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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
1節―旅の中で―
  牛魔族

 ソウヤが自分の事を宣言した後、周りは静かにソウヤの次ぐ言葉をじっと黙ってみていた。
 それをソウヤは感じたのか、サイレンを仕舞って静かに周りの冒険者を見つめていると、不意に口を開ける。

「お前らは攻撃さえしていれば良い。俺が盾役(タンク)をする」
「……それは認められません」
「ん…?」

 ソウヤが言った言葉を即答するようにさきほどからリーダー役を任されていたと思われる男が話しかける。
 その男は黒髪、黒目でその黒さを否定するように、きらめいている重装備の鎧が存在を主張しており、長剣と大型の盾を装備していた。
 見た目的に盾役か…とソウヤは見当をつけるとその男に言葉を返す。

「だが、お前よりかは勤まるがな」
「そんなわけないね。僕だってこの大陸で二つ名を得ているんだ。…僕は『鉄壁障害(ウォールカースド)』のユウイチだよ」

 その男…ユウイチはそういうと、微笑んでみせる。
 ソウヤはその微笑みを見てイケメンだ…うざ…などと散々な気持ちだったが、それは顔に出さずそのままの表情で言葉を紡いだ。

「確かに1人でも盾役は居た方がいいだろうな…普通なら。ちょっと外来い、良いもの見せてやる」

 ソウヤはそれだけ言うと外に向かって歩き始めると、静かに見守っていたエレンとルリとソウヤの後に続いていく。
 ユウイチは目を静かに細めると、外に続いていった。
 それを見ていた冒険者たちは、顔を各自で見合わせると全員が全員外に向かって走り出す。
 ソウヤは広い場所にたどり着くと、ユウイチの方へ顔を向け鞘からサイレンを取り出して上方へ向け、空間魔法を発動させた。

「は、はは…。ありえない、なんだこれ…」

 次の瞬間、ソウヤの手のひらには巨大なグリップが握られており、そのグリップから5mもの巨大な刃が伸びていた。
 それを見た冒険者は巨剣使いによって能力が倍加され、その溢れ出た強烈すぎる威圧感に冒険者全員がしりもちをついて、ユウイチもなんとか立っているのがやっとらしい。
 エレンとルリはその威圧感の対象にはなっていないので、静かに見つめるだけだった。

「もしかしたら盾役やっていたら巨剣の刃の犠牲になると思うが…。俺に盾役を任せる気になったか?」
「ク…ッ。わかったよ、任せるよ…」

 「わかってくれて何よりだ」とソウヤは声を出して、そしてしりもちをついて震えあがっている冒険者たちを見て、ため息をついた。
 巨剣を空間魔法で通常状態に戻して、サイレンを鞘にしまうと冒険者たちに向けている威圧感を少し緩める。
 大分マシになったのか冒険者たちが立ち上がっていくのを横目に、俺は全員に声をかけた。

「とにかく、俺だけが盾役をするからお前たちは攻撃役(アタッカー)を務めてくれ。あと、ユウイチ…だったか?お前は指揮をそのまましてくれ。俺には性に合わん」
「言われなくてもするつもりだよ。指揮だけでもやってやるさ」
「俺がもし危なくなったらお前らに盾役を少しの間だけ頼むかも名な」
「…ありえないだろ」

 ソウヤとユウイチが最後に軽口を言い合うと、お互いに少しだけ微笑み握手をした…協力の証である。
 そのあと、魔族攻略会議が開かれスイッチの時などの打ち合わせもし、そしてその日の昼ごろに連合(レイド)は出発した。




