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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
1節―旅の中で―
  『均等破壊』ソウヤ

「…なんとか『軍勢の期』の前には着いたな……」

 ソウヤたちは休む暇なく王都へ向かい、なんとか『軍勢の期』の2日前に到着できていた。
 王都へ入ると、そこには大量の人々が行き帰りを繰り返しているのが目につき、ソウヤはトリップされた被害者たちが情報を流したのだとわかる。
 ソウヤたちは宿を取りに行ったのだが、さすがに人が多いので値段が安い宿で空いているところは無く、仕方なく少し高めの宿を取った。
 その宿は高いだけあり、なんと普通の宿では見られない風呂まであってルリとエレンは喜んだのは言うまでもない。

「ここの宿は良いな、ベッドもフカフカだし風呂まであるし」
「まぁ、確かに女性陣はうれしいだろうな。じゃなくて、さっさと始めるぞ」
「分かった」
「分かりました」

 ソウヤとエレン、ルリの3名は一旦それぞれの部屋―ソウヤの1人部屋とエレンとルリの2人部屋―で休んでから、ソウヤの部屋に集まっていた。
 エレンとルリが椅子をベッドの前に持ってきて座っており、ソウヤはベッドの上に座っている。
 そしてソウヤが先に口を開けた。

「さて、2人目の魔族だが…敵は知っている」
「えっと…確か4人までの魔族なら知っているんですよね?」
「あぁ。相手は男で俺と同じほどの巨剣を使う」

 魔族はすべてに一致して身長がとても高く、5mほどはありソウヤの使う巨剣も5mほどある。
 つまり次の魔族は魔族と同じ身長の高さをもつ剣を扱うわけだ。
 魔族にしてみれば大剣程度なのだろうが。

「それで俺も巨剣を使って魔族の剣を防御しておくから、お前らは周りと合わせて魔族を倒してくれ」
「周り…?」
「あぁ。1回目はまだトリップされた奴らは準備が整っていなかったみたいだが、2回目はほとんどの確率で魔族を狙うだろうな」
「だろうな…。ソウヤは盾役(タンク)は大丈夫…だな」

 その確信めいたエレンの言葉に、ソウヤは思わず苦笑いをこぼしてそう思わせるものの名前を口にするべく口を開ける。

「俺が…『均等破壊(バランスブレイカー)』だからか?」

 そうソウヤが言うとエレンは満面の笑みでうなずく。
 ルリはエレンの隣でクスッと笑ってうなずいた。

「そうだ」
「ですね」
「まぁ俺の『巨剣使い』が駄目だったら”あれ”もあるしな」

 ソウヤの”あれ”というの言葉にエレンとルリは首を小さくかしげるが、ソウヤの次の言葉でルリは頷くことになる。

「まぁ、使うと長い間スキル使用不能になるんだがな…」
「まさか、あの時の呪いとかなんとかですか?」
「そうだ」
「なんなんだ?」

 ソウヤとルリだけは話が分かるらしく言葉を続けているが、エレンは意味が分からないのでただ首をかしげるのみだった。
 ソウヤはエレンに『巨剣使い』にだけ存在する『亡霊解放(エレメンタルバースト)』の説明すると、エレンは頬を引き攣らせる。
 そのエレンの反応はもともと理解できていたのか、ソウヤは苦笑いをした。

「それって…もう『均等破壊』どころではないじゃないか…。もう世界最強…いや世界最恐になれるんじゃないか?」
「だが、女魔族を1人で倒すのがその技使ってやっとだったぞ」
「…その『亡霊解放』に使った亡霊はなんなんだ?」
「『瞬死の森』の『ホワイス・ガブルルス』2体に同じ迷宮の『愚白の銀狼』5体だな。確かどれも一番弱い部類の魔物だったが…」

 それを聞いてエレンは再び頬を引き攣らせて、頭を右手で押さえて唸ってしまい、ルリもそれを聞いて多少頬を引き攣らせていた。
 多分、いや確実にソウヤの強さに果てが無いことを知り唸っているのだろう。
 といってもその分スキル使用不能のバッドステータスの期間がアホみたいに伸びる訳なのだが…。
 ソウヤは今、この場の雰囲気が悪いことを今更察知して話題を戻そうと口を開けた。

「と、とにかく俺の盾役は大丈夫だ」
「ん…?あぁ、分かった。つまり私たちはほかの奴らと”少しずつ”敵のHPを減らせばいいのだろう?」
「分かってくれ嬉しいが、その嫌味はお前と一緒に戦う相手の嫌味になるぞ」

