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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  将軍魔族

ソウヤは下級魔族が散っていくのを横目に、中級魔族が率いいる大量の軍団に目を向ける。
自分の周りにわんさかいるのに、ソウヤは心のなかで苦笑しながらその二振りの死神の大鎌を思わせる巨刀をその場で構えた。

「まずは雑魚から倒さないと邪魔だな…」

ソウヤはそう口にしながらその場で回転斬りを行い周囲の魔物を一掃させる。
 近寄る魔物を片っ端から木端微塵していくという、ものすごく単純で暇な作業の前にソウヤは飽きを感じ始めていた。
 その思いはこの状況に馴れているソウヤだからこそ思える心境なのだが、ソウヤはそんなことは一時も思いはしない。
 そこでしびれを切らしたのか、中級魔族が3匹ともがソウヤの前に自らの武器を構え突撃してきた。

「ッと…!」

 ソウヤもその行動にさすがに驚き、あわててその3重突撃を避けると目にその真剣さを宿らせた。
 下級魔族が魔族を10匹集めた強さなら、中級魔族は約300匹の強さをかき集めた強さ―ついでに言うと上級魔族は弱くて1000匹以上―を宿している。
 つまり3匹集めた状態だと第一の上級魔族、シュリードに大体匹敵する強さを見せるのだ。
 さすがのソウヤもこれには真剣にならざるを得ない。
 ソウヤはサイレンをアイテムストレージに突っ込むと、黒鏡破を両手に構えると呪文を呟いた。

「地獄の青火よ、燃やせ…『獄青炎の剣(ゴーク・ブルガイア・ソーガ)』!!」

 その瞬間、黒鏡破にマグマのように燃えている青い炎が纏った。
 ソウヤはそれを上に放り投げると、自分も少し間をおいてジャンプをする。
 そのまま高度30mほどのところで黒鏡破をキャッチするとそれを大上段に構えるとその言葉を叫んだ。

「宿りし力を放て!『属性射出(スオルデゲ・ロギアス)』」

 すると黒鏡破に纏っている青い炎が膨張を始めていき、巨大な1つの剣が出来上がった。
 ソウヤは黒鏡破を思いっきり振り下げる。
 そして次の瞬間、ソウヤの上空を含む半径100mが一瞬にして火の海へと化すことになった。

「これで魔物は一掃できたな…」

 そうソウヤが口にするのと1匹の大剣を持った中級魔族が火の海から飛び出してくるのはほぼ同時だった。
 ソウヤはそれに一瞬驚愕するが、すぐさま体制を立て直して巨刀を持つ手の力を強くする。

「ッチ…!巨刀じゃ不利だな…」

 そうとだけソウヤはつぶやくと黒鏡破を太刀ほどの大きさに変えてから、目の前に迫った中級魔族に向かい黒鏡破を振り下ろした。
 それに1テンポ遅れて中級魔族も大剣を振り上げる。
 キンッ!という軽い金属音が鳴り響き鍔迫り合いが起きる…が、力の差で簡単にソウヤが中級魔族の剣を押し返した。
 中級魔族はすぐさま大剣を放して、無理矢理ソウヤの懐に入り込む。

「なッ!?」

 こいつ知能が発達しているのか!?という言葉は紡がれることもなく、急に腹に起きた衝撃にソウヤは数十m吹っ飛ばされる。
 空中でなんとか体制を立て直し、地面に着地したソウヤだが中級魔族に目を向けたとき、その顔をこれ以上ないほどの驚愕に染めた。

「なんだよ、これ…。進化…してるのか……?」

 目にしたもの、それは中級魔族がその場で丸まり徐々に大きくなっている場面だった。
 不意にソウヤは立ちくらみを覚えてその場で膝をつく。
 それを不思議に思ったソウヤはステータスを開き内容を見てみる。

「MPが33000まであったのに13000に減ってる…?それに状態異常に『魔力吸収(マナトライズ)』…まさか…!」

 ソウヤは徐々に増え続ける中級魔族と徐々に減り続ける自分のMPを見比べて、ある説を作り上げた。
 それが本当だとしたら…とソウヤは思い歯をいたいほど噛み締める。

「やばい…な。あいつ、俺の魔力を喰って成長してやがるのか……」

 ステータスを見ればMP残量が残り12000ほどで、この分だと後1分も持たずにソウヤは倒れることは明白だった。
 ソウヤは黒鏡破をアイテムストレージに入れて出来るだけ中級魔族からはなれようと森の中へふらついた足を運ばせる。
 『魔力吸収』は相手から魔力を奪えるのだが、低確率で強烈な立ち眩みが追加で起こってしまうのだ。

