グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
1節―プロローグ―
グランドソード
「ブヒィイイイイ!」
薄暗い森の中、その静寂を汚すように豚の声が響き渡る。
次に響いたのは剣裁の音。
「――ッ…!」
剣裁を響かせていたのは、先ほど叫び声を上げた豚の魔物と黒い髪と瞳が特徴的な男性…ソウヤだった。
ソウヤの周りには死体が散らばっており、その全てが今戦っている豚の魔物と同じ姿形をしている。
しかし、今ソウヤと戦っている豚の魔物は他の転がっている豚の魔物と装備が違った。
“オーク・エリート”。
他の豚の魔物…オークよりも強い個体を、ソウヤはそう呼んでいる。
装備やステータスの差も違うが、何より戦い慣れているのがこのオーク・エリートの特徴であり、今も数分の間オーク・エリートとソウヤは打ち合っていた。
「ブヒィッ!」
「っち…!」
オーク・エリートの斬撃が先ほどの打ち合いで体制を崩しかけていたソウヤに迫る。
ギリギリのところでその刃を、自身の―元々オークが持っていた―剣で止めるとソウヤは大きく下がった。
―このままじゃ、押し切られそうだ…!
ソウヤはそう判断するとステータス画面を開き、職業能力を“戦士”から“巨剣使い”に変更する。
身体のあらゆるところに力がみなぎり、ソウヤはニヤリと嗤う。
「ブ…ヒ……?」
次の瞬間、オーク・エリートの胴体は真っ二つに裂かれていた。
「ふぅ、流石に“戦士”じゃまだキツイかなぁ…」
剣に付いた血を取り出した布で拭いながら、ソウヤは愚痴をこぼす。
先ほど戦っていたオーク・エリートとその大型集団は、この森の中でかなり弱い部類に位置していた。
それにすら苦戦するのだから、初期スキルの効果は大分低いとわかる。
だが、それでも初めに比べて大分“戦士”でも戦えるようにはなっていた。
何が理由か、と言われればソウヤが戦いに慣れた…というのも大きいがなにより大きいのは――
―戦士 達人級(165/1500)―
――熟練度が大きく上昇していることだろう。
FTWは“完全成長制”であり、その成長が最もわかりやすいのがスキルの成長だ。
スキルは階級が定められてあって、それぞれ“下級”、“中級”、“上級”、“達人級”、“達王級”、“達神級”、“王級”、“王神級”にわかれている。
現在、その中で“戦士”が到達しているのは“達人級”。
下から4つ目というなんとも微妙なところだが、それでも異世界に来てから2ヶ月、という点で見れば大分成長は早い。
「それに比べて、“巨剣使い”なぁ…」
ソウヤは大きくため息をつくと、“巨剣使い”の欄を閲覧する。
―巨剣使い 下級(243/500)―
先ほどの戦闘を行っても、熟練度が1も上昇していなかった。
2ヶ月経ってもこれは、流石に異常である。
スキルの成長で最も成長しやすいのは、スキル関連の行為を行うことだ。
戦闘系スキルならば戦闘を行えば熟練度は上昇しやすいし、生産系スキルならば生産を行えば熟練度が上昇しやすい。
ならば“巨剣使い”は何により大きく熟練度が伸びるのだろうか。
もし、文字通りに見るのならば――
「――巨剣を使わなきゃならない…てことか」
“巨剣”。
そう言われて想像できるのは、身の丈を通り越した大きさを持つ巨大な剣のことだ。
名前から見て完全にそうなのだろうが、どこを探せばそんな剣が見つかるというのだろうか。
「取りあえず、今は考えてもしょうがないだろうなぁ…」
なんとなく、損している気分になりながらソウヤは森の中を歩き始めた。
次の日、ソウヤは――
「ぬおおぉぉぉぉっ!?」
「「「ガァアアアアッ!」」」
――巨人3体に追いかけられていた。
身体全体が雪のように白く、その巨体は目測3m以上ありそうだ。
しかし、その手に持つ大剣は更に大きく“5mは軽く超えている”。
―こいつ、αテストでほんの一部の人が出会ったっていう魔物だ…!
ソウヤは、そう言って逃げながら名前を思い出す。
有り難いことにその歩むスピードはあまり早くはなかった。
―確か…そう!“ホワイス・ガブルルス”!個体の強さは初期レベルダンジョンのボスクラスだった気がする…!
そう考えれば考えるほど、ソウヤの頭の中は絶望で染まっていく。
例え初期レベルのダンジョンボスクラスの強さだとしても、それが雑魚敵で出るのは早すぎるのだ。
この世界に来て2ヶ月ならば、尚更である。
―つか、なんだよあの大剣!あれ、大剣っていうよりきょけ…ん……。
ソウヤは愚痴を内心で吐きまくるが、そこで気が付く。
―あれ、巨剣に入んないかな?
ソウヤは一種の賭けにすぐさま“行う”と判断すると、“肉体強化”を使用して空へ跳躍する。
そして大木に足を付けた瞬間に1体のホワイス・ガブルルスに突撃した。
初日と同じ方法である。
―こいつ相手に、オークの剣が効くかわからないなら…!