 ソウヤの強さも確かに他の奴らの手の届く場所にはもういない。
 だが、そのパーティーを組んでいるエレンも希少能力(ユニークスキル)の『光電使い』を持っているし、一言でいえばチートだ。
 それにルリもソウヤを除けば、他の誰にも負けないほど早い『混沌狼(ラグスロード・ザズ)』なのだから十分にチートだろう。
 まぁソウヤが一番チートだが…。
 ソウヤはコホンとわざとらしく咳をすると、少し変な雰囲気を戻すべく口を開けて声を出す。

「…盾役は俺するからお前らは攻撃役(アタッカー)してくれ」
「まぁ…まだ癪だが了解した」
「分かりました」

 ソウヤはそれにうなずくと、アイテムストレージから事前に買ってあった飲み物を取り出して2人に投げて渡す。
 エレンとルリは危なげなくそれを受け取り、中身がセルピジュース―リンゴジュース―だとわかると、その蓋を取り出して口に流し込む。
 ソウヤもフクロス―コーヒー―が入っている瓶の蓋を取ると、口に入れる。
 のどを潤した3人は魔族の特徴について話し合い始めた。

「今回の魔族はいわゆる牛人間てとこだ。そいつは手に巨剣を持っていることは前に話したな。その巨剣は魔剣だった」

 この世界の魔剣は今までのRPGとは異なり、悪の力を持つ剣ではなく神話に出てくるような魔剣だ。
 つまりこの世界の魔剣は”魔力を備えた剣”というのが一般的に広まっており、その効果もさまざまである。
 たとえば切れ味が非常に良かったり、耐久力が高かったり、さらにその剣自体に属性が付加してあり魔力を流すことで属性をつかえたりできる。
 しかし、魔剣というのは固有名付きとは違いピンからキリまであるが、その値段がまずおかしい。
 魔剣というのは魔鉱石という魔力を長年吸いそれ自体が魔力を持つことが出来た希少な鉱石で、それを大量に使ってできている。
 しかも魔剣は魔族にしか作れないので銅で出来た魔剣でさえも80万はするのだ。

「魔剣か…。大丈夫なのか?」

 そのエレンの言葉にソウヤはなんのことかと一瞬頭を悩ませるが、防御が出来るのかという心配のこと気付くと頷いた。

「大丈夫だ。巨刀状態のスイレンでぶつけ合えば何とか相打ちには出来る」
「…わかった。信じてみよう」

 エレンは無理矢理納得したような顔をしていると、今までじっと聞いていたルリが珍しく声を出した。

「危なくなったら言ってくださいね。少しの間なら私たちだけで敵を引き付けられますから」
「あぁ…そうだな。そうさせてもらう…そうさせる隙なんて出させないけどな」

 ソウヤはルリの言葉に了承するが、次の言葉を発すると同時に不敵に笑った。
 その不敵の笑いはソウヤの自身の力の自信から現われたもので、ルリとエレンはその笑みになんとなく安心する。
 ソウヤはすぐに真剣な顔に戻すと言葉を続け始めた。

「とにかく魔族にお前らを攻撃はさせない。だが気を付けて貰いたいのがある」

 そこでソウヤはまだ残っているフクロスを全部口の中に押し込むと、今回の話の中で一番の凄みを持った声で言葉を発した。

「牛人間の魔族が持っている少ない魔法の中で一番被害がでそうな魔法でな…。希少(ユニーク)魔法『硬直全破(レークレフド・スミセルガ)』という魔法だ」

 『硬直全破』…それはその名の通り”対象にいるものを全て硬直させ、そしてそのすべてを破壊する”魔法なのだ。
 その設定を否定せずに対象すべてに現象不明の硬直が遅いかかり、そして凄まじい攻撃力を持った太い一筋の火魔法が襲い掛かる。
 その対処法としては、その魔法を使うときに発生する極短い時間で起こるモーションをしっかりと見極め、その対象から逃げる必要があった。
 それをソウヤは全て説明すると、エレンとルリは神妙な顔つきになっていた。

