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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  遭遇

「いってらっしゃいませ、ソウヤ殿」
「あぁ、いってくる。留守は頼んだぞエレン、ルリ、レーヌ」

 結果、ソウヤ”だけ”は村長の依頼を受ける事になった。
 なぜエレン、ルリ、レーヌは留守番させておくという結論にソウヤが至ったのかというと、単純に”もしも”のためだ。
 もしかしたらソウヤがナミルを探している間に、ナミルが戻ってくるという可能性が存在しており、もしかしたら突然変異が村を襲うかもしれないからである。
 ソウヤがもしナミルを連れて帰ってきて村が焼き野原ではどうのこうもないのだ。
 さらに、魔物が活発だということはそれを束ねる者がいてもおかしくない、それと相手をする時エレンたちが危ないからという理由もあった。

「…とにかく、今はナミルという奴を探すことに専念しよう……」

 正直、ソウヤとしてはエレンたちの身の確認のために一緒に連れて行きたかったがわがままを言えるほどソウヤは幼くない。
 その方法が一番村を危険にさらすことになるのは明白なのだ。
 ソウヤはエレンたちなら大丈夫だ…と自分に言い聞かせてナミルが向かったという巨大な森の中に入っていった。
 ―良く森には縁があるよな…。
 そんなことを考えながら。




「ガルゥ……」
「よしよし、良い子ね。ドゥル」

 小さな洞窟の奥、その中で1人の女性が人間1人分の大きさがありそうな銀色の狼の頭をさすっていた。
 女性は艶めかしい雰囲気をその身体から滲み出させており、その容姿は男性の本能を大きく揺さぶるほどの美しさを醸し出している。
 しばらくの間銀色の狼をなで続けていた女性だが、不意になでるのを止めて洞窟の外をしばらくの間ながめた。

「…ドゥル、夕食は魔物だったけど朝食は新鮮な生き肉を喰えそうよ」

 女性はそれだけいうとニンマリと嬉しそうにその口角を吊り上げ、それと同時に歓喜極まりないような声で狼は吠えた。
 今、この森には1人の獲物がいる。
 しかし…この時、その獲物は探すのが面倒な事になっていった。
 だが、その獲物より下手をすれば美味であろう人物が森に入ろうとするのを女性はその感覚だけでとらえた。
 そして狼と女性の獲物は今…2人に増える。
 目標は、いわずもがなナミルとソウヤの2人だった。




 ソウヤは1人で因縁深いとも言える森の中を歩いていた。
 しかしながら、ソウヤはただ歩いているだけではない、周りにしっかりと気配があるかどうかも確認しながら歩いている。
 『戦士』などの戦闘職はかならず気配を察知することが出来るようになるのだ。
 その気配を探れる範囲、その詳細はそのメインスキルの熟練度によって決まっている。
 ソウヤの『戦士』…MMORPGのいわゆる一次職とそこから進化できる二次職では熟練度の差が物を言うわけでもない。
 一次職が達人級の場合、それと同じ効果を持てるのは二次職の中級で、その差は大きいといってもいいだろう。

 ―俺の『戦士』の熟練度は達王級…大体3㎞ほどなら探れるはずだからもう見つかるはずなんだけど…。

 しかし、その大きな差は熟練度の差を開くことにより効果は左右する…ソウヤのように。
 この森の面積は大体地図を見て計算したところ、約36㎢の約縦横6㎞だということは見当がソウヤにはついていた。
 ソウヤの探れる範囲は3㎞なので、そこまで探すのに時間はかからないと踏んでいたソウヤだったが、3時間経った今でも見つかる気配すらない。

 ―ここまで探して周りに魔物しかいないのは…。もう、此処には居ないか、それとも……。

 嫌な想像をソウヤはして、苦い顔をした。
 頭をブンブンと振って、ソウヤはその嫌な考えを吹き飛ばしさらに考えていく…。

 ―ここの魔物はそこまで強くはないから、二つ名を持っているナミルという女性がこんなところで死ぬわけがない。ならなぜ…?

