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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  望むもの

「…『亡霊解放(エレメンタルバースト)』!!」

 ソウヤはそう叫ぶと同時にソウヤのうちにある大量の魔力が爆発して、ソウヤの周りを包み込んだ。

「…へぇ」

 ―このステータスの上がり方…尋常じゃないわね。さすがは”あの方”が見定められた者…ということかしら。

 女性がそう思ったと同時に魔力の爆発によって出来た土煙の中から、黒い影が現れ女性に向かう。
 その刹那、無音の鍔迫り合いが起きた。
 それから1秒ほど経った後、鍔迫り合いによっておきた音が一気に響く。

 その黒い影…ソウヤは顔以外のところが全て鱗に覆われており、そして瞳は細目で紅蓮のごとく赤い。
 髪は長く、汚れた白髪となっており以前のソウヤの面影は殆どなかった。

 2秒ほど鍔迫り合いをした後、ソウヤは女性の長剣を滑らせ避けると同時に”軽く”前にステップを踏んだ。
 それと同時に振るわれたもう1本の長剣が先ほどソウヤの居た場所を突く。

 ―速いっ!?どれだけ運動能力が向上しているのかしら…!?これは、少しがんばらないとね…。

 女性はそのままバックステップを行い後ろから振るわれる薙沙を避けると、そのまま距離を取り長剣を消した。
 ソウヤはそれを見て、黒鏡破と薙沙を地面に突き刺すとしっかりと足に力を込めて女性に向かって文字通り、”吹っ飛んだ”。

 女性は片手を真上に、片手をソウヤに向ける。
 ソウヤは嫌な予感がして、そのまま右斜にステップした。
 その瞬間ソウヤの髪が少し消し飛ぶ。

「これで…終わりッ!」

 ソウヤがその声が聞こえ女性の方を向くと、その女性は光で構成された槍が10本作り出していた。
 その驚異的な事実にソウヤは背中に冷や汗を流しながらも、脳内でリミットを数える。

 ―5…。

 女性がその光の槍をソウヤに向けて2本投げ飛ばす。
 それをソウヤは2本とも余裕ある動きで避け、さらに立て続けに放たれた3本の槍を皮膚を少しずつ削りながらギリギリに避けた。

 ―4…。

 それに勝機があると見たか、女性は5本同時に光の槍を同時にあらゆる方向から投げ飛ばす。
 それが何かに当たり土煙が爆発するように発生した。

 ―3…。

 しかし、それをソウヤは巨盾『|絶対盾(ザース)』で塞ぐと、そのまま勢いに乗って女性に向かう。
 女性はそれに”嗤う”と右手をソウヤに向かって振るった。
 瞬間、全方向から光の槍が現れソウヤを襲う。

 ―2…。

 ソウヤはそれをダメージ覚悟で一直線に突っ込み、伸ばしたその先にある硬い何かを握りしめた。
 残り数十本の光の槍がソウヤを襲わんと向かう。
 それをソウヤが直撃すれば一瞬でHPは削れきるのは確実だ。

 そして光の槍がソウヤを貫かんと近づき――

「…『属性向無(ショルデグベズド・ザ・レイ)』」

 ――その数十もの光の槍を全て手に持つ物で吸収した。

「なっ…!」

 さすがに女性もそれに驚いた顔を隠せないでいた。

「やってくれると思ったぞ、雪無」

 その光の槍を吸収しきった雪無は、ブルブルとソウヤの言葉に嬉しそうに震えた気がした。
 そして…溢れるほどの光を発している雪無をソウヤは構えて一瞬で女性に向かって振るう。

「1…!!」

 女性はその輝くほどの光に満ちた長剣に真っ二つに切られ――

「さすが、ね。思わず本気を出しちゃったわ」

 ――ことはなく、ソウヤはドサリと倒れた。

 ―な…っ!?

 いきなりのことにソウヤは戸惑う。
 そして、カウントが0になった瞬間ソウヤの姿が元に戻り…その副作用でソウヤは意識を暗転させた。

 少しだけ微笑んだ女性の顔を見ながら。




「…ふぅ」

 女性は意識を失ったソウヤの顔を見ながら、緊張の後のため息をつく。

 ―何万年ぶりかしらね、私がここまで本気を出したのは。

 女性はソウヤの将来性に期待しながら、そう思っていると後ろに人影が合った。
 それを知った瞬間女性はすぐさまその後ろの人物に跪き、忠誠の証を行う。
 その主は女性を一瞥した後、ソウヤに視線を向ける。

「どうでしたか、ウリエル。かの青年は」
「はっ。とても将来性があるかと。一瞬とはいえ私に本気を出させるほどでありました」
「本気を出すことは禁じたはずですが…。ですが、そこまででしたか」

