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その日はいつかやって来る

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15


「アテンション!」
「ほら、もうやめろよ、怖~いお姉さんが来たぞ、それとも先生か?」
「いやでちゅ、もっと遊ぶでちゅよ」

 今、私の前にはだらけ切った奴らが座っている。 やる気が無さそうに頬杖をついて、こちらを向いているあいつ。 その両側からベタベタと纏わり付いているパピリオと朧。 神無とシルクは背筋を伸ばして座っているが、視線は朧達に向かってガンを飛ばしている。
 ミカミは「モンスターボール」の中で眠っているらしい。 まともなのはベスパだけか? いや、こいつも何の説明もしていないのに既に記録を始めている、様子も少し変だ…

(拝啓、アシュ様へ(ハート)お元気ですか? あ、まだ復活してないのに「元気」は無いですよね。 アタシったら、お・バ・カ・さん、キャッ!

 でも今度、ポチがアシュ様を復活させてくれるんです、あのポチですよポチ。 ミカミに操られていたとは言え、アシュ様にあんな事したポチですけど、ルシオラと同化して、きっと心が通い合ったんですね。

 それとも戦っている間に男の友情が芽生えたんでしょうか? あっ、でも友情以上はだめですよ、アシュ様ラブなのはアタシだけなんだから、エヘッ(ポッ) だから成功したらルシオラを復活させてやって下さい。

 あの頃は「裏切り者」って思ってましたけど、結局はアシュ様のために、幸せな人生をプレゼントしてくれるみたいですから。 ええ、誰が何と言っても、このアタシが幸せにします、してみせますともっ!)

(もう2日目ですね、そろそろアシュ様が、あたしの子宮に着床して、大きくなってる頃でしょうか? あ、でもそれだったら、あたしの赤ちゃんなんですよね(ハ~ト)。 だったらどう呼んだらいいんでしょう。 アシュ君? 坊や? アシュちゃん… いやあっ、もうどうにかなっちゃいそうっ!)

 この辺りで取り上げたので、記録はそこで途切れていた…

「これは何だ? ベスパ」
「あっ、返してっ」

 頬を染めて私から記録を取り返そうとするベスパ。 そのラベルにはこう書いてあった「アシュ様との愛の交換日記Vol3」 確かにコメントが書けるようにブランクが開けてあるが、既に3冊目なのか? 一体いつの間に? アシュタロスの復活を知ってから2日と経ってないはずだぞ。

「朧、ワルキューレの話を聞け。 これからの方針と、重要な情報があるはずだ」
「や~よ、戦うのは「がさつな」神無に任せるから、私は家で美味しいご飯作って待ってるわ」
「そうか、これからは毎日戦場だ。 帰って来ないヨコシマを「永遠に、家で」待っていろ」
「何ですって~?」
「家事かヒーリングしかできないお前には、それがお似合いだ」
「あら、家事もできないで、お義母様にいびられてたのは誰だったかしら?」
「何だとっ!」

 ギャー! ギャーーー!

 最後の砦と思えた神無まで朧と言い争いを始めた。 私にはこいつらを止められない。 当時のベスパ以上の力を持っている奴等だ、もちろん寿命が延びて弱くなったベスパとパピリオにも無理だ。

「ねえ、パピリオちゃん? 遊ぶのは後にして、今は先生のお話を聞きましょうね」

 反対側からは、子供を諭すようにシルクがパピリオを引き剥がしている、恐ろしい力だ。

「なんでちゅか、おキヌ? また生まれ変わって、たかだか16、7のくせに、千年近く生きてるあたちに意見しようって言うんでちゅか?」
「えっ? そうなんですか? 私はてっきり…」
「てっきり? てっきりなんでちゅか?」
「いえ… 別に…」

 お前はどう見ても11,2歳の子供だ。 あれから全く成長していない、何か呪いでも掛かっているのか?