「――だからエレンとルリはそのモーションが現れたらすぐに逃げてくれ」
「…わかった」
「了解しました」

 それにソウヤは安心すると、一呼吸入れてから言葉を紡ぐ。

「あとの魔法は大体が火魔法と、自身の能力をアップさせる特殊(エクストラ)魔法だけだから、火魔法に注意してくれたらokだ」

 そこでソウヤは一旦言葉を区切り、エレンとルリをじっと見つめると2人はその言葉を理解したように頷く。
 それを確認したソウヤは口を開ける。

「じゃあ次に、牛の魔族が巨剣を振り下ろす瞬間を狙って俺が『鋼剣(レティス・ソーガ)』で相打ちにするからそれを狙って一撃だけ入れてくれ」

 ソウヤは、よく使っている『業火剣(サイガドル・ソーガ)』などで相打ちにしないのには理由があった。
 それは、剣に属性を流すとそれ特有の能力を持つようになるからだ。
 例えば水魔法なら『切断』だったり、地魔法なら『巨大化』、特殊能力(エクストラスキル)の『(ライズン)魔法』なら『切断』と『速度』の2つが備わっていた。
 それに対してヒューマンが得意とする鋼魔法の数少ない攻撃魔法である『鋼剣』はその付加能力として『耐久値増加』という一風変わった能力がある。
 その能力は攻撃力などには一切干渉はせず、ただその武器の耐久値を1.5倍ほどまで底上げする能力だった。
 その能力はβ時代のころ盾役として使えることが判明して盾役にはよく使われていたのをソウヤは聞いたことがあったのだ。

「あの魔族は持ち直すのは早いから、あまり大技…エレンはとくに使わないでくれ」
「分かりました」
「了解した」

 そのあと、もう少しだけソウヤたちは戦闘について話し合ってから会議は解散となった…。




 そして2日後、ソウヤたちは全員いつもと違う格好をして『軍勢の期』へ向かう連合(レイド)に入るべくギルドへ来ていた。
 服装はこれからのため、すべてのものが変わっている。
 ソウヤは全てを元に戻し、ずっと着ていた服などを月文字(ルーン)魔法で赤色の所も黒色に変化させておりコートの長さも長くし、武器はサイレンだけにしていた。
 これからはこちらが『均等破壊』のソウヤの姿に統一するつもりでソウヤはいた。
 エレンは髪の色を金色に、瞳も金色にして、シルフ特有の羽などを消しエルフの姿に、そして装備も最強になっている。
 ルリは髪と瞳を茶色に変化させて普通のグルフへと変化させ、装備も最強の状態だ。

「――なので…敵が」
「失礼する、遅れて済まないが連合に入りたいのだが…?」

 ソウヤはエレンとルリと共にギルドに入ると、1人の冒険者が説明しているのを無視して連合に入るのを求めた。
 ここにいる全員の冒険者が黙り込み、なんだとソウヤ達に顔を向ける。
 そして、ほとんどの冒険者はソウヤたちの装備の質のあまりの高さと本人から出てくる威圧感に、驚愕で顔を歪ませていた。
 そして残りの馬鹿な冒険者は…

「おいおいッ!てめぇみたいなひょろひょろな身体な奴が入りたいだってッ!?あははははっ!笑わせんじゃねぇよッ!」

 ――とこんな風にソウヤに近寄り、叫び声をあげる。
 そんな哀れな冒険者の数は6人ほどおり、その全員が全員でエレンとルリを舐めるような視線で見ていた。
 その中の1人がソウヤに掴みかかろうと手を伸ばしたとき、ソウヤは手をバチンッとはじく。

「って!ふざけんなよッ!おいてめぇらやるぞ!」

 それに激怒した冒険者はほかの哀れな冒険者を連れて、一斉に殴り掛かってくる。
 それをじっと見ていたソウヤは「はぁ…」とやれやれと言わんばかりのため息をつくと周りの冒険者を回し蹴りで吹っ飛ばした。
 ソウヤは終わったとみてエレンとルリを見たとき、その顔が真剣に変わる。
 2人の冒険者がエレンとルリにナイフを当てていたからだ。

「おいお前…こいつらがどうなってもいいのかッ!よくねぇよな…ならこいつらを置い――」

 しかしその言葉はすべては紡げれなかった。
 ソウヤは最高速度―冒険者には見えない速度―で近づくとサイレンを抜き放ち、2人の首元にその刃を当てていたからだ。
 そして、ソウヤは人生で一番低いと思える声で言葉を放った。

「…おい。この2人に触ったらお前を容赦なく斬るぞ…」
「「ヒッ!!」」

 あまりの威圧感に2人の冒険者が尻もちをつくと、ソウヤは2人の冒険者を見下すと黙ってみていた冒険者たちに向かって自己紹介した。

「俺はシルフの中でも一番難しいと言われた『瞬死の森』を踏破し…二つ名『均等破壊』を持つヒューマン……ソウヤだッ!!」

 その瞬間、すべての冒険者はその威圧感に圧倒しそして…恐怖した。
 そして最終的に理解をした…してしまったのだ……ソウヤが最恐の強さを誇っていることに…。

 そして『均等破壊』ソウヤの名は世界中に広まることとなったのだった……。 
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