グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
1節―プロローグ―
初ボス
それは、突然のことだった。
「――は?」
全長7m越えの巨大なサルに出会ったのは。
その巨大ザルもいきなり現れたこちらに驚いているようで、すぐに行動に移さない。
同様に、あまりの驚きにソウヤもすぐに行動に移せなかった。
―なんだ、こいつ。かなりの時間この森で生活してるけど、今まで見たことのない魔物だ。
こいつは危険かもしれない、とソウヤは判断するとすぐさま頭を切り替え後ろに大きく下がる。
着地すると“片手剣ほどにまで縮んでいる”グラギフトを手作りの鞘から抜き放ち、前に構えた。
「“伸物空間”」
ソウヤは小さく呟くと、縮んでいたグラギフトが元の巨剣の大きさに戻る。
これは“空間魔法”にある魔法の1つである。
“空間魔法”とは、ソウヤが初期から持っていた“希少能力”の1つだ。
その名の通り空間を捻じ曲げる魔法を使えるのだが、必要熟練度が高く現在未だに下級のままで対象のものを6mほどに伸ばすことしか出来ない。
しかも静止した状態ではないと操作できず、大きくするにつれ必要な筋力も上がってくるのであまり使いどころのないスキルであった。
だが、そんな“空間魔法”も“巨剣使い”を持っていれば違ってくる。
巨剣はその性質上、持ち運ぶのが至難の業といってもいい。
なにせ6mほどの刀身を持つ剣なので、少しでも下に傾けてしまったら地面に当たって移動しにくくなるし、森の中なので上に傾けても移動しづらいのだ。
だが、“空間魔法”さえあれば必要時以外巨剣から片手剣ほどに縮めておけるし、戦闘時は巨剣へと戻すことが出来る。
実に今のソウヤとミスマッチしていると言えた。
「ゥキャアア…!」
ソウヤが戦闘状態になったのを察知したのか、巨大ザルもソウヤに体を向ける。
圧倒的なまでの圧力がソウヤに向けて放たれた。
―なんだ、こいつ…!殺気がほかの魔物と比べ物にならない!?
幾度も戦闘をこなしてきたソウヤは、今では殺気の良し悪しさえもわかるようになっている。
その殺気を感じ、再び思わざるを得ない。
―こいつ、危険だ。
殺気を受け、ソウヤは警戒レベルを過去最高にまで高める。
一秒も油断してはならないと理解したのだ。
巨大ザルはイラつく笑みを浮かべると――
「…ッ!?」
――瞬きの間にソウヤの目の前にまで迫っていた。
その勢いで振るわれる右手にソウヤは対応しきれず、せめてもの抗いに巨剣を盾にする。
今までに感じたことのない“重たい攻撃”がソウヤの身体に圧し掛かった。
結果、その圧力に負けソウヤは宙に体を吹き飛ばされる。
―攻撃が重たすぎるッ!!
ソウヤは空中で体制を整えると巨剣を握りしめ、体を回転させながらその勢いで横薙ぎを行う。
「な…!?」
「ウキィィィッ!」
全力とは行かずとも、勢いに乗ったその攻撃は巨大ザルの皮膚を貫通することなく、一滴の血もこぼさない。
驚きを隠せないソウヤに巨大ザルは待つはずもなく、まともに巨大ザルの攻撃を食らった。
「がっ…!?」
この異世界に来てから初めての直撃に、ソウヤは体中の空気抜ける感覚に襲われる。
体中が悲鳴を上げていた。
―HPが半分持って行かれた…!?
今までにない危機感がソウヤを襲う。
体中から汗が吹き出し、恐怖に包まれようとしていた。
「巨剣使いの全ステ10倍でも、こうなるのか…!」
ソウヤは頬に伝う汗を拭うと、痛みに耐えながら立ち上がる。
そこには巨大ザルが余裕そうな表情で鎮座していた。
―皮膚じゃ、駄目だ。もっと貫通しやすいところを狙うべきなんだ。
ここは異世界。
少なくともソウヤはそう認識していた。
ステータスなどはすべてシステムによって管理されているが、ここは現実とほとんど変わらない。
―なら、狙うべきは“目”!