「ふっふっふっ、お前の「おじちゃま」は、もうこのロリロリボディーにメロメロなんでちゅ、成熟した女なんか抱いても、満足できない体になったんでちゅよ」

 スパーーン!

 あいつに手元にあった資料で頭を叩かれるパピリオ、適切なツッコミと言っておこう。 しかし、あいつの命より優先度の高いシルクに挑むとは、チェレンジャーだな。

「お、叔父様、やっぱりそうだったんですか? 小学生の女の子がいいんですねっ…」
「違うっ! パピリオ、それ以上嘘言ったら、次はお仕置きだ」
「(ポッ)再会して間もないのに、もうSMなんてオプショナルなプレイでちゅか? あたちはいいでちゅよ」
「ヒッ! 叔父様、こんな小さな女の子にそんな凄い事を…」
「待てっ、違うっ、違うぞっ!」

 外見に似合わず、「何でもオッケー」なパピリオの言葉にショックを受けているシルク。 神無やミカミは簡単に騙せても、こいつだけは騙せないようだな。

「そうでちゅ、昔からポチは、この幼い体を毎日のように貪って、前も後ろも口の中も、犯せる場所は全部汚液で汚ちて、泣いて「許ちてっ」って言っても、あたちの足より太いイチモツを捻り込んで来るんでちゅ」
「黙れっ、パピリオッ」
「ま、前も後ろも、それもロープで縛って逆さ吊りにして、ファイバースコープや医療用の3次元撮影機で内臓の中まで撮影して、その上体を改造して、あ~んな事や、こ~んな事まで…… ひいいっ!」

 何か錯乱して、聞きもしなかった事まで妄想を始めたシルク。 こいつも普通じゃない。

「もう「初潮が来る時が妊娠する時だ」って覚悟はしてたでちゅよ。 まあ奥の奥まで突き抜かれて、子供も産めない体にされたかもしれまちぇんが」
「ひいいっ! 叔父様がそんなロリ(ぴーーー)のペド(ピーー)だったなんてえっ!」

 そろそろ全員退避させた方が良いか? シルクが弓を乱射するか、あいつが本気で怒れば、この建物も消し飛ぶ。

「パ~ピ~リ~オ~、お前って奴はっ、これでも食らえっ」
 ビキビキッ!
「あっ、頭の輪っかが締まるでちゅっ! 痛っ、頭が割れるようにいたいでちゅっ!」

 これもハヌマンと同じか。 あいつが念を込めると、パピリオの頭の輪が締まる仕掛けになっているらしい。

「ああっ、小学生の女の子に、そんなプレイ用の拷問器具までっ」
「違うっ、これはお仕置き用の道具だ、ペットをしつける時と一緒だ」
「そんなっ、どう見ても10歳程度の子を「愛玩動物」にして「飼い慣らしてた」なんてっ、酷いっ、酷すぎますっ!」

 もう、何か言うたび、どんどん深みにはまって行くあいつ。 シルクの妄想の方が、遥かに業が深いらしい。

「いや… そうじゃなくって」
「じゃあ、どうして私が小学生の頃には「して」下さらなかったんですかっ? ずっと待ってたんですよっ」
「へ?」

 なるほどそう来たか、パピリオも逆さまになってコケている。 シルクもとっくの昔に、あいつに支配されていたらしい。

「叔父様の家に遊びに行って、一緒にお風呂に入って全身隅々まで洗って貰って、同じベッドで抱かれて寝た時も、今日か明日かと待ってたのに、結局16の誕生日までは、「ほっぺにチュ」以外、何もして下さらなかったじゃないですかっ」

 泣きながら当時の状況を「全員に聞こえるように話し」、周囲の格闘を止めたシルク。 しかし、中学生の娘と一緒に風呂に入って、抱いて寝るのはおかしいと思うぞ。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「ほう、その話、もっと詳しく聞かせてもらおうか?」
「私も、凄く聞きたいな」

 顔に斜線を入れた月神族達が争いをやめ、シルクの話を聞きたがっている。 周辺住民の避難も手配した方が良いか?