「なんつう…運が悪いんだよ……クッソ…!」

 ソウヤは自身の運の悪さを呪いながら、木に手を付きながらのろのろと歩き続けた。
 しかし、それから10秒経たずにソウヤは地面に両ひざをついてしまい、さらにその場で倒れてしまう。
 段々とMP不足で目の前が真っ暗になる中、ザッザッザッという草を踏む音だけが、ソウヤに聞こえた…。




「なんであんなのがいきなり現れるんだ…?」

 エレンは森の中ソウヤが居るべき場所へただ走り続けていた。
 理由は簡単で、いきなり上級魔族が現れたから、という簡単だが頭を抱えたくなるものである。
 エレンの少し遠くにはその場で暴れまくっている額に角が2本付いた全身が赤黒い上級魔族の姿が映っていた。
 エレンはそこで違和感を覚えていた、上級魔族が居るなら高熱を帯びた巨刀が見えるはずだ…と。

「くっ…!嫌な予感がするな……」

 エレンはそうつぶやくとさらにスピードを速める。
 そこで20秒ほど駆けていると、だれかが倒れているのが目に入った。

「まさか衛兵か冒険者か…?いや……あれは…まさかッ!」

 エレンは背筋に冷や汗が流れるのを感じて全速力でその倒れている黒衣の人に近づいた。
 その人は男で髪は見覚えのある漆黒で服装もほぼ全部が漆黒。
 エレンはその男を大事そうに抱えると悲しみその美しき顔を歪ませた。

「ソウヤ…なのか?どうしてこんなことに…!?」

 エレンはソウヤであろう男の胸に耳を当てて、生きているのに心から安堵する。
 これからなぜそうなったのか見当をつけるとエレンは目に魔力を通し、ソウヤのうちにある魔力を確認を行った。

「…魔力がない?あのありえないほどを秘めていたソウヤが…?…とにかく回復しなければ。ソウヤなら1年は昏睡を続けるからな…」

 エレンは驚愕に顔を染めながらそうつぶやくと、今度は少し顔を赤らめながら対処をするようにつぶやいた。
 深呼吸を何回かエレンはすると、目を閉じて言葉を紡いだ。

「汝に我の力を…『与魔天使(ルイ・ロールス・セルンス)』」

 するとエレンの身体がほのかに輝き始めた。
 そのままエレンは顔を真っ赤にしながらソウヤの顔に自らの顔を持っていき、そのまま――

「んっ…」

 ――キスをした。
 その次の瞬間、エレンの身体を包み込んでいる光はソウヤの身体を包み、そして消えていく。
 バッ!という音が出そうなほど勢いよく顔を上げたエレンは急いで急ぐ鼓動をとどめようと深呼吸を10回ほどすると、トントンッとソウヤの肩をたたいた。




 ソウヤは暗闇の中、唇になにかやわらかい感触がするのに意識が少しだけ浮上し始めた。
 なんだろうと思う暇もなく、その感触は離れてしまう。

「……ヤ、………、…ウ…、…ウヤ、ソウヤ、ソウヤッ!」

 その後に来たのは肩にくる衝撃と、聞き覚えのある声…その2つでソウヤの意識は覚醒した。

「ん…?」

 ソウヤは微かに目を開けると、木々の隙間を縫うように入る光とそれをバックに目の前に顔を少しだけ赤らめているエレンの姿が目に入った。
 ゆっくりとした動きで上半身を起こすと、エレンに目線を合わせる。

「エレ…ン?」
「ソウヤ…よかった。目を覚ましたのか……」

 ソウヤはそれにうなずくと、少しの間ボーッとして倒れる前の記憶を探り…完全にソウヤの意識は覚醒した。
 勢い良くその場で立ち上がると、ソウヤはアイテムストレージから黒鏡破を取り出して巨刀化させる。
 しかし、空間魔法の消費が激しく昏睡状態から解放されたソウヤのMPでは厳しくふらついてしまう。
 なんとかふらつきを抑え込んだソウヤは、膝をついてしばらく激しく息をすると再び立ち上がってその巨刀を構えた。

