グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
2節―運命が許さない旅―
ソウヤの苦悩
森の中心の広場のような場所。
そこは前のような綺麗な森林が広がっておらず、そこらかしらに火が燃え移っており地獄のような絵を作り出していた。
その場所で舞う2振りの巨大な刀と響く重い金属音。
今もなお、ソウヤとルクスはその巨刀を手に戦っていた。
「獄蓮火よ、焼き尽くせッ!『獄蓮火葬』」
ルクスが呪文を唱えると、周りから20個ほどもあるこぶし大の青い炎の球が現れ、ソウヤへと高速で向かっていく。
ソウヤはそれに特徴の1つである高速の反射神経を使い、出来るだけ早く言葉を綴った。
「無よ、属性を吸収せよ、『属性向無』!」
ソウヤがそう言って巨刀を構えるとほぼ同時に20もの火球がソウヤにぶつかりその場を地獄の火の海と化した。
ルクスはそれに追撃をせんとその火の海へ突っ込みその巨刀…黒鏡破を出来るだけの力で横に振るう。
周りの火が全て消え去る中、そこにはソウヤの姿はもうなかった。
「っらぁあ!」
突如として上からソウヤが急速にルクスに向かい、その巨刀を振り下ろす。
「ッ!」
ルクスはそれに反応して、その巨刀を振り上げ応戦しようとする。
しかし、ソウヤの巨刀には『獄蓮火葬』の威力が備わっており、ルクスは完全に不利な状況だったので、巨刀よる応戦を数秒持っただけだった。
ルクスはその場から全速力で飛びのき、難を逃れる。
煙がソウヤを取り巻く中、ソウヤは呪文を口にした。
「走れ雷光!『雷瞬速《ライデン・ストル》』!」
突如、音速を超えた速さでソウヤがルクスの元へ走って行った。
ルクスは生き物の域を超えた反射神経で突っ込んでくるソウヤの突撃を紙一重でかわすと、その剣をしっかりと構える。
ソウヤも『雷瞬速』の効果切れたのか、その場で巨刀を構えた。
「「地獄の青火よ、燃やせ…『獄青炎の剣』!」」
そして同時に『獄青炎の剣』を発動させて、ほぼ同時にその場から突撃を行った。
2人で40mほどのさを8mほどまで縮め、そしてルクスは横薙ぎを行い、ソウヤは上段からの振り下げる。
そのとてつもないエネルギーを秘めたほぼ同等の威力を持つ2振りの巨刀は、その時…ぶつかった。
その瞬間、小さな森の中心が超濃密度の熱風を起こして、小さな森の全てが火の森と化した。
その中心で必死にせめぎ合うソウヤとルクス。
いつの間にはルクスは余裕のない笑みを起こしていた。
「そうだ、これだ…お前こそ私が最強になるために必要な生贄だッ!」
「だれが、はいそうですかって…生贄になるかよッ!!」
1人は最強になるという欲望のため、もう1人は出来た仲間を守るために必死に闘っていた。
そこで数秒ほどせめぎ合っていたが、不意にルクスがソウヤに問いかける。
「どうだ…ソウヤという奴…。ここらで決着をつけんか?あの技で……」
「い…いいだろう……受けて立って…やる!」
ソウヤとルクスは2人でにやりと不敵な笑みを浮かべると、ある呪文を…ハイリスク・ハイリターンの技の呪文を呟きだした。
ゆっくりと、威力を高めながら。
「「『我…強き者…。我の導きに答えよ…。我…弱き者を守る者…。我の言葉に答えよ…。我…』」」
この状態で決着を付くのは、その者が倒した魂の質に変わる。
ルクスが倒していた魂の方が強ければルクスが勝つ、それは反対もしかりだ。
つまり、この決着はすべて運しだいで相手の魂にもよるものなのだ。
そして…決着を告げる呪文が終わる。
「「『我…汝の魂を使い肉体の強化を得ん!汝は我の力を使いあの世へ逝け!』
力を貸せ亡霊! 『亡霊解放!』」
その瞬間、とてつもなく大きなエネルギーが2人を纏った。
その拍子に鍔迫り合いが終わり、2人とも後方へ吹っ飛ばされ木にぶつかりその吹っ飛び破終了する。