ホワイス・ガブルルスがその大剣を振り上げ、突撃するソウヤに振り下ろす。
圧倒的な大きさを持つ刃が向かう光景は流石にソウヤも肝を冷やしたが、身体を無理やり回転させることで避けた。
そのままホワイス・ガブルルスの足元で着地すると、もう一度跳躍し次はホワイス・ガブルルスの右手を狙う。
ホワイス・ガブルルスは先ほどの大振りから回復しきっていないようで、体制は大きく崩れていた。
そこを狙わないはずがない。
「“大――」
ソウヤは半自動的に大きく半身になり、右手を弓の弦のように引き絞った。
そして、
「――正拳突き“…!」
放つ。
「ガアアアァァァッ!」
白い巨人の手は見るも無残にグシャグシャになり、肉片が飛び散る。
肉片や血がソウヤに降りかかるが、多少吐き気はするも完全に慣れかかっていた。
気にせずそのまま地に堕ちたホワイス・ガブルルスの大剣をソウヤは取りに降りる。
大剣の鍔にソウヤは立つと、そのまま柄を握った。
―上手く、行くのだろうか。
一瞬ソウヤの心に不安が混じる。
だが、考えている暇がないことを残り2体のホワイス・ガブルルスが示していた。
上手くいくかわからない、なら――
「――行こう」
ソウヤは柄を掴んで、右手を失い喚いているホワイス・ガブルルスに向かって飛び立つ。
一瞬、凄まじいほどの抵抗をソウヤは受け跳躍が止まりかけ――
「…行けるっ!」
――その後、その大剣が片手剣ほどの軽さに変化した。
その瞬間、“ホワイス・ガブルルスの大剣”は“ソウヤの巨剣”へと変化したのである。
さきほどの一瞬の抵抗により、ほとんどスピードは出ていない。
右手を失った白い巨人も自身の危険を察知してか、ただの怒りか俺のほうへ向かって左手を振りかざしている。
なのに、何故だろうか。
「こんなに、余裕がある」
ソウヤは地面に未だ地面に刺さりかかっている巨剣を、力任せに振り上げてから振り下ろす。
「――ッ!」
声にならない悲鳴を上げ、右手を失った白い巨人はその命を一瞬で散らした。
巨剣の圧倒的な質量と“巨剣使い”の全ステータス×10に、抗うことすら許されなかったのである。
巨剣が地面に当たらないように気を付けながらソウヤは地面に着地し、血の雨を受けた。
体中が血に染まり、それにさえソウヤは気にせず肩に巨剣を担ぐ。
「――さて、次は誰だ」
「ふぅ…疲れた」
その後、ソウヤは疲れたように巨剣を地面に刺し“ホワイス・ガブルルスの死体の上”に座り込む。
意外にホワイス・ガブルルス2体にソウヤは手間取り、10分ほど時間がかかっていた。
ホワイス・ガブルルスの死体と同様の数、巨剣が地面に横たわっている。
それを見て、ソウヤは呟く。
「さて、“合成”するかな」
“合成”。
それは、鋼の妖精であるヒューマンが最も得意とする“鋼魔法”の有名どころの一つである。
2つ以上の武器を1つは主軸、もう1つ以上を素材として合成させることによって、主軸にした武器の質を高めることができるのだ。
そして“合成”前に“武器鑑定”―これも鋼魔法の有名どころ―をするのが常識である。
常識に従って、ソウヤも“武器鑑定”を行う。
「鋼の巨剣2本に、銀の巨剣1本…か」
ステータスを見た限り、銀の巨剣の性能が頭一つ抜けていた。
武器には武器能力が存在し、それも武器の良し悪しを分ける一つであるが、鋼の巨剣はウェポンスキルが最大2つに対し銀の巨剣は4つもある。
“合成”には主軸の空いているウェポンスキルに、素材のウェポンスキルを移せる能力もあり、それを考慮した結果ソウヤは銀の巨剣を主軸とすることに決めた。
「銀の巨剣を主軸にしようかなっと」
ソウヤはそう言って立ち上がると、それぞれ銀の巨剣と鋼の巨剣を地面に刺しこみ銀の巨剣に手を置く。
「“合成”」
視界に“合成”の詳細画面が現れるのをソウヤは確認し、それを操作していく。
主軸部分を銀の巨剣に、素材は鋼の巨剣2本。
そして決定を押すと鋼の巨剣は光となり消滅し、その光が銀の巨剣に流れ込んでいくと銀の巨剣が凄まじい光を放つ。
「うわっ…!」
目を眩ませるほどの光が収まると、そこには素朴な形をしていた銀の巨剣が全く別の形状に変化していた。
そういえば、許容範囲を超えた“合成”を行うとたまに進化が行われるんだったなぁ…とソウヤは思い至る。
銀の巨剣が変化した巨剣をソウヤは眺めると、“武器鑑定”を行う。
「固有名があるな…。名前はグラギフト。クラスは“中級魔剣”」
進化すると大体は固有名がつきそれ相応のクラスが割り振られるのだが、その中でも“中級魔剣”は固有名付きの中では中の中、本当に真ん中の階級である。
といっても開始2ヶ月ほどで、“中級魔剣”どころか“下級魔剣”にまで行く人はほとんど居らず、ソウヤがおかしいだけなのだが。
更に追加で言うならば、“中級魔剣”はあくまで“作成できる武器の中”では中くらいの武器であるが、それを省けば未だかなり低い階級ではある。
「グラギフトか。…バランス悪そうだなぁ」
グラギフトは形がアンバランスで、鍔が片方しかなくどうあがいても片方に重心が傾くように作られている。
他にも、金色の文字が装飾されていたり刀身が銀の巨剣の頃よりも輝いていたりと、普通に目立つ姿形をしていた。
今後相棒となるであろう巨剣があまり好みでないので、ソウヤは小さくため息をつくと軽く飛び上がりグラギフトの柄を握る。
「…よろしくな、グラギフト」
もし武器に意識があるのならば呆れてそうだなぁ、とソウヤは思いつつ肩に担いで森の中を歩いて行った。
そうして、巨剣使いは巨剣を手に入れたのである。
後書き
ようやくタイトル名にもあるグランドソードが出てきます
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