「…大丈…夫なのか?」
「あぁ、大丈夫だそれに……」

 それに?とエレンが首をかしげるなか、ソウヤは少し顔を照れているように赤くしながらニッと笑った。

「お前の天使の加護がついてるしな」
「なっ!?」

 それに顔を真っ赤にするエレン。
 ソウヤは頭を掻いて珍しく照れ笑いをすると、昔のような口調で話した。

「魔力サンキューな。お前の天使の魔力、有難く使わせてもらうからな!」

 それにエレンは呆気にとられると、プッと顔を真っ赤にしている自分が馬鹿らしく思えてきていた。
 不敵な笑みをエレンは浮かべると手を上げて口を開ける。

「当たり前だ、今だけの天使の加護なんだからな。有難く使っておけよ」

 ソウヤも不敵な笑みを浮かべるとエレンの手の平に向けて軽く自分の手の平をたたきつける。
 パンッ!という音が周りに響き、そしてその次の瞬間にはソウヤはそこには存在しなかった。
 エレンは手のひらに残る微かな暖かさを逃がさないように胸で抱きしめて、ほのかに赤らんだ頬でソウヤが向かった方角へ顔を向ける。

「…絶対に負けるな……『均等破壊(バランスブレイカー)』ソウヤ…!」




「…見えたッ!」

 ソウヤは今出来る最速の速さで上級魔族を追いかけると、その速さと重なり合わせて上級魔族へジャンプした。
 ありえない速度で上級魔族に向かって行き…ソウヤは上級魔族に向かってその巨刀を振り下ろす。
 しかし、次の瞬間ソウヤの目の前にはマグマのような青い炎が迫りソウヤは吹き飛ばされてしまう。
 その拍子にソウヤの手から黒鏡破が飛んで行ってしまった。

「ぐっ…これは『獄青火(ゴーク・ブルガイア)魔法』…?」
「クックック…またお前か、妖精」

 低い唸るような声のもとにソウヤは顔を向けると、その姿に驚きに顔を歪ませた。
 さきほどとは天と地のほどの超濃密度の力の圧力を放っているほとんど妖精と変わらない姿をした魔族が立っていた。
 体は赤黒く、髪は静かな灼熱を思わせる紫っぽい青のロンゲ。
 服は光沢をもった漆黒のコートを羽織っていた。

「お前、まさかあの中級魔族か…?」
「そうだが、今は違う。お前のありえないほどの濃密度の魔力を受けて上級魔族からも進化したのだよ。まさか俺もなれるとは思わんだがな」
「…ッ!?」

 上級魔族からの進化だぞソウヤは聞いたこともなく、顔をただ驚きに歪ませるばかりだった。
 それを面白がるようにその魔族は笑うと静かに口を開く。

「知らんのか?将軍魔族(ロード・ローゼ)だよ。妖精のくせにしらんとはな?」
「魔族の将軍…?初めて聞いたぞ……」

 わけがわからなくなってきたソウヤは、アイテムストレージからサイレンを取り出して巨刀化する。
 それをみた将軍魔族は地面に転がっていた黒鏡破を拾い上げるとそれをソウヤに向けた。

「お前の魔力をもらったおかげか、いろいろと良いものが入ってきた。この巨刀も簡単に扱えるのもそのおかげだろうな」
「人の物を勝手に持ち出すのはよくないと思うがな」
「魔族にはそんなことはないぞ?力さえあればなんでも手に入るからな…」

 ソウヤはそうやって話しているうちにも魔力をだんだんと回復させていた。
 が、それを将軍魔族は気付いているのは明白だったのだ。

「では始めようか、お前を完全にはしたくない。私もまだ不完全なのでな」
「そいつはさっさと倒さないとな…!」

 ソウヤと将軍魔族は両方同じタイミングでその巨刀を構える。

「『将軍魔族』のルクス、行くぞッ!」
「『均等破壊』のソウヤ、こいッ!」

 そしてルクスとソウヤの2人はほぼ同時にその地面を蹴った。 
 

 
後書き
@昏睡について
 本来であればMPは割合ずつ回復していきますが、昏睡状態のみMPの量に関係してMPが多いほど昏睡の日数が多くなります。ソウヤは巨剣使いを抜いて1年かかります。それ+25倍だとすれば25年…。不幸中の幸いでしたねソウヤは 
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