をすると、目の前に何かが迫る音がする。
「ッ!?」
ソウヤは鍛えられた第6感と危険察知能力で頬をかすりながらその接近してきた何かを交わす。
一瞬だけ見えたそれはまさに氷の刃だった。
―ヤバイ。
そんな危険をソウヤは無意識に察知してすぐさま地魔法を使い、通路全体に壁を生成する。
瞬間、生成した壁が一瞬で砕け散り大量の氷の刃が通路全体を襲った。
「ぐっ…!?」
ソウヤはこちらに来るものをなんとか捌き、氷の刃をやり過ごす。
―なんつう威力…。下位とはいえ現段階で最高級の壁を生成したのに一瞬で破壊したぞ…。
「ッチ…」
ソウヤは短く舌打ちをすると、雪無をストレージに仕舞い『絶対盾』を取り出すとソウヤの身体がすっぽり入るほどに大きくさせる。
そして――
――一本道の通路をソウヤは一気に駆け抜けた。
瞬間、すさまじい量の氷の刃が降り注ぐが、そんなのを気にせずソウヤは突き進む。
『瞬死の森』の魔物の材料を凝縮に凝縮をしたこの盾は一瞬で現段階でソウヤの出せる最高の壁を一瞬で破壊できる氷など無いと同じものである。
目の前からすさまじい衝撃と音が鳴り響き続けるのをソウヤは感じながら、なんとか突き進んでいく。
そして200mは進んだであろうその時、ソウヤはまたもや嫌な予感がした。
しかし、その警告の強さが今までの比ではない。
―ヤバイ…。
ソウヤは身体のすべてが冷たくなっていくのを感じる。
未だに侵入者を殺そうと向かってくるすさまじい量の氷の刃を守っている『絶対盾』をその場に突き刺すと、周りを確認する。
通路はいつの間にかソウヤ2人分の通路だったのが、今では『絶対盾』でギリギリの通路と化していた。
後ろを振り向いた瞬間、死ぬ…そんな予感がソウヤにはしている。
「ッチ…」
ソウヤは舌打ちをすると片手に雪無を、もう片手に薙沙を取り出す。
そして『絶対盾』を回収する。
いつの間にか、氷の刃は来なくなっていた。
―来る…!!
ソウヤはしばらく立っていると、不意に跳ね上がるように顔を上げると両手の剣に炎と雷をそれぞれ纏わせる。
そして、足に『雷瞬速』を纏わせると、一気に吹き飛んだ。
迫る、何かの音。
それはありえぬほど早くなっているソウヤの耳にも聞こえてくるほどの轟音。
その轟音の正体は…氷の砲弾だった。
迫ってくる氷の砲弾にソウヤは即反応すると、雷をまとう薙沙で砲弾を受け止める。
凄まじいほどの衝撃、全てが吹き飛びそうなほど吹き荒れる風。
そんな中でもこの通路は全くの傷を負わず、なんのダメージも受けていなさそうだった。
―なんだ…これっ!
思わずそう思ってしまうほどの衝撃。
幾多の死線をくぐり抜けてきたソウヤでも吹き飛んでしまいそうなほどそれは威力が合った。
だが、それでもソウヤは動かない。
動いた瞬間、自身はとてつもないダメージを負うことはとっくにわかりきっていたのだから。
右手に持つ炎を纏う雪無を、ソウヤは逆手に持ちその刹那を上から氷の砲弾に向けて振り下ろす。
まるでドリルで鉄に穴を開けているような音が鳴り響く。
硬い…今までのどんな魔法の攻撃よりも威力が高く、質がよく、硬かった。
「っらああああああああ!」
ソウヤは目一杯の気合を入れて雪無で氷の砲弾を打ち砕かんとする。
そして数瞬もの時間を掛け…なんとか氷の砲弾は朽ち果てた。
キラキラと仄かにある光源を反射しながら、氷は消えていく。
時間で言えば3秒ほどの出来事だったが、反対に言えば3秒もかかってしまったことになる。
―どれだけの相手がこの先いる…?
ソウヤはこれから会う相手に冷や汗を流しながらも、薙沙を収納すると通路を歩き出す。
通路が終わり、広い部屋の中で――
「た…すけて」
――少女が、縋るようにソウヤに言った。
…全身を鎖で縛られ檻で閉じこまれたまま。
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