 考えれば考えるほどに訳が分からなくなっていく…。
 そこで、ソウヤは元々居た世界のあの大先生、wik○のβ版の攻略データを何となくだが探ってみることにした。
 運が良かったのか、ソウヤはあるスキルにたどり着いた…この状態を納得させられるスキルに。

 ―『武闘家』の二次職で発生する『気術』を使えば気配を消せる…。すくなくともメインスキルの差を考えてもその熟練度は達人級はないと気配妨害は…だけど……。

 『気術』…。
 それは『武闘家』のメインスキルが進化させた、いわゆる二次職になった瞬間に得られる比較的簡単な特殊能力(エクストラスキル)だ。
 簡単に言ってしまえば『魔術』の派生バージョンと言えばいいのだろうか、そんなものである。
 基本的な術はMP,HPともに消費せずとも使えるが、その効果を発揮させるには『魔術』より長い時間が必要なのである。
 主な『気術』はHP自動回復を早める『瞑想』などが代表的なのだ。
 さらに、作者側は「条件が揃えば『仙人』になる『気術』が使えるようになる」と言ったことがあり、ベータ版では多数の人々が挑戦していた。
 と言っても1年足らずでは『仙人』になることは無理だったようだが。
 その『気術』の中の1つに『潜在』というものがあり、それを使うことで一定以下の効果を持つ気配に探れる心配は無くなる。
 ソウヤはそれを使ったのではないかと思ったのだ。

「……はぁ」

 ソウヤはその確率の低さに溜息を吐いた。
 基本、この『現実となったゲームの世界』でスキルの熟練度をあげるのは至難の業である。
 『ゲームの世界』ならば死んでもデスペナなどが現れるだけで特に現実に被害は出ないと言えるのだ。
 しかし、この世界はもう現実となってしまった。
 外に出れば確実に迫るであろう死へのプレッシャー、そして死ぬかもしれないという恐怖感。
 それらが出てしまい、熟練度が上がりにくい弱い敵ばかり倒してしまって、結果、スキルの熟練度をあげるのは至難の業となっている。
 ソウヤの場合、メインスキルやサブスキルのチートによって助かり、その報酬として超人になってしまったのだが。
 とにかく、この世界では『熟練度上げ=死の近道』という方程式が出来上がってしまっているのだ。
 なので熟練度を達人まで上げるのにどれだけ時間がかかるか分かったものではない。
 だからソウヤは可能性が低いと思ったのだ。

 ―でも、正直これしかないんだよな…。一応頭に入れておいて、しっかりと注意しながら進んでいくとするか……。

 ソウヤはまた溜息を吐きながらその同じような景色な森を歩き続けるのだった…。
 何となく感じる、強大な気配を身体にひしひしと伝わるのを感じながら……。




 深い闇の中を、1人の女性が漂っていた。
 肌の色は微妙に赤く染まっており、その背中の羽根は燃え盛る炎のように揺らめいているが分かる。
 漂うショートカットの髪は紅蓮のごとく赤く染まって、暗闇の中で一層目立っていた。

「………か!?…っか…し…!」

 その女性は、若い男の声によって意識を取り戻し始める。
 そして、重い瞳をなんとか持ち上げ…その銀に光る瞳をそっと開けた。

「ん…」

 森の中でたった1つだけの大きな滝の内側の洞窟の奥でソウヤは眠っている女性を見つけ、起こしたのだ。
 その外見的にガルフであろう女性が瞳を開けるのを見て、ソウヤは外側は顔色1つ変えず、しかし内心は大きく安堵した。
 まだ、その女性は意識が完全には回復していなくその洞窟の暗がりの中でも目立つその銀の瞳は虚無を見つめたままだ。
 ソウヤは出来るだけ早く話を聞きたかったので、鋼魔法で魔物の角などの形を変え、コップに変化させて水魔法で水を汲み、それを女性に渡す。
 その女性はそれをボーッと見つめたまま、その水を一気飲みした。

