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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  村とナミル

「ソウヤ殿、我らの街を守って頂きありがとうございましたっ!」
「礼は良い。それではな」
「はい、また出会えることを心よりおまちしております!!」

 あの魔族の襲撃から3日ほど経ち、旅の準備もできたソウヤたちは大量の人々に見送られながらその街を後にした。
 本来なら『亡霊解放(エレメンタルバースト)』のリスクであるスキル使用不能が解けてから、出て行った方が良いのだが、早めに街から出たかったので待つことなく旅だったのだ。
 見送る人々を後目にソウヤは馬車の中の少し柔らかい座席に座ると、手綱を握っているエレンに問いかけた。

「エレン、レーンって後どれくらいで着くんだ?」
「この町からなら休まずなら2週間後だな。休むとしたら…1ヶ月ちょっとはかかる」

 その間に小さな町や村があるからそこで休憩を取ろうとエレンは、レーンに行く道順を言っていく。
 そこで少し疑問に思ったソウヤは頭をカリカリと掻いて、エレンの説明が終わったところで疑問を言った。

「そういえば聞いてなかったが、レーンってどんなところなんだ?」
「ガルフの中心都市であり、ガルフで最も多く流布している宗教の中心地でもあるところよ」

 ソウヤの疑問にすぐさま答えたのは冒険者歴がこの中で最も多いレーヌだった。
 「そうなのか…」とソウヤが答えると、さらに気になる事が出てきてレーヌに再び問いかける。

「その宗教ってのは何なんだ?」
「さぁ?それはさすがに知らないわね」
「確か『勝者は敗者を習え』という方針で『弱教宗』とかいう名前だったな」

 エレンが宗教について言うとレーヌは「へぇ、そういうのね」と感心したように言う。
 ソウヤは自分たちがいた宗教とは全く違うスタイルの宗教で、ソウヤには珍しく、外見でもとても驚いているのが分かるほど驚いていた。

「なら、エレン。他の大陸の宗教も教えてくれないか?」
「ん?別にいいが」

 移動中、特にやることも何も無いのでソウヤは話す内容として、宗教のことに尋ねる。
 エレンは頷くと暫くの間口に右手を当て、しばらくすると話し始めた。

「ではまず私たちシルフの主な宗教だが…これはエルフの宗教と似ていてな。『風の神ゼピュロス』を崇めると風が味方になる。『風神宗』というんだ」

 ほぅほぅとソウヤは頷くと、「なら――」とエレンに問いかける。

「エルフの宗教は森とか、木の神を崇める宗教なのか?名前は――ウィルビウスとか」

 それを聞いたエレンが驚いた顔をして、ソウヤに顔を向けて頷き「よくわかったな」と感心したようにそう言った。
 それにソウヤはその理由を話すことにする。

「俺たちの世界にも神がいるかどうかは知らないが、神話とかがある。それで神の名前が俺らの世界と同じなんだ」
「そう…なのか」

 「ふむ…」とエレンが頷いて何かを考え初めて、説明が途中なのを察したのかレーヌが話を持っていく。

「私たちの宗教はとくに存在しないのよ。ただ、一応私たちのモットーとしては人を出来るだけ助けるってことだけね」
「そうなのか。お前らのところでも水の神とかまつられているのか?」
「えぇ、まぁね。名前は――ウラノスだったかしらね」

 ソウヤがそれに頷くと、そこで話がすべて終わってしまった。
 エレンとルリは両方ともなにか考えているように見える、レーヌは宗教は自分の所しかしらない。
 その状態で暫くの間沈黙が生まれるのはもはや必然としか言いようがない。
 しばらくの沈黙を破ったのはエレンだった。

「……ソウヤは、ヒューマンの宗教を知っているか?」
「なんだ?鋼の神などしらないんだが」

 エレンはソウヤのその反応を聞いて少しホッとした表情を浮かべる。
 そこで、それまで黙っていたルリも重たい表情で口を開けた。

「私もそれは叔父に聞いたことがあります…最低な宗教だとか」
「…それだけひどいのか?」
「はい」

 それを聞いて同じ種族であるソウヤはいい気分はしなかった。
 エレンは空を見つめながら口を開く。

「最低な宗教だよ。自分達の種族こそ至高であり、他の種族は亜人で魔物の一部である――とね」
「……それは、アホな宗教だな」
「ただ、ヒューマンは能力はそこまで高くないけど、人口が多いし技術力も高いから。調子に乗るのも仕方ないけどね」

 ソウヤは頭を抱えて、「はぁ…」と大きく溜息を吐いた。
 それから聞いた話だと、昔はそうではなく反対に友好的な種族だったそうだが、『古代文化(イングリッド)』を発見してから一気に調子に乗り始めたという。

「その『古代文化』っていうのは主になんのことなんだ?」
「魔力によって動く機械や、今では人間魔法(ヒューマスト)と言われる鋼魔法の元の魔法とかですね」

 その人間魔法とはそのヒューマンの人々の中でも能力が高いものと低いものが分かれている。
 低いものは簡単な加工しか出来ないし、高いものは地下にある鉱石を加工した状態で取り出すこともできるのだ。
 ソウヤはその鋼魔法は中くらいの能力で、熟練度を最大まで上げれば高い者と同じ能力が使える。

