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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  1週間の休息

 ちょうどソウヤが銀色の狼と戦っている中、ルリはこれ以上ないほどの速さで森の中を突き進んでいた。
 ルリはソウヤの気配を追いながら、その場所に向かい走る。

 ―まさか、ここで『ドゥル』と戦うなんて…。本当にヴェルザンディはソウヤさんを殺す気なんですね…

 ルリはこれまでのとても”偶然”とは思えないほどの数の強敵との戦いを経験をしてルリは、ヴェルザンディはソウヤの邪魔をしているとは確信していた。
 だが、このソウヤの状態でドゥル…銀色の狼と戦わすということを気配で知り、殺しに来ていると確信したのだ。
 カルパスは|将軍魔族(ロード・ローゼ)の中でも屈指の強さを誇るジュキルのペットで、その強さは『瞬死の森』のあのボス猿より確実に強い。
 だからこそルリは早く助けに行かないとと思い、全速力で森の中を走っているのだ。

 ―…ッ!?ドゥルの気配が消えた……?

 走っている中、ルリが感じたのはカルパスの気配が突如として消えたことだった。
 その事実に思わずルリは足を止めて放心してしまうが…頭の中にソウヤのあったばかりの笑顔を思い出し、ルリはクスリと笑う。

 ―やっぱりソウヤさんはすごい。ドゥルをまさか1人で倒してしまうなんて……。…でも、まだ危険が去ったわけじゃない。反対に迫ってると言えるから…。いそいでソウヤさんと合流しないと…っ!

 ルリは頭の中を切り替えると、また全速力で走り始めた。
 なぜルリがそう考えたか、それは簡単なことでペットが何かあったら当然飼い主が出てくるのは必然だからだ。
 つまり――ドゥルが死んだ今、それを気配で知ることが出来るジュキルは怒りソウヤを殺そうと躍起になるだろう。

「…居ましたッ!」

 ルリは倒れている黒髪の男性…ソウヤを発見すると、そこに向かって全力で走り続ける。
 そこでルリは気付いた…いや、”やっと”気付いたのだ……ジュキルが倒れているソウヤに対し装着爪で殺そうとしていることに。

 ―ジュキルッ!?なんで私は気付かなかったんですか!?…届いて……!!

 ルリは咄嗟に地面に手を付くと、魔法を唱える。
 そしてジュキルの装着爪がソウヤの喉を突こうとしたとき…地面から大量の土の槍が飛び出た。

「チッ…!」

 ジュキルはその出来事に思わず舌打ちすると、危なげなくその場からバックステップして5ⅿほど離れる。
 その隙を見逃さず、ルリは急速にジュキルに近づくと黄金固地(ウォポルグ・ビプドミズ)を抜き放ち切りかかった。
 ジュキルはそれに直前で気が付くと左手の装着爪で受け止めると、流れるように右手の装着爪をルリに向かって放つ。
 ルリも腰に収まっていた|音速白銀(サイレント・ミニット)を取り出すと、そのジュキルの攻撃を止めた。

「…あなた、殺されたくなかったらここから離れなさい。私は今苛ついているの」
「私はそこに居る男性を助けに来たんです。どうか見逃していただけませんか?」
「無理ね、私のペットがこいつに殺されたんだ…。こんなひょろひょろな男にねッ!」

 ジュキルはそう強く言い放つと、ルリをはねのける。
 それに思わずルリは身体が揺れてしまうが、迫りくる装着爪を目にしてそのままわざと後ろ向きに倒れた。
 ルリの目の前を装着爪が通りすぎる。
 そのまま後ろに倒れてしまうルリは、手を地面に付いてバックジャンプを行うことで転倒を回避した。

「避けるのだけは上手なようね」
「…そうですね、速さだけは自信ありますから。でも、ジュキル――」

 ルリはそういうと、大きく息を吸い…そして吐き出した。
 そして、ゆっくりとジュキルのもとへ近づくと口を開ける。

「ソウヤさん、時間は稼ぎましたよ」
「良くやった…ルリ」

 その瞬間、ジュキルの腹から1つの炎を纏った刀が顔を出していた…ソウヤの黒鏡破である。
 何が起こったのか分からなかったジュキルは、口から血を吐きながら急いで刀を抜くために目の前に移動した。
 それと同時に背中の漆黒の翼をはためかせると空中に飛び出し、ソウヤ達を見る。