ソウヤは“肉体強化”を使用すると、爆発的な加速で巨大ザルに近づく。
「ウッキィィイイ!」
巨大ザルは嘶くと、右手の拳を近づくソウヤに振り下ろす。
せまる巨大な右手を尻目に、ソウヤは呟いた。
「“縮地”」
振り下ろされる瞬間にソウヤの姿は掻き消え、巨大ザルの目の前に姿を現す。
“縮地”。
“体術”スキルの熟練度が中級となることで獲得した“技”である。
一瞬だけその身を掻き消し、半径5m以内のどこにでも出現できる“技”だ。
大分強い“技”であるが、その分“技”を行う際に発生する停止時間がかなり長いのが欠点である。
また、“技”とは“職業能力”や“特徴能力《サブスキル》”の熟練度を上げることで得られる独自の行動である。
“体術”では現在は“正拳付き”や“縮地”を上げられ、一度宣言すると半自動的に行動してくれるかなり使いやすいものだ。
“技”と似た分類は“魔法”であり、これも“○魔法”などのスキルの熟練度を上げると得られる独自の方法である。
その“縮地”により、屈んだ巨大ザルの顔にまでソウヤは一瞬で現れると長めの停止時間に襲われた。
―早く、早く…!
その時間のうちに巨大ザルは自身の危機を察知し、振り下ろした右手を振り上げそれと同時に後ろに下がろうとする。
だが、その瞬間ソウヤも動けるようになっていた。
すぐさま巨剣を大きく突きの構えにして叫ぶ。
「“纏う風”!!」
ソウヤがそう叫ぶと、巨剣が一気に重量を増し持つのが辛くなる。
だが、この姿勢をなんとか保つと巨剣に風がまとい始め独自の刃を形成していった。
結果的に8mはあろう巨大な風の剣が形成される。
「い、けええぇぇぇ!」
声が枯れるのを構わずにソウヤは叫び、離れかけていた巨大ザルの瞳に向けて全力の突きを放った。
皮膚とは違い、すんなりと瞳を刃によってつぶされる。
「ウキャアアァァァァッ!!!」
甲高い超音波のような叫び声を巨大ザルがあげる。
紫の血が飛沫をあげ体中を汚していく。
巨剣を纏った風の刃が自身の身体を傷付けていき、HPも2割を切っていた。
――だが、しったことではない。
ソウヤは限界ギリギリまで巨剣を伸ばすと、枯れた声を振り絞り小さく呟く。
「“解き放つ風の刃”…!」
巨剣を纏っていた風の刃が今、巨大ザルの中で解き放たれた。
目の奥は脳に近く、暴発した風の刃が一瞬して――
「…ッ!!!!!」
――巨大ザルの脳を内側から吹き飛ばす。
声のない叫びをあげて、巨大ザルは絶命した。
「終わった…のか」
ソウヤは枯れた声でそう呟くと、体中の力が抜けたようで地面に落下する。
血の海に思いきり落ちるが意識が朦朧としているソウヤには関係がなかった。
―回復だけは…しない、と……。
「“ハウ・ルーチェ”…」
自身の身体になんとかソウヤは回復を施すと、意識を失う。
――残り4割のHPと1割以下のMPを見ながら。
「勉強に関しては心配してないわ」
「お前は頭がいいからなぁ」
やめろ、期待するんじゃない。
「なによこれ!学力は、問題ないと思っていたのに…」
「もっと真面目に勉強するように」
ほら、期待するから失望する。
「もう駄目ね、転校しましょう」
「高望みしすぎたのか…」
そうだ、そのほうがいい。
「これだからガリ勉は」
「付き合い悪いもんな、あいつ」
結局、こうなる。
結局、誰にも好かれない。
結局、誰も幸せにならない。
――なんで、俺は生まれてきたんだろう。
「ここ、は…」
――最低な夢を見た。
あのころの夢なんて、悪夢以外の何物でもない。
「森の中…か。気絶してた時魔物に襲われなかったんだな」
ソウヤは頭を振ると、あの夢のことを忘れようとする。
未だに痛む体を何とか鞭打ち、固まりかけている血の海から起き上がると巨大ザルに体を預けた。
「…気絶してから、どれだけ経ったんだろう」