 声の主は、その手をソウヤの頬に手を差し伸べるとゆっくりと撫でる。
 そして何かつぶやくと一瞬でソウヤの『亡霊開放』の副作用を消し去って立ち上がり女性…ウリエルの方を向く。

「ウリエル、彼が目覚めるまでここに結界を」
「はっ」

 すると、一瞬でこの空間に結界を貼ったウリエルはソウヤを見つめた。

「…彼は、本当にあの者を倒せるのでしょうか」
「でも、この悲劇の輪廻を回避するにはこれしか方法が無いのです」
「……辛い、思いをさせます。彼も、そして主様も」
「このままあの者が”あの位”に立ち続けることは世界の破壊と同じ」
「存じております」
「なら、少しの可能性を信じましょう。そのために少しでも成長させるのです」

 それだけ言うとその主は一瞬でその場から消えた。
 ウリエルは最後にソウヤを一瞥した後、何かをつぶやいて消えていった。

「――強く…なってね。”神をも殺す力”を持つまで」




 最初にソウヤが感じたのは、固く冷たい石床の感覚だった。

「俺は…」

 ソウヤは、ジンジンと痛む頭を抑えながら立ち上がり…違和感を感じた。

 ―『亡霊開放』の副作用がもう治っている…?

 いつもなら目覚めとともにひどい脱力感と吐き気、頭痛もろもろの体調が悪くなるものだが、なぜか今回の目覚めは普通…否、とても良い。
 いつの間にか溜まっていた疲労が一気に抜け落ちた感覚がするのだ。

「考えられるのは…あの女、か」

 ソウヤは、自身の身体の筋肉を掴んだりして劣っていないか見てみるが全然劣っていない。
 1,2日程度しか眠っていないようにこの体の状態から思える。
 つまり、ソウヤの体調を直した奴がいるのだ。

 なら、ソウヤの体調を直したと考えられれるのは非常にレベルの高い治癒術を持った誰か。
 そしてこの迷宮は人はまずこの階層まで降りられない。
 それを踏まえた上でソウヤが一番最近人らしきものと遭遇したのは…先ほど戦った女性としか考えられないのである。

 ソウヤは静かに舌打ちをした。
 全力で戦い、負け、その上治癒術を施すという行為はソウヤ…否、戦うものとして屈辱の他に何者でもない。

 ―絶対、次会ったら倒す。

 何故か、あの女性とまた会うことが出来るとソウヤは確信していた。

「その前に…さっさと次の層へ行かないとな」

 ここはボスが存在している間は普通の魔物が近寄ることは出来ないが、ボスが居ない今なら普通に入ってくるはずである。
 しかし、ソウヤが昏睡している間魔物の被害に合わなかったのはやはりあの女性のおかげなのだろう。

 ―いつまでも、あの女が作ったと思われる魔物よけがあるとは思えない。さっさと次の層に行くに限るな。

 ソウヤはそう心のなかで結論付ける。
 そして、床に転がっているはずの自身の相棒たちを回収しようと、まず真下に落ちている雪無を撮ろうとしたところでソウヤは固まる。

「なんだ…これ」

 ソウヤの目の前に合ったのは、今までの雪無とはまるっきり雰囲気の違う長剣だった。
 今までの原型をそのまま受け継いでおり、今までと違うところは普通の冒険者が見れば一瞬で失禁出来そうなほどの威圧と、そして刀身に見える赤い十字架。
 そして刀身と鍔に刻まれた金色の文字、最後に鍔の中心に赤い宝石があることである。

 ―まさか、あの女の数十もの光の槍を吸収したから『敵の血肉を食らう』という条件に匹敵したのか…?

 しかし、思わなかった戦力の増強にソウヤは喜ぶ。

「…にしても、こんなに早く雪無が|将軍剣(ロード・ソーガ)になるとはな」

 それだけあの女の魔法が強かったということだろうとソウヤは結論付ける。
 それとともにその女性の本気と同等の強さを持つ100層のボスとは何だと恐怖した。

 ―…強くならないといけないな、もっと。

 100層のボスに勝てるのかという不安をソウヤは持つとともに、抜け出すためにそれを為さなければならないという覚悟をソウヤは持つ。

 ―最近、ここの雑魚に慣れてきて調子に乗っていた。治さないとな。

 ソウヤは、自らの未熟さと調子の乗りやすさを悔やみながら残りの剣を取り戻し、しっかりと死んだままのボスの素材を回収する。
 そして、71層へと向かう魔法陣にソウヤは乗り込み、青い光に包まれ消えていった。



 ――これが、ソウヤが”初めて”負けた戦い。
 ソウヤはそれを踏み台にし、さらなる成長を望み、強くなろうともがき始める。 
 

 
後書き
ソウヤは初めて、敗北を知る。 
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