「…ソウヤとルリ、貴方たちは覚えておくわ。それじゃあね」

 それだけ言うとジュキルは去っていった。
 あの時、ルリとジュキルが戦っていたときにはもうソウヤの意識は戻っていたのだ。
 しかし立ち上がるにはまだ時間がかかりそうだったので、その間をルリが少しの間だけ時間を稼いでいたのである。
 そして、”わざと”ルリはジュキルに跳ね除けられるところを調節して、ちょうどジュキルの背中がソウヤに見えるようにした。
 その間にソウヤは少し回復したMPを使い、炎を纏わせると無防備なその背中を刺したのだ。

「なんとか…追い返せた…な……」

 それだけ言うと、さすがにMPをこの短時間に使いすぎたのか身体をふらつかせながらソウヤは意識を失った。
 釣り糸のなくなった人形のように倒れかけるソウヤを、ルリは急いで抱きしめて受け止める。

「お疲れ様でした……」

 そして、多くの枷を背負っていたというのにここまで努力したソウヤに…ルリは労わる言葉をかけ、静かにソウヤをその胸に抱きしめた。
 …叶う事もないであろう、胸を締め付けられるような気持ちをその心に秘めながら…。




 それからルリは暫く抱きしめたままに居ると、そのままソウヤを担ぐと村へ帰り危険がなくなったのを村人に言うとすぐさまソウヤをベッドに寝かした。
 そして、ソウヤが目を覚ますのはそれから結局夜が明けたころである。
 その中でソウヤは身体が動きにくなっているのを感じ、ベッドに横になったまま心の中にずっと言い続けてきた言葉をついに口にした。

「…最近気絶からの起きるの多すぎだろ……」

 まさにソウヤの言うその通りである。
 それから結局ソウヤが普通に起き上がれるようになったのは1時間ほど経った後で、2階の部屋から1階に下りた。
 ソウヤが降りてくるのを助かったことで今の今まで祝していた村人は見ると、まだ明朝だというのに一気に騒ぎ出す。
 といっても村人からして見れば命を賭して村を救った恩人なのだから、その反応も仕方ない事なのだろうが。
 そうやって村人にソウヤが囲まれているところに、ちょうど買い物の途中だったのだろうか、荷物を持ったナミルを含んだ女子群がソウヤを見つけた。

「ソウヤさん!」
「「「ソウヤ!」」」

 女子群はソウヤはを見つけるとすぐさま村人たちを押しのけて、ソウヤの目の前で立ち止まる。
 その目には安堵と心配の色を含んでいることに気が付いたソウヤは、なんとか心配させまいと言葉を口にした。
 …それが地雷とは知らぬまま。

「だ、大丈夫だ。俺はまず死ぬことはないからな」
「アホかっ!」

 ソウヤがそういうと、エレンは拳をその頭にたたきつぶす。
 ゴンッ!という容赦なしのその鉄拳にまだ完全に調子が戻ったわけではないソウヤは、その場に悶える。
 そして、多少睨むような形でエレンを見ようとソウヤは顔をあげるが…エレンが涙目になっているのを見て、一気に硬直した。

「は?い、いやいや、何でお前が泣く…?」
「この…バカ。心配をかけさせるな……っ」

 その言葉を聞いて俺は納得した、つまりエレンたちは心配をしていたのだ、心の底から。
 いつもの状態のソウヤならば心配なぞしなくとも大丈夫だろう…そういう死線を越えてきたのだから。
 しかし、今回の状態のソウヤは本当に危ない状態だった。
 希少能力(ユニークスキル)が使えない状態で、巨剣使いすら使えない状態となっている。
 その状態でいつも通りに死線を越えようとしていたのだから、それはさすがに心配しなければおかしい。
 それすらソウヤは失念していた。
 だからこそ、ソウヤは頭を下げる。

「すまない、心配させて。次は今まで以上にお前たちに頼ることにする」
「……ソウヤ、お前は私たちに頼らなすぎたんだ」

 エレンはそういうとその場から数歩下がる。
 ソウヤは未だにしゃがんだまま、しばらく経つと静かに立ち上がりその握りしめた拳で自分の頬を全力で殴った。
 周りの人々が息を呑み、静かにソウヤを見つめ続ける。
 そして、ソウヤはエレンたちをいつも通りの…いや、何かを覚悟したような表情で見つめた。

