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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  魔物の軍団

 カキンッ!という鋭い金属の音がしてナミルの特徴的な大剣が地面に突き刺さった。
 それをナミルは見届けると、両手を上げる。

「俺の負けだな、ソウヤ」

 ナミルはそれだけ言うと、ふっ…と自嘲するように笑った。
 ソウヤはそのナミルの笑みが自嘲だとわかると、思わず苦笑いをしてナミルの笑いに返す。

「そう言っても、結構ギリギリだったがな」
「ソウヤはまだ巨剣…っだったか?を使っていないのだろう?」
「使えない――と言うべきだな」

 ソウヤはそういうと右手のグローブを外すと、肌が露出した右手をナミルに差し出した。
 その右手を見てナミルは微笑むと、自分の右手を露出させてソウヤの右手を掴む。
 そして、握手をしながらナミルはソウヤに向かって言った。

「本気を出せない状態だったが、それでも楽しかった」
「あぁ、お前ほど強い奴は妖精ではあまりいないからな、楽しめたよ」

 そして、ソウヤとナミルは不敵な笑みで微笑みあうと右手を離して帰路に着いた。
 ナミルはある決意をむねにしながら。




「…で、ナミルは俺たちに着いて行きたいと?」
「そうだが…駄目か?」

 それから4日後、宿の中のソウヤの部屋に集まっていたソウヤ達は、そのナミルの頼みを聞いていた。
 頼みの内容は…まぁソウヤには予想できたことだが、”ソウヤ達について行きたい”というものである。
 当然、ソウヤは構わない…というより、もしものための戦力増強となるのでありがたいくらいだ。

 しかし、軽く頷ける問題ではなかった。
 何故なら理由がそのナミルの立場に見合っていないからだ。
 ナミルはこの大陸から2名しかいない二つ名持ちだ、当然そんな人が着いて行きたいという理由でパーティーに入るのはまず周りが許さないだろう。

 それならエレンもそうだろう、と言う人もいるであろう。
 しかし、エレンはただソウヤと組む理由の中の1つだとしても、”護衛”という役目があるからこそ、パーティーを組んでいる。
 しかし、ナミルにはそういう理由がないのだ。
 そのことでソウヤは悩んでいた。

「ナミル、お前は俺たちと着いて行くことのデメリットは分かっているのか?」
「もちろん考えてある。その上で…だ」

 ナミルは覚悟を持った瞳でソウヤを見つめた。
 その覚悟に、ソウヤは納得出来るか多少不安…というよりとても不安になりながらも話を続ける。

「お前が俺たちのパーティーに入るということは、お前が自由に動けなくなる。つまりそれはそれだけ危険に合っている人を助けれなくなることと同義だ」
「だが……」

 ソウヤのその的確な言葉に、それを分かっていたナミルも思わず言葉を詰まらせる。
 顔を下に下ろし、手をフルフルと震わせているナミルは、ガバッ!という音でも付きそうな勢いで顔を上げた。

「ソウヤに着いて行きたいんだ。なんとなく俺には分かるんだ、ソウヤがこれからとても壮大な事をしなければならないことを。そしてそれはこの世界…いや、他の世界の人にだって出来やしないことなんだ。だから…俺はソウヤを手伝いたい。それがこの世界の人類を助ける手段だと思うから」

 普通の人なら、「なんだそれ、頭イカれてるだろ」なんて思うだけで済むだろうが…それを聞いたソウヤと、そしてルリが驚いた表情をした。
 主にソウヤが驚いたのは、普通ならありえないことを言うナミルの言葉に、真剣なものが含まれていて…それが嘘だとは到底思えなかったからだ。
 それに対して、”色々なこと”を知るルリは、ナミルの並外れた直感力に心底驚いていたである。

「…だが、それでもダメだ」

 しかし、ソウヤはナミルの頼みに反対した。
 ソウヤは神様でも何でもないので、手が数十本あるわけでもないし分裂出来るわけでもない。
 チートなソウヤであっても、手助けできるのは限られた者のみなのだ。
 しかし、ナミルの助け船を出したのは意外中の意外にも、ルリだった。