威圧(クゥリネ)!」

 冒険者のグルフの数人が特殊能力(エクストラスキル)魔武闘(ロールス・グディド)』の能力、『威圧』を使う。
 この世界で特殊能力を持つものなどほとんどいないので、あの特徴的な黒目黒髪は『威圧』を使ったグルフ達は全員トリップされた人たちと見分けられる。
 反対に黒目黒髪しかほとんど連合にいないので、やはりほぼ全員がトリップされ特殊能力、またはソウヤのように希少能力(ユニークスキル)を持った人のようだ。
 『威圧』を受けた何匹かの魔物はその場で硬直した。
 『威圧』…それは『魔武闘』の能力である『技』で、その使用者より格下のものはその場でしばらくの間硬直をし続ける。
 魔物のほとんどが硬直していないことから推測すると、格上なものが多いようだ…とソウヤは思う。

「はぁ…!」

 ソウヤは横から迫りくるライオンが擬人化したような気持ち悪い魔物を、普通の大きさのサイレンで切り裂く。
 その攻撃でひるんだ隙に後ろへ回り込むように移動すると同時に、複数の斬撃を与える。
 後ろへ回り込むのと、擬人ライオンが地面にひれ伏し屍となったのは同時だった。
 ソウヤは周りを見て、少し押されているのを視認するとメインスキルを魔法使い―最近達人級になっていた―に変化する。
 そして、一瞬だけ肉体強化を使いジャンプすると森の全貌がよく見えた。
 ソウヤは一番押されている所の仲間に向かって手の平を向けると、ある呪文を打ち込んだ。

「『聖の癒し(ルーシ・ルーチェ)』」

 『聖の癒し』…それは中段魔法で一番早く覚えられる高レベル回復魔法で、使うと1秒に自分の込めたMP分だけ仲間や自分を癒す魔法だ。
 中段ではまだまだ中だ、と思う人がいるかもしれないが、この世界では下段が一般的な魔法使い、中段で英雄、大魔法使いと言われ、大段など勇者や魔王クラスのものしかいない。
 つまり中段の魔法を得ること自体が難しいのだ。
 そして今回ソウヤが込めたMPは300、これだけで大体1秒に50ほどHPが回復することになる。
 あまりの回復スピードに冒険者たちが押し始めた。

「おし、オッケーだな」

 ソウヤは頷くと、空中に居る間に魔族の場所を把握し空の中でメインスキルを巨剣使いに戻した。
 そして地面に降り立ち上に向けて巨刀を作り出すと、肉体強化を一瞬だけ使い、最高加速で魔族のもとへ飛び出す。
 もともと冒険者がいないことを確認してあったので、躊躇なく巨刀を前に突き出し前方にある者すべてを薙ぎ払った。
 そして魔族の姿が見えたとき、ソウヤは足を地面につけ肉体強化とある呪文を連続で唱え、最後にこう言う。

「燃え栄え大いなる剣と化せ青火…!『青火炎大剣(ブルスイア・ファイグラズソーガ)』!!」

 さらに加速したソウヤと、現段階で最強の青い炎の大剣が重なり合い青火の龍を作り出す。
 そしてその最強の攻撃が魔族にぶつかろうとするとき…魔族が動いた。

「イカリ、オコレ、キョウランのカミナリ…『狂雷恐電剣(カッズボル・クーズテット・ソーガ)』」

 血のように赤い雷をその巨魔剣にやどした魔族はその巨剣でソウヤの最強の巨刀の一撃を受け”止め”た。
 その瞬間、膨大過ぎるエネルギーが暴発を繰り返し半径10mほどが一瞬にしてさら地に変化し、その熱でガラスと化している。
 それは周りだけでなく空に向かってでも飛ばされ、1つの大きな光の柱を作った。

「う…おお!」
「グッウゥ!」

 ひたすらに鍔迫り合いをし続けるソウヤと魔族。
 もし、これが同じ攻撃力だったら楽勝にソウヤが勝っていただろうが、今回は魔族の持っている武器の能力が桁外れなのだ。
 それでも互角に渡り合えるソウヤはやはり超チートと言えるべきものなのだろう。
 鍔迫り合いは両者がMPの損失を考慮して、同時に後ろに跳び退避したことによって終わりを告げた。
 魔族はその大きな口を開いて言葉を出す。

