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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  70のボス

「…」

 一切の声を出さず、目は虚ろな金属鎧を着た男はソウヤに向かって剣を振り下ろした。
 その剣は一目で確実に中級クラスの魔剣が分かるほどの、剣気をおびておりそれで斬られたらひとたまりもないであろう。
 それをソウヤは確実に現在相棒となっている雪無で受け止めた。

「はぁっ!」

 その虚ろな目などとは真逆にその男から伝わる力が酷く重く、達人の冒険者でも一瞬で押し切られるだろう。
 しかし、ソウヤはその攻撃を受け流すことで躱し無防備となったその背中に雪無を斬りつけようと振った。
 だがその男は恐るべき速度でそれに対応してソウヤの斬撃を受け止める。

 泥仕合になるかと思われたその次の瞬間――

 ――男の持つ剣が粉々に砕け散った。

 それによりよろめき完全に無防備となったその身体にソウヤは、二度目の斬撃を食らわせるべく大きく上段で構える。
 そして小さく息を吸い――

「…『斬』」

 ――一振り、上段から下段に切り下げた。

 そしてその雪無、男は縦に真っ二つに裂かれドサリと倒れこんだ。
 いかにも名鍛冶屋が作ったのであろう鎧を、一瞬でソウヤは身体ごと真っ二つにしたのである。

「…ふぅ」

 ソウヤは完全に男が動かなくなったのを確認して溜めていた息を一気に吐いた。
 そして”上級クラスの魔剣”となった自らの愛剣に付いた血を払うと背中の鞘に収める。

 ―…さすがに使えるな、新しく手に入れた『滑斬術(カツザンジュツ)』は。

 ソウヤは最近新しく手に入れたそのサブスキルの力に満足すると、目の前に見える巨大な扉に立ち尽くした。

 『滑斬術』とは、いわゆる『剣術』の上位スキルである。
 少し前に『剣術』がとうとう王神級に達したので、本来ならば達人級になれば行える上級クラスへの改変を行ったのだ。

 その種類は豊富で、ソウヤの持つ『滑斬術』はもちろんパワーによるゴリ押しを得意とする『剛刔術』。
 速さによる撹乱を得意とした『速切術』や、カウンターを得意とする『水返術』。
 さらには『刀術』と『抜刀術』なども存在している。
 『滑斬術』は撫で斬ることを得意としており、正に『剣術』の先のスキルと言えた。

 そこまでレベルアップしたソウヤだが、やはりこの巨大な扉の前に立つと不安しか湧いてこないのも事実であった。
 巨大な扉…つまりは10層ごとに現れるボスがこの先に居るということである。

「70層か…」

 ソウヤは立ちはだかる巨大な扉を見て、冷や汗を無意識にかく。
 その扉はソウヤを通らせまいとしており、同時にこれ以上は行くなと警告しているように思えた。

 60層でのボス戦は正に死闘だったのだ。
 HPは4桁まで減らされ、ほとんどオワタ式とも言える状態で結局倒すのに1時間以上かかってしまっていた。
 なにせ1発で10万以上も減らしてくるのだからその強さはありえないものだろう。
 まぁ、ここらになってくると雑魚敵の1体の強さが上級魔族クラスにまで跳ね上がっているのだが。

「…おし、入るか」

 ソウヤはストレージから薙沙を取り出すと背中に現れた鞘に収納して、目の前の扉を片手で開け入っていった。




 ボス部屋と言える場所に入ったソウヤが感じたのは、真っ暗という感想だった。
 しかし、ソウヤはその暗ささえ気にせずに剣さえ抜かずに歩き続ける。
 今この部屋に敵が居ない…そんなことを第6感がささやいているからであった。

 ある程度進むと、ソウヤを歓迎するものが居た。
 それは左右に並べられていた松明の炎の明かりで、それが部屋全体を照らしボス部屋を見せる。
 いつも通り巨剣を振るえるほど大きい空間ではなく、しかも50、60層よりさらに小さくソウヤには感じた。

 そして――

「女…?」

 ――ソウヤの目の前には、ソウヤより1,2歳ほど下であろう女性が微笑んだ表情なまま立ち竦んでいた。

 ヤバイ。
 そんな警報がソウヤの第6感が、サブスキルの危険察知が叫んでいる。
 逃げろ。
 ソウヤの本能がここから退避することを選んでいる。

 ―勝てない…!