「ルリは自分の宗教が何か知っているのか?」
「いえ…」
「ルリ達の種族も主な宗教はないんだ。自由気ままにがモットーだからな」
「そうなのか」

 宗教のこともある程度は話を終え、各自楽な体制を取ってくつろぎ始める。
 それから数時間後、昼飯を食べ終えたソウヤ達だが、そこでソウヤがエレンに問う。

「今日は野宿なのは知っているが、それからどうなんだ?エレン」
「ん?あぁ。明日近くにある村で泊まらせてもらってから、そこからはしばらくは野宿だな」
「了解」

 ソウヤはそれだけ言うと、明かり兼魔物避けであるたき火に木の枝を投げ込んだ。




「ようこそいらっしゃいました、ソウヤご一行殿。私たちの村へ」

 あれから1夜を野宿で過ごしたソウヤたちは、泊まると言われていた村へ来ていた。
 村へ着くと村の中年より少し年下くらいの男性が、そう丁寧にそう良い頭をゆっくりと下げる。
 やはりというか、ソウヤ達の噂はしっかりと耳に入っていたようで名前を知られていた。
 都市であるレーンに行く旅人が多いのか、とても手慣れた様子でこの村にある宿―通常は宿などない―に案内される。
 そこでソウヤたちは案内の道路の畑を見て感嘆の声をあげた。

「きれいだな、この景色は」
「有難うございます、ソウヤ殿。我が村自慢のナム畑で御座いますから」

 ソウヤ達の歩いている道の両端の景色は、黄金色に輝いておりまるで秋の小麦畑のような景色だった。
 そこでソウヤは思い出した、今はこの世界でいう12月でほとんど作物は育たないはずなのだが…と。

「そのナムというのは冬の作物なのか?」

 とソウヤは案内している男性に問いかけると、男性は苦笑いをした。

「ソウヤ殿と同じ異世界人にはよく言われますが…このナムという作物はとても根太い生命を持っていて、やろうと思えば四季のすべてに収穫できるとても画期的な作物なのです。味も意外といけますよ」

 「まぁ大体の村は冬に収穫できるようにしますが…」とナムの説明は締めくくられる。
 しかし、ソウヤは少し違和感をそこで感じ、そして気が付いた。
 ナム畑の端の部分であろうところのナムがなくなっているところを。

「そういえば、ナム畑の端に荒らされたような形跡が見えるのだが、魔物のせいか?」
「あぁ、よくお気づきになられましたね。多分魔物でしょう、最近魔物の動きが活発になっているので」
「大丈夫なの?」
「えぇ、先日着て頂いたナミル殿にお頼みしました」

 ナミルという名前を聞くとエレンとレーヌはほっと安堵の溜息をつくと「「安心ね(だ)」」と口を合わせて言った。
 しかし、ナミルの存在自体を知らないソウヤとルリは頭の上に?マークを浮かべる。
 それに気付いたエレンはソウヤとルリに向かってナミルの事を説明した。

「ナミルというのはガルフ族の一人のことだ。ガルフ族特有の高い筋力を持ち女だというのに大剣を軽々と持ち上げる事が出来てな、その強さは世界中に名を残しているほどだ」
「そんなにすごい人なのか…」
「えぇ、二つ名も持っていて『弱守強者(シュミヘルティンロ)のナミル』と言われているそうよ」

 二つ名の由来はナミルは非常に高い戦闘力を持ちながらも、その強さに溺れることなく弱き者を守るために全力を尽くしていることからついたそうだ。
 今回の魔物の件もナミルは笑顔で受けてもらい、さらに報酬もいらないといったらしい。

「優しい人なんですね…」
「そうだな」

 それでソウヤとルリは感心していると、男性が止まり2階建てという村では村長の家の次に大きい建物を指さした。

「ここが旅人専用の宿です」
「すまないな、忙しいところ」
「何、噂でとても有名な人たちがたくさん私たちの村に留まってくれるだけでも思考の喜びです」
「そう…か。それではな」
「はい」

 ソウヤは何か思うところがあったのか、男性にそれだけ告げると宿に入っていった。




 次の日の朝、外が騒がしく目が覚めたソウヤは獣の皮をなめて作ったのであろうカーテンを開け、外の様子を見る。
 村の中心である小さな広場で沢山の村の人々が話し合っているのが目に入り、ソウヤは何事だと急いでいつもの服に着替え外に出た。
 外には一人の…多分村長であろう老人が台の上に立って村の人々を静まらせるのが目に入る。
 ソウヤは嫌な予感がして、人々の間をかき分けて村長の前へとその姿を現した。

「村長…だな?どうしてこうなっているのか聞きたいのだが?」
「ふむ、ソウヤ殿かね……どうじゃソウヤ殿。わしらの村の依頼を引き受けてもらえんかの?」

 依頼という言葉をソウヤは聞いて、さらに嫌な予感を膨らませ多少寝ぼけていた顔がいつもの無表情になり始める。
 村長はそのことを知ってか知らずか、率直にソウヤに申し出た。

「単刀直入に言うの。お主とその仲間で”行方不明”となったナミル殿を探してきてくれんか?」

 ソウヤの顔がその瞬間驚きに染まる。
 大陸で18人しかいない―本当はもっといるが―二つ名持ちであるナミルが行方不明になったと聞かされれば、その表情を驚きに染める理由に申し分ないだろう。
 そこでソウヤは案内をした男性の言葉をおもいだした。

『最近魔物の動きが活発になっているので』

 魔物が活発する…ということは魔物の上を行く存在がいるという事にイコールする。
 下級魔族などは二つ名持ちだと倒すこともできるので、下級魔族の存在はないといって良いだろう。
 中級魔族も多数居れば倒せないとはいえ逃げて村人に伝えることも可能なはずだ。
 つまり、それを行く存在…つまり突然変異か、上級魔族か……それとも将軍魔族(ロード・ローゼ)の3つに分かれる。
 まためんどくさいことになるな…とソウヤは内心そう愚痴を吐いた。 
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