土煙がはれたとき、ルクスとソウヤの姿はありえないほどに変わっていた。
「…状態『三重属性竜」
ルクスは右目が赤、左目が青で髪が青色から緑に変色しており、全身が赤、青、緑の鱗の鎧で包まれていた。
一方ソウヤは――
「状態『業火の魔女』」
――なんと初めての上級魔族のシュリードを使っていた。
背中から上級魔族特有の漆黒の翼が現れ、目と髪は真紅にそまり右手が何かの宝玉を中心とした籠手に覆われていた。
そしてソウヤが立っている周辺から炎が纏うように周りに漂っており、完全に上級魔族の威力を受け継いだ形になっている。
「強さ的には結構大差ない感じか…」
ルクスがそう呟き、その巨刀を構える。
ソウヤもそれに軽くだけうなずくと、なんと巨刀をアイテムストレージに入れた。
「…貴様、私を侮辱しているのか?」
「まさかそんなわけないだろう?反対だよ。俺の今の本気を見せてやる」
そしてソウヤはアイテムストレージから、今までほとんど使っておらず…いや、使いこなせなかった武器…『魔魂剣』を出現させた。
『魔魂剣』はシュリードの身体からとれた武器になりそうなもの、あと『瞬死の森』のボスの巨大サルからの部品を詰め込んで打った武器だ。
なので、その威力はサイレンや黒鏡破を軽くしのぐ威力を持っていた。
当然、そんな武器は結構じゃじゃ馬でとてつもなく重く、かつ防御にはあまり向かない。
ただ、攻撃力は伝説級の強さを誇っており作った本人もおどろいて、ソウヤもあわてて追加で大量資金を贈ったほどだ。
そしてこの武器の最大の特徴、それは炎を纏わすと攻撃力が倍増するのだ。
それほどの攻撃力を持った攻撃を退けたポールドを襲ったあの魔族はどれほど強いか想像できると思う。
「行くぜ…ッ!」
「いいだろう!」
ソウヤとルクスは同時に今までのもので一番強い技を綴った。
「地獄の青火よ、燃やせ…『獄青炎の剣』!」
ルクスは当然のごとく『獄青炎の剣』を発動させ、ソウヤはなんと――
「斬り燃えろ地獄炎…『地獄炎剣《グラドルサイア・ファイソーガ》』!」
――昔から愛用していた『地獄炎剣』を発動させていた。
その行動にルクスは驚きを覚え、それと同時になぜそんな弱い技をと怒りを覚えた。
しかし、ソウヤはそんなことはみじんも考えておらず、反対にニヤリと不敵な笑みを浮かべて『魔魂剣』を構える。
「分かっていないようだな、ルクス。俺はこの技が一番強いと思ってる。ただそれだけだ」
「…いいだろう。その選択、間違ったことを思い知らせてやろう!」
たしかにこの選択は間違っていたかもしれない…とソウヤは心の中でルクスのマグマのような炎を見てそう思った。
ソウヤは1つ溜息を付いて、一気にルクスに飛び出した。
そしてルクスの巨刀とソウヤの巨剣がぶつかり合い、巨大なエネルギーが飛び散る。
その中でソウヤはつぶやいた。
「ただ、弱いのはそれは…」
その瞬間、ルクスの巨刀が弾き飛ばされた、数秒しかたっていないのに…だ。
驚愕に顔を染めるルクスをソウヤは見ながらつぶやいた。
「ゲームの中でのステータス上の話だろ?」
次の瞬間、ルクスは真っ二つに切裂かれて、地面に転がり落ちて行った。
魔族特有の生命力で未だ多少生きているルクスは呆然としながら「何故だ…」とだけつぶやく。
「あんたの選択は間違ってないさ。ただな、この世界はゲームでもなんでもない。威力以上に必要なのはプレイヤースキルだよ」
ルクスはソウヤの意味不明な言葉を聞いて、その命を散らした。
パチパチ…と未だ炎が木を焼く中、ソウヤは昔の自分を悔やむように苦しげにつぶやいた。
「巨剣ばかりにたよっちゃいけないんだよ…」
ソウヤの手には、大長剣の姿になった『魔魂剣』が握られていた…。
―称号『炎の剣帝』が『炎の剣王』に進化しました ―
―能力…炎での攻撃時攻撃力×4 炎での攻撃される時防御力×6 ―