 ソウヤは人生で初めて、本当の恐怖と出会った。

「あら、本当にここまで来たのね。”均等破壊(バランスブレイカー)”のソウヤさん?」
「…ずいぶん綺麗に言葉を話すじゃないか。……何者だ」
「貴方が知る必要はないし、知ってどうこうなる訳でもないけど…。貴方が勝ったなら教えてあげる」
「正直な話、お前と闘うより100万の魔物と戦ったほうが良い気がするがね」

 その言葉にクスクスと女性は笑う。
 それはまるで天使のような美しさを持っているが、そのほほ笑みでさえソウヤには冷や汗を流すことしか出来なかった。

「大丈夫、私が本気をだすことは禁じられているもの」
「禁じられている…?」
「そう、私の主様に」

 そう言って、女性は天高く右手を突き出す。
 すると一瞬で光が集まり、1本の剣に形作った。
 それを女性は掴むと一瞬で神々しい長剣が生まれる。

「さぁ、始めましょう。ダンスを」
「…わかった。下手だがよろしく頼む」
「大丈夫、私は手加減が上手なの…よ!」

 女性はそう言い終わると瞬時にその姿をかき消した。
 ソウヤはそれを気配だけで追うと振り下ろされる微かな殺気を頼りに雪無で防御する。
 鋭く高い音がぶつかり合う数瞬後に空間に鳴り響き、そしてそれが鳴り始めると同時にソウヤと女性は動いていた。

 ―ッチ、雪無じゃ折れるかもしれないな。黒鏡破に持ち帰るか…。
 ―気配の察知能力と瞬時での殺気を頼りにして対応…。ほんと、よくこの1年ちょっとでここまで強くなれたものね。

 ソウヤと女性、2人は同時にその場から距離をおきながら瞬時に考察する。
 そしてソウヤは雪無を地面に突き刺すとストレージから黒鏡破を取り出して、今度はこちらから突っ込む。
 女性はその意外な速さに少し驚くが、いともたやすくソウヤの斬撃を防いだ。

 そしてそのまま女性は右脚を固定して左脚を円を描くように走らせると、ソウヤに剣をふるう。
 凄まじい速度で迫る剣にソウヤは対応できていない。
 それに女性はニヤリと笑い――

「!?」

 ――驚愕へと表情を変えた。
 ソウヤは瞬時に身体を回転させると同時に黒鏡破で防いだのだ。

 ―なぜ…?あれは今の彼では防ぐことすら不可能だったはず…!
 ―危なかった、瞬時的に肉体強化を使わなければどれだけのダメージを受けていたかわかったもんじゃない…。

 そう、ソウヤはあの刹那とも言える速度の中で肉体強化を施すことで対応できたのである。
 現在の肉体強化は達王級、通常の25倍もステータスが増えるのだからその差は火を見るより明らかだ。
 まぁ、その分1秒で1000もMPを持っていかれるのだが。

「へぇ、やるじゃない。さすがは妖精最強と謳われている人ね」
「正直な話、お前こそ最強なんじゃないかと言いたくなるがな」
「あら、この迷宮の100層の敵は私の本気と同じくらい強いわよ?」

 ―冗談してくれよ…。

 ソウヤは女性が言った言葉に対して内心でため息を付いた。

 この女性はここのボスではないことはソウヤ自身知っている。
 それはこのボス部屋が照らされた時、女性の後ろに真っ黒の鎧を着た者が倒れていたからだった。

「あんた、何者なんだ?」
「んー。ヒント、貴方の敵ではないわ、むしろ味方よ」
「…」

 その言葉が嘘には、女性な真剣な表情を見てソウヤは思えず黙り込んだ。
 それから1分ほどすると、女性は不敵な笑みを浮かべ左手にも右手に持つ長剣とまるっきり同じ長剣を出現させる。

「じゃあ、続きをやるわよ」
「わかった、なら――」

 ソウヤは3本指を立てた。
 女性はそれを見て面白そうな顔をする。

「――残り、30秒でかたを付ける」

 ソウヤはその言葉とともに大きく息を吸い――

「『亡霊解放(エレメンタルバースト)』!!」

 ――といった。

 その瞬間、莫大すぎる魔力がソウヤを包み込み…爆発する。 
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