巨大ザルに出会ったのが昼ごろで、今は日が暮れかけているから1,2時間だろうとソウヤは判断する。
なんとなしに、ソウヤはステータスを表示させた。
あの強敵を倒して少しは成長したかなと思ったからである。
「ん?…んん!?」
ソウヤは痛む体のことを忘れてステータスを覗き込んだ。
――なんだこれ、成長してる…なんてレベルじゃないぞこれ。
成長チートしてるような上がり方に、ソウヤは白目をむく。
まず驚いたのが、あれだけ上がりにくかった希少能力2つが一気に一段階熟練度があがったことである。
巨剣使いは中級から上級に、空間魔法は下級から中級に上がっていた。
それだけであの巨大ザルがどれだけ強かったかわかるというものである。
次に驚いたのは特殊能力の追加であった。
追加されたのは“黄の紋章”というスキルで、所謂パッシブスキルのようである。
HPが残り半分になると全ステ5倍という、なんとも破格な能力だったのだ。
他にも称号に“瞬死の森の主を倒した者”があったりしていたが、すべて含めて最も驚いたのは――
「ステータス、上がりすぎじゃね?」
――巨大ザルを倒した前と後ででは軽くステータスが3倍ほどに膨らんでいることである。
主に巨剣使いが上級になったことで全ステ最高20倍にまで膨らんだことや、称号が増えたりしていたからだが、それを差し引いてもかなりステータスが成長していた。
それを見て、ソウヤは思う。
―やっぱり、称号見ても思ったけどボスなんだ、あいつ。
今まであの森…ならぬ“瞬死の森”にいても一度も会わなかったことや、今まであった魔物の中で最強クラスの強さを誇っていたので、大体想像できたのだが。
―巨大ザルを倒す前の俺のステータスも、大分頭おかしかったのにそれでもあれだけ苦労したってことは…。
巨大ザルを倒す前のソウヤのステータスは、簡単に言うとαテスターの最高レベルのステータスの軽く10倍以上だ。
それが意味すること、それは――
「――あいつ、ボスはボスでも“レイドボス”かぁ。しかもフルレイド並みの」
レイドとは、パーティを複数重ねて10人以上で行動する集団のことを言う。
フルレイドはその中でも最高人数…24人のことを指す。
そのボスとなれば、あの圧倒的な強さもわかるというものである。
「というか、よく勝てたなあんなのに」
時間的には1分程しか経っていない。
だが一撃でHPの半分を持っていかれる状況を考えると、この世界が普通のゲームならば勝てなかっただろう相手。
それに勝てたのは一重に“この世界は現実”とソウヤが何よりも理解していたからだろう。
「あと、剣術と戦士の熟練度上げを怠らなかった結果…か」
最後に放った“技”…“纏う風”と“解き放つ風の刃”。
あれは“剣術”と“戦士”の熟練度がそれぞれ上級、達人級となって初めて得られる序盤の中で最も効果力の大技である。
その威力はαテストの中でもボスのHPを軽く3分の1持っていく、あまりにおかしなものだ。
だが、1か月もなかったαテストでは“剣術”と“戦士”を達人級まで上げた人は殆ど居らず、またデメリットが高すぎるため使われていなかった。
その問題の1つ目のデメリットはHPが毎秒100持っていかれ、MPも毎秒50秒持っていかれる。
“戦士”だったαテスターの最高レベルのHP・MPはそれぞれ600と250ほどしかないので、MP全快でも5秒しか持たないことになるのだ。
しかも、HPもギリギリまで削られるため攻撃当てたは良いものの、即座にボスの攻撃を食らい死亡する可能性がある。
次のデメリットは準備時間があまりに長すぎる点だ。
“纏う風”を行い風が纏い終わるまで構えたまま静止し、やっと攻撃出来たとしてもさらに“解き放つ風の刃”を行わなければならない。
ここまで敵が静止し、またはほとんど動かない状態にしなければならないという、あまりにも残酷な条件である。