「えっ? 年末とか夏休みは、百合子叔母様が迎えに来て下さって、逆天号で星の旅に出たんです… とってもロマンチックでした」

 胸の前で手を組んで、星の瞳で遠くを見ているシルク。 神無達の周りの気温が下がっているのは気付いていないらしい。

「そこで口説かれたの?」
「いいえ、叔父様はとっても紳士でした。 弟や妹達を連れて行っても、一緒に遊んで下さったり、みんなから「キザ兄ちゃん」って呼ばれても優しくしてくださいました」

 多分、虎に変身してルチャドールになって、スカイトルメンタみたいに孤児院に寄付していたらしい。

「聞きたいのはそんな所じゃない、お前や妹達に何をしたんだ?」

 シルクの髪を掴んで「尋問モード」に入った神無。 元警官だけに、自白させる手段は色々知っているようだが、シルクに黙秘権と言う言葉は無い。

「はい、小さい頃から「おはなし」で聞いていたヒロインが、前世の私だって分かった時から、もう、叔父様に「差し上げる」決心は出来ていました」

 シルクの目付きから、大体どんな話かは想像はつく。 「ミカミ」なんて女は一度も出ないか、バカでマヌケな役回りで、「愛の力」で何度も地球を救ったのは、前世の自分と「叔父様」だったんだろう。

「でもっ、私もパピリオちゃんみたいに、小学生の頃から(ピーーー)して欲しかったんですっ、それに(ピーーー)も(ぴぴ~~)もっ! だって、叔父様は私の「足長おじさん」で「紫のバラの人」で「ポニーの丘で出会った王子様」で、「プリンスオフダークネス」で「タキシード仮面様」で………………(以下5分略)だから叔父様は、私の「運命の人」なんですっ!」

 星の瞳に大粒の涙を浮かべ、涙声で訴えるシルク。 それは最初から狙われていたと言うか、普通の女なら、確実に恋に落ちなければならない状況に追い込まれていた…

「ほう、私以外の女は、もう興味が無いと言ったのでは無かったか?」
「シルクは神無の子孫だ、だから月神族の血が入ってる」
「そ、そうなのか?」

 急に目付きが変って、自分の骨格や顔付きと比べ始める神無。

「でも、体は朧だったから、血が繋がってるのは朧の方か?」
「こっ、この子があたしの?」

 朧も同じように、可愛い子孫を見て、手を取って感激していた。 玄孫やその後なら、他人も同然だろうに。 しかし、シルクが「変な奴」なのは、月神族の遺伝に違いない。

「え? じゃあ、お姉様達って、私の「お婆様」だったんですね」

 ギンッ!
 再び神無と朧の表情が変り、真っ黒な顔の中で、目だけ赤く光っていた。

「そんな事を言うのはこの口か?(怒)」
「どこまで伸びるか試してみましょうか?(怒)」
「ひゃ、ひゃめへふははい(訳:やめて下さい)」

 左右から頬を引っ張られ、どこまで伸びるかテストされているシルク。 

「コード7解除、これ以上騒いだら「おあずけ」だ、先生の話を聞け」
「「えっ?」」

 そう聞くと、茹でたように真っ赤になった月神族が席に戻った。 ご丁寧に何も喋らないように両手で口を塞いでいる。 鼻息が荒いのはご愛嬌か?