「オマエはヒキョウダナ。イキナリオソイカカってクルナンゾ」
「悪いが、戦いは人それぞれだ。お前に指摘されるっていうのはおかしいと思うがな」
「…オモシロイなヒトヨ」

 獰猛な笑みを浮かべる牛魔族に対して、ソウヤも微かに微笑みそれに返す。
 そして、牛魔族はグルアアアッ!と牛ならぬ声を出して、巨魔剣を半身になり構える。
 ソウヤも巨刀を正面に構えて牛魔族をじっと見つめた。
 次の瞬間1人と1匹は同時に動きだし、そして数秒のうちに花火がいくつも散り、その接戦さを伝える。
 牛魔族は特性は物理法則―この世界に存在するのか知らないが―を打ち砕くような、その巨体に見合わぬ速さだ。
 さらに巨魔剣はその加速を風の特性『速力』をその使い手に流しているため、もともと速いのが、さらに強烈に早くなっている。
 その証拠にステータスの中では一番高い素早さを持っているソウヤでさえも追いつくのがやっとの状態だった。

「はぁっ…!」
「グルォォオ!」

 1人と1匹の気合が戦いの周りに響き渡り、それと同時に火花が散る。
 現段階のソウヤの役割は魔族の足止めとその周りの魔物の抹殺で、その役割を果たしているのか周りの魔物は戦いの最中に振られる5mもある巨刀などによって切り刻まれていた。
 ソウヤも、それを知っているからこそなんとか牛魔族を魔物の近くにまで来させて周りの魔物を殺しているのだ。
 その戦いはいつ終わることもなくずっと続いていくように見えた…が、そこで一気に妖精側が有利に立った。
 なぜなら――

「『ウィング・グラズソーガ』!!」

 ――そう、エレンたちが来たからだ。
 エレンが放った風の大剣は一線の狂いなく牛魔族の身体を浅くだが引き裂いた。
 その次の瞬間、牛魔族に魔法使いが放った大きな風が命中して牛魔族をよろつかせる。
 その隙を逃さず、集まった連合の冒険者たちがさまざまなスキルや魔法で牛魔族にダメージを与えていく。
 牛魔族はそれに少し顔を歪めるが、すぐに持ち直し冒険者たちに巨魔剣を振り下ろそうとする――

「お前の相手は俺だ…!」

 ――が、目の前から現われたソウヤの巨刀によってそれが阻まれ、反対に両者がバランスを崩す。
 それを見計らったようにソウヤはニヤリと笑い「スイッチッ!」と叫ぶ。
 すると、後ろにいた2人の妖精…エレンとルリが飛び出して2人が同時にスキルを発動する。

「『ウィング・デセルソルドーガ』!!」
「『ファイ・デセルソルドーガ』!!」

 風の矛を持ったエレンと炎の矛を持ったルリが息ピッタリに同時攻撃をする。
 さきほどより幾分かはダメージを喰らった牛巨人はエレンとルリに怒りの矛先を向け、左腕で殴ろうとするが、その瞬間後ろから這い出てきたソウヤによって止められた。
 そしてそんな状態が数十分の間続いた…。




 何回か繰り返していた時、不意に女神は笑みを消してしまった。
 業を煮やした牛魔族が危険だと言った『硬直全破(レークレフド・スミセルガ)』が発動したのだ。
 モーションを冒険者全員が見て逃げようとしたが、いきなり現れた木の幹に足をからめ捕られて動けなくなった。
 その結果、連合のほぼ全員が動けなくなり死の恐怖に駆られることになる。
 ソウヤもその被害者で足に木の幹をからめ捕られて、今現在行動不能になっていた。
 エレンとルリもそうだった。

「くっそ…動け……!」

 身体を動かそうとしても『硬直全破』の効果で硬直したままで動けないままだ。
 そして――

「グラアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 ――『硬直全破』の巨大なる火魔法が牛魔族の手のひらから放たれた…。 
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