― 火魔法が中段王級まで進化可能 ―
静かにゲームでは必ず見ていたはずのそのウィンドウを静かに見つめながら…。
「ソウヤッ!?無事か!」
ソウヤが森(であった場所)から出ると、エレンたちがそこに集結していた。
エレンたちの後ろには冒険者や衛兵などが心から安堵したような顔をしてソウヤを見ている。
なんだかソウヤは先ほどまで考えていたゲームだのなんだのが馬鹿らしく感じて、プッと笑うと握りしめた拳を上に突き上げた。
「この町周辺の脅威は去った!帰るぞッ!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」」」」」」
ソウヤの言葉でその場に大きな歓声が起こった。
その巨大な歓声にソウヤは苦笑いをすると、エレンたちの元へ歩いて行く。
レーヌは肩を少し上げてふぅと溜息を付くと「ほんと、あんたって目立つわね~」と呆れ声で言った。
エレンがははっと笑うと、ソウヤを見て言った。
「仕方ないさ…。なぁ?『均等破壊』のソウヤさん?」
「その名前で呼ぶな、エレン。さて、やっと脅威も去ったことだし、あの町に行くか」
ルリはそのソウヤの疲れたような声を聞いて「めんどくさいことは後回しですよね」と笑って言った。
ソウヤは大きく伸びをしてから「まぁ、そういうことだ」と笑った。
「さて、行こうか、レーンにいぃ?」
そこでソウヤの身体は限界だったのか、ソウヤの意識は途切れた。
それから、レーンの街は大きな賑わいを見せていた。
中級魔族、下級魔族率いる魔物群が攻め入る事を知って絶望のなかにいた人々を救った、4人の妖精。
1人はその回復によりけが人を治し、1人は圧倒的な速さで下級魔族を滅多打ちにし、1人は雷で下級魔族を倒したとか言われている。
そして、最後の1人の男の人は身の丈余りすぎる巨大な刀と剣を使い、あの『|将軍魔族(ロード・ローゼ)』を1対1で倒した。
そのまるでおとぎ話のような展開に、人々は歓喜して祭り騒ぎになっていたのだ。
で、そのソウヤはというと――
「…やっぱり『亡霊解放』はハイリスクすぎるよな…」
「仕方ないですよ、というよりあれしなきゃ倒せなかったんじゃないんですか?」
――『亡霊解放』の影響でベッドで横になっていた。
ソウヤはルリの言葉に無言で頷くことで答えると、「はぁ…」とルリは珍しく溜息をつく。
しばらくすると、ルリはソウヤが寝込んでいるベッドの上に上ると、ソウヤの顔をジッと見つめて言葉をしゃべった。
「いいですか?ソウヤさんはこの世界で唯一…………できる妖精なんです。だから、ソウヤさんが死んでしまったら…ソウヤさんたちは………」
途中からかすれていき、泣き声になりはじめている声を聞いてソウヤはあわてて口をはさんだ。
「大丈夫だ、俺は死なない。少なくとも、みんなを元の世界にもどすまでは」
ソウヤ自身、魔王を倒してはやくみんなを元に戻したいという気持ちは十分にあった。
ただ、ソウヤ自身は知らなかった、そのみんなを戻すという目標が、今までにないくらい難しく辛いことだということを。
それを知っていたルリ、だがヴェルザンディの監視がある限りそれを言えることはかなわず、ただそれにうなずく事しか出来なかった。
ただ、ルリの中ではずっと一緒に居たいという気持ち…つまり恋心も確かに存在した。
ソウヤは鈍感ではないのでそれに気が付いていた、エレン、ルリにはソウヤに対する恋心が存在し、レーヌにも出来始めていることを。
「ルリ。俺は大丈夫だ…」
「…はい」
ただ、今のソウヤにはそれにこたえることは出来ないのだ、なぜなら、ソウヤ自身もこの世界からすればただの異世界人で、帰るべきものの1人なのだから…。
だから、今のソウヤにはどうすることもできなかった。
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