「これから、俺の呪いが解除され次第ここを出発する。準備をしておけ」
「…もう、大丈夫なんですよね?」

 ルリがそう心配そうな目でソウヤにそう聞いた。
 ソウヤはそれにわずかに笑うと、「大丈夫だ、心配ない」とそう一言だけその問いに答える。

「出発は1週間後だ。だいぶ遅れることになるが問題ないだろう」
「分かったわ、ソウヤはしっかりと休んでおきなさい、一番重症だったのだから」
「分かっている」

 その日はこれで解散となり、しばらくの休暇を得ることになった。
 そう、そんなことなぞ…出来るわけがないというのに。




「ソウヤ、…4日後にはもう旅立つのだろう?」
「そうだが、どうした急に。ナミル」

 身体をほぐすため、筋トレをしていたソウヤは突如話しかけてきたナミルにそう問いかける。
 ナミルはソウヤをじっと見つめるとその問いに答えると同時にソウヤに問うた。

「…ソウヤ、俺と今から戦ってくれないか?」
「……なぜそんなことをしたいと思った」
「興味だよ、あの銀色の狼を倒して見せた…お前のな」

 ソウヤはしばらくナミルを見続けると、溜息を吐いて細目になったその目で「分かった」とだけ言い、了承した。
 ナミルはその答えに「すまない」とだけ言うと、ついてくるように言い村はずれの広場で立ち止まる。
 ソウヤもナミルに合わせて立ち止まると、静かにナミルを見つめ続けた。
 すると、ナミルは振り返りソウヤを見て背中に担いでいる大剣を抜き目の前で構えた。

「ソウヤの本気を見られないのが残念だが……さぁ、始めよう」
「…分かった」

 ソウヤはそれだけ言うと黒鏡破とサイレンを取り出し、前のめりになる独特の構えをした。
 対してナミルの大剣は未だに鞘の中に入っており、その状態で構えている。

 ―あの大剣、”なにか”あるな…
 ―あの曲がった形をした独特な片刃剣…鋭いな。

 ソウヤとナミルはそれぞれ相手の武器の特徴を調べようとして、何の動きもない。
 もう両者が得物を抜き放ち構えた瞬間からもう勝負が始まっている…決闘とはそういうものだ。
 しかし、何も動かない…否、動いて先に仕掛けたらカウンターを仕掛けられる可能性があるので隙を見計らっているというべきだろう。
 風による木々のざわめきと動物の鳴き声しか、両者のまわりには存在しなかった。
 それが…強者同士の決闘というものなのだ。

 ―隙をみせる…か。

 ソウヤはそう思い、わざと微妙な隙をわざと見せる。
 しかし、ナミルはその大剣を構えたまま動こうとはしなく…反対に攻めようという意思も感じられないと気付いたソウヤはそのままで止まった。
 そして…1分、2分が経過したところで……ついにソウヤが動く。
 その速さは巨剣使いの状態に比べたらのろまも同然だが、それでも一般の冒険者にしてはあまりにも早すぎる速度だった。
 しかし…ナミルはその速さに”対応”したのだ。

 ―身体を逸らして交わされたかっ!?
 ―今ならっ!

 息遣いだけがその場を交わらせ、声1つ聞こえない。
 そんな中でナミルとソウヤの内は非常に緊迫していた。
 ナミルは大剣の鞘を取り外すと、ソウヤに向かって突きを放ち…ソウヤもまたそれを防御しようとサイレンを縦に構える。
 しかし、次の瞬間…ソウヤの予想だもしない出来事が起きた。

「ぐっ!」

 なんと、サイレンを通り抜けて大剣の突きがソウヤに決まったのだ。
 迫りくる大剣に対し、その条件反射で後ろに下がったので重症は避けられたが右腹と左腹には血が流れていた。
 ソウヤは鞘から抜き放たれた大剣を見る。
 その大剣は独特な形をしていた。
 普通の大剣の形なのだが、その刀身の中心だけ隙間が空いていたのだ。

 ―なるほどな…あの隙間にサイレンを入り込まさせたのか…。どうりで防御できなかったわけだ……。

 ソウヤは、サイレンを腰に装着された右鞘に入れると、黒鏡破をその手に持ったまま鞘にしまった。
 そう、『居合切り』である。
 ナミルも、何かをブツブツと呟き…そしてその大剣は結晶に包まれた。

「「次で決めるっ!」」

 強者同士の決闘は魅せるための試合でない限り…その試合時間は5分とない、早ければ1分もかからない。
 なぜか?それはその一撃が重すぎるため続ければ相手が死ぬ可能性があるからだ。
 そして…ソウヤとナミルもそれに同じく…3分にも満たない決闘にその決着が付こうとしていた…。


 そして同時刻、1つの街が陥落した。 
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