そして何よりのデメリット、それは…“持てない”のだ。
“纏う風”を使用すると、使用する武器の重さが大体3倍ほどに増える。
片手剣ならば大剣を超す重量を、大剣ならば巨剣とほとんど変わらない重量を味わうことになるのだ。
使用しようとしたら、ゲームならば“重量制限のため使えません”とよく出てきたらしい。
もうゲームでないと理解したとしても、その重量に耐えられるかどうかは本人次第…というわけである。
「あれはもう使いたくないなぁ…」
今回ソウヤはこのデメリットを“肉体強化”と運で切り抜けた。
“肉体強化”で筋力を上げ、なんとか“纏う風”を維持し元々普通に高かったHPとMPで堪え、あとは運で巨大ザルが意外と体制を崩していたのが吉と出たのである。
といっても――
「――最後回復してHP4割とMP1割だからかなりギリギリだったけど…」
ソウヤはそう結論付けると、体をなんとか起こす。
周りを見てみると、周辺に大きめの湖が出来ていた。
「…ん?」
1,2時間寝ている間に何故湖が出来たのかという疑問を抱いたソウヤは、痛む体を引き攣って湖を眺める。
「んー…ゲーム的に考えるなら、ボスを倒したことによる帰還ワープかなぁ」
この2ヶ月以上、瞬死の森の中を探索し続けたが東西南北どこへ行っても出口が見つからなかったのだ。
そして現れたボスと、その後にできたと思われる湖。
帰還用ワープと考えるのが最もだろう。
「とりあえず、服も血で汚れてるし…入るか」
ソウヤはそう結論付けると、巨大ザルの元へ戻り地面に刺さったままのグラギフトを回収し、巨大ザルの皮やら骨やらを“自力”で回収する。
どうやらこの世界、変なところだけリアルになっており採取は自身が行わなければならないのだ。
―最初は吐きまくってたけど、人間って慣れるもんだなぁ…。
とソウヤはしみじみ思いながら巨大ザルの隅々まで回収すると、アイテムストレージに入れる。
このアイテムストレージも、この世界に来ていても使えるらしく最近分け目が分からなくなってきたソウヤだった。
「…さて、行きますか」
ソウヤは大きく伸びをすると、湖を眺め――
「とうっ…!」
――湖の中へ飛び込んだのであった。
ソウヤの最終ステータス
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ソウヤ 17歳 種族…ヒューマン
装備品…グラギフト ボロボロの普段着、普段靴
称号…瞬死の森の主を倒したもの ステータス×2
特殊スキル…黄の紋章 HP残り半分になると全ステータス×5
職業能力…巨剣使い 上級(2000/4000)
特徴能力…肉体強化 上級(2300/4000) 体術 達人級(3500/5000)
剣術 達人級(600/800) 初級魔法 王神級(MAX)
常時HP回復 上級(1000/2000)下段鋼魔法 上級(100/1500)
空間魔法 中級(100/3000) 下段火魔法 中級(MAX)
下段水魔法 中級(MAX) 下段木魔法 中級(MAX)
下段風魔法 中級(MAX) 下段地魔法 中級(MAX)
危険察知 達人級(500/700) 異常状態無効 上級(500/900)
残りスキル…戦士 達人級 (300/500) 魔法使い 上級(20/1500)
HP8600 MP5200 攻撃力3600 防御力2800 素早さ5000 魔法力2800 腕力190
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後書き
主人公のステータスは基本出しません、小説っぽくなくなるので。
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