「ベスパとパピリオも「逢いたい人」がいるんなら、大人しくする事だ」
「「わ、分かった(でちゅ)」」

 まさかこいつが協力してくれるとはな。 ちょっとウルウルして来たぞ、そうだ、まだ我々にはタマモと言う人質がいるのだ。

「それでは、我々に与えられた任務を説明する。 この地図の色が付いた場所、これが以前アシュタロスが支配していた地域だ。 現在この中はあらゆる勢力が群雄割拠し、未だ紛争が収まらない。 緑で塗られているのが中央とも交渉のある中立地帯。 黄色が情報の入手までは可能な地域。 赤は完全に独立し魔神クラスの者達が支配している地域だ」
「へー、ほー、ふーん」
「そこへ行って、全員殺して来いと? 逆天号と艦載機があったら1週間以内で…」
「違うっ、お前一人を呼んだ意味を考えてくれ。 上層部でも大規模な戦闘と、住民の虐殺は望んでいない」
「じゃあ正規軍の兵隊は?」
「軍は介入できない、力で平定しても、永遠に遺恨が残る、魔族の寿命ではそうなるのだ。 だからお前一人の力で、私達を支配したように、この地域の者が全て納得する形で支配して欲しい、これが上層部の決定だ」
「面倒な依頼だな… まさかタマモは成功報酬なんて言わないだろうな? それとも「この中の奴に連れ去られた」とか言ったら、魔体を修理させて、みんな吸引してやるぞ、遺恨どころか影も形も残らない」
「やめろっ!」
「パピリオ、ハヌマンの遺言は何だった? 「魔界で暴れて来い」ならすぐに叶えてやるぞ」
「ち、違うでちゅ、「もう教える事は何も無い」でちた、眠る前は「我が孫よ」って言ったはずでちゅ」
「そうか、残念だな」

 魔族らしい笑顔で私を見るこいつ。 ここで神族のように建前を言って誤魔化そうとすれば、逆天号が起動するか、魔体が現れて住民ごと吸引されるだろう。

「すぐに交渉して来るから待てっ、その間、ジークがこちらの生活や習慣について説明をするから、他にも必要な物があれば言えっ、今後は私達が情報部付きとして、案内と必要な情報を提供するっ、以上っ!」

 その場から逃げるように走り去り、隣室に飛び込んでタマモ解放の交渉に行く私。 これも惚れた弱みか? しかし、恋敵を復活させる手助けまでしないといけないとは、因果な任務だ。

「聞いていたな? すぐに殺生石を運ばせろ。 いや、こちらに近付けるのは危険だな、移動の手配だけでもしておけっ」
「了解っ」

 青ざめた顔色で通信を始める士官、事の重大さは分かっているようだ。 あいつが「逆天号アクティブ」と言った時、この周辺は跡形も無くなる。 逆天号や魔体が出現すれば、止められるのは他の魔神だけだ…

「返信がありました、既に運搬の準備は完了している模様です。 こちらの決定次第で、いつでも移動できます」
「よし、あいつに決めさせる、次の通信を待つよう言っておけ」
「はっ!」


「リピートアフターミー「わらなにさらしとるんじゃい、いてもうたろかっ? おおっ!」トゥギャザー」
「「「「わらなにさらしとるんじゃい、いてもうたろかっ? おおっ」」」」

 ジークの日常会話講座が進む中、あいつに耳打ちした。

「タマモの殺生石は、中央で安全に管理している。 そのままこちらに運ばせるか、お前が取りに行くか選んでくれ。 運搬する場合、こちらに近付けば近付く程、安全は保障できない」
「そうか、じゃあ、取り合えず安全な場所まで運んでくれ、その間にこの近くにいる奴らを「どうにか」しておく」
「分かった」

 何をどうするつもりだ? まさか全部消すつもりか?

「何か昔、暴れた覚えのある所だから、運ぶのに失敗して、この辺りは何もかも吸引されたんじゃないか? 伝承か何か残ってないか?」
「さあ…」

 伝承は無いが、予言なら残っている… 「大天使降臨し、略奪者は塩の柱となって並んだ」と、何が原因かは書かれていなかったが、こいつが本気になれば、吸引では済まないのだろう。 魔族として転生もできない「浄化」が待っているのだ、余計な事は言うまい。
 
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