「ソウヤさん。私はナミルさんにパーティーに入ってもらいたいです」
「…ルリ?」

 ソウヤはいつもは無言で話を聞いているルリの、その言葉に頭を傾げた。
 ルリのその目は本気そのものであり、気持ちに揺らぐ姿勢がないのをソウヤは感じ取り…「はぁ…」と溜息を吐く。

「ルリ、それが何を意味するのか分かっているのか?」
「はい。ですが”あの方”に勝てるのはソウヤさんしか居ませんから」

 ルリのその言葉に出てきた”あの方”というのは誰の事だろうか…?とソウヤは頭を捻った。
 しかし、たとえルリの頼みとはいえナミルを自由に出来ない事で被害が増えるのは好ましくないとソウヤは思う。
 そうしてうんうん唸っていると、村の男性が汗を垂らしながら焦ったようにソウヤ達に近づいてきた。

「はぁ…はぁ…!き、聞いてくだせぇ皆さん!!」
「…?どうした?」
「レ、レーンが…か、陥落したっ!!」

 その男性の言葉に、数瞬の間ソウヤ達は驚いた表情のまま固まる。
 この大陸最大の都市であり、もっとも強き冒険者たちが集う場所であったその場所が陥落したというのだ、驚くなと言う方がおかしいであろう。
 そして、この硬直から抜け出したのはやはりというべきか、ソウヤだった。

「…どうして陥落したんだ?」
「魔族が現れたんだっ!しかも|将軍魔族(ロード・ローゼ)が居るんだ!」

 興奮冷めぬ様子でそう託したてる男性は、それだけ言うと息を切らしてつらそうな表情をする。
 わざわざ、それを伝えるためにここまで疲れるほど走ってきてくれたのだろう、とソウヤは感嘆の声を心の中で上げた。
 ソウヤは水を用意して、男性に渡す。

「す、すまねぇ…恩に切るぜ……」

 そういうと、男性をコップに入った水を一気に飲みほすと近くに有った椅子に身体を預けて、話を続ける。
 その頃にはもうナミルや、エレン達も硬直から抜け出していたようで、真剣なおもむきで話を聞こうとしていた。

「陥落した話が届いたのはついさっきで、陥落自体は4日前だったらしいんだ」
「…こちらに向かっているのか?」
「あぁ。途中あったいくつかの砦もすぐに崩壊しちまって……クソッ!」

 非常に憎たらしい表情で、男性は椅子の腕置きを叩く、恐怖なども混じっているのをソウヤは見逃さなかった。
 しかし、この状況で恐怖しない方がおかしいというものであろう、いや、反対に混乱していないだけこの男性の神経は図太いのだろう。
 ソウヤは男性の顔をしっかりと見つめたまま、次に気になる点を告げる。

「魔物の数は分かるか?」
「あぁ、そりゃああんなに目立って行進してりゃあ大抵の数は分かるさ…」
「それで、何体いたんだ?」
「約1万、それが魔物の数だ。それに加えて下級魔族、中級魔族とそろってやがるらしい」

 ソウヤは、めんどくさいことこの上ないこの状況に溜息を吐かざるを得なかった。
 そして、しばらくソウヤは目を閉じて試行錯誤をすると、目を開きエレン達に告げる。

「エレン、食料は買い漁ったか?」
「あぁ、問題ない」
「なら全員俺に着いてこい。…当然ナミルもだ」
「別に良いが…。まさか、あの数を俺たちだけで?」

 ソウヤはそれにニヤリと不敵な笑みを浮かべると…急に軽い足取りになり外に躍り出る。
 それに着いて行った男性含め全員は、ソウヤが広場の中心に立っていることに気付く。
 そこのソウヤは、通常の生活用の服ではなく…完全武装を行った姿だったのだ。

「この村の人、よく聞け。ここから立ち去る必要はない、なぜなら――」

 ソウヤはそれだけ言うと、黒鏡破を鞘から抜き出し…空間魔法により巨大化させた。
 それをゆっくりと振り上げると…今までにない重圧を持った声でソウヤは声を張り上げる。