「……!?」

 冷たいその水で意識が覚醒したのか、急に目を大きく開け、その女性はソウヤからいきなり距離を取る。
 ソウヤが女性に視線を合わすと、その女性はソウヤを睨んだ。
 どうやら意識は回復したようだとソウヤは安心して、溜息を吐いてから無表情のまま口を開けた。

「…どうやら意識は戻ったみたいだな」
「……お前は誰だ?…いや、名乗るのはこちらからだな、俺はナミルと言う。お前は?」
「ソウヤだ。それより良かった、お前が見つかってな、村の人々が心配していたぞ」

 女性…ナミルはアルトの声で素っ気なく言い返す。
 ソウヤがそう話しても、ナミルの瞳からは疑いの視線しか感じずソウヤはどうしたものかと内心悩み始める。
 そしてしばらくの間静寂の時が流れ―――その静寂を壊したのはまるで空気を読んだかのような腹の虫の音だった…誰かは言うまでもあるまい。

「はぁ…。保存食でいいなら持ってきている。それでいいなら食べるか…?」
「…有難く貰う事にしよう。…毒は入っていないようだしな」

 冒険者や旅人には必須な『危険察知』をナミルは無意識の内に使って毒がないと感じると、それをもらうことにした。
 ナミルがソウヤからもらった保存食は栄養を食べやすいようブロック状に圧縮された、水を含んで食べるものだ。
 味は保証できないが、その10㎝のものを食べるだけで半日分のエネルギーを得られることが出来るという栄養バーの劣化版のようなものである。
 少々高いものなので、一瞬ナミルは食べていいのかと悩んだが、もらったものを返すのは申し訳ないので食べることにした。
 ソウヤは固い劣化栄養バーを水を含みなんとか食べているナミルを見て、ふとまず安心すると周りの気配を探る。

「…んぐっ。ふぅ…すまなかったな、ソウヤ…だったな?」
「あぁ、ソウヤだ。それと保存食は気にするな、まだたくさんあるからな」
「そうか」
「そうだ。それよりナミル、少しめんどくさい事になりそうだ」

 それを聞いたナミルは首をかしげた。
 ソウヤはより正確に気配を探るために閉じていた目を、ゆっくりと開けて頭をガリガリと掻く。

「滅茶苦茶強い気配がこっちに急速に向かってる。逃げるぞ」
「お前は”あの”ソウヤなのだろう?気配で大体わかるが…ならなぜ戦わん?勝てるだろう?」

 ソウヤはそれに関しては何も言えず、無言で流れ出る滝を見つめたまま無言になり…そしてその問いに答えた。
 苦虫をつぶしてしまったかのような苦い顔をして。

「…訳あって今、全力は出せない。全力を出せば分殺は出来るだろうが、今は無理だ。諦めてくれ」
「……分かった、ここから逃げるぞ」

 ナミルはしぶしぶと言った表情でそう言うと、その洞窟から外に出ようと足を運ばす。
 が、そのナミルの肩をソウヤは掴むと…ひょいっという音がでそうなほど簡単に、ナミルをいわゆるお姫様だっこをした。

「なっ!?」
「全力を出せなくても、お前よりは早い。このままいくぞ」
「…っく。せめて背負え…!」
「……無理だ」

 それだけ言うとソウヤはとてつもない速さで走り出した。
 何故ソウヤが本来の力を出せないかというと、それはあの時の 『亡霊解放(エレメンタルバースト)』のせいだ。
 本来ならスキル使用不可の呪いが付くのだが、今回は1週間メインスキル使用不可でそれから2週間プラスでサブスキル不可というものに変化していたのである。
 更に…希少能力使用不可が2週間設定されており、あと最低でも1週間近く希少能力(ユニークスキル)が使えないのだ。
 だが、さすがにソウヤはその細かく分けられたのを有難く思うことにした。
 今から、2人の逃走がはじまる…。
 1体の獣に追われるという…鬼畜な鬼ごっこの始まりだ。 
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