「――『|均等破壊(バランスブレイカー)』のソウヤが!ここに居る者すべてを守り抜くことを誓うからだッッ!!」

 ソウヤが本来ならば厨二臭いと言って、嫌っていた二つ名…『均等破壊』。
 『均等破壊』とは、この世界が保っている均等…つまり世界のバランスを破壊する者として名付けられた二つ名。
 それは、二度とだれにも着く筈のない二つ名だった。
 なぜなら、その二つ名を持つという事は…”神にも抗う力を持つ”と同じ意味を持っているからだ。

 それを、ソウヤは公言し、なおかつ村の人々がギリギリ気絶しない程度の重圧をむけることにより、混乱していた村の人々を抑えたのである。
 そのあまりな強さを誇ると言われるソウヤが、此処にいる…。
 そういう希望を持たせるためソウヤはあえて嫌がるこの目立つということをあえてしたのだ。

「俺は今から、向かっている約1万の魔物を…”虐殺”してくる。安心しろ、必ず守り抜いてやる…!」

 その威圧、纏う雰囲気、人が扱うものではないと断言できる5m強はある巨刀、そのソウヤの全てが村の人々を恐怖させ…同時に希望を持たせた。
 数瞬の後…その場を破裂させんとばかりに拍手を送る人たちで広場は溢れる。
 それを見ていたエレン達も感嘆の声を漏らしていた。
 ソウヤは巨刀を元の大きさに戻すと、広場から離れてエレン達に告げる。

「さぁ、襲いくる”不運な魔物達”を”虐殺”しようじゃないか」

 そのソウヤが通常では見せない―演技とは言え―不敵な笑みにエレン達は微笑むと、元気よく返事をした。
 ソウヤ、呪いを完治し…完全復活である。




 現在ソウヤは皆が居る馬車から降り、全力疾走中である。
 なぜなら、ソウヤが注意をひきつけておく間に、エレン達が左右から下級、中級魔族を倒す予定だったからだ。
 何故上級魔族がいないのかと聞かれば、あの独特な大きさゆえだろう。
 下級、中級魔族は大きくても4ⅿあるかどうかで、反対に上級魔族なぞ大きさは計り知れないのだ。
 将軍魔族は下手をすれば下級魔族より小さく、2,3ⅿほどしかない。

「…居たッ!」

 2㎞ほど走っていると、ソウヤの目に巨大な肉体の塊がこちらに向かって歩いてきているのが映った。
 しかし、あれでもあの1万という数には及ばないのがよく分かる。
 多分、あれが先行部隊なのだろうとソウヤは当たりを付けた。

 通常の魔物は非常に知性が薄く、本能のままに動いていると言える。
 だが、下級とはいえども、魔族のものが率いると一気に魔物の知性が厚くなり妖精と同じ知能を持つようになるのだ。
 なので、こういう風に先行部隊が現れてもソウヤは全然驚かなかった。

 ―大体先行は1000程度か…。なら右翼部隊と左翼部隊合わせて大体4000、本体は5000くらいかな。

 ソウヤはそう分析をすると、まだその部隊から離れているというのにわざとその巨刀を出現させる。
 すると、まばらだった視線が一気にソウヤの持つ巨刀に集められた。

「…さぁ、来い。相手をしてやる」

 ソウヤの第一段階での仕事…それは先行部隊に対して大暴れしてとにかく目立つことである。
 目立てば目立つほどエレン達が安全に右翼と左翼部隊にたどり着くことが出来るのだ。
 大きく、太く、なおかつ目立ちやすいこの光沢を放つ巨刀は、目立つのにこれ以上ないほどの存在感を出していた。

 ソウヤは挑発するように魔物の軍団ボソリと言うと、それが聞こえたのか否か、一気に魔物の軍団がソウヤに押し寄せる。
 それに対し、静かにソウヤは微笑むと上に掲げられた巨刀を神の鉄槌のごとく振り下ろした。


 戦闘